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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第22話 記憶と巣立ちの大地

※今回も長文です。

深紅に染まる山道を抜け暗い森の中、誰かに手を引かれひた走る。何時もの半分も満たない視線の低さから、目の前の光景に気づかされる。私、また夢の中に居る?

私の手を強く握る手は赤く染まってはいるが怪我は無い、ふと見上げると赤く染まる肩程まで伸びた金髪に月光が反射して光る。それは以前に見た夢と酷似していた。以前の夢で見た兄と思われる黒髪の少年。その銀色の瞳と思わず目が合った。


「アメリア・・・走れ!」


不意を突かれ呼ばれた名は自分の名前。驚きの感情を抑えつつその声に頷く。

偶然にしては続けて同じ夢を見るなんて・・・でも何かが胸に込み上げ頭がズキリと痛む。

背後から荒々しい追手たちの声が響く。


「くそ・・・頭領を殺ったのがバレたか・・・!」


焦りの混じる声が頭上から響く。金髪の少年の物だ。


「何者か知らないが・・・助けてくれた事には感謝する。僕達を連れて何処へ行く気だ」


息をきらしながら黒髪の私の兄とされていた少年が金髪の少年に尋ねる。


「そうだな、おれは・・・エルガーとでも呼んでくれ。アレクだっけ?良い所のガキみたいだから家にでも届けて・・・と思ってんだけどな」


「・・・・貴様ッ!だが、僕達を送って礼金を狙ったところで無駄だ・・・僕は要らない存在だからな」


エルガーの冗談に憤る黒髪の少年だったが、表情が徐々に沈んでいく。要らない存在・・?

私は駆け寄ろうとするが、小石に(つまづ)きよろけてしまう。すると、「悪いね小さいレディ」と声が掛けられ体が引き寄せられたかと思うと、次の瞬間にはエルガーに抱き上げられていた。



************************************



気付くと私は二人の後を追い、山道を歩いていた。そこに私達の目の前に頭巾を目深に被る人影が見えた。


「ちょっと時間いいかい?」


エルガーは近付き尋ねるが、その姿にビクリと怯える様に後退る。血塗れの服と短剣を身に着けた人が来たらね・・・。


「あの、突然でごめんなさい。貴女・・・この近くに住んでいる人?」


「・・・ええ」


徐々に顔から警戒の色が薄れ、小さく高い声で返事が返って来た。背も高いし少しだけ年上って感じかな?


「すまないが、道を尋ねても良いだろうか?森の中で家の者と別れてしまったんだ」


「・・・それは大変。解りました、村までご案内致しますね」


尋ねたアレクと私の顔を交互に見ると目を細め口角を上げる。其処で視界が暗転した・・・



***********************************



再び場面は変わって茜色が差し込む高台へと移っていた。目の前には少女を囲んで詰問をするエルガーとアレクの姿が。


「案内すると言うのは、嘘だったのか!」


「・・・ふふふ」


アレクの問いかけに少女は答えずただ微笑むのみ、其処で風が吹き彼女の姿を露わにする。

エルガーは私に前に出ない様に小声で伝えると、短剣に手をかけた。宵闇色の髪に黒羊の角を持つ少女、その姿には見覚えがある気がする・・・


「その文様は・・・。()()暗殺ギルドの、紅の牙の一員だったのか・・・」


頭巾の裏には紅い狼の紋が刺繍されていた。暗殺ギルド・・・?


「アタシの頭領(おもちゃ)を壊したそうね。裏切るとは恩知らずなヤツ・・・まあ頼んだ事も出来ない役立たずは要らないけど。アハハ・・・」


後退ると片足が宙に浮く、何時の間にか首を掴まれ崖の淵に追い詰められていた。


「ひっ・・」


「うふふ・・・何て忌々しい瞳。何て醜いの?でも貴方は役に立ちそうね・・・アタシに付いてきなさい、助けてあげる」


私の顔を侮蔑する様な目で見ると、私を守ろうとするアレクに手を伸ばす。其れをエルガーが払い除けた。


「・・・魔族崩れになんかに渡さない。おれ、安全な場所へ送り届けるって約束してんだよね」


エルガーは日本の短剣を構え立ち塞がるが、其れを見た少女は手を上げる。すると、周囲から次々と追手が森から飛び出し迫って来る。そして・・・


「キャ・・」


弓が私の肩を掠め、痛みと驚きでよろけ、体が宙に浮く。必死に私の手を取ろうとするアレクの手は届かずに体が傾く。次に見たのはエルガーが私達の名前を呼びながら、飛び降りてくる姿だった。



************************************



意識がぼんやりと浮上して行く、目の前には赤黒い肉の塊、蠢きうねる様に其れは私へと襲い掛かる。

『儂を呼べ!』脳内に直接語り掛ける様に声が響く。この声は・・・!


「大地の祖にて 偉大なる精霊の王 堅牢なる守護を私に 【ノーム】!」


左の腕当(バンブレス)てから魔法陣が展開されると、一瞬で金色の魔力を(まと)う岩の盾が生成され、襲い来る肉塊は不快な音を立てながら四散し消えて行った。すると、何もない空間から土の精霊王ノーム様が顕現する。


