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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第 9話 疑念と冤罪

傀儡(くぐつ)の狂人と化した女兵士の剣が日の光を反射し怪しく光る。振り下ろされた剣は必死に抵抗しようとする地の巫女の頭上に振り上げられた。


「【跳梁足】!」


ダリルは私達の間を舞う様に跳ねると兵士の懐に素早く飛び込み拳を振り上げ鳩尾を打ち吹き飛ばし意識を刈り取る。

私達は地の巫女の許へと駆け寄り無事を確認し、祭殿の護衛兵達に引き渡し改めて惨状を確認する。凶刃に倒れたのは様々な種族の女剣士ばかり数名。


(わたくし)は地の巫女ティーナ・メルカダンテ。危ない所をお救い頂き心より感謝します」


地の巫女は名乗ると、私達に深々と頭を下げる。ファウストさんを始めとした護衛兵の面々も其れに続く。


「・・・気にするな偶然居合わせただけだ」


ダリルは少しだけ口角を上げて応えるが、ファウストさんが近づいてきた途端に眉間に皺を寄せ目を逸らす。ファウストさんはそれを見て不思議そうな顔をすると、苦笑いをしつつ私達の方を向いた。


「君達にも巫女様にも本当に申し訳ない・・・。これは本来なら僕達の役目だ」


「いえいえ、そんな・・・頭を上げてください。私達は偶然、見かけただけですし」


実は様子を窺っていましたー何て言えないな。

ちらりと助けた張本人をみると仏頂面をし、無言で私を睨んでいる。警戒ぐらいしろってところか。

残された死体は荷車に乗せられ布を被せられる。せめて家族の許へと荷車は兵舎へと向かう。

操られていた女兵士は意識を失い地面に横たわっている。武装解除し拘束した後、ソフィアさんとティーナさんで治療に当たっていた。


「どうにか、命は助かったようです・・。しかし、この様な事態に陥った以上、人を集め対策を練らなくては・・・」


ティーナさんはそう言うと、祭殿の兵士に事の顛末を上層部へ伝えるよう指示を出す。そんな中、女兵士を見張っていると意識が戻ったのか、ゆっくりと瞼が開く。


「くっ・・!貴様ら私を拘束してどうする。人質にでも取ったつもりか!」


女兵士は先程までの事を憶えがない様子で取り乱し喚く。その直後、拘束していたロープがブチッと言う音と共に解けて行く。私達と距離を置き構えるその左手にはナイフが握られていた。


「隠し持っていたのか・・・。オレ達には人質に取る意思はない、君に聞きたい事が有るだけなんだ」


フェリクスさんは相手を落ち着かせようと優しく語り掛けるが、一瞬だけ動揺が見られたが通用せず、より警戒を深めるだけだった。


「ふざけるなっ・・・!()()()の命は今、皇帝陛下の命に等しい!あ・・・いや、ちが・・・私はあの女狐など・・・うぐっ・・・ああ!」


女兵士は突如、苦しみ胸を片手で掻き(むし)り体を痙攣させ動きを止める。再び動くと上半身を起こし、片手に握るナイフを喉元に向ける。


「いけない!自害をする気だわ・・・!」


やはり、術者はまだ近くに居る!?

慌てて駆け出す私達より早く、女兵士の足元に緑色の光を放つ魔法陣が現れ、其処から蝶の様な何かが螺旋(らせん)を描き出す。


「芽吹きを促す緑の精よ 我が呼びかけに従い 彼の者を捕縛せよ【囚われの茨姫(エピメディウム)】」


涼やかな声と共に、魔法陣から何本もの(つる)が伸び、兵士の体を絡めとる。其れは対象の動きを止めるばかりでは無く何かを吸い上げる様に脈打ち、薄紫色の花が鈴なりに咲き乱れる。

