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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
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第 3話 竜の誓約

-ねぇ、起きて-・・・

誰かに呼ばれたような気がして顔を上げると、真っ白な視界に男とも女とも不明な小さな人が立っている。その瞳は思わず惹かれてしまう程に美しく不思議な蒼だった。

訳も解らず見つめていると、その人物は小首を傾げ、私に名前は何かと問いかけてくる。


「アメリア・・・」


ボンヤリする頭でゆっくりと唇を動かし応えると、嬉しそうに相手は微笑む。

ぼやけた視界に蒼い瞳だけが目に焼き付いていた、其れは商業自治区(フランメシュミート)の市場で見た青味がかった鉱石を彷彿とさせた。


「ねぇ、アメリア。ボクに名前を付けてよ」


穏やかで柔らかな声がした。


「・・・セレスタイトなんてどう?貴方の瞳と同じくとても綺麗な鉱石よ」


其れを聞いて何度も「セレ・・セレスタイト」と噛みしめる様に呟くと、嬉しそうに口角を上げた。

しかし次の瞬間、鼓膜が激しく震える様な声が頭に響き、何かに引っ張られる様な感覚で目が覚めた。


「おい!囚人!何時まで寝ているつもりだ!」


え?囚人?!どういう事?

目を開けると其処は薄暗く冷たい石造りの牢屋だった。鉄格子越しに見えるその人物の頭には二本の角、髪は緑で瞳は琥珀色の露出の多いい鎧を着た女兵士が立っている。背中には髪と同色の被膜が張った大きな翼が折畳まれていた。竜人(ドラコニュート)?!

女兵士はかなり苛立っている様で、ガンと鉄格子を蹴り上げ、扉を開けて入って来るなり私の手に縄をかけて着いて来る様にと乱暴に引っ張った。武器も防具ないのもあるが、脱出経路が不明なうえに下手に暴れると命の保証が無さそうだ。蝋燭(ろうそく)の薄明りの中、槍の先端が鈍い光を放っていた。



**********************************



連れられるがままに速足で廊下を抜けて行く。城の中に変わりはないが擦れ違う人は全て竜人ばかりで他の種族は私以外は居無い様だ。

進むにつれて装飾が豪華な物となり、大きな扉の前に辿り着く。そしてそこは・・・


「おい!此処は()()()だ、精々気を付けるんだな。さもなければ、()()をする前に貴様の首が胴体と別れる事になるぞ」


女兵士は入口の前に立つと衛兵と何かを話すと、私を中へ進む様に促した。それにしても、証言て何の事?まったく身に覚えが無い。

私の目の前に広がる光景は、豪華な赤を基調とした玉座の間。そして、鋭い目つきをした兵士の列の先、玉座には燃える様な黄昏の空を思わせる髪に黒い角に蒼い瞳の竜人の姿が在った。近くには兵士以外にも側近と礼装を(まと)った人物が控えていた。

「ぼーっとするな」と女兵士の(げき)が飛ぶのと同時に両手を拘束する綱が強く引かれ、よろけそうになりつつ、引きよせる様に王の御前に(ひざまず)かされた。


「小娘、ディアーク陛下の御前だぞ!名を名乗れ!」


護衛兵から罵声に我に返る。やはりこの方がこの国の王、ディアーク陛下・・・

現状、嫌疑をかけられ捕らわれた状態だ。敵対はしては居ないが名乗るべきか迷う。この後どう扱われるか・・・どっちみち良い予感はしないが。


「失礼致しました・・・アメリアと申します」


取り敢えず名乗ると、ディアーク陛下は見下すような訝しみの視線を私に送り鼻で笑う。


「ふん、名乗りなど大した意味は無い。お前に問う、盗んだ()()を何処に隠した?」


ただ問い掛けられただけなのに、低く凄みのある声に冷や汗が背を伝う。盗んだってあの箱の事?!でも、あれは封呪が施されていたような・・・


「僭越ですが陛下、眠らされて連れられた為、私には皆目見当もつきません・・・」


「ほう・・・」


このディアーク陛下の声に周囲の兵士が二人、槍を私へと向ける。すると、「お待ちください」と礼装を纏った人物が声をあげる。肩まで伸びた緋色の髪に薄茶色の角、髪と同様の色の瞳が眼鏡の下で光っていた。


「ふむ、エヴァルト大祭司か・・・何事だ?」


「私にこの囚人を調べる許しを頂けないでしょうか?」


「今回の件はお前にも関係の有る事だったな・・・」


「・・・有難うございます」


エヴァルト大祭司はディアーク陛下へ一礼すると、私の方へと歩を進める。思わず後退ると、四方から槍が向けられる。まさに四面楚歌だ。


「・・・くっ!」


「彼女を立たせなさい」


エヴァルト大祭司が兵士へ指示により、私は腕を拘束されたまま乱暴に引っ張地りげられた。


「運ぶように言われていた箱には、封呪が施されていた筈です。私は術師ではありません、ですから・・・!」


「そうですね、解呪したのが()()なら・・・ですが」


エヴァルト大祭司は眼鏡を二本の指で上げると、意味深な笑みを浮かべる。


「其れはどういう事でしょうか?」


馬車が転倒した時、私は確かにあの箱を抱えていた。でも覚えてる限り、誰かが煙の中で近づいてくる気配すらしなかった気がする。


「・・・こういう事です。潜みし無垢なる魂を解き分かつ【分離解呪(セパレーションカース)】」


私の胸元にエヴァルト大祭司の手が伸ばされた。白い光が魔法陣を描き、胸の奥底から熱く何かが込み上げ来る衝動に襲われ苦しさに顔をしかめる。何をされているの?


