第8話 王都エーリュシオンー前編ー
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あれからたっぷりと二人からのお説教を受けた私は、ウォルフガングさんがとってくれた宿屋に戻ると泥のようにベットに沈み込み眠った。
次の日は馬車の出発時間まで消耗品や簡単な食べ物の補充を済ます為に夜と違って落ち着いた商店街へ三人で向かう。
武器屋で魔結晶のついた自分の剣を鑑定をしてもらったけれど予想通り、店主さんからは「速度上昇効果ですね」との返事が返ってきた。
「あの~、魔結晶って魔力が無いと発動しないんですよね?」
「お、お嬢さんよくご存じで。しかし楽しみですね、まだ使う事はできないが祝福の儀で魔力が開花すれば魔結晶は使いたい放題だ」
やはりそうなのかと頷いていると店主さんはニコニコと微笑みながら私の前に浅めのお皿を差し出す。
鑑定料の催促らしい、さすが商売人抜かりはない。
店を出た後でふと、ウィリアムの事を思い出す。シチューのあまりの美味しさに気を取られてとは言え、直前まで一緒に居た人間の姿が消えるなんて事があるのだろうか?
「なぁに、難しい顔してんだ?」
「うーん、ウィリアムの事を思い出していたの。何時の間に帰っちゃったのかなと思って」
「まぁた、ウィリアム。見えない友達の話は止めろよ」
「な、ウィリアムを架空の存在みたいに言わないでよ」
「しかし、アメリア・・・オレ達がお前を見つけた時にはそんな奴居なかったぞ」
「俺達がお前を見つけた時は、一人でお前がアホ顔してシチューを頬張ってるとこだったぞ」
そんな筈はないと二人に抗議しようとしたが、私を見る二人の目線がやけに生暖かい。
「すまん、昨日は怒りすぎた。余程、知らない街で逸れて寂しかったんだな」
「俺も色気も女らしくも無く食い意地がはっているなんて言って悪かった」
ダリルに至っては可哀想なものを見る目をしながら頭を撫でてきた。
「憐れむなー!っと言うか女らしくないって何よー!」
振り下ろす私の拳をウォルフガングさんは鼻で笑い、ダリルは「そう言うところだ」と言いながら躱す。その後は逃げる二人を追いかけ停留所に向かって走る羽目になってしまった。
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私達を乗せた馬車は石畳の道を王都エーリュシオンへ向かい走っている。
行者さんの軽快な鼻歌が聞こえてくる中、その背中越しの風景が森や畑等から移り変わり、大きく聳え立つ城壁が見えてきた。その上空にはヒポグリフに乗った兵士が見張りの為に旋回している。
検閲所の奥にある重厚感のある巨大な城門がせり上がり、商人のキャラバンに冒険者や旅行者などを様々な人々を迎え入れていく。
ついに本の挿絵でしか見た事が無かった王都へ来たのだ。馬車の中も緊張と喜びの声で賑やかになる。
アールブヘイムでは散々、はしゃがないように言っていたダリルさえ興奮の色を隠し切れないようで上半身を左右に動かし覗いている。
「なにニヤついてんだよ」
「ベツニー」
「おい、検問を通ったぞ」
ウォルフガングさんの声に振り向くと、まさに馬車が門を潜る瞬間だった。
門を抜け石造りの城壁を潜り抜けると、各地から集う馬車と多くの人々で賑わう声や音が耳に入った。
次第に私達を乗せた馬車はガタリと揺れて複数の馬車が集まる停留所でとまる。
「さあ、皆さん着きましたよ」と言う御者さんの声が聞こえてきた。
ひしめく様に並ぶ馬車とそこから乗り降りをする人々の海を掻き分けぬけると、目の前に広がるのは色とりどりの花が咲く花壇や噴水と様々な人々で賑わう商店街。
目線を上に向けると、中央には日差しを受けて輝く大きな白亜の城。
「うあー、素敵!」
感動のあまりに立ち止まっているとドンと腰に何かが当たる衝撃が走った。
何かと思って下を見ると、帽子を目深にかぶった濃い紫色の髪の小さな子供が人波を縫って走り去って行くのが見えた。
「家族を探しているのかな?」
その子の背中を見守っていると腕が急に引っ張られ心臓が跳ねる。
「アメリア、そんなところに立ち止まっていると他の人の邪魔になるぞ」
「ウォ・・・ウォルフガングさん?!すいません、ぶつかってきた子が気になって」
「ふむ、何にしろ移動する事にしようか」
人でごった返す停留所を後にし、商店などが並ぶ通りを三人で歩く。
「宿探そうぜー。こんだけ人が集まってちゃ、部屋が無くなっちまうかもな」
「あ、その前に冒険者ギルドに寄りたいな。出発寸前にじいちゃんから手紙を預かったの」
「宿屋も気になるが・・・。まあ、手紙を見せてみろ」
「はい、これですけど・・・」
鞄の中から手紙をウォルフガングさんに渡すと封筒の裏表を確認していた。
「ランドルか・・・懐かしい名だ」
「あの、お知合いですか?」
「ああ、昔馴染みもとい元相棒だな。それじゃあ先に冒険者ギルドに行くか」
「師匠、冒険者ギルドの場所わかるのか?」
「勿論だ、オレは王都出身だからな」
「「え?!」」
驚く私達に対してウォルフガングさんは怪訝そうな顔をしながら私達を一瞥すると無言でスタスタと歩き出す。後ろ手に「ついてこい」と手招きをしてきたので私達は速足気味にその後を追った。
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ウォルフガングさんに連れられて商店街の奥の辺りまで行くと、入り口には様々な職業や種族の人達が行き交う建物が石造りの建物が見えてきた。
大きな魔結晶がはめられた杖を持つエルフの魔法使いに一見子供のように見える小人族の弓使いに背の丈ほどの大剣を担ぐ獣人の剣士に白いローブに十字架を模った杖を持つヒーラーと人の波を掻き分け賑わうギルドの中へ進む。
建物内はギルドの受付カウンターと仲間を求める者や報酬を全て酒やカード賭博につぎ込む冒険者等で賑わう酒場が併設されていた。
受付カウンターに居たウサギの半獣人の女性が私達に気付くと、桃色の髪に映える赤い瞳を細めて微笑み、ウォルフガングさんに声をかけた。
「ようこそ冒険者ギルドへ。本日のご用件は冒険者登録でしょうか?」
「いや、要があるのはこの子なんだ」
「あの、アメリア・クロックウェルと言います。祖父からランドル・サザランドさん宛のお手紙を預かっているんですが」
受付の女性は手紙を受け取ると眼鏡を取り出し、宛名を確認している。
「クロックウェルさんですね、お手紙は確かにお預かり致します。只今、サザランドをお呼び致しますので少々お待ちください」
そう言うと会釈をし、受付係の女性はバックヤードの方へと入っていった。
「はぁ・・・緊張したぁ」
「ぶはっ、お前緊張しすぎだろ」
後からそれを見ていたダリルが思わず吹き出す。それに対してムッとしていると・・・
「そう言ってやんなよ少年。受付のクリスティアナは何時もお堅いから仕方ないよ。それより待っている間、お兄さんと話をしない?」
突然、声をかけられ振り向くと淡い金髪に紫色の垂れ目の軽薄そうな男性がニコニコしながら此方に手をひらひらと振っていた。
「うっわ、胡散臭い」
「おっさん、子供相手にナンパは止めろよ」
「酷っ!おっさんじゃねーし。お兄さんはまだ二十代だよ!」
さすが多くの人が集まる人種の坩堝と言える王都。色々な人が居るなと私は噛みしめていた。