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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第21話 収束の地にて

妙に人間臭さい土の精霊王様の登場には意表を突かれたが、驚くべきはその経緯だ。本人曰く人類への知的好奇心を満たす為、疑似生体を造り依代にして人界で暮らすようになり馴染んでしまったらしい。

私達の(もっぱ)らの気がかりは妖精の盾に術を施して貰っているエミリオさんの安否だ。只管、何かを唱え続ける妖精の盾。その斜め後ろから興味深げにケレブリエルさんは覗き込み、うんうんと考察しているのかブツブツと呟きながら頷いていた。


「アニマ・・・ポルタ・・・コンキリオ、古代語で生命・・結びつける・・・門かしら?」


・・・生命に門。土の精霊王様曰く(ゲート)と言う物を作るとの事だが、世界の解れを修復する力で人体に門を作ると言うのはどう言う事?うーん、魔法の応用と言う所かな?

マジマジとそれを見ていると、一際強い光にエミリオさんが包まれたかと思うと黒い煙の様な物が抜けて妖精の盾の前で消滅した。「くっ・・・」と小さく呻くと、術を唱え終えると立ち上がり此方と向き合う。


「ありがとう。本当に助かったよ」


「古から続く妖精と女神との関係に基づいたまでだ・・・」


私に続き皆で礼を言うが、笑う訳でも照れるでも無く淡々とそう告げる。


「そうだとしても、貴方のお陰で弟が救われたのには変わりないさ」


ファウストさんのこの言葉に「そうか・・・」と呟いた後、妖精の盾は静かに私の方へと顔を向ける。


エミリオ(こいつ)の体にマナのを流す門を作った・・・生きるのには支障は無い筈だ。しかし、心して置け、魔力を一切使えなくなると言う事の意味をな」


「意味・・・そうね」


あの時は必死だった何て言い訳でしか無い。僅かな望みを賭けた判断は傍から見れば恣意的(しいてき)な判断だったのかもしれない。改めて考えると本当に私達は魔法と密接している、日常生活の様々なッ場面で生活魔法や魔道具を用いているのだ。

私も恨まれる事の覚悟はある・・・。ただ生きてくれた事は大きな救いだと思うんだ。


「アメリアさん・・・?顔色が優れない様ですが大丈夫ですか?」


気が付くとソフィアが私の顔を心配そうに覘いていた。


「心配してくれてありがとう。大丈夫、起きた事を整理していただけだよ」


「アメリアさん・・・いえ、アメリア。あたしはこう見えてもお節介やきなんです。事態も収束した事ですし、その出来事についてお聞かせ願えませんか?」


ソフィアは優しく微笑むと、私の両手を握る。大きな影がかかったかと思うと、その手に大きな手が重なった。


「お兄さんも混ぜてくんない?」


つい先程の表情も発言も嘘の様な何時も通りの様子のフェリクスさん。あの時、フェリクスさんは一人で止めに入ってくれた。この事を知っていたのだろうか?掻い摘んで話す間、二人は口を挟む事無く静かに聞いてくれた。


「・・・フェリクスさん。何故、あの時・・・妖精の盾(あのひと)に賛成したんですか?」


私のその質問に僅かに沈黙をすると、フェリクスさんは青紫の瞳に再び真剣なものに変えた後、何時もの笑顔を浮かべゆっくりと喋りだした。


「其れはね、十分承知しているだろうけど大きな決断には危険性はつきものだ。常に感謝されるとは限らない、善意だとしても相手からは憎まれる事も当然ある。その責務を追い続ける事をオレはアメリアちゃんに避けて欲しかったんだよ」


「フェリクスさん・・・」


答えを上手くはぐらかされた気もするけれど、全てが嘘ではないような気もした。心配をしてくれていたからこその止めてくれたのか・・・。


「アメリア、先ずは意識が戻ったらご本人と話し合いましょう!あたしはそれからでも、遅くは無いと思います。一方的な想像や憶測では解らない事もありますし、辛ければ相談してください。その為のあたし達だと思うんです」


