第12話 思い掛けない協力者
茜色に染まる空の下、ザワザワと騒がしく人々の好奇心や悪意の入り混じった話し声が飛び交う。何を盗んだのか?どうやって侵入したのか?やはり、忌み子は我々と違う存在だ排除すべきだと喚き立てる声まで聞こえてくる始末。此処は迂闊な発言をすると、墓穴を掘る事になりそうだ。
「これどう言う事・・・?」
しかし、この告知が張り出されたと言う事は模造品と言う事が発覚していないのだろうか?
声を潜め皆に尋ねると、ケレブリエルさんは眉間に皺を寄せ目を細める。
「・・・確かに予想外ね。でも此れは彼が投降した時点で、刑は免れなかったでしょうけど」
「何故・・?!」
「アメリアちゃん、其れは奴さん達の沽券に関わるからさ。誤認をして罪を無実の人間に被せたとなりゃ、国民からの信用がガタ落ちだからね」
フェリクスさんはやれやれと言った感じで肩を竦めた。
「そんな・・・どっちみち刑は免れないと言う事ですね」
其の理屈の通りなら、犯人を捜してきた所でファウストさんが助かる見込みは無いに等しい。
「あの、此処は場所を変えられた方が宜しいかと思います・・・」
ソフィアは私達に向かいそう言うと、辺りを見回し苦笑いを浮かべる。周囲の訝しみの視線が何処かしらから此方へ浴びせられているのに気が付いた。
私達はその場を離れると、ティーナさん達と翌日の約束を取り付け解散し、宿へと戻るのだった。
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しかし、私達には宿に戻りゆっくりと気持ちや考えを整理する間も無く、宿屋の入り口を潜った途端に大きな声で呼び止められてしまった。
「もぉー、何処へ行っていたんですかー。アタシに町中の仲間達に聞いて回らせておいて夜まで待たせるとか酷いですよぉー!」
ライラさんは私達を見るなり頬を膨らませながら抗議の声を上げる。
「はは・・お待たせてしまってすみません。此れには色々と事情があって・・・」
流石にそのまま話すのは不味いので色々とぼやかして話し、人助けをしていて遅くなったと言う事で如何にか納得して貰った。人助けと言う部分は間違っていないし、嘘にはなっていないはず。
ライラさんに手招きされるがままにテーブルへと座り、向き合う形で座る。そのテーブルには高そうな料理の数々、景気は良かったようだ。ごくり・・・
「それでは本題に入りましょうかぁ」
ライラさんは舌ったらずな口調でゆくりと丁寧に説明をしてくれた。
其れによると先ず、高級な装飾が施された馬車が止められて居た事と貴族風の女性と獅子の半獣人の男性の密談等が挙がった。
「どんな様子だったのか情報は有りますか?」
「そうですねぇ、男性の方は病的で顔色が悪く、銀の装飾の黒い本を片手に貴族風の女性に支持を受けているような様子だったとか。残念ながら二人に気が付かれてしまい、その後の記憶は無いらしいんですよぉ。すみませぇん・・・」
ライラさんは頬杖をつき困ったような表情を浮かべ溜息をつく。
最後にあった時のファウストさんを思い浮かべるが顔色は悪くなかった様な気がする。
しかし、銀装飾の黒い本については良く解らない。ダリルの証言を合わせ推測すると、魔導書の可能性は無きしにも非ずだけど・・・
何にしても貴族風の女性が鍵を握っている気がする、未だに犯人と接触をしているのだろうか?
「いえ、大収穫でした!助かりましたありがとうございます」
ライラさんから情報を耳にして自分の記憶と照らし合わせているのだろうか?ちらりとダリルを横目で見ると、腑に落ちないような複雑な表情を浮かべていた。
「・・・なあ、その証言したヤツに会わしてくんねぇか?」
「おぉっと、其れは駄目ですよぉ。アタシの信用にもかかりますしぃ、守秘義務ってものですー」
ダリルに詰め寄られて驚くも、ライラさんは首を横に振る。恐らく、提供者自身の情報を漏らさない事が条件なんだろう。
「少し話をしたいだけだ、何もしねぇからさ!」
「だーめーでーすぅ!」
諦められない様子のダリルに対し、必死に口を噤むライラさんとの攻防戦が目の前で繰り広げられる。
「ダリル、それ以上は止めなよ。はっきり言って営業妨害だよ」
「そうだぞ、デコ助。本当はお前もうすうす感づいているんだろ?」
ダリルは私達にそう宥められると、言い出したからには引っ込みがつかないと言った様子で眉間に皺を寄せ口をへの字する。その様子にホッとしたようでライラさんは胸を撫で下ろしていた。
「それではぁ皆さん、情報も渡せましたしぃ、お暇させていただきますねぇー。またのご愛顧ぉ」
それだけ言うとライラさんは食べ終わった料理を下げさせ、チョコチョコと宿の階段を昇って行った。
黙って話を聞いていいたケレブリエルさんはテーブルに肘をつき、下顎に手を当て思案顔を浮かべている。
