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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第16話 魔女の謀略

冷たい嘲笑と愉悦に浸りきった目線が私達に注がれる。此れは私達より寸前まで明かさず口を(つぐ)んでいたファウストさんへの動揺と混乱を狙った揺さぶりだと思われる。

虚言の可能性が有るとはいえ、事実だと突きつけられ内容に加え、(あまつさ)え土の祭殿への襲撃を示唆され不安と焦りが心の中を渦巻いた。今、思い返せば色々と当てはまるものが思いつく。


「あの本を見た時、何で病弱なアイツが持っているのかと思った。貴女だな・・・闇の魔導書(グリモワール)を渡したのは・・・!」


ファウストさんは怒りが滲む淡々とした声が背後から響く。


「あら、良いのかしら大声を出して?」


しかし其れには答える事は無く、ファムール妃は扇子で口元を隠しせせら笑う。


「・・・其れは質問の答えになってないよ。答えなさい、カルメン!」


私の言葉を聞くと、顔から笑みが消えて鋭い視線が此方へと向けられる。其れは己がカルメンであると肯定しているようだ。ファウストさんだけが「カルメン・・・?」と困惑の表情を浮かべていた。


「それが如何したのかしら?忌まわしき女神に魂を引き裂かれた主の悲願を達成させるもの、感謝して欲しいぐらいだわ。たかが人種(ひとしゅ)風情の身分で役に立てるのだもの」


主?悲願・・・?求めた以上の答えが返ってきた事には驚かされた。しかし、口振からして良い者でも、彼女の最愛の精霊王でもなさそうだ。此れは背後に何かが居る可能性を示唆しているのだろうか?


「へえ、随分と気前が良いな。人任せにしてお気楽ってとこか?」


ダリルの言う通り、口を滑らせたにも関わらずカルメンは余裕の表情を浮かべている。


「何か勘違いして居ないかしら?ココはアタシの術の影響下にあるのよ」


「くそっ!」


「しまった・・・!」


「アメリアさん、兵が目を覚まし始めました・・!」


ソフィアが周囲を見渡し、焦り慌てた様子で私達へと知らせる。どおりで、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だったわけだ。敵地に身を置いている事を失念してたのが痛い。


「・・・此処は僕が名乗り出る!」


ファウストさんは私達を庇う様に兵の居る回廊を望む廊下へ向かおうとする。しかし、ダリルがファウストさんの腕を掴かみ引き留めた。


「うぜぇな!いい加減にしろ!犯罪者一人のこのこ出た所で全て見逃すかよ馬鹿が!」


「君には他に策が有ると言うのか?!」


「お二人とも止めてください争っている場合じゃ・・・!」


ソフィアが衝突する二人を宥めてくれているが、二人が焦るのも可笑しくない状況だ。

時間は無く、まさに四面楚歌。嫌な汗が背を伝う、逃亡生活を覚悟で剣を抜くか大人しく捕まるか。何方にしも最悪の脚本だ。そんな中、私達の目を盗んで逃げだそうとする影が・・・


「アマデオ、何処に行くつもり?」


私は慌ててその腕を掴む


「お・・俺は自分が一番かわいいんだ逃がしてくれよぉ!」


本当に呆れた根性だ・・・


「呆れた・・・」


此処は覚悟を決めるしかないか・・・。息を飲み私は手を腰に伸ばすと、剣の柄に手を添える。

その次の瞬間だった・・・

幾つもの破裂音と共に煙が充満し周囲を包み込むと、(たちま)ち視界が白く染まる。

混乱した兵士の警戒する声、何かがへし折られる音とカルメンの怒声が響く。


「皆、何処?」


「・・・こっちだ!」


(もや)の中、ダリルの声が響く、幸い大して離れていなかった為か霧の中で薄っすらと小さな赤い光が見える。それと同時にソフィアとファウストさんの無事を知らせる声も聞こえた。

何が起きたかは解らないが、これは逃げる為の絶好のチャンス!

そして何時の間にやら空になった手・・・・。アマデオは私の隙をついて逃げ出していた。


「無事に出られたらテッラさんに報告ね・・・」


頭を抱えつつ、記憶を頼りに互いの服を掴み回廊を北西の方角を速足で歩く。ほぼ手探りの中、兵士と擦れ違う緊張感に肝を冷やしつつ進むと、小さな悲鳴と共に何か小さいものと衝突する。

ふと、下を見ると良く見知った姿が其処にあった。



*************************************



私達は一台の馬車に揺られ帝都の中央をゆっくりと進む。御者であり馬車の持ち主である人物は鼻歌交じりに操縦していたが、人が少ない小道に入ると共に歌は止まる。


「いやぁ~、危機一髪でしたねぇー。護身用の煙玉が役に立つ日が来るとは思いませんでしたよぉ」


「まさかライラさんが助けに来てくれるとは予想外でした。本当に助かりました・・・」


「んふっふー、例には及ばないですよぉ。大きな商談がまとまって気分が良かったので人助けをしたくなっただけですからぁ」


そう言うとライラさんは胸を張る。後ろ姿からでも彼女が自信に満ち溢れた顔をしている事が伝わるほど。商談相手はカルメンの魔法で魅了されたのか定かではないが十中八九、皇帝陛下だろう。

