第 7話 双子ージェミニー
※すいません、今回はかなりの長文となっております。
ダリルと別れた後、教会に戻ると自身に向けられる周りからの視線が著しく変わっていた。
何か羨望の様な崇める様な複雑な視線が刺さる。
「悪いな、此れはシスターセラートだと思う。あの方は昔からお喋りだからな」
「え?」
「金の瞳は我らが主に仕えし精霊王に選ばれし剣、そして尊き存在の証。信徒達の憧れそのものだ」
「それは、私の事が教会の皆さんに知れ渡っている?」
理由は判ったけれど何か気恥ずかしい。ソフィアさんを横目で見るとウンウンと頷いている。
「でも教会よ?心配ないじゃない。まあ、誰かさんも別の意味で目立っているけれどね」
ケレブリエルさんの視線を追うと、フェリクスさんは女の子を見つけては目を輝かせ日課に勤しんでいる。神聖な場所で何をやっているのやら・・・
通り掛かりに紹介されたのは騎士団の訓練所。騎士団とは言っても宗教上、剣を持つ事は許されず専ら武器は鈍器や僧兵独自の拳を使った格闘術らしい。
帝国一の教会と謳われる大聖堂はお祈りの時間と被り断念し、再び大図書館へと足を運んだ。
「あの、調べ物をさせて貰っても宜しいですか?」
「ああ、構わない。大図書館は正式な方法でなら、身分問わず広く公開されているからな」
「・・あははっ」
クローエさんとレオニダの件についての報告と代理手続きがあるソフィアさんと別れ、静かな足音と本を捲る音のみが響く室内に入ると本物の司書さんに案内で片隅で本を読ませて貰う事になった。
「それで、これが創世の書ね・・・ふむ」
ケレブリエルさんは私の差し出した本をパラパラと捲る。
「辞書を持ってきましょうか?」
「いえ、我が家の書架には多言語の本も多々あるし心配ないわ」
「すいませんお願いします・・・!」
ケレブリエルさんから全てを訳するには時間が掛ると言われ、取り敢えずは私の訳した部分のみ情報のすり合わせをする事にした。
「そうね・・・アメリアが訳したのは序盤の部分ね。ほぼ間違いないのだけれど、抜けている所と言えばここら辺ね」
世界の誕生は凡そ十万年以上前、海と生命を妹神ウァルミナスが大地と空を兄神カーリマンが創造したとされ、二柱の間に入った亀裂は争いを好む兄神が弱者を淘汰する事を妹神に提案した事が原因とされているらしい。
劣勢に陥った妹神だったが、妖精王オベロンと女王ティターニアの助力を得た後、あの呪いの様な言葉と共に百年続いた戦争はあの結末を迎えたそうだ。
「やはり所々、穴が有りましたね・・・」
「ええ、まあ其の続きは一柱が欠けて崩壊しかけた世界を妖精王と女王が補う事になったって所からなのだけど・・・」
ケレブリエルさんが続きを読もうとしたことろ、外が騒がしくなるのに気が付いた。
入口の扉の前では司書さんが誰かと神妙な面持ちで話をしている。何故か妙な胸騒ぎがした。
「・・・・ケレブリエルさん」
「その様子じゃ、続きは続きはまた今度になりそうね・・・。更に詳しく調べる為に資料を借りるから先に行っていて貰える?」
呆れた様子のケレブリエルさんに背中を押され、私は静かに席を立った。
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そして今、私はフェリクスさんとソフィアさんを連れて教会の門の前に居る。外の騒めく声が静まり、怪我をした孤児らしき子供達が次々と教会へと運ばれて行く。
「すいません、何があったんですか?」
慌ただしく行き交う白魔導士さん達の中にシスターセラートをみつけたので話しかけると彼女は一瞬、ギクリと肩を震わせ気まずげに口角をゆっくりと上げた。
「近くの通りの裏路地で騒動が起きたらしいのですが、何が起きたかは不明らしいのです。幸い運ばれた子供達は通りすがりの者に助けられ軽傷のようなのですが・・・」
愁いの表情を浮かべるシスターと門を見やると、慌ただしい足音と共に担架が運ばれてくる。
「ダリル!」
「デコ助!」
予想外の人物に驚き声を上げる私とフェリクスさん、ソフィアさんは顔を青褪めさせ口元を抑え震えている。後から来たケレブリエルさんはそんな様子を見ると、静かに息を飲み「ともかく様子を見に行きましょう」と言うと白魔導士さん達の後を追う様に私達を促し速足で歩き出した。
治療室へ向かうと私達を見付けたクローエさんが駆けつけ外に出ると、扉を閉めて手の平を前に突き出す、どうやら関係者以外は立ち入りは不可能のようだ。
「あの少年は確か、貴女達の仲間だったな?」
「はい、間違いありません。ダリルです!」
「何者に襲われたかは不明だが、孤児達を庇って大怪我をおったようだ。頻りにうわ言の様に〝騙された〟と呟いていたらしいわ。まあ、命には別状はないから任せて」
「騙された・・・?」
皆で顔を合わせて頷く、命に別状が無いにしても放って置く訳にはいかない。
私達は場所だけを周囲から聞き出すと、足早に街を駆け抜けた。
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辿り着いたのは華やかな表通りとは対照的な陰鬱な裏通り。所々に散る塵とひび割れ砕けた石煉瓦に混じり、建物合間に刺し込む茜色の光の中でも目立つ赤褐色の生々しい痕跡が点在している。
「魔法の痕跡無し・・・地面が抉れている所から察するに大槌か?」
フェリクスさんはマジマジと地面を見つめ呟く。
「それにしても、アメリアって行動力があるのね」
「あっ!あたしもそう思いました。アメリアさん、もしかして・・・」
「・・・仲間が襲われたら犯人を捜すのは当然でしょ?」
私がそう答えると、ケレブリエルさんとソフィアさんは溜息をつき、フェリクスさんにいたっては肩を何故かすくめる。突然、如何したのだろう?
