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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
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第 4話 隠されし謀略

薄暗い部屋に煌めく白刃、私は目の前で起きている事を把握する間も無く咄嗟に身を屈める。

それでも振り下ろされた刃が頬を掠め頬に一筋の赤い線を描く。現状、自由に動くのは足のみだ。

身を低くした状態から片足を軸に相手の足を払う、相手がよろけた拍子に体当たりをし壁に叩き付け気絶させるが相手の手から床に転がり落ちたナイフは拾い上げる事も出来ず、二人目の刺客に阻まれて蹴り飛ばされる。


「くっ・・!」


腕が自由に動かせれば・・・!

身を捩ると二人目からの刃が再び私を襲い、思わず振り上げた腕の縄が切れた。腕が解放されるが危険なのは変わらない。思わず瞼を瞑るが刃が私を襲う事はなく、襲って来た刺客の悲鳴が私の耳に届いた。


「くそ!コイツ!噛みやがった!」


「むぐううぅぅー!」


セレスタイトが必死に二人目の刺客の腕に噛みつき脅威を退けてくれた。助かった!

私は心の中で感謝しつつ、相手の注意がセレスタイトに向いている内に蹴られたナイフを拾い上げると相手の後ろをとり喉元に当てる。


「貴方達、誰の差し金?!」


セレスタイトには離れて貰い、相手の翼を抑える。


「それで、脅しているつもりか?」


刺客は私の手首を掴むとナイフを己の方へ引き寄せる、嫌な感触が手に伝わるのを覚悟するが、ナイフは耳が塞ぎたくなる様な金属音と共に刃のみが床に転がった。


「なっ・・・!」


驚愕する私の顔を見ると刺客の口角が弧を描く。刃が当った場所の傷はどう見ても掠り傷程度。

伊達に名前に竜を冠している訳じゃないか・・・


「どうした人間?覚悟でも決めたか?」


気絶させた一人目が起きる前に決着をつけたい、取り敢えずは脱出できればいがどうしたものか。

何と隙をつく方法は・・・。視界に入るのは簡易ベッドとトイレ、運が良い事に格子戸に隙間が出来ている。どうやら間抜けな刺客達は牢の鍵を閉め忘れたらしい。


「こう見えても私、諦め悪いの!」


私は折れたナイフの刃を掴み下から上へ鋭角に切り付ける。狭い部屋の中、相手は余裕の笑みを浮かべ飛び退く。その時だった・・・


「えーいっ!」


可愛らしい叫び声と共に硬いものが衝突しあう音が響く、セレスタイトの頭突きが見事に刺客の頭へと直撃していた。相手は白目を剥きよろけて眩暈(めまい)を起こし足元が覚束(おぼつか)ない。外側は頑丈でも内側まではそうはいかないようね。

直後、耳に鈍い音が響くと同時に水飛沫が上がり、飛び散った汚水による異臭が辺りに広がった。此れは流石に相手への同情を禁じ得ない。


「あ・・・まあ、取り敢えず一時しのぎだけど・・・」


私の両腕を縛っていたロープで刺客二人を並べ手首を簡単に縛り上げる。


「やったー!」


私を助けられた事に歓喜するセレスタイトを尻目に刺客二人の服を漁り、鍵束を見付ける事が出来た。

状況的に二人はセレスタイトの誓約を解除する為に向けられた刺客だろう。


「さて、ご尊顔を拝見・・・ってギルベルトにヘルガ・・・?!」


なんと私を襲った刺客二人は投獄直前に会った二人だった。



***************************************



事情がほぼ確信できた以上、此処に留まる必要はない。牢の鍵を閉めると、セレスタイトを連れて牢獄の詰め所へ向かう。しかし其処はもぬけの(から)だった。適当な武器でも有れば良いんだけどな。

そんな中、脱獄を手伝ってくれた相棒は呑気に兵士の食べ残しに目を輝かせている。


「これ、食べて良い?」


「汚いから止めなさい!」


「ちぇー、ケチー!」


「ハイハイ・・・ん・・?」


ふと漁った木箱には雑に詰め込まれた自分の防具や持ち物が詰め込まれている。あまりの都合の良さに訝しみつつ、辺りを警戒しながら素早く着替えて剣だけを拝借し監獄を後にした。



**************************************



警戒しつつ進む城内は、不自然なぐらい静まり返っていた。

警備が手薄だろうと推測できる場所を通ったつもりだが、兵士と擦れ違う事無く城壁を越えれば脱出と言う所まで来てしまった。しかし問題はそれだけでは無い。


「セレスタイト・・・セレス、牢屋では助けてくれてありがとう。でも、貴方は此処に残るべきだよ」


私が浅慮だった為、誓約を結んでしまった事に非がある、だからこそ竜人(ドラゴニュート)達から奪って連れ去って良いと言う道理はない。


「あのねボク、アメリアは色々な色を持っているから強くて好きなの。ずっと付いて行くー」


色?精霊の力の事かな?