花が(ほころ)び蔓が消えるのと同時に、捕らわれていた女兵士は地面に転がり力なく再び横たわった。


「なっ・・・死?」


何が起きたのか解らず私達が困惑している(かたわら)に再び魔法陣と複数の光る蝶が現れ、渦を巻き消えると一人の人物が姿を現す。

風で舞う枯草色の外套と目元を覆う仮面には覚えがある。水の祭殿で相見えた妖精の盾だ。


「・・・・案ずるな、傀儡(くぐつ)の糸を切ってやっただけだ。今頃、術を強引に断ち切られた反動が術者に返っている事だろう」


私達の顔を見回しそう呟くと何かに気付いたらしく、此方が呆気に取られている間に跳躍すると屋根を渡り風のように去って行ってしまった。


「チッ・・・何なんだアイツ・・!言いたい事言って消えやがった」


私達と共通の目的を持つようだが、突拍子なく掴めない相手だ。兵士が操られていたと言う事を知っていた事といい、危機の迫った瞬間に現れた事から静観しつつも此方を見張っていたのだろう。

倒れた女兵士の胸に耳を当てると、確かな鼓動が此方に伝わってきた。


「良かった・・・生きてる」


そんな中、再び祭殿の方が騒がしくなる。どうやら、報告を受けた誰かが駆けつけて来たらしい。

あの姿は大祭司様だろうか?縦長の帽子に丈長の白い装束には独自の刺繍が施されている。


「再三、無実を訴えてきたにも関わらず、何故この様な事態に・・・。闇の術者どころか祭殿は魔導書(グリモワール)なぞ所持してはいないと言うのに。儂は皇帝陛下に書状を送る、何としても冤罪を晴らさなくては」


その言葉を皮切りに一気に慌ただしくなる、今後に備えた話し合いと防備にと様々な命が祭殿中に行き渡る。女兵士が残したあの方と女狐と言う単語、其れは己の中の仮説に結びつく予感を抱かせた。



*************************************



私達は女兵士を治癒院へと運ぶファウストさん達に同行させて貰っている。

場所は近くに在る祭殿の息がかかった治癒院、ルーベルト治癒院からふと通りを眺めると遠くにエミリオさんが療養する治癒院が小さく見えた。なるほど、何時でも駆けつけられるようにあの治癒院を選んだんだね。暫くすると、女兵士を治癒院に預けたファウストさんが出て来た。


「どうやら魔術による精神への干渉が強く、正常な意識を取り戻すのには時間を要するらしい。一応、護衛として同行していた二人に就いて貰う事にした」


そう言うとファウストさんは額に手を当て溜息をついた。


「そうですか・・」


冤罪を示すものは魔導書の不所持と言う事実。祭殿側が闇の魔術師を操っているのだと言う国側の思い込みは強く、あの様子では調べさせた所で通じるかどうかと言う感じだ。


「しかし、突然現れたあの男は何者だ?まるで術者の居場所を察知しているような様子だったが・・・」


ファウストさんが言っているのは妖精の盾の事だろうか。あの立ち去り方は確かにその通りかもしれない。ルーベルト治癒院から中央の城の方へと視線を向けると、此方へ真直ぐ歩いてくる祭殿の装束を着た豹の獣人の男性が目に入る。


「・・・・ファウスト」


静かにボソリと呟いた男性は私達を無視し、ファウストさんを呼び寄せる。


「リエト・・・。君に聞いて伝えて置きたい事が有る」


そう言うとファウストさんは私達に申し訳なさそうに会釈する、リエトと呼ばれた男性の許に歩みより、神妙な面持ちで話し合いだした。思いだした、帝都に向かう道中でファウストさんと一緒に助けてくれた人だ。見ていると突然、ファウストさんの顔が急激に青褪め、血相を変えて走り出した。


