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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第11話 複雑な真実

ピチャン・・・ピチャン・・・

天上から垂れる水滴の音と私達の靴音のみが暗く湿気を帯びた薄暗い道に響く、何処からともなく漂う鼻を摘まみたくなる臭いに悩まされつつ、私達はティーナさん達に導かれるまま地下水道を歩いている。

一体どこへ行くのだろうか?


「すみません、身を隠しつつ祭殿外にでるには此処しかなかったもので・・・」


ティーナさんは私達の顔色を見て苦笑いを浮かべる。


「いっ・・いえいえ、そんな!お陰で助かりましたし!」


慌てて両手の平をかざし手を振り否定をすると、リエトさんの足が止まった。

リエトさんは(しき)りに壁をペタペタと探る様に壁を触り、「ふむ・・」と呟き頷く。


「巫女様、入り口が見つかりました」


「・・・皆さん、此処までの通路は口外されぬようお願いしますですわ」


ティーナさんは服の中に隠れていたネックレスをだすと、細い鎖の先に有る透明な石を壁に当てた。

すると、石を当てた隣の壁が一瞬で消え、まるで壁など無かった様に大きな口が開く。


擬態蜥蜴(ミミックリザード)の魔結晶ですわ。対の魔結晶と合わせると擬態能力が解除されますの」


ちなみに擬態させる方法は対象となる物に埋め込み、対になる魔結晶で魔力を注ぎながら三回叩くのだそうだ。

開いた入口の先には梯子が伸びており、安全の為にリエトさんが先行して登って行った。暫くすると遥か上の方から「大丈夫だ」と言う声が聞こえてくる。


「ほら、さっさと行けよ」


「・・・ダリルが先に登りなよ」


「何だ?遠慮か?そー言うの良いから登れよ」


私の意図に気付かずにダリルは困惑する。そんなダリルの肩をフェリクスさんはポンッと叩き首を振る。


「まあ・・・・解らなくもないが露骨すぎるだろ。そんなに()()()のか?」


フェリクスさんの言葉の意味が解らず首を捻り眉間に皺を寄せるが、暫くすると意味に気付いた様で顔色が一気に変わった。


「ばっ!馬鹿!ちげーよ!俺は安全面をだなっ!」


「ダリルさん・・・」


そんなやり取りをしているのを見てソフィアさんとティーナさんの冷たい視線がダリルを貫く。


「それならタレ目野郎も解るとか言ってるぞ!」


あ、フェリクスさんを巻き込んだ。


「どっちもどっちよ、早く登らないと二人とも・・・切り刻むわよ」


凄みの有るケレブリエルさんの声に二人は震えあがると慌てて梯子(はしご)を登る。

私達が梯子を登り終えると、其処は古びた木の小屋の中だった。



************************************



小屋の中は斧や木材と木こりの山小屋と言った雰囲気だ。

やや(ほこり)っぽいが度々利用されているらしく、入口から隠れる様に椅子と小さなテーブルが備え付けられている。私とケレブリエルさんがティーナさん達と向かい合い、他は思いおもいの場所に腰を掛ける事にした。ティーナさんは一呼吸をすると、「お茶の一つでも用意できずにすみません」と前置きした後、真剣な面持ちで語りだす。


「まず最初に、何も告げていないにも拘らず御足労頂き感謝しております。真に勝手な事ですが、(わたくし)側と見做(みな)し、皆様に我が祭殿の兵士ファウスト・モランドの救出にご協力をお願いしたくお招きさせて頂きました」


「私側とは?」


「失礼致しました、まだお話をして居ませんでしたね。クレメンテ大祭司はファウストを生贄に事態を治めようと決断されました。間諜をしていた罪を許す代償とし、常闇の魔導書(グリモワール)の模造品を持ち罪を被る事を求めたのです。私を始め彼を良く知る同志達は、その考えについて行けず対立をする形をとったのですわ」


