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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
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第 8話 とんだ拾いモノ

水辺に駆け寄ろうとした足を止める、周囲は何とも都合の良い事に人気は無く、人が川を流れている事に気づいているのは私だけの様だ。

近くには城壁には小さく狭いアーチ状の水門があり、本来なら塵や侵入者を防ぐために在る鉄柵は半分以上、錆びて朽ちてしまっている。ぎりぎり人一人通れる程度の微妙な狭さ故にさほど危険視されていないのだろう。正直、今その危険が迫っているのかもしれないのだけど。


「黄緑色の髪の竜人(ドラゴニュート)・・・ヘルガ?!」


ゆっくりと流れて来る傷だらけの人物は私を貶め、命を奪おうとした竜人の一人。切り捨てられたと聞いたが、恐らくはあの山岳地帯に水路と繋がる川が在り、不要なものとして投げ捨てられたのだろう。ただ、流れて来たのが一人だけと言うのが気になるけれど。

ともかく、生死は不明だけど生きてる可能性も捨てきれない。意を決して川へ飛び込むが、川の流れが思いの外速く、泳ぐのにも一苦労させられる。あと少しっ・・・!

ヘルガへと手を伸ばした瞬間、頭の中で不思議な光景が広がった、水の中で自分へと差し伸べられる手を摑もうともがく、だが空しく水流に飲まれ暗い水底へと落ちていくと言うゾッとする一場面だ。

だが次の瞬間、頭の中に「仕方が有りませんね・・・」と言う女性の声が響く。気が付けば自分とヘルガの周囲の水が渦巻き、ゆっくりと岸へと押し流された。


「剣よ・・・貴女は人の事だけではなく、御自身を大切になさるべきですわ」


水の精霊王様(ウンディーネ)!?何故ここに?」


驚く私の目の前で、ウンディーネは水上に立ち、呆れた様に眉を寄せ、金色の瞳を細める。

呼んでも居ないのに何故・・・?!


「貴女が(わたくし)達の希望に近付いていると言う証です。こうして儀式も術も無しに私を呼べた事が何よりの証拠ですわ」


「希望に近付く?・・・・其れはどう言う事ですか?」


私がそう問いかけるが、ウンディーネはただ見つめ返し微笑むのみ。はぐらかされている・・・?どうにも腑に落ちない。単純に四つの精霊王の力を得た事か、他の何かに起因している・・・?

私が頭を捻っていると、意識を取り戻したのか、ヘルガの苦しそうに水を吐き咽かえす声が聞こえてきた。良かった生きていた・・・!


「くっ・・・かはっ!ごほっごほ!」


ヘルガの呼吸が落ち着くのを待ちつつ、再び視線をウンディーネに戻すと何時の間にやらその姿は幻のように消えてしまっていた。唐突だし、本当にどういう事なの・・・。

取り敢えず、今はその事は置いといて現状を如何にかする事が第一だ。ヘルガにとっては手負いのまま、敵陣のど真ん中に居るのだから。何よりどうやって目立たない場所に彼女を運ぶかが一番の問題だ。


「おー?いたいた、アメリアちゃーん」


未だに意識がぼんやりしている様子のヘルガを運ぶのに悪戦苦闘する私を余所に、聞き覚えのある呑気な声が聞こえて来た。この声の主は・・・フェリクスさんだ。助かった!何で見付ける事が出来たのか不明だが、渡りに船とは正に此の事だ。



*******************************



フェリクスさんに簡潔に事情を話した所、予想通り快く協力を得る事が出来た。流石に川に飛び込んだ事に関しては飽きられてしまったけれど。

フェリクスさんの上着を借り、ヘルガに被せ角と翼を隠し、出来る限り人気が無い場所をと屑鉄等が山積みにされた塵捨て場に身を寄せた。


「すいません、急な事なのに協力して貰って」


「アメリアちゃん、其処はありがとうで良いんだよ。まっ!他の奴等には謝っときな、振り向いたらいなくなったって血相を変えて騒いでいたからね」


フェリクスさんは平謝りをする私をゆっくりと優しく諭してくれた。


「はい・・・!ありがとうございます」


そう言えば、今日はダリルとケレブリエルさんと一緒に行動していたんだった。ああ、「お前は子供か!」と怒る二人の悪魔の形相が想像できる。セレスが入った鞄はダリルに預けて正解だったが、何だか怖気が・・・

体を抱え震える私の横で絹連れの音がしたかと思うと、風と共に無数の水滴が降り注ぐのを感じた。腕を振り上げると籠手(ガントレット)に強い衝撃と共に鋭い爪が衝突し、金属が擦れる耳障りな音が響く。

ヘルガは鋭い眼光で私を睨むと、瀕死の獣如く必死の形相で私へと襲い掛かって来た。


「おのれ人間・・・っ!」


だが、その強襲は一瞬で阻止された。フェリクスさんの双剣がヘルガの首を挟み、前方で交差する形で彼女の動きを止める。ヘルガには怪我は無く、喉元に僅かに痕が付いた所で動きが止まり、彼女は力無く腰を落とした。其れを見てフェリクスさんは剣を鞘に収める。


「レディに乱暴な事をして申し訳ない。オレ達は君に危害を加えるつもりは無い、如何か其の心の刃を納めてはくれないか?」


「ふざけないで・・・!この人間さえ、大人しく殺されていれば・・・!」


ヘルガは酷く錯乱している様で捲し立てる様に声を荒げる。此のままでは表の通りまで声が届いてしまうだろう。こうなったら仕方がない、私はヘルガに向けて手を振り下ろした。

