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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
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第 2話 封じられし箱

奇妙な店を後に人混みを掻き分け歩くと、多種多様の品々が目の端に映る。今まで少ないながら各地を旅しているが、この地の露店に並ぶ品々はどれも珍しく興味深い、其処でふとある露店に目が止まる。

その店には色とりどりの鉱石が並び其々、動く不思議な光の粒に覆われている。よく見るとその光と思っていた物は鉱石を守る様に飛ぶ小さな生物だった。


「・・・妖精?」


その存在は生き物を模る力が弱いのか時折、姿を崩しては光の粒へと姿を変えていくのを繰り返している。私が商品を見つめているのに気づいたのか、店主さんが声を掛けて来た。


「おや、お嬢さん。一人かな?うちは御守から可愛らしいアクセサリーまで揃っているよ!そうだな、お嬢さんぐらいの子なら・・・」


店主さんはいそいそとアクセサリーを吟味しだした。不味い・・・買わなきゃいけなくなる奴だ。


「あ、あの・・・!」


その時、戸惑う私の背後から声がした。


「アメリア、君はこんな所で何をやっているんだ・・・仕事中だぞ」


ファウストさんは半ば呆れていると言った様子で私を見た後、店主さんの様子を見て溜息をつく。


「あら!ファウスト、綺麗な物に惹かれるのは女性として当然ですよ」


ソフィアは青い鉱石を手に取り目を輝かせる。その鉱石の光は小さな人魚に姿を変えて石の上にちょこんと座ると、嬉しそうな顔でソフィアの手に擦り寄る。


「そう・・・だね。ねぇ、ソフィア。手に違和感を感じない?」


「いえ?特に何も?」


ソフィアは不思議そうな顔をしながら自分の手を見ては、私を見て小首を傾げる。其れを見ていたファウストさんも一つの石を手に取った。


「店主、すまないが。此れはどう言った用途の鉱石だ?」


店主さんはアクセサリーを選ぶ手を止めると、手を擦り合わせながら満面の笑みをファウストさんに向けた。


「お!兄ちゃん、お嬢さん達のツレかい?二人とはやるねぇ、色男!」


「ごほん!違う、誤解だ!それより、僕の質問に答えて貰って良いか?」


そのファウストさんの返答に店主さんは、一瞬だけつまらなそうに顔を曇らせるが、直後に商人の顔に戻った。


「小精霊が宿ると言われている御守だよ。人によって相性があり効果はバラつくが、大半の人はその色と宝石言葉で選んで買っていく人気商品の一つだよ!」


どうだと言わんばかりの表情を浮かべる店主さん。小いさいのは精霊か・・・なるほど。でも何故、私だけ見えるんだろう?


「ふむ、此方のくすんだ水色の石はカルセドニーと言って宝石言葉は達成・冒険心、此方の黒味が掛った紅い鉱石はガーネットで宝石言葉は生命力と活力。そして、透明に薄く青い色が差した鉱石はセレスタイトだな宝石言葉は清浄・博愛・浄化だ・・」


ファウストさんは次々と鉱石を手にとっては雄弁に語り始める。その口は一向に止まる気配はせず、店主さんは私達にローズクォーツを恋愛に良いと奨めたてきた。


「いえ・・・また今度にします。ファウストさん、説明ありがとう」


「ファウストは鉱石がお好きなんですね」


ソフィアは驚き、困ったような表情で微笑んだ。

「すまない、つい」とファウストさんは(ばつ)が悪そうな顔を浮かべて頭を下げる。


「でっ、すまないが。何か買って貰わないと困るですよねぇ。どうです?まけときますよ!」


結局、店主さんに押し切られ、持ち運び易さから、小さなブレスレットを選びファウストさんに買って貰った。私とソフィアはファウストさんにお礼を言い、三人で再び皆の待つ船着き場へと急いだ。



************************************



フェリクスさんの失踪理由は、私の予想通り。必死に此れも(さが)だとダリル達に同意を求めたが返って来る返事は無かった。そして荷物を雇い主(ライラさん)に渡した後、情報交換をする為に全員で昼食を取る事になった。

私の前にはバソの実を使った薄焼きの生地に新鮮な野菜と生ハムに半熟の卵が乗ったカレッドと素材の旨味と香りが広がるシュリプのビスクが並んでいる。

香り高い滑らかなスープを口に含むと、口の中がシュリプの風味で満たされる。カレッドは中央の卵を割り、生地と野菜に絡ませ一口、頬が落ちそうになった。勿論、報告も忘れてはいない。