邪神(あやつ)め、とんだ置き土産を残しおって・・・。そいつは儂の力で作られた大地の盾、【テラクリペウス】。儂からのお主への信頼の証じゃ」


地の精霊王様は私を見て優しく微笑む。


「・・・有難うございます。ご期待に沿えるよう頑張ります!」


地の精霊王様は髭を撫でながら頷くと、ジッと私の顔を見る。


「お主の体は風の精霊王(シルフ)が巫女と慌てて助けようとした仲間を助けた安心せい。ちゃんと礼を言うのじゃぞ」


「はい・・・」


「そうそう、此れを伝えて置かないとな。現在、世界は妖精達の助力もあって姿を保っておるが、お主も気づいておるだろう?」


「ええ、魔物の異常発生ならこの目で」


山岳や峡谷での生息地外の出現が頭に思い浮かぶ。地の精霊王様は「良く心して聞く様に」と前置きし静かに語りだす。


「今から話す事は他言無用じゃ、無用な混乱を招きかねんのでな。古の闇の巫女の出現及び魔物の異常発生等は、女神の力が失われ始めた事に起因する。その結果、帰還しようとする邪神の干渉が起きているのじゃ」


唐突に告げられた事実に私は驚愕した。正直、現実として実感できずにいる。ウァル様の力が衰退している証明として考えられるとしたら、カルメンの出現と暗躍。それならば、世界の綻びを塞ぐ役割を果たす妖精の盾の動きも納得できるかも。


「このまま行くと世界が秩序を保てず崩壊する可能性が?!何か良い方法は無いんでしょうか?」


世界を支え、人に祝福と精霊の力を分け与えるウァル様が衰えると言う事は、魔法を授かれないだけではなく、世界から精霊の力を喪失する事を示す。


「そう急くな、方法は在る。ウァル様の御力を取り戻すには衰退を止め、御力を取り戻す為に代用するモノを用意する事じゃ。其れが何かは儂にも判らんがのう・・・」


「力を取り戻すもの・・・ですか。それは・・・」


今考えても以前に聞いた、祭殿に降りかかる災厄を取り除く方法しか思いつかない。


「まあ、そのうち解るじゃろう。それより、目を開けてあげなさい仲間が心配しておるぞ」


その言葉を最後に意識が浮上して行く。過去と思わしき記憶の断片、其処で共に行動した二人は無事なのだろうか?そして衝撃の事実。押し寄せる情報の波に未だに頭で整理ができず私は困惑するのだった。



****************************************



目覚めると、私は病院のベッドの中だった。一緒に落ちたティーナさんも無事らしく早くも、リエトさんを通じて祭殿の再建と狂ってしまった先代に替わり、新しい大祭司様の擁立へと動き出しているそうだ。しかし、不安要素は拭い去れない、ティーナさんを利用しマナの流れる収束点へと落とそうとしたカルメンとあの時投げた紅い石の事だ。

病院を飛び出し仲間達と看護師さんの制止を振り切り、壊れた剣を腰に下げて帝城前へ向かう。

しかし、妙に周囲が騒がしい。城の前に置かれた掲示板を読んではヒソヒソと何かを話している。そこで野次馬に話しかけて見る事にした。


「すみません、此れはいったい・・・?」


「いやね以前、国の重要な門が盗まれたもんが、如何やら第五帝妃様の私室から見つかったらしい。其処からは皇帝を篭絡(ろうらく)し散財に加えて政治にまで干渉して好き放題したらしい。驚いただろ」


「え、ええ・・・有難うございました」


本が元に戻ったのは恐らく、土の精霊王様の御力だと思う。そしてカルメンの罪状が暴かれたのか思うと疑問だ。張り紙を見てみると、他の帝妃様方の御力添えが有ったとされる一文があった。


「なるほど・・・流石だわ」


納得とした所で背後に迫る気配がし振り向くと、ダリルが腕を組み鬼の形相で私を見ていた。


「よー、気が済んだか?おら、行くぞ!」


腕をガッシリと掴まれ、このま帝城の様子を見て居たい所だけど無理だと悟る。

問答無用で引きずられて帝城前を後にした。



**********************************



訳も解らず付いてこられたのは人気の無い城塞の片隅、仲間達に囲まれた長いマントと頭巾で身を隠した二人の人物が立っていた。私とダリルに気が付くと二人は頭巾を脱ぐ。そして現れた顔はアイスブルーと緑の瞳の獅子の双子だった。


「エミリオさん、貴方から魔法を・・・魔力を奪ったのは私です。ごめ・・・」


目を見て謝罪をしようとすると、エミリオさんは目を丸くした後、杖を突き頭を傾けると私の肩を叩く。


「生活に魔法が用いられている社会で現状はとても不便だ。でもね、元から心臓の事もあって魔法はあまり使わなかったしボクは大丈夫さ」


エミリオさんは優しく諭すように語る。私の罪悪感を消そうとしてくれているのだろう。だけど、此れで良しとしてよいものかと胸が痛む。そんな私の様子に気づいてかファウストさんがもう片方の肩を叩く。


「その痛みは進歩をする為の好機だ。後悔が有るのなら、其れを糧に次は君や相手にとってより良い選択肢を選ぶんだな」


厳しくも実直な言葉に身が引き締まる思いがした。エミリオさんはそれを聞いて頷く。


「ボクはね・・・失われる筈だった人生を自由に生きる可能性を君に与えられたんだって思っている。もし、それでも気が晴れないなら僕の願いを聞いてほしい」


「はい!何でも行ってください」


「ボク達は帝都を離れるつもりだ。ボクは辻馬車の馭者(ぎょしゃ)の仕事が外で決まっているんだけど、兄さんと暮らすのは難しいんだ」


エミリオさんは申し訳なさそうな表情を浮かべ、兄と私を交互に見る。そうか冤罪とは言え、方や元罪人。


「つまりはファウストさんを私達の仲間に加えて欲しいと言う事ですよね」


「そう、ブラコン兄さんから独立する為にね!」


「なっ!」と声をあげるファウストさんを見てエミリオさんはニヤリと笑った。

此処で4章終了です。今回は色々な意味で長くなってしまいすみません。

ここ等を考慮して次章も頑張って行こうと思います。

それでは、読者の皆様に感謝!

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