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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第14話 予期せぬ遭遇

狭い小窓を潜り抜けた先は埃っぽく微かに湿った空気の漂う雑多な倉庫だった。

兵に怪しまれる事無く侵入出来た事も驚きだが、たまたま入った部屋にしては運が良すぎると言うか・・・


「ご面倒をおかけしてすみません・・・」


ソフィアはダリルの手を借りゆっくりと窓から下りる。音を出来る限りたてない様にゆっくりと降りて来るのを待ちつつ、道先案内人の様子を見ると扉に耳を当てていた。


「どうやら、人の気配は無い様だぜ」


「・・・そう、ありがとう」


私が礼を述べるとアマデオはジッと見つめ、ニヤリと此方へと不敵な笑みを浮かべた。私は何事かとアマデオのその表情を訝しみ首を捻る。


「幾ら首領の命とはいえ、何か裏があるとは思わないのか?罠かも知れないぜぇ」


私がその言葉に眉を(しか)めたのを見たのか、アマデオは更に愉快そうに嘲り笑う。だが次の瞬間、その笑顔はダリルに鷲掴みされて消え失せた。ギシギシと頭が軋む音と共に、手の隙間から苦悶の声が漏れる。


「あ・・・が・・」


「そん時はお前の頭が柘榴(ざくろ)みたいにパックりとなるだけだ・・・」


ダリルは相手が脅える様を見て口角をゆっくりと上げる。まったくどっちが悪党なのだろうか・・・


「・・・放してあげなよ」


私が呆れ気味にそう言うと、ソフィアがダリルのアマデオを掴んだ手を引っ張り、何時になく真剣な面持ちで諭す。


「そうです、こんな所で仲間割れなんていけませんよ。ダリル、あたし達はファウストさんを助けに来たのでしょう?」


ダリルは私とソフィアに板挟みにされ、苛立ち眉間に皺を寄せると、不貞腐れた表情を浮かべて乱暴に手を離す。


「チッ・・・」


「ってぇな・・・少し揶揄(からか)っただけでこれじゃ、先が思いやれるぜったく・・。羽根のじょーちゃんの言う通り先に進もうぜ。で?誰が先行する?」


アマデオは何度も両手でこめかみ周辺を摩りながら私達のキョロキョロと見回す。

私達の目線から何かを察したのか、「え、俺なの?」と口を引きつらせると、渋々と扉の取っ手に手をかけた。



***********************************



私達の出て来た北東の部屋は使用人の用具入れだったらしく、鉢合わせしそうになった時は肝を冷やされた。やはり、油断大敵だ・・・

静かな廊下に巡回の兵士の靴音が響く、帝都で聞いた噂通り女性が多いい。花や美術品等が飾られ城内を彩っていた。中でも目立つのはずらーっと並べられた御妃様が他の肖像画、どの人も美人だが気が強そう。

身を隠しつつ息を殺し歩く私達の心情とは裏腹に、アマデオは呑気に女性兵を品定めしている。


「へへへっ、別嬪ぞろいだな。あのネーチャンなんて堪んねぇなぁ・・・!」


此奴に案内を任せて大丈夫なのだろうか。一応は先陣を取って歩いてくれているが、注意散漫と言うか何と言うか・・・不安になる。


「不潔です・・・」


「あのさ・・・真面目に案内して貰えない?」


「まあまあ、キーキー言いなさんな、時間はまだあるじゃねぇか。首領の命だキチンと案内してやっからさぁ。へっへっ」


私とソフィアの反応を見ても我関さずと言った感じでヘラヘラとせせら笑う。こいつぅ・・・。

ジト目でとダリルの方を見ると面倒くさそうに眉間に皺を寄せる。


「あ?んなの放置しろほうち。調子に乗るだけだぞ?無駄に騒ぐなよ」


「んもう・・・」


その後も同じ様な事を繰り返す内に兵士だけではなく様々な役職の人々から、すれすれの所を潜り抜け進んでいく。どうやら、ダリルが言った通り心配は私達の杞憂で済みそうだ。城内を進むにつれて装飾は少なくなり無くなり、壁は次第に重厚感のある石煉瓦へと変わって行く。


「どうでぇ、俺を信じてよかっただろ?」


「・・・悪かったわ」


「あの・・・疑って申し訳ございません。ところで、後どの位でしょう?」


ソフィアさんは恐るおそる、アマデオにそう尋ね小首を捻る。其れを聞いてアマデオは耳や鼻をピクピクと、周囲を探る様に動かす。

しかし、その少し得意気な顔は何かを察知した様に緩み切った顔が険しい表情に変わる。


「如何したんだ?」


そう尋ねるや否やダリルや私達に対し、アマデオは来るなと仕草をする。フンフンと鼻を鳴らすと、首を捻り眉間に皺を寄せる。何かを嗅ぎ取ったのだろうか?