「うぅっ・・・!」


次第に魔法陣から光り輝く球体が姿を現した。これは、まるで・・・玉子?


-アメリア、ボクの名前を呼んで!-


頭の中に白い光の中で聞いた声が響く。


「セレスタイト・・・・?」


そう名を呼んだ瞬間だった。パキッと破裂音が響くと同時に玉子に(ひび)が入る。


「何て事を・・・・!貴女は何故、命名誓約をしたのですか!」


エヴァルト大祭司の焦りと怒りの籠った声に周囲が騒ぎ出す、ディアーク陛下は驚きの表情を浮かべた後眉を(ひそ)める。やがて殻は光と共に四散し、光の中から仔犬ほどの大きさの白竜が誕生した。


「え・・・誓約なんて知りません!」


私が手を伸ばすと、青い瞳を嬉しそうに鼻先を摺り寄せて来る。


「その方は何れはこの国を担う力を備えた存在です。我ら竜人(ドラゴニュート)は元来より強きものに惹かれる存在。其れが故に国王となりうる方は代々、火の精霊王様と誓約を結び、この国の全ての火を制する存在となるべきだったのです」


つまり、検疫所に運ばれる前に持ち去ろうとしたのは影響を恐れての行動だったのね。しかも、敵対していると噂のドワーフの手に渡り利用されるか破壊される事を恐れていた・・・?


「小娘・・・お前は何者だ?」


ディアーク陛下は静かにかつ低く威圧的な声で私に問いかけた。此処はややこしくならない様、無難に応える事にしておこう。


「・・・唯の冒険者です」


私がそう答えると、王の傍に控えていた芥子(からし)色の髪に白い角の人物が怪訝そうな表情を浮かべた。


「エヴァルド、誓約の解除はできないのか?」


「陛下、クラウス宰相殿・・・大変申し訳ございません。命名誓約は最も強き誓約、難しいかと・・・。魂の誓約とも呼ばれるが故に一度(ひとたび)結ばれれば命分かつ時までとされているが故にです」


困り果てた様な表情を浮かべるエヴァルド大祭司の言葉に、宰相さんは頭を抱える。


「しかし、見る限り強引に命名誓約を結ばせる程の素養が有るとは信じ難いか。(しか)り事実か・・・取り返しのつかない事をしたな人間」


宰相のクラウスさんの爪が私の頬に伸びる。すると今まで傍観していた白竜、セレスタイトが私を庇う様に間に入り、伸びた手が止まった。


「アメリアを虐めないでぇ!」


小さな翼を羽ばたかせ必死に止めに入る姿は勇ましいと言うより可愛らしい。色もそうだが周囲の竜人と違う。人型にこの子もなれるのだろうか?

宰相さんは悔し気な表情を浮かべると、ゆっくりと手を下ろした。


「では・・・。今からこの人間の断罪は保留とし、話し合いの場を設けるとする」


ディアーク陛下がそう告げると、宰相さんは頭を下げた後に近くの衛兵へと声を掛けた。


「・・・御意。ギルベルト、人間を牢に戻せ。ヘルガは祭殿の上層部を城へと集めろ、誓約と人間の処遇が議題だ」


其処まで言うと私を一睨みし、宰相さんは先に部屋を出るディアーク陛下につき、護衛兵と共に姿を消した。


「おい!何時まで呆けている、早く歩け!」


ギルベルトと呼ばれた紺色の髪の兵士は私の綱を苛立ちながら強引に引く。


「ちょっと、強引に引かないで貰えませんか?」


「ふざけるな、命が有るだけありがたいと思え」


こうやって私が言い合いをする横を、ヘルガと呼ばれていた黄緑色の髪の女性兵士が横切った。


「人間風情が、誇り高き我らと誓約を結ぶなんて不快だわ。いい?命名誓約は相互の力を共有するものであり、名前で魂を束縛する物よ。解呪方法は一つしか無いわ、覚悟する事ね!あはははっ」


ヘルガは散々好き放題言うと、渋い顔をする私を嘲笑い、ゆっくりと軽快な足音を立てて去って行った。

何か感じの悪い人だったが、命名誓約の情報が手に入ったので儲けものだったかもしれない



*************************************



ギルベルトに連れられるがまま、地下牢の冷たく黴臭(かびくさ)い廊下を抜けると、牢に到着した途端に乱暴に放り込れてしまった。


「人間、逃げ出そうなんて考えるだけ無駄だと覚えておけよ」


「・・・武器なら如何にでもできるものよ」


「ははは、言ってろ!」


ギルベルトは高笑いをし、余裕の表情を浮かべると牢の並ぶ通りを抜け、看守の詰め所へと向かった。

そして、姿が見えないので連れて行かれたかと思っていたが、何故かスカートの中にセレスタイトが潜んでいた。幼体の内は性別が定まっていなく、人型への進化も個人差が在るらしい。それでもなぁ・・・

狭い牢の中は何も無く、暫し寝台に座り考え事をしていると静かな地下牢に複数の足音が響く。


「誰・・・?」


呼び出しにしては些か早い気がする。牢屋の格子戸が開く音と共に薄明りの中に二人の人物が現れる。ヒュっと風をきる音と共に松明の明かりが反射し、私の目の前で光が弧を描いた。

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