内部対立に冤罪。確かに彼は大罪を犯した、しかしその代償はあまりにも大きすぎる。

国で厳重に保存された筈のものを盗んだとなれば、偽物とばれたとしても、虚偽の罪で無事では済まないかもしれないのに・・・


「なるほど、それがあの人の()()方法だったんですね」


「国と祭殿、勢力の差は歴然ね。真面に戦ったら勝ち目がないから最小限の犠牲で治めようと言うあたりかしら?胸糞悪いわね・・・」


ケレブリエルさんは嫌悪感を露わにし、眉間に皺を寄せる。


「ええ、実に気分の悪くなる話ですね。しかし、その・・・万が一ですが、本物を探す為の時間稼ぎの為に囮にしたとも考えられませんか・?」


ソフィアさんのその意見にティーナさんは頭を横に振る。リエトさんは何か思案するような表情を浮かべると、「ふむ・・・」と言い腕を組む。


「俺の見る限り、兵がその様な目的で動いた記録は無かった。その可能性は低いだろう」


「そうですか・・・」


リエトさんの意見にソフィアはションボリと耳と肩を降ろす。

事実、どれが正解とは言えないのが現状だ。ティーナさん達はこの危機をどう対処するつもりなのだろうか?


「知っている限りで構わないが、常闇の魔導書とはどう言ったものなんだ?」


フェリクスさんは座っていた木箱から立ち上がると片手をテーブルにつき、ティーナさん達の顔を見回す。


「常闇の魔導書は邪なる神の力が呪文が封じられた本の一つ、読んだ者の精神を蝕み正気を奪い大いなる主の下僕に変えると言う文献を読んだ事がある。しかし、厳重に封じられている筈の物がどうやって城から持ち出された経緯までは解らないな」


精神を蝕み下僕に変える魔導書。厳重に管理されている筈の其れを持ち出せるとしたら、内部の者以外の可能性は低い。嫌が負うにも、噂からして例の第六の御妃様の想像図がカルメンに益々見えて来る。


「・・・なるほどな。そう言う物なら、やはり模造品など通用しないだろうね・・・」


「つまり、猶予は無いと言う事ですよね。・・・ティーナさん達は如何動かれるつもりですか?」


「聖ウァル教会のグリマルディ大司教なら皇帝陛下に進言できる筈、私達はファウストが刑を免れるよう皇帝陛下に働きかけて貰おうと考えています。そして、その間に魔導書を探しをお願いできないかと・・・」


「つまり、協力ってのは俺達に真犯人を捕まえてほしいって事かよ・・・」


黙って壁にもたれ掛かっていたダリルだが、ティーナさん達を見て複雑な表情を浮かべている。

やはり潔白だと証明されていない為か、ダリルはファウストさんを助ける事には乗り気じゃ無い様だ。


「今回の事は国と祭殿だけではなく、私達の此処へ来た目的とも繋がると思う」


「アメリアはこの依頼を受けるつもりなのですね。・・・あたしも協力させてください!」


ソフィアさんのこの一言を皮切りにケレブリエルさん達の承諾を得られる事ができたが・・・


「うっせぇな、目的の為になるって言うなら協力してやるよ・・・」


こうやって私達はティーナさん達と協力関係を結び、一方は有力者への助力を求め、私達は都に潜む真犯人の行方を探し情報を集める事となった。

とは言っても現状は、現場巡りとライラさんに依頼した情報が頼りだけどね。


「ご協力感謝いたします。私達で出来る事が有ればお力添えしますわ」


「ええ、宜しくお願いします!情報交換も必要だと思いますが、集合場所を決めませんか?」


それを聞いてリエトさんは「そうだな・・・」と呟き暫し考え込むように唸ると、何か思いだしたらしく顔を上げる。


「そうだな、南西の商業区に〝またたび亭〟と言うぼろ食堂にしよう。祭殿から離れている上に客が来ないから話しやすいだろう」


「なるほど、解りました。あの、それと質問を宜しいでしょうか?」


「ええ、構いませんよ」


ティーナさんは微笑みながら私の唐突な質問に首を傾げた。


「今更なんですけど・・・小屋(ここ)って帝都のどの辺りなんでしょうか?」


「ほ・・北東の外壁の外の森ですわ。・・・では、街中までご案内しますね」



************************************



それから、再び私達はリエトさんの案内で下水道を通り商業街の裏路地へと抜けでた。

薄暗い路地を抜け表通りに出ると暗所に慣れた目が夕日に眩む中、ザワザワと人々の騒めき声が耳に入る。

何事かと目を慣らし辺りを見回すと、広場の中央の掲示板の前に人だかりができているのが目に映った。


「何て事なの・・・・」


其処に書かれていたのは・・・

『不法侵入及び窃盗の罪により、罪人ファウスト・モランドを明後日の夕方、死刑に処す』

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