「ソフィア・・・」


「其れに、君の背中を押したのは僕だからな。責任なら僕にもある筈だ、話す時は僕にも同席させてくれ」


ファウストさんは土人形(ゴーレム)に抱き返させた眠るエミリオさんを見上げると苦笑した。



**************************************



何かが心に引っ掛かる、あれだけ水の祭殿では最奥の部屋に有る精霊の間に在る精霊石を執拗に狙っていたのにも拘らず、カルメンが城に籠って姿を現さないなんて・・・

あれだけ執着していた闇の精霊王様から心変わりしたと言う事はまず考えにくい。

ふと、辺りに目をやると私達の後ろで次々と破壊された床や祭壇がパズルの様に次々と元に戻ると言う奇妙な光景が繰り広げられていた。


「ふぉふぉふぉっ、仲良き事は美しきかのう。むむむ・・・」


土の精霊王様は祭壇の間を修復しながら、穏やかに私達の様子を微笑ましそうに見守っていたが、何かが気になるようで足が止まる。みるみるうちに眉間に皺が寄り笑顔が消えた。


「どうかしたんですか?」


私が近寄ると、逸早く駆けつけたケレブリエルさんと床を見ながら話し合っていた。


「如何やら邪神の魔の手を祓って終わりじゃない様じゃ・・・」


「各地の祭殿は地脈を通じて、そのマナと恩恵を供給しているの。その地脈を通して何者かによる祭殿への干渉が起きているわ」


ケレブリエルさんは焦りと警戒の色を滲ませながら、周囲にも向けて伝える様に声を上げる。そうか、病弱なエミリオさんを繰る邪神の干渉を手助けしていたのはカルメンだったんだ。


「精霊の剣よ犯人とその目的は解っているか?」


土の精霊王様の問いかけに私は頷く。それを見て土の精霊王様は何かを察したかのように目を伏せ、何かを唱えた。すると、地面を滑る様に光が走り入口の戸が岩へと変わる。


「狙いは精霊石・・・・彼女の力からして外部からの侵入を防いでも油断できません。この中に潜んでいる可能性があります!」


「むむ・・・闇の巫女か。精霊の間に入れるのは此処に縁のある者か精霊の剣(おまえさん)と妖精の盾ぐらいじゃ。そうなると・・・」


土の精霊王様はファウストさんをチラリと見るが、首を横に振る。


「・・それはどういう事でしょうか?確かに僕なら、その条件に当てはまりますが・・・」


ファウストさんは驚きと困惑の色が顔に滲ませる。


「ふん・・・」


二人のやり取りをみると、妖精の盾は杖を握り二人の横を抜けて歩き出した。恐らく彼も何かに気づいたのだろう。


「いや、心配するな案ずる事は無い。・・・むむっ!」


土の精霊王様が慌てて振り返る。そう残された選択肢は一人、巫女のティーナさんだ。

ふわりと大きな尻尾が揺れ、吸い込まれる様に精霊の間へ消える、後姿に誰に知らせる間も無く私達は扉へ手を伸ばす。その手を避ける様に扉に穴が開き石のアーチが私達を招くが、アーチは休息に閉じて行く。


「妨害・・・飛び込むよ!」


私の掛け声と共に形振り構わずに皆で一斉に扉へ向かい走り出す。間に合うか・・・!