「なるほど、中心種族は竜人(ドラゴニュート)にドワーフね。私自身の知識と合わせるとやっかいね。どうやら、その二種族は火山を巡って争っているらしいのよ」


ケレブリエルさんはホークを片手にパスダを香草と貝の旨味の溶けたソースに絡める。


「たしか、シュタールラントは金属の扱いと地熱を利用した風呂が有名だよな。そうなると、火山絡みか?」


ダリルはそう言うとスクイドとシュリプが入ったカリーをかきこんだ。


「うーん、恐らくそんな所でしょうね」


「んで、抗争に巻き込まれる・・・なんてな」


ダリルはヘラヘラと笑う。


「はっ、君の冗談は笑えないな」


ダリルを見て、ファウストさんは溜息をつき肩を竦めた。

次第に港方面が行き交う人々で騒がしくなっていく。それは、新たなる地へ向かう時が迫っている事を私達に知らせた。



**********************************



潮風に混じり妙な臭いが鼻腔に届く。

ふと、船室の窓から外を眺めると天を貫く剣の様な火山がそびえ、裾に向かい岩肌に緑が広がる大きな火山地帯が目に入った。火山の頂上には薄っすらと黒い煙が上がっている。

近付くにつれ、より詳細に島の姿が見えてきた。火山の斜面には赤い石造りの建物が多く、裾の方面とは違う独特の様式の大小様々建物らしき姿が見える。港らしき場所には二(りゅう)の文様の違う旗。


「ここがシュタールラント・・・」


ケレブリエルさんは目の前の景色に感動する私を見ると、ゆっくりと丁寧に説明をしてくれた。


「シュタールラントの首都は火山地帯の高台に在るリンドヴルム。竜人の王ディアークの治める、女神より火の精霊王サラマンダーへの信仰が強い国。古来より同じ地に住まうドワーフに火の精霊王の力を貸し与え、武器防具などの鍛冶業と炭鉱業を国の主な産業として発展した炎と鋼の国よ」


「それは是非、剣を新調してみたいですね!」


「しっかし、竜が蜥蜴(とかげ)をねぇ・・・」


ダリルは視線を火山の方へと向けた。


「デコ助、お前もその眷属の加護を受けているんだぞ」


フェリクスさんはニヤリと笑い揶揄う様にダリルの顔を見た。


「チッ・・・」


しかし、正論と気づいたのか流石にぐうの音も出ないらしく何時もの勢いは鳴りを潜め、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。


「しかし、それなら何故・・・二旒に分けてあるのでしょう?やはり、あの火山に何か・・・?」


「うーん、それは到着してからにしましょう。国外にも情報が漏れるぐらいだから、其処は聞き込みをすれば意外と早く情報が入るんじゃないかな?」


船に到着を知らせる汽笛が低く響く。私達は私物をまとめると、荷下ろしの手伝いの為にライラさんの許へと向かった。



************************************



港はドワーフが多いいが条約の影響もあって、それ以外の多種多様な種族が混じっているのが見える。唯一、目にしていないのは竜人ぐらいだ。

荷卸しを終え検閲所へと荷を通そうとしていると、此方へと殺意の様な妙な視線を感じた。

ヒッポグリフのアル達をファウストさんに任せ、周囲を警戒するが、一方に相手から襲ってくる様子は無い。此れは出方を見ている?!何を狙っているのだろう?考えられるとしたら中継地として立ち寄ったフォンドールで手に入れたアノ箱だろうか。


「ライラさん、例の箱は?」


ライラさんへとこっそりと耳打ちをすると、きょとんとした表情を浮かべた。


「それなら、早々にあそこの荷馬車へ積んであるですよぉ!」


声がでかい!

其れを合図に様子を窺っていた気配が動き出す。すると、無人の筈の馬車が勝手に動き出した。

流石に仲間達も異変に気が付き、私と共に馬車を追う。殿(しんがり)をダリルが務めるが、幌の中から槍が飛び出し其れを寸前で(かわ)すが失敗。

人混みや建造物の多いい街では馬車を飛ばす事が出来ずに苦戦している様子。


「てやああああああ!!」


私は曲がり角で速度が落ちた所を狙い、後方の荷台へと飛び乗ると幌の中へと滑り込む。例の箱を見付けて抱え込むと、背中に刃が突き立てられるのを感じた。


「おい、貴様。其れは我らの物だ、命が惜しければ箱を置いて飛び降りろ・・・」


低く冷たい男性の声が背後から響いた。私が持っているのは折れた剣と鞘のみ。

我らの物・・・?

私は鞘を後ろ手に振りあげ、槍の柄を払い除けようと試みる。虚を上手くつけたのか槍が上方へ弾かれるのを感じた。

その隙を狙って箱を持ったまま身を翻した所で、ダリルが飛び込み槍使いらしき人物を殴り倒した。


「おらぁ!!!」


しかし、騒ぎが起きた事に驚いたのか、馬が驚き(いなな)き声をあげると暴走し、荷馬車は近くの溶岩石に衝突。車輪と幌を破損させ横転してしまった。如何にか私は箱を死守できたが、次第に煙が視界を塞いでいく。


「う・・・この煙・・・眠気が・・」


危機感を感じ腕の力を籠めるが、意識は徐々に白んでいく。最後に聞いたのは大きな羽音だった。

ワンクッション挟み、色々と有りますがシュタールラントへ無事に入国しました。

ブックマーク登録及び、当作品を読んで頂き真にありがとうございます。

それではまた次回をお楽しみに!

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