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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第 5話 書架の主

庭に引きずり込まれた後、道なりを進むようにと言われ美しく手入れの行き届いた庭を訳も分からず私達は歩いていた。見上げた空には白い石造りの塔、その頂上には古びた金の大鐘。

そして、見えて来た扉は女神と各精霊の象徴ととれる紋章のレリーフで縁取られている。教会の一部と言う事は間違いないだろう。しかし、教会の何処に連れられたのだろうか?

困惑する私の背後からゆったりとした足音が響く。

振り向く私達の後ろから歩いてきたのは犬の半獣人の老人。口と顎にたっぷりと蓄えた髭を撫でながら、私達を見てやれやれと言った様子で小さく溜息をついた。


「お主らあの若造の仲間に何をしたんじゃ?仲間の意識が戻らないだの、片割れを呼び出せだのいき喚いておったが・・・何が起きたんじゃ?」


「それは・・・」


「ええ・・と」


事情を話す訳にも行かずに口籠ると老人は私達を凝視し、「ふむ・・・」と静かに呟いた。


「では、言い方を変えよう。ファウストとエミリオ兄弟が何かしでかしたか?」


「・・・・!」


「な・・・?!」


私は動揺し、ソフィアさんとほぼ同時に口を押えてしまった。その様子にしてやったりと言った笑みを老人は浮かべる。悔しいけれど此れはどうやらカマをかけられたみたい。

テッラさんは扉の前まで歩き開錠すると金属製の取っ手握り扉を開け手招きをした。


「ほほっ、片割れと言う事は対になる者が存在する可能性が高い。そして、ただの兄弟姉妹となれば片割れと言う表現より兄姉か弟妹で呼ぶはず。儂もあの兄弟の事は良く知っておる。ささ、こんな所でなんじゃ、中へ案内しよう・・・」


「・・・はい」


どうして、テッラさんはエミリオさん達の話を聞きたいのだろう?疑問を頭に抱えつつ、導かれるままに私達は扉を潜った。



**************************************



招かれたのは自国の学び舎の物より更に大きな書架で何層も埋め尽くされた大図書館。恐るおそる入ると、本の香りが漂うその空間の中央に有るテーブルへと案内された。

それにしても偶然とはいえ、目的地である教会の大図書館に来る事になるなんて・・・


「話を聞かせて貰うからには茶の一つも出したい所じゃが、本の管理の関係で水は厳禁なのでな。それと儂の名はテッラじゃ。此処の主みたいなものじゃな」


「いえいえ、お構いなく。私はアメリアと言います、そして此方は・・・」


「ソフィアと申します。こんな形で憧れの知識の宝物庫であるベアストマン大図書館を訪れる事が出来るなんて、何と言う僥倖(ぎょうこう)でしょうでしょうか」


何を聞かれるのか構えている私とは裏腹に、ソフィアさんはうっとりと壁部敷き詰められた書架を眺めている。知識の宝物庫?!そんな大層な所とは・・・

その主となると、テッラさんは司書長さんかと言ったところか。


「ほっほー、それはそれは案内出来て光栄じゃな。さて、本題じゃが・・・」


「・・・何故、二人の事を聞きたいんですか?」


私がそう尋ねるとテッラさんは難しい顔をし、何かを思い出すかのように思案すると、ゆっくりと口を開いた。


「許しなく話すのは(はばか)られるのじゃが・・・実はのう、あの子達の母親は独り身で在りながら二人を産んだ後、周りの影響で精神を病んで命を絶ったのじゃ。それから、教会に引き取られたが此処でも特異な存在としていた彼らを儂が面倒を見てきた。儂にとって孫の様な存在、未だに消えぬ差別に耐えて暮らすあの子達が心配なのでな」


そう言って眉尻を下げ優しげな表情を浮かべるテッラさんの瞳は優しく悪意は感じられない。

少し慎重になり過ぎたのかもしれないな。


「まあ・・・。アメリアさん、お話をしても宜しいのでは?」


「・・・そうですね」


私達がモランド兄弟の内で起きた事のあらましをテッラさんに伝えると、テッラさんは眉を寄せ深い(しわ)を眉間に刻み付ける。


「神が双子に生まれ変わるなど眉唾じゃよ。未だに世界に根付き、密やかに罪が無い命が断たれていると噂が伝え聞いているが、これは失くすべき古くから残る悪質な因習じゃ。事実、闇は魔族の血を引き継ぐ者に多いだけであって、他の種族にも稀だが発現する者もおる」


闇は魔族だけのものじゃ無い?それは、今までの自分の常識が覆される様な驚きだった。

しかし、其れを秘匿してまで双子を善神と邪神の生まれ変わりと扱うの何故だろう?