バチンっ!乾いた音がその場に響く。一瞬の事にヘルガは目を瞬かせ、ゆっくりと私を見る。


「行き成り叩いてごめんなさい。貴女に此処が何処で如何言う状況か気付いてほしかったの」


「何を・・・!」


私の説得に合点がいかない様子のヘルガは、叩き返そうと手を振りあげる。だが、その腕はフェリクスさんによって止められた。


「此処はドワーフ領の首都アンヴィル。後は解るね?」


フェリクスさんはヘルガの手首を掴むと、人差し指を自分の唇に当てる。其れを見て睨みつけるヘルガだったが、周囲を見回して次第に表情から怒りが消えて青褪めて行く。


「あ・・・」


やっと落ち着いてくれた様だ。初めは無心で助けたけれど、此れは色々と聞き出す絶好の機会かもしれない。


「そう言う事だから、大人しくして貰える?貴女に聞きたい事があるの」


「解ったわ・・・抵抗しないから安心して」


ヘルガは観念したかの様に俯き、何かを唱えると体を人に近い姿へと変える。その眼差しは依然として、猜疑心(さいぎしん)が失われていない様だ。私達が丸腰の自分をドワーフ側に売り渡すのではないかと疑っているのかもしれない。

もし、そうなのだとしたら彼女も無理な行動はしないはず。どこまで信用して良いものかと言う所だけれどね。



********************************



仲間に風の妖精を送り、事前情報としてヘルガについての連絡を済ました。事前に示し合わせておいた集合場所へと向かう。人気の少ない場所で皆と待ち合わせたが、ファウストさんには敵を犬猫みたいに拾うのは如何なのかと呆れられ、ケレブリエルさんには無言で溜息をつかれたうえに、ダリルには「馬鹿か!」と怒鳴られてしまった。

自業自得とは言え、竜人とギルドへの交渉とヘルガの事と問題が山積みになってしまった。

問題のうち二つは方針が決まっているが、(こと)にヘルガに関しては手負いで武装していないとはいえ、害意や欺かれる可能性が拭えない以上は安易に拠点としている宿で匿う事ができない。


「あの、ライラさんなら情報通ですし、此処は一先ず彼女に良い場所を知らないか聞いてみませんか?」


ヘルガの治療の手を止め、ソフィアは周囲を見た後、私達とヘルガを交互見る。私も釣られて周囲を見ると、時間的にも夕食の時間が近い為か何気に人気が増えている。ライラさんを頼ると言う意見には皆、満場一致だ。


その後、ライラさんから盗聴防止の魔道具の購入と引き換えに空き倉庫を紹介して貰った。

南からの商品を販売した際に馬が合った同業者から、此方で仕入れた商品の置き場として借りたらしい。

借りた鍵で倉庫を開けると、埃と(かび)っぽい臭いが立ち込める。出口に見張りとしてダリルが立ち、皆でヘルガを囲む形で座った。

すると、ヘルガは唇を固く結び、顔色一つ変えず此方を睨みつける。そして、口を開いたかと思えば、大勢に囲まれても臆する事無く毅然とした態度で私達へと問いかける。


「わたしを匿って恩を売るつもり?それとも、居場所を隠す為に消すのかしら?!」


ヘルガは、まるで牽制するかのように一言放つ。


「・・・誤解よ、そんなつもりは無いわ。ただ、貴方に聞きたい事が有るの」


「わたしは同族を売るつもりは無い。幾ら聞いても無駄よ!」


尚も引く事なく噛みつくヘルガに、思わず強い口調で言い返しそうな気持ちを抑え込み、私は拳を握る。

その時、ケレブリエルさんが私の肩を優しく叩いた。


「虚勢を張るのは止めたら如何かしら?」


「なっ・・・!虚勢なんて・・・!」


「この子にも私達にも貴女の種族と事を構えるつもりは無いわ。話し合いがしたいだけ・・・。何なら貴女の国外逃亡を助けたって良いと思っているわ。そうよね?アメリア」


ケレブリエルさんの思いもよらない言葉に周囲の視線が集まる。ヘルガは想定外の言葉だったらしく、目を丸くし呆然としていた。私は我に返り、微笑むケレブリエルさんの言葉に何度も頷く。


「え・・・ええ、勿論!ただ、ドワーフとの争いの原因と竜人と言う種族が如何いう種族なのか教えてほしいの」


皆でギルドを通じて竜人との交渉方法を練ったけれど、私はそれだけでは済まないと考えている。

女神様から世界を託された私にとって、この国や他の国でも現れている可能性が有る、瘴気や異界の者を呼び寄せる世界の綻び、リーマルオルビスの発生の原因を知る必要があると感じているからだ。セレスや世界の人々が安心して過ごせるようにしたい。


「はっ、拍子抜けね。もっと、無慈悲な人間かと思っていたのに。しょうがないから、助けてくれたお礼に答えてあげても良いわ。でも前者は常識よ、ドワーフ族は我等の王の宝、古から火山により封じられて来た魔導書(グリモワール)を盗んだのよ!」


(ようや)く真面に話を聞けると思った応えの一つは、誰もが想定していないものだった。

今回は長くなりましたが、当作品を読んで頂き誠にありがとうございます。


さてさて、アメリアの行動で予想外の者を拾い足止めをくらいましたが、得る物は多そうです。

そしてついに、冤罪への交渉にと鍛冶屋ギルドへと仲介を願い出る訳ですが、鬼が出るか蛇が出るかその結果は判りません。果たして事は順調に行くのか?次回へ続きます。

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