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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
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第 6話 穏便な解決方法

一人、頭の中で考えを(まと)めようとして仲間達の許へ戻った後の事まで考えていた。

どのみち、セレスを帰した所で彼らの目的は命名誓約の解除の為に私を殺す事。ドワーフの領土へ逃げた所で私の命が狙われるのは変わりはない。

ドワーフ族と緊張関係にあるのにも拘らず、卵を奪う為に領地を越えて賊を潜ませた人達だ。あの時は派手な戦闘行為をし敵対種族が攻め入る口実を作るのを避けたのだろうけど不安は拭えない。


「おい、着いたぞい」


ゲルトさんに案内をされ鉱山を抜け出し、暫し歩くと一軒の石造りの山小屋へと案内される。


「わーい、お腹減ったー」


呑気に開かれた扉の中に飛び込んでいくセレスにも不安が募った。あの警戒の無さは仕方ないだろうけど、此れから色々教えないといけないな。


「さてはて、此処は山岳地帯なのじゃが、お前さんは何処の()でチビを助けたうえに鉱山へ落ちて来たのかのう?」


「え、あああ!」


しまった、攫われた地点からの経緯ばかり考えたせいで墓穴を掘ってしまったようだ。私の嘘を見抜きニヤニヤと歯を出して笑うゲルトさん。恥ずかしさと悔しさで唇を噛む私を見て「嘘が下手だな」と呆れられてしまった。


「でじゃが、アメリアは何処で竜人(ドラゴニュート)のチビを誘拐してきたのかのう?」


「え?していませんよ」


思わず心臓が跳ねるが、動揺を抑え固く口を閉じた。ゲルトさんは目を細めじっとりと私を見る。此れは疑われているな・・・


「まあ、それは冗談として・・・セレスだったかの?あの様子からして杞憂だったようじゃのう。がっはっは」


ゲルトさんは追求をせずに私の横のセレスを見て豪快に笑ってながしてくれた。

セレスはウマウマと豚肉たっぷりの腸詰を貪り食べている。流石、竜・・・産まれて間もないのに行き成り肉を食べられるのね。


「・・・そんな所です」


「追手は予測がつくな。事情は何にしてもやっかいな相手に睨まれたな、余程の相手でないと頭に血が上った奴等は話を聞いてはくれぬぞ。領主殿か奴等の武器防具や祭具の製造依頼を受けている、鍛冶ギルドの長ぐらいかのう?まあ儂みたいな変人は別として、他の連中は竜人好かん。ちと難儀じゃな」


何方が話を通しやすいかは後者の方が可能性は高い。戦闘を好み、信仰心の強い彼らにとって重宝されていると考えられるからだ。


「つまりは可能性が残っていると言う事ですよね?如何にかしてギルド長への面会が出来れば良いんですけど。問題はセレスなんですよね」


「うむ・・・人型になれれば服装で誤魔化せるやもしれんが、幼竜じゃから人化の術は当分は無理か。ふむ・・・待っとれ良いものがあった筈じゃ」


ゲルトさんは私達に食事を勧め、そそくさと奥へ消えて行く。小半時程して家の奥から埃と煤を付けた姿のゲルトさんが出て来た。手には腰から膝程の高さの有る革製の大きな肩掛け鞄を持っている。


「鞄?まさか・・この中に?」


ゲルトさんは煙管を片手にうんうんと頷く。

取り敢えず鞄を受け取る、かなり使い古されている様で痛みが多く中に何かが入っている様だ。

可哀想な気もするけれど、ギルド長に協力を求め平和的に現状を解決に導くには我慢して貰うしかない。

ギルドへの交渉材料が見つからないと言う前提問題も有るけど、逃げたら指名手配犯だ。これ以上は大事にはしたくないし・・・


「なぁに、息子のお古なんじゃが、頑丈だし(ふた)に隙間を開けとけば呼吸も出来るし問題なかろう。中身は隙にして構わんぞ」


「あ、ありがとうございます・・・」


ちらりとセレスを見ると、椅子の上で仰向けになり満足そうにお腹を撫でている。こっちは悩んでいるのに呑気な子だ。思わず呆れ交じりの溜息が漏れる。


「どうしたの?」


セレスは小首を傾げる。無警戒も問題だけど下手に脅えさせるよりかマシか。取り敢えず、セレスへぼやかして事情を伝える事にした。


「街・・・人が沢山いる所に行くんだけど、迷子になったりしたら危ないから鞄に入って貰っても良いかな?」


セレスは私と鞄を交互に見た後、ジッと見つめてくる。


「美味しいのある?」


「あるある!御馳走してあげるよ!」


御馳走と言う私の甘言に嬉々として鞄に潜り込むセレス。なんか益々、誘拐犯らしくなってしまった。

出発しようと立ち上がる私にゲルトさんは「お前さんに渡したい物が有る」と言いうと、自身も立ち上がり奥の部屋へと来るように手招く。

付いて行くと大きな(かまど)と金床の他に幾つもの道具が整理されて壁にかけてあるのが見えた。ゲルトさんは壊れた剣を寄越す様に言うと、其れを机に置き、近くの木箱から紋章の入った一振りの剣を私に手渡す。


「老後の暇つぶしに作った三流品だが、あんな状態の剣よりマシじゃろう。それと、その剣についた紋章を見せればギルドが融通を効かせてくれるはずじゃ、今度は(あいぼう)が見つかるまでちゃんと可愛がってあげるんじゃぞ!」


「はい!ありがとうございます、お世話になりました!」


「ましたぁ!」


セレスはひょっこりと鞄の蓋を開けて顔を出し、私の真似をしながら手を振る。


「おう!チビを親元に戻してやるのじゃぞ!」


そのゲルトさんの言葉に私は思わずギクリとする。見抜かれている?なかなか油断ならない人だ。



************************************



警戒態勢を崩さないまま下山したが、空にも山道にも襲撃者どころか動物とすら擦れ違う事が無かった。それでも騙し討ちの可能性を考えて警戒を緩めずにいたが、何事も無く到着。此れは逆に怪しい。

鞄の中で動くセレスを小声で宥め、仲間達やライラさんの店を探す。そう言えば馬車が半壊していたな。あの後、どうなったのだろう?