「驚かれましたが、其れを聞いて二人の助けになりたいと思いました」


「ふむふむ、あの子達の理解者が増えてよかったわい。縁起でもないが、この都に居る間だけでも何か遭ったら二人を頼むよ」


テッラさんは頷く私達を見て満足気な顔を浮かべる。

しかし、ソフィアさんも何か思うところが有るようで、暫し思案した後にゆっくりと口を開いた。


「あの・・・エミリオさんは闇魔法を使用しましたが、たしか闇の魔法書って確か国家指定禁書でしたよね?」


「おや、お嬢さんは物知りじゃのう。そのうえ混血の者との間で闇魔法に関する制約も結ばれておる筈じゃ」


それだけ厳重に管理されているのなら尚更、闇魔法の出所が気になる。


「つまりは制約が破られ、エミリオさんに教えた人物がいる?」


「・・・ふむ。中々、聡いと言いたいが、確証がない以上は軽率に口にすべきではないな」


しかし、これを有耶無耶(うやむや)にするのも納得できない。此処は乗り掛かった舟、謎を解くには自由に動ける私達が適任だろう。

そう思ったのも、帝都に着く前に聞いたライラさんの情報に奴の影がチラついたからだ。

私の独断って言うのは気が引けるけど・・・


「そうですね・・・ではその件、私達で調べさせて貰って良いですか?」


私の言葉にソフィアさんとテッラさんは驚き目を丸くする、二人は短く笑うと私の顔を見た。


「それは助けになりたいと言ったお主の自由じゃ止はせん。だが見た所、冒険者の様じゃが大丈夫かね?」



「ええ、大丈夫です。この帝都には用が有って色々と回る予定なんです」


そう答える私にソフィアさんは「此れは皆さんにも相談しないといけませんね」と(ささや)く。


「この図書館もあたし達の目的地の一つだったんですよ」


「ふむ、差支えが無ければ図書館(ここ)に何を調べに来たのか教えて貰えないかね?」


「そうですね・・・女神様と創世記についてって処ですね」


「ふむ・・・」


そう呟くとテッラさんは私の瞳をジッと見つめて来た。


「あの・・・」


私が困惑していると、テッラさんは思案するように瞼を軽く伏せる。


「そうじゃな、此処ならその手の知識は手に入るじゃろう。自由に調べて良いぞ、白魔術師のお嬢さん向けの魔導書なんぞも腐るほど有るわい。ほっほっほー」



************************************



そして言われるがままに地層の様に階層が別れた書架を眺め、私は目を輝かせ本に噛り付くソフィアさんと反しウンザリしつつも調べていた。


「うーん、予想以上の難敵ね」


「どうやら・・・目的の本は見付からんようじゃな」


突然かけられた声に思わず肩がビクリと跳ねる。振り返ると数冊の本を抱えたテッラさんが背後に立っていた。


「ええ、まあちょっと・・・」


苦笑いをすると、テッラさんは(おもむろ)に一冊の古びた本を私に差し出した。


「此れはお前さんが今、疑問に思っている事の何割かが解ける筈じゃ。貸すからじっくり読むんじゃぞ。それじゃあ、儂は書架の掃除でもするかのう・・」


それだけ言うとテッラさんは、再び私を置いて下の階層の方へ姿を消した。

渡された本は古びて煤けてはいるが、裏表には金で美しい装飾が施されている、そしてその題名は・・・


創世の書(デ・リブロ・ジュネジ)・・・?」


確かにこれなら何かわかるかも・・・

本を抱えて先程まで話をしていたテーブルまで戻るが、テッラさんの姿は見えない。

不思議に思いつつ椅子に腰を掛け本を開くと古びた紙面には興味深い事が書いてあった。


「大地が創られる始まりの時、二柱の神が世界に使わされた。兄神の名はカーリマン、妹神の名はウァルミナス、()()の神の手によって創世された・・・」


創世の神が双子の兄妹神・・・?!

しかし、善神だの邪神だのと言う言葉は出てこない。このウァルミナスって・・・ウァル様?

夢中になって読み進めるうちに戦いと力を好む兄神に対し命を育み成長を促す妹神は心を痛め争う様子が描かれていく。

この長い兄妹喧嘩はどちらか欠ける事無く長きにわたり続いた。それは闇の巫女(カルメン)により苛烈な物へと変わる。兄神には魔族やその眷属や考えに賛同する者がつき、妹神には人間にエルフとドワーフや獣人と勢力が別れた。

そして、妹神は善神と呼ばれ、兄神は邪神と呼ばれる様になった。戦いの末、兄神は魔族達と共に異界へと封じられたが、最後に妹の大事にする世界に呪いの言葉を残す。


『お前と私は対、この世界は一柱では賄えぬ。世界は再び我を招き入れる事だろう』


その不穏な言葉は精霊王が眠りにつき世界は弱り眠りについた事によって現実と・・・

其処まで読み進めた所で突如、カチャカチャと言う金属音がし重い扉の開く、その音に混じり靴音が静かな空間に響いた。

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