**********************************



滑り込む様に入り込めたのは数名、私と妖精の盾と・・・


「ふー、ギリギリだな」


「は、余裕!」


フェリクスさんに挑発するダリル、そして・・・


「呆れちゃう・・・こんな時まで競争だなんて」


「君達、場を(わきま)えるんだ!目の前の光景が見えないのか!」


ケレブリエルさんとファウストさんだ。

そしてファウストさんの言う通り、正に目の前で繰り広げられている光景はおっとりとしたティーナさんとは対照的な表情を浮かべ、手にはエミリオさんの魔核を思わせる紅玉。


「あら?勘だけは良いのねぇ」


聞き覚えのある声が響く。


「これだけを相手に目的を果たせると思ってるの?」


今回は水の祭殿の時とは違って、精霊王様の力や状態に陰りは無い。以前は守られていた巨大な精霊石には土の精霊王様の守護障壁が張られている。


「うふふ・・・勿論よ。それと、貴女達は此処がどう言う場所か解っていないようね」


カルメンはティーナさんの体に憑依したままふらふらと後退る。


「何か言ったかと思えばハッタリか?」


「違うわ・・・此処は精霊界からの恩恵を受ける為の地脈の収束点。つまりは土のマナが世界へと流れる中心よ」


ケレブリエルさんはダリルの言葉を否定すると、カルメンに憑依されたティーナさんを睨みつけ、杖を構える。


「ふふ・・・脅しても無駄よ。だってティーナ(この娘)を供物に邪神カーリマン様をお救いするからよ。魂の欠片は地脈を通じて世界の力を吸い上げ亀裂を広げ、再びこの世界に顕現なさる。そうすれば女神(あの女)の封印は解かれ、愛しいあの方はアタシの許に戻るわ!」


カルメンは恍惚の表情を浮かべ、紅玉を胸に抱き寄せる。そのままフラフラとした足取りで床と岩壁の合間に囲う様に広がる亀裂の淵まで下がる。


「させるか!芽吹きを促す緑の妖精よ・・・」


妖精の盾がカルメンに駆け寄りながら早口で呪文を唱える。私の位置は彼女と反対の壁際、何としてでも止めて見せなくては!私は片足を背後の壁につけた。


「吹き渡る風にて 精霊を統べる者 シルフよ天翔ける力を【レヴィア】!」


同じくカルメンの許を目指す仲間達の横を、壁への反動を基に両足に旋風を纏わせながら私は飛んでいく。妖精の盾の魔法がカルメンの体を捉えようと蔦を伸ばすが、寸前で体が宙に投げ出される。


「くっ!」


悔し気に眉を寄せ、憑依されたティーナさんの体を捉えようと蔦を伸ばす。それを私は追い抜くと、ティーナさんの両肩を掴む事に成功した。しかし、既に私達の体は宙に浮き、降下し始めている。

皆の私の名前を叫ぶ声が耳に響く。


「ふん!」


咄嗟に剣で岩壁を突き、落下を免れる事が出来た。如何にか抱えているティーナさんは憑依が解かれたのか、紅玉を持ったまま眠っている。先ずは如何にかしてこの紅玉を上に投げなくては。投げようと紅玉を掴んだ途端、心にドロドロとした黒い何かが押し寄せて来る感覚に襲われ、肌が粟立つ。


「アメリア!大丈夫か?!」


「アメリアちゃん!オレの手に摑まって!」


ダリルとフェリクスさんが顔を出す、二人は身を乗り出し引き上げようと手を伸ばす。


「先に此れを上に!此れを落としてはカルメンの思う壺よ!」


「解ったから寄越したら早く手を摑め!」


「行くよ!」


精一杯の力で紅玉を投げると弧を描き、ダリル達の足元に乗った。しかしその瞬間、ガキンと耳を(つんざ)く様な金属音。先程の戦いでやはり剣に(ひび)が入っていたようだ。


「アメリアちゃん!!?」


グラリと体が傾くと、まるで時の進みがゆっくりと見え、私はティーナーさんと共に落ちて行く。意識を失う直前に見たのは必死の形相のフェリクスさんだった。

今回も長くなってしまいましたが、今回も読んで頂き有難うございます!

長くなり大変申し訳ないのですが、後一話で今回の章は終了です。(次章も只今、構想中・・・)

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