街を歩いていると、憲兵と言い合いをするダリルの姿が見えた。つまり仲間達も近くに居るかもしれない。一体、余所の国で何をもめているのだろうか?


「だーから!俺は馬車の操縦はできないって言ってるだろ?!」


どうやら、馬車を暴走させたと言う疑いに抗議しているらしい。対する憲兵の顔はトマテの様に真っ赤になっている。


「こっちは人を探さなきゃならねぇんだよ!!」


「兄ちゃん、悪ぃが俺も仕事なんで聴取一つ取らねぇで、ハイ!そうですか!って帰す訳には行かないんだわ!」


この場合、憲兵の言い分が正しいと思う。それより、何で年長組はこの暴走を止めないんだろう。

ライラさんの壊れた馬車から降ろしたのか、大量の荷物を荷車に乗せる手伝いをされる年長組とソフィアとファウストさんの姿が。兎も角、目の前の騒ぎから鎮めよう。


「ダリル、堂々と聴取ぐらい堂々と受ければいいじゃない」


その私の声にダリルだけではなく仲間達の視線が注がれる。


「は?おま・・・お前何処に?!何故?どうやって戻って来た!」


ダリルは驚愕の表情を浮かべ、パクパクと口を動かす。その横で憲兵さんは呆れ顔を浮かべ肩を竦めていた。


「取り敢えず、詳しい事は後で話すよ・・・」


他の皆も反応は千差万別だが、私に駆け寄り無事の帰還を喜んでくれた。

その最中、ダリルの肩が叩かれる。ダリルが恐るおそる振り向くと、良い笑顔を浮かべた憲兵さんが無言で詰め所へ来いと拳を握り親指で指し示す。

苦笑いを浮かべ「なあ、おい・・・」と助けを求めるような視線を送るダリル。此処で竜人の事故への関与や私の誘拐の話をすると更に足止めをくらいそうだ。

すると、ケレブリエルさんがダリルに向けて可憐な笑みを浮かべる。


「うふふ、後は頼んだわよリーダー。また、後で会いましょっ」


手を振り、その場を立ち去るケレブリエルさんの背中を見てダリルの目は点になっていた。


「はぁ?リーダって何だよ!」


訳が分からず困惑するダリルに対してフェリクスさんが憐れむ様な表情を浮かべ肩を叩いた。


「デコ・・・()()()()、調書作成頑張れよ」


「ふっざけんなぁ!」


いがみ合い胸倉を掴みあう二人。間に憲兵さんが顔を出し、二人を(たしな)めると、ガッシリと腕を掴む。


「すまないが、若人。話ついでにちーっとばかし書きもんして貰うぜ」


其のまま二人はズルズルと詰め所へ引きずられて行ってしまった。

其れを遠目で見ていたファウストさんは腕を組みながら呆れ交じりの溜息をつき、肩を(すく)めた。


「一難去ってまた一難。全く、呆れた連中だな・・・」


「ははは・・・。何時もの事ですよ・・・」


連行されて行く二人を遠い目をしながら見送ると、ソフィアに「此処で立ち話も難ですから」と集合場所にしている宿屋へ向かう事となった。

その最中、一緒に歩くライラさんの表情がやけに暗い。馬車や荷物に被害が出て不機嫌なんだろう。

突如、ライラさんは自棄気味に半泣きになりながら笑いだした。


「修繕費に破損がなんじゃいですよ!バンバン稼いでやるですよぉー!」


周囲の視線が突き刺さる。ソフィアは耳の翼を折畳み、オロオロしながらライラを宥める。


「あ、あの、皆さん見ていますし宿屋に行きましょう。そうだ!今から行く宿の近くに海鮮料理が有名な店が有るらしいですよ!」


私も励まそうとソフィアに続く。


「何なら御馳走しますよ!」


しかし、その言葉に反応したのはライラさんじゃなかった。セレスが私の声に反応し、肩に掛けた鞄がもそもそと動き出す。


「ごちそぉ・・・?」


鞄からセレスの寝惚けた声が聞こえてきた。


「わあー!!!」


慌てて誤魔化そうとするが通じず、ファウストさんが怪訝そうな目で私を見た。


「・・・・アメリア、海鮮の前に鞄の中身について話を聞かせて貰おうか」


「うっ・・・!」


どうやって切り出すか悩む間もなく、セレスの事を話す事となってしまった。

当作品を読んで頂きありがとうございます。ブックマークへの登録も含めて元気を貰いました。


竜人とのいざこざ、セレスを連れ出してしまった事と問題は山積みに。そして鳴りを潜める輩と、アメリアの悩みは尽きそうにありません。

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