「埃と(ほこり)の臭いに次いで香水?安物じゃねぇな・・・」


しかし、私達にはその臭いは嗅ぎ取れなかった。嗅覚の鋭さに驚きつつ、アマデオに近付き柱の影から其の向こうを覗くと牢への入り口だろうか?鉄格子と頑丈そうな鉄扉の前で上品で美しい刺繍(ししゅう)が施された翡翠色のドレスを纏った獅子の半獣人の女性が傍らに護衛らしき兵士二人を控えさせ、警備兵と何やら話し込んでいる。


「あの方は?」


「第二皇妃キアーラ殿下だ。元は騎士団長だったけな・・・」


「へぇ、皇族の事に詳しいなんて意外ね・・・」


「いや、何度か騎士時代にしめられて牢にぶち込まれた事があんだよ・・・」


アマデオは思いだすものと腹立たしいと言った様子で柱の向こう側を睨む。過去に投獄経験ありで、案内までできるって一体何回捕まったのやら・・。


「何をやって捕まったのかは興味ないけど、良く生きていたわね・・・」


「ま!俺ぐらいの盗人になりゃあ当然だ!」


「シッ、声が大きい!」


自慢げに胸を張るアマデオのだったが、その背後から扇子を持った手が伸び、アマデオの喉元を捕らえる。驚愕に顔を染めつつ、相手の扇子から逃れようともがくが、身動きが取れずただ息を飲む。


「聞き覚えが有る声が聞こえると思たら、またお前ですか・・・」


「くそっ・・・墓穴掘っちまったか」


第二皇妃様は扇子をアマデオから離し口元に当てると愉快そうにほくそ笑む。周囲を見回し、私達に目を向けるとパチリと扇子を閉じ、冷たい表情を覘かせる。


「あら、今日は(ねずみ)がやけに大量発生されているのですね。狙いは何です?答えなさい、事の次第によっては兵を呼びますわよ」


万事休す・・・?下手に言い訳をしても、この時点で不法侵入な訳で牢に入れられるのは避けられない。でも、反応次第で活路が見いだせるかも。ちらりとダリルとソフィアに視線を向ける。

「正直に言った方が宜しいかと思います」とソフィアが言い、ダリルは扇子から解放され逃げ出そうとするアマデオを抑えながら頷いた。


「・・・とある人物を助けに来ました」


そう答えると、キアーラ殿下は意表を突かれたように目を丸くする。どうにも予想外だったらしい。暫くすると、口元を扇子で隠し静かに私の顔を見据える。


「その焦り様・・・夕刻に死刑に処される者を救いに来たと推測しますが、あっているかしら?」


「・・・はい、その通りです」


緊張のあまり生唾を飲みつつ、事情を話すとキアーラ殿下から想定外の反応が返って来た。


「ふふふっ、気に入ったわ。小賢しい第六がわざわざ本物と称して偉く力を入れていたから、どんな大罪人かと思えば・・・他愛もない。私自ら手を下そうと思いましたが、お前達に譲りましょう。妃達(わたくしたち)の独自の物を合わせればあの者の功績は地に落ちる決め手となる、あの方の寵愛を独占できるのも後わずかでしてよ」


第六・・・何やら嫉妬渦巻く空気が周囲を凍てつかせる。・・女性社会の世界の恐ろしい一片を垣間見た気がした。しかし、本物と称してと言う事は模造品と判明していると言う事かな?

コホンと我に返ったのか、キアーラ殿下は咳払いすると護衛兵に何かを命じた。

何やら兵士達が何かを話していたかと思うと、牢の入り口の兵士はふらふらと持ち場を離れて行く。


「え・・・?」


「あの兵士は休憩をするそうですわ。さあ、残りの看守は私の護衛のマセッティに対処させます、引き受けてくださりますわね?」


キアーラ殿下は微笑みながら私達にジリジリと圧力をかけてくる。どうやら選択肢は無いようだ。


「謹んでお受けいたします・・・」


「この私が剣を置き、全てを捧げた陛下の為。頼みましたわよ」


キアーラ殿下はドレスの裾を翻し、護衛の一人と去って行く。本当に強烈な・・・もとい情熱的な方だったな・・。



***********************************



埃に(かび)の臭いが(ようや)く私達でも解る様になった中、それと同時に冷気が漂って来る。

先導するマセッティさんの後を追い、湿り気を帯びた石の階段を松明の心許ない光を頼りに降りる。降りた先に居る看守は二人、キアーラ殿下はマセッティさんに対処させるとの事だけど・・・


「少々ここでお待ちを・・・」


マセッティさんはそう言うと素早く一人目の背後をとり手刀を頭の付け根に叩き込んだかと思うと、口元を抑えた後、何かをもう一人に叩きつけた。見る間に看守は体を力なく崩すと壁にもたれ駆け眠ってしまった。


「あの薬、何でしょう?」


「商人スキル梱包(パッキング)を使用した睡眠薬です。持続時間は長くは無いのでご注意ください。其れでは、職務に戻らせて貰います」


其れだけ言うとマセッティさんは風の様に去って行く。


「何と言うか不思議な方でしたね。護衛に睡眠薬は必要なんでしょうか?」


「さあな、それよりファウストを連れて帰ろうぜ」


ダリルは片手で逃げようとするアマデオの服を掴み歩き出す。

ズルズルと引きづりつつ牢の中を確認を続ける中、一つの独房に辿り着く。

牢の中には手足に何か魔道具の様な物を装着されたファウストの姿があった。


「これは封魔呪ですね・・・此れではゴーレムは呼べませんね」


アマデオはと言うと鍵開けをダリルに急かされている。

如何したものかと考えていると、私達の前でファウストさんが目を覚ます。


「君達・・・助けに来てくれたのか。しかし、悪いが僕は帰る事はできない」


それは拒絶の言葉だった。

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