「やぁっと見付けたぞ!人の子分をあんな目に遭わせておいて逃げようだなんて思ったらあめぇんだよ!片割れ野郎も居るんだろ?さっさと出せよコラァッ!」
突然かけられた激しい罵倒に全員が声のする方を向く。エミリオさん達の家に押しかけた小悪党、アマデオとジルドが立っていた。歯をギリッと軋ませ、かなり余裕のない様子で近くの塵を蹴り上げる。
しかし気性の荒い奴等とはいえ、ダリルがこいつ等に負けるとは考えづらい。
「まったく、誰だか知らないけど何だか穏やかじゃないね・・・」
フェリクスさんは私達の前に出ると、剣をゆっくりと鞘から抜く。
「お・・・脅し何てつ・・つつ通用しねぇぞ!」
ジルドが大声で虚勢を張るのと同時に地面が揺れ、何かが近付いてくる。天変地異って訳でもなさそうだ。音が止むと同時に建物の影からゴーレムがゆらりと姿を現す。
「大地に宿りし精霊よ 盟約に基づき 怒れる大地を呼び覚ませ 【憤怒の拳】!」
教会前でも聞いたその声に応えるかのように、ゴーレムの両腕が徐々に周囲の土と崩れた石煉瓦を巻き込み肥大化すると、空を切りアマデオ達に振り下ろされる。
二人は声を発する間も無く枯葉の様に転がると、近くの木箱へと半身を減り込ませる。
ゴーレムがすっかり元の状態へ戻る頃、ファウストさんが建物の影から姿を現した。
「大丈夫ですか?!って・・・え?」
「あ・・・!」
思わぬ再会に互いに目を丸くする。その背後ではゴーレムまで驚きの体勢をとっていた。
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アマデオ達を私達で憲兵に突き出した後、ファウストさんと事情や先日の事を含めて話しをしていく内に共にエミリオさんが療養する治療院へと仲間を紹介しつつ、お見舞いに行く事となった。
「なるほど・・・身寄りのない子供を庇って。お金や身分がはっきりしない者は教会へと運ばれる事になっているんだ。大丈夫だ心配は無い」
「ありがとうございます。何としても犯人は私達で捕まえますよ!」
情けない事に何にも手掛かりを手に入れられなかったんだけどね・・・!
次第に見覚えの有る立派な建物が目につく、富裕層の住む地域との境に治療院は在った。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが宜しいでしょうか?」
ソフィアさんは恐縮しつつ、ファウストさんに尋ねる。
「どうぞ?」
「エミリオさんは何の御病気に罹られているのですか?」
ファウストさんは少し思案したすると自分の胸の辺りを指さす。
「・・・『魔核結合症』。心臓と魔核が結合して心臓の動きを阻害する病気だ」
「・・・それでは魔力変換も問題ね、魔力を媒体へと送る際の障害になるわね」
ケレブリエルさんとファウストさんの話から気づいたらしく、ソフィアさんは青褪めながらワナワナと肩を震わせた。つまり、あの時倒れたのは魔法の使用による心臓への負担が原因・・・
罪悪感に苛まれていると、今まで無関心の様だったフェリクスさんが私達の肩を叩く。
「兎も角、中に入ろうか。彼の弟の負担にならない様に手短にね」
「ああ、僕もそのつもりだ」
治療院の中では街程ではないが擦れ違う人々の視線は何処か冷たく、案内を受けエミリオの部屋に辿り着くと、体を起こし読書に耽るエミリオさんの姿が目に入る。
部屋に入ると妙な空気が漂っており、訝しみながら部屋に入るとエミリオさんは私達に気が付き、慌てて本を布団へと隠した。
「・・・ありがとう、お見舞いに来てくれたんだね」
「ああ、お前に言っておきたい事があってな。何故、病院を抜け出した」
え?外出許可が出たと言うのは嘘だった?聞きたい事が有るとは言ってたけれど・・・
場を弁えている様子だった二人だったが、次第に雰囲気は険悪な物になってくる。
「如何しても・・・・どうしても兄さんに聞いておきたかったんだ。土の精霊王様を裏切る行為を行っていると言うのは本当なのかい?」
「え?・・・何を言って・・・?」
全く覚えが無い様子のファウストさんに、苛立ったのかエミリオさんの語気が荒くなる。
その怒りによる興奮が高まるにつれ、琥珀の瞳に紫の光が宿り出した。
「ある女性が教えてくれたんだ・・・兄さんが祭殿の・・・うっ」
エミリオさんは胸を手で抑え体を抱え込む。
「発作か?兎も角、医者を呼んでくる!」
呆然とするファウストさんを押しのけ、フェリクスさんが病室を後にする。
その後、如何にかこうにかエミリオさんの発作は治まった。
大事をとって暫くファウストさんが付き添う事となり、何度も感謝の言葉を述べられた。
教会へと戻ると、落ち着く間も無く私達はダリルの意識が戻ったと知らされ、ベッドに寝かされた姿で再会する事となった。
今日の出来事をダリルに話した所で激しくベッドに拳が振り下ろされる。その直後、ダリルの口から信じられない言葉が発せられる。
「あんな奴となれ合ってんじゃねぇ!俺を襲ったのはファウストだ!」
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