「・・っ!エミリオ!」


何が起きたのか解らず其れを目で追うと、リエトさんは呆れた様な表情を浮かべる。


「・・・知り合いか?」


「えっ、ええまあ・・・」


「そうか・・・なら、アイツに付き添ってくれ」


それだけ呟くように言うと、リエトさんは私達の横を通り過ぎ祭殿の方へと歩いて行く。

確かにあの様子は唯事とは思えない。

皆でエミリオさんが療養する治癒院に到着する、よく見ると其処の横道はファウストさんに助けられた裏路地に通じる道だった。意外と近いのね・・・


「エリザリア治癒院か・・・」


中に入り、エミリオさんの部屋を覗くと本人は居らず、ベッドの傍らには黒い皮で出来た銀の蛇の装飾が施された古びた分厚い本が置かれている。


「・・・・何か気味の悪い本ね」


ケレブリエルさんは眉を(ひそ)め、廊下へと出て行った。それから間もなくして、ファウストさんと魔法医らしき人物の話し声が聞こえてくる。

慌てて部屋を出ると、担架に乗せられたエミリオさんが運ばれベッドに寝かされる。ファウストさんは暫く話し込んだ後、気落ちした様子で出て来た。

私達を見て驚き目を丸くするが、訳を話すと治癒院の庭へと移動しようと言う話になった。



***********************************



「なるほど、つまりは脱走した先で発作を起こしたと・・・」


フェリクスさんがそう言うとファウストさんは其れに頷く。


「発見されたのは此処の近くだったのが幸いだ。ただ、何者かに襲われた形跡が有るらしい・・」


ファウストさんは不安げにエミリオさんの病室の方を仰ぎ見る。

暫しの沈黙の後、辺りを見回し黙り込んでいたダリルがファウストさんに詰め寄り胸倉を掴む。


「・・・お前はあの路地裏で国の連中と何を話していた?!密通でもしてるんだろ」


「何なんだ君は、この手を離してくれ!」


「とぼけるな・・・。女兵士達が祭殿に来た時、お前だけは様子が可笑しかった。違ければ動揺したり巫女を守るのに躊躇(ちゅうちょ)しないよな?」


ファウストさんはダリルの乱暴な詰問を受け、みるみる顔は強張り唇を噛みしめる。


「し・・・仕方ないだろ!弟の病気を治療できるのは此処だけなんだ!しかし金が・・・」


感情的になり溢れ出した言葉はダリルの言葉を肯定する物だった。

そうか、ダリルはただ睨んでいた訳じゃ無くてファウストさんを監視していたのね・・・


「だからと言って口止めなんか・・・!」


「ダリル・・・事実か確認してからにしましょ」


ダリルは私に掴んだままの襟から手を離され、グッと何かを飲み込む様に引き下がる。

周りの視線を警戒し辺りを見回すと、何時の間にかフェリクスさんとソフィアの姿が無かった。何処に行ったのだろう?


「ありがとう・・・。此処まで来たら全て話すよ」


交渉相手はファムと言う女性で、病を治療する手立てが無く困り果てていた所、内部の情報を基に祭殿を手に入れる協力を求められたらしい。あくまで()()()()()()の為に。ダリルの事について尋ねるが、一切覚えが無いとの事だった。


「それで、弱みに付け込まれて協力したが予想外の展開に動揺してしまったと・・・」


ケレブリエルさんは口元に手を当て思案顔を浮かべる。


「でも、エミリオさんの治療が出来るのは此処だけって本当なのでしょうか?」


私の見る限り、ルーベルトもエリザリアも治癒院として同等の規模に見えた。


「それはファムさんが・・・・あれ・・・何でだ」


ファウストさんは私の言葉に目を見開いた後、困惑の表情を浮かべ動揺する。やはり、何か裏に有りそうだ・・・。その時、慌てて此方へ駆けてくる音がして振り向くと、フェリクスさんとソフィアの姿が見えた。


「エミリオさんが意識を取り戻したそうでーす」


ソフィアの言葉を聞いて、ファウストさんは我を取り戻し振り向く。何かを決意したかのように拳を握ると此方へ体を向ける。


「弟と祭殿にもこの事を話そうと思う。今後の為にも弟と二人で考え直すつもりだ」


そう告げると、ファウストさんは治癒院へと歩いて行く。ダリルの事と言い、色々と未解決な所は有るのが心残りだが今は見送る事にしよう。

「・・・納得いかねぇな」と不満げに呟くダリル。空はすっかり茜色に染まっていた為、宿に戻り眠りにつく事にした。

次の日の朝、祭殿が気になり向かう最中でリエトさんと衝突する。酷く動揺する様子に尋ねると、衝撃的な言葉を聞かされる。


「ファウストが連れて行かれた!」


今回も此処まで読んで頂き真にありがとうございます。

またまた、長文になってしまい大変申し訳ございませんでした。

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