セレスは頭をぐりぐりと私の背中に押し付け、城の外へ出る様に促す。


「えっと・・・あのね、セレス」


すると急に背後から複数の気配と声が聞こえた。


「ついに略取誘拐の罪を犯したか・・・。おまけに二人もの人の命運を断つとはな」


振り向くと複数の兵士と見覚えの有る人物が目に入る。その白い角生えた芥子色の髪の下の琥珀色の瞳は冷たく睨みつけている。謁見の間に居たクラウス宰相だ。


「・・・何の事ですか?」


「世の中には命に代えても失敗が許されない世界も有る。そして、お前が此処に居ると言う事は・・・お解るな?」


「まさか、牢屋へ刺客を送ったのは・・・。それでも私は、死ぬ訳には行かないんです。誓約の解呪の方法を話し合っているのですよね?協力させて頂きますから彼らに許しを・・・」


男性は私の質問にただ不敵な笑みを浮かべるのみで首を横に振らない。それはつまり、私に刺客を送った事を認めたと言う事ね。警備が手薄だったのもワザと、そしてあの二人は捨て駒だったと・・・


「寛大・・・いや、愚者だな。命が狙われた時点で解呪の方法など無いと気づかないのか?そして、お前が大罪を犯した事により国際協定の庇護下から除外されたと言う事をな。さあ、大人しく投降するんだ」


国同士の協定で他国で犯罪を犯した場合、犯罪者は其々の国の弁護人を立てて裁判を設ける権利が与えられる。しかし、二等級以上の犯罪は其れに含まれずにその国の法に基づき断罪できると言うものだ。


「つまり話す余地は無し・・・ですか。此れで私の命を絶つ大義名分が出来たと言う事ね」


私の言葉を受けて周囲の兵士からは「宰相殿に対して何という言い草だ」と言う声が挙がる。

クラウス宰相は私を見下すような視線を送ると鼻で笑った。


「ふ・・・それは飛躍しすぎだな。私は後継者殿を我が国に帰してもらい、その罪を償って欲しいだけだ」


「此れは一方的で不公平です!私はセレスを誘拐するつもりは無い、解呪できないのなら新たに話し合いの場を設けるべきですよ」


諦めず訴えかけるが、返事の代りに返って来たのは相手が武器を構える音のみ。敵を見る限り少人数である事から、恐らくは此方が拒否すると想定していなかったのだろう。



************************************



此処が港から見上げた城なのだとしたら、逃走をし仲間の居る皆と方面へ行くには下るのみ。細かい道のりは不明でも海を目指せば如何にかなるだろう。


「セレス、貴方は(ここ)に残る気は無いんだよね?」


私の問いかけにセレスは小首を傾げると不思議そうに此方を見つめ返す。


「うん!」


「それじゃ、私の傍から離れないようにね!」


セレスを背中にしがみつかせると、剣を抜き素早く地面を蹴り港を目指し走り出す。


「逃がすか!あの人間を捉えよ!目覚めよ大地 血の盟約により 奮い立て 【地竜鋭爪】」


クラウス宰相の放つ魔法が地面を伝い、私達の目の前に幾つもの鋭利な刃物のような岩壁が隆起し形成されて行く。


「吹き渡る風にて 精霊を統べる者 シルフよ私に天駆ける力を・・・」


「・・・天かける力を!」


セレスは私の肩に摑まり、私のモノマネをして一緒に呪文(スペル)を唱える。


「【レヴィア】!!」


「レヴャー!」


足元から吹き上がる旋風に小さな緑色の鳥の様なものが混じる。妖精?風の妖精(エアリアル)とは違う、そうなるとこの子達は小精霊?!今まで見えなかったのに何故?

しかし変化はそれだけでは無かった。肩に摑まっていたセレスが緑の淡い光を放つのと同時に旋風の勢いが増し、私は壁を避けるどころか乗り越えてしまった。


「え?ええ?!」


しかし驚いて居る間も無く敵の容赦ない攻撃が私達を襲う、地に足をつけたのと同時に翼で飛翔した兵士の放った炎の槍が此方へと飛んでくる。兎も角、防げるか・・・


「大地の祖にて 偉大なる精霊の王 堅牢なる守護を【テラクリペウス】!」


「エリャリペウスッ!」


腕当へと集まる石に混じり土の精霊らしき小さな姿が見えた。やはり、何か変化が起きている?


「って・・・重っ!く・・っ!」


岩の盾は何時の間にか自分達を覆い隠す大盾へと進化していた。そして、上空の炎の槍は空中で炎が複数に別れ、盾に弾かれ床に突き刺さり(すす)が地面に黒い痕を残す。

自分の事もそうだけどセレスにも何かが有る。兎も角、考え事より逃走が優先事項だ。

敵の猛襲を避けつつ必死に岩山を走る。しかし、ある地点で攻撃が止まり呼び止められた。


「何時まで逃げるつもりだ、何方が優位か目に見えているだろう?いい加減にしたまえ」


優位に見せる口調だが、その足は一切動かない。此れはこっちに来れない何かが有るのね。

そう言われて、そうですかと捕まりに行く馬鹿はいない。私はクラウス宰相を無視して先へと進む、踏み込んだ足は地面へ吸い込まれて行くように沈んでいく。


「え・・・?!」


苛立つような声が上から聞こえてくる、私は崩落した地面に巻き込まれ、深い闇へと吸い込まれて行った。

今回も当作品を読んで頂き真にありがとうございます。

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