「気になるわね色々と。黒い本・・・何処かで見た気が」
其処で温かな料理が人数分、私達の前に運ばれてくる。緑と黄色が鮮やかなミモササラダにサモンのムニエルとオヌオングラタンスープと言う何とも食欲がそそられる組み合わせ。
「皆さん、料理も来た事ですし。考え事は明日にして、とりあえず英気を養いませんか?」
ソフィアはおずおずと料理に手をつけずにいる私達に食事をとるよう勧めて来た。窓から外を見ると、空は何時の間にか満天の星が輝いている。
「そうだね、食事にしよう。確か明日は、またたび亭に昼頃集合だったね」
別れ際にティーナさん達に明日の早々に教会に向かい、大司祭様に相談に向うと知らせを受けている。
取り敢えずはその結果次第だ。
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翌日、リエトさんの指定した『またたび亭』を探して南西の商業区を尋ねて歩く。
人伝に辿り着いた店はお客さんが来ないと言っていた言葉に納得してしまうような木造の寂れた店だ。
ゆっくりと開いた扉は錆びており、ギギギと言う軋む音と共に開き客を迎え入れる。
「こんにちはー」
私達が店の奥まで入ると、此方へ振り返った店主さんらしき老人が驚愕の表情を浮かべ目を丸くしていた。
「おや!お客さん何時の間に!何にもないけどゆっくりしていって下さいね」
店主さんはそう言うと嬉しそうにお茶の用意しだす。どうやら、少し耳が遠いいらしい。
ちらりと店内を見回すと客は私達を除くと、一人のみ。約束をした二人の姿が見えない事に不安を感じつつも、案内されるがままに席に座りお茶を飲んでいると、慌てた様子でリエトさんが店に入って来た。
「す・・すまない中々、抜け出せなくてな。巫女様は祭殿の務めで来れないそうだ」
私を含めた女子三人の向かい合わせにドカッとソファに腰を掛ける。その表情は気のせいか曇っている様に見えた。
「行き成りですみません、大司祭様からの御返事は如何でしたか?」
私がそう尋ねると、リエトさんは深い溜息をつく。やはり、中立と言う立場は崩せなかったのだろうか?
「・・・構わない。結論から言うと、大司祭様にお会いする事はできたが却下された。此方の怠慢による、立場を破棄する程の判断材料が不足が原因だ」
「チッ、マジかよ・・・」
「巫女様の御力でも駄目でしたか・・・」
ダリルとソフィアが愕然として頭を抱える中、年長組二人は想定内だったらしく「やれやれ・・」と言う顔を浮かべる。
「猶予は今日を含めて一日半、次の手を用意しなくては・・・何か手立てを考えましょう」
私がそう提案すると、リエトさんから「あー・・・」と、何故か気不味げな声が上がった。
「すまない、俺が言葉足らずだったな・・・。そのだ、代案としてある人物を紹介して貰ったんだが・・・」
代案・・・人物?冤罪のみの人間を助ける力が有る人物って、そんな力が有る人物は一人しか浮かばないけど、此処に呼び出せるような方じゃありませんよね?
「ふむ、何とお前さん達だったか・・・!」
その声に振り向くと店の片隅に居た人物が此方の席に向かって歩いて来た。その人物は私達の前で止まると、被っていた頭巾を脱いだ。
「テッラさん!?」
街中でジルドと言う、ならず者に追いかけられた時、教会の大図書館へと招き入れてくれた謎の多いい老人だ。私達は司書さんと勘違いしていたが、未だに何者かは解らない。
「あら?アメリア達の知り合い?」
私とソフィアの言動にケレブリエルさんは首を傾げる。
「ええ、一応・・・。以前、助けて貰った方なんです」
「なるほどね・・・」
簡単な自己紹介と事情をテッラさんに話すと、低い声で「ふむ・・・」と思案しながら呟いた。いったい、どんな助言が貰えるのかと構えていると急にテッラさんが立ちあがった。
「儂に付いて来い、ちと危険じゃが手っ取り早く解決できるぞい」
そう言われて案内されたのは貧民街、その中でも怪しい空気の漂うボロ屋の前でテッラさんは立ち止まった。まさか・・・
「え・・・」
「なに、そんな心配は不要じゃよ。ここ等の主である儂の申し出じゃ、必ず協力を取り付ける事ができる。大船に乗ったつもりでいなさい」
周囲の雰囲気からして不安にならないのは無理な様な気がする。大船と言うか海賊船か奴隷船に乗る心地がする様な・・・
そんな周囲の心境を察する事無く、テッラさんはボロボロの鉄扉をノックする。暫くすると気怠気な返事と共にガシャンと言う音がし扉が開き、出てきた人物と目が合う。
「なっ・・・!てめぇ、忌み子の片割れの!!」
「アマデオ・・・?!」
現れたのはファウストさん達の家を襲ったならず者のリーダー。そのアジトだった。
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