行きの積み荷の代わりに積まれた紋章入りの箱の隙間から金貨が数枚零れ落ちた。いったい幾らこの国の財がつぎ込まれたのやら・・・


「上機嫌の所で大変心苦しいのだが・・・中央のエリザリア治療院に急いでは貰えないだろうか?」


ファウストさんはライラさんから借りた外套の頭巾を目深に被り、真剣な声でライラに尋ねる。

カルメンの言葉がやはり気掛かりだったようだ。それはアノ発言が虚である可能性を信じたいと一縷(いちる)の望みをかけているように見えた。


「・・・事情は解りませんがー、銀行までの経路に在るのでしたら構いませんよぉ」


しかし、先程から私達を捕らえようとしていたのにも関わらず、追手が来ない事が気になる。


「ああ、銀行の少し手前だ。申し訳ないが頼めるか?」


「あいあい~。その代わり、ヴォルナネン商会をどうぞご贔屓にぃ」


ライラさんが手綱を握った所でダリルから「まった」と止が入った。


「アイツの口振からするに・・・祭殿の方へ直行すべきじゃないか?」


「・・・大丈夫だよダリル。治癒院からの祭殿への道は近いし、何か有れば大騒ぎになっているだろうから直ぐに駆けつけられるよ」


治癒院から暫く歩けば祭殿を仰ぎ見る大通りに辿り着くはず。病室を覘くだけなら然程(さほど)時間もかからない。ライラさんは溜息をつくと、「どうするんですかぁ?もうー」と困惑していた。

そんな中、ソフィアは私達の前に座ると、おずおずと片手をあげる。


「あのー、その前にフェリクスさんとケレブリエルさんに妖精を送ってみては如何でしょう?あの御二方なら何か有れば街へ調査しているでしょうし、事情にお詳しいかもしれませんよ」


「あ・・・」


あの二人に街の様子を警戒する為に残って貰っている事を、すっかり失念していた。これは不味い・・・


「「それだ!」」


私達の意見が一致した所で馬車はゆっくりと速度を落とす。ライラさんは体を(よじ)り、御者台から此方へ顔を向ける。


「ふぅ・・・決まりましたかぁ?」


「すいません、このままエリザリア治癒院までお願いします!」


妖精達は何時でもどこでも居る訳じゃないが、好奇心の強い風の妖精(エアリアル)なら、馬車の中に戯れに吹き込んだ風に混じりやって来てくれるかもしれない。



*************************************



馬車に揺られながら妖精を探し外を見張っていると城下を離れるつれ、街中が閑散としていく事に気が付いた。それに加え、木々の葉や花々と戯れる風の音も耳に入らない。

やや遠目にはエリザリア治癒院に近付いた事を示す、庶民と貴族の居住区を隔てる石のアーチが見えてくる。


「風の妖精・・・見かけませんね」


ソフィアは不安げに私達の顔を覘く。私達の意見を聞きたいと言ったところだろう。


「そうだね、着いたら他の妖精を探すって手も・・・」


そんな話をしているとアーチの手前の噴水で馬車は停車し、下車をした私達はライラさんを見送ると妖精を探しつつ歩き出す。微かに気配は感じるものの、一向に姿は現す様子はない。


「此処を潜れば直ぐそこです、急ぎましょう!」


ファウストさんは頭巾を手で抑えつつも、周囲を警戒する様にしつつも気持ちが競るのか速足で歩き出す。


「しかし・・・参ったね。状況をあの二人に聞こうにも・・・・ヒャッ!」


突如、頭上に何かが落ちたかと思うとズルズルと後頭部の毛を掴み背中に落ちて行くのを感じた。

そして聞こえる、ゼェゼェと言う荒い息遣い。背を伝う悪寒・・・


「何これ・・・!」


もがき思わず背中に手を伸ばそうとすると、ギャッと可愛げのない悲鳴と共に背中の違和感は消えた。


「果報は寝て待てってか・・・?」


ダリルの声に振り向くと、羽根を摘みあげられた風の妖精の姿が・・・

元気は無く、摘みあげられた事に対して恨み言を漏らす訳でも無く、よれよれの姿でぶら下がっている。

目が合ったかと思うと、私を顔を見た風の妖精の瞳に光が戻った。


「・・・金色の瞳。や・・やっと見付ケター!人間とエルフからデンゴンごん!」


ジタバタと小さな手足をバタつかせ必死にもがく。その姿があまりに不憫だった為、ダリルから取り上げて抱えると、歩きつつフェリクスさん達の伝言に全員で耳を傾ける。

しかし其れは弟を思う兄の希望を打ち砕く、土の祭殿への襲撃の知らせるものだった・・・







読んで頂いた皆様とブックマークをして頂いた皆様には大変感謝しております!

この章もいよいよ佳境に入ってきました、引き続き気合を入れて頑張って行く所存です。



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