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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第 4話 発現せし異能

繰り返し浴びせ掛けられる言葉は此方が出てこない事を察知し勢いづく。


「おいおい、此処までしてだんまりを決め込むつもりかぁ?双子(おまえたち)が都に居るだけでこちとら薄気味悪くて迷惑しているんだ」


「そうだ、嫁さんがおれっちのダチと逃げたのは、お前が何ちゃらって言う神の力で呪ったせいだ!」


「ぎゃははは、マジかよ!そいつは確かに呪いだな!」


根拠のない罵倒を浴びせかける声と同時に、何か硬い何かが投げつかえられる音がする。

この場から白き閃光(ホワイトダジネス)で目眩ましをして逃げようにも、相手の数は不明なうえにエミリオさんは病人。街で倒れていたところからすると走って逃げる事は難しい。

でも、このままでは(いず)れ踏む混まれてしまう・・・・

私が片手を剣の柄にかけ扉に手を伸ばすと、その手首をエミリオさんが掴んだ。


「駄目です!貴方がたはボク達とは関係ない。ここはボクが・・・」


「話が通じる相手とは限らない以上、病を抱えたエミリオさんに出て貰う訳にはいかないわっ!」


女性に守られるのは屈辱だろうけど私なら何とかなる。

そのやり取りに苛立ったのか、舌打ちの後に扉が勢いよく蹴破られた。とっさにエミリオさんを庇い、壁際に避けると、仲間を外に待たせずかずかとハイエナの半獣人がワニとカバの獣人を従え踏み込んで来た。


「けっ、忌み子風情が女を二人も連れ込んで良い身分だなぁ。周辺住民がお前達の存在に怯えてるってのによぉ」


ハイエナの獣人はニタニタと嫌らしい笑みを浮かべ、エミリオさんを庇う私の頬に手を伸ばした。

それを私が払い除けると、男は苛立ちの表情を浮かべ叩かれた手をヒラヒラと振った。

そして、その傍についていたカバの獣人は息を荒げながら、怯えつつ杖を振りまわすソフィアさんに迫る。


「いいっすね、気が強い女が好みなんっすよ。アマデオの兄貴、コイツおれっちが貰っていいっすか?」


ワニ男は涎をすすり、アマデオと呼ばれたハイエナの半獣人の男の顔色を窺う。


「・・・良いだろう。ジルド、()()()奪われんじゃねぇぞ」


アマデオの皮肉交じりの返事を合図にジルドと呼ばれたワニ男は私へとにじり寄る。

エミリオさんは顔に怒りを滲ませ私を庇うように立つと声を張り上げる


「止めろ!彼女達は関係ないだろ・・・!」


アマデオとジルドは驚き、声を張り上げたエミリオさんを凝視した。


「お?何だ良く見たら目ん玉の色が違うな・・・弟じゃねぇか」


ジルドは屈めていた体を起こすと、腰に手を当て口角を吊り上げ嘲笑う。

アマデオは其れを聞くと、近くのソファを蹴り上げる。蹴り上げ転がるソファはカバの獣人に当たり、痛みを訴える声が上がった。


「おい!ジルド!ダニロ!女は後にしろ。病弱な弟と判れば遠慮は無用だ、依頼主の言う通り二度と帝都に住もう何ざ言わせない様にするぞ」


「ちっ、解ったよ。可愛い子ちゃん、待っててな。グフフフ・・・」


カバ男・・・ダニロは腕を回すと転がって来た壊れかけのソファを振り上げ棚へと叩き付けた。

続いてジルドは帽子掛けを握り絞めるとカップの置かれたテーブルを叩き割り、陶器が砕ける音と同時に飲みかけのお茶が床に広がる。


「何て事を・・・!」


相手は口振からして街の人間に雇われたならず者だろう。剣の柄に手を伸ばすが、やらなくてはならない事がある以上は此処で下手に問題を起こす訳にはいかない。

エミリオさんは項垂れ怒りで牙を剥きだすと、ゆっくりと口を開き何かを呟く。


「其は混沌の棺 怨嗟は生者に・・・」


「呪文・・・?!」


ゆっくりと顔を上げ三人を睨み呪文を唱え続けるエミリオさんの瞳は、不気味な紫の光を(たた)えていた。その色は魔族の血に列なるものよう、そして唱えられるそれは特有のものはず。


「な・・・なんだぁ?自分で家を壊すきか?」


戸惑って居るのは私だけではなく三人も動きを止めると、エミリオさんを凝視する。

その隙を見てソフィアさんが私の下へ駆け寄って来た。

息を整えると素早くソフィアさんは杖を構え、私へ後ろに下がる様に指示をすると、早口で詠唱を始める。


「天におわせし我が主よ その慈愛に満ちし心を寄せ 我らを守りし盾を 【神光障壁(アエギス)】!」


「其を蝕み喰らう 【魂の侵食(エローシオー)】・・・」


二人の呪文はほぼ同時に放たれる、ソフィアさんの杖から出た光は巨大な球状の魔法陣となり私だけではなく、アマデオとジルドまで包み込む。

しかしダニロには障壁に入れず、何か幻覚を見たかのように天を仰ぐと、白目を剥き短く声を漏らし泡を吹くと床へと倒れ伏す。


「ひ・・・あああ・・・兄きいぃ」


ジルドは先程までの威勢は何処へやら、恐怖でがくがくと体を震わせ、倒れたダニロに視線を張り付けたまま硬直している。

アマデオは青褪め、舌打ちをするとエミリオさんを見つめ苦笑いを浮かべる。


「く・・くく、どうやら噂通りみたいだな。双子の片割れが邪神の力を宿すってな」


事前の情報はあながち間違いではなさそうだ。

しかし、闇魔法を使っただけで、特殊だけれども彼が邪神の力を宿していると言うのなら対となるファウストさんは善神の力を持つはず。

しかし、峡谷の前で見た彼の力は明らかに土魔法を使用していた。一体、どういう事だろうか。


「そんな噂、本当かどうか判らないわ」


「じゃあ、どう説明をして・・・」


反論したアマデオの言葉はとつじょ遮られる。エミリオさんはゆらゆらと体を揺らしながらも、残るアマデオ達と中の様子を案じ覗き込む見張りの二人を見据えると、再び呪文をその口から紡ぎ出す。


「其は混沌の棺・・・」


「・・・チッ!」


アマデオはジルドに合図をし、ダニロを抱えさせると、文字通り尻尾を巻き慌てて逃げ出す。

問題は残された私達でエミリオさんを止めなくてはいけない事だ。

術者が気を失えば詠唱は止められる筈・・・


「エミリオさん、ごめん!」


私は素早く手刀を(うなじ)へと振り下ろそうとするが、其れは空しく空を切る。

まるでアマデオ達が逃げた事に安堵したかの様に、エミリオさんの意識は途切れ、糸の切れた人形の如く床に倒れ伏した。


「エミリオさん!?」


ソフィアさんの声に驚き慌ててしゃがみ込み、体に触れると確かな温もりと脈拍を感じる。


「・・・良かった生きてる!」


しかし、顔色は悪く意識が戻る様子が無い。

外の気配に聞き耳をたてて誰も居ない事を確認すると、二人でエミリオさんを寝室へと運び込む。

ソフィアさんは「簡単にですが」と前置きをすると、思案した後に部屋に有ったランプをエミリオさんの手に押し当てる。

何の変化も見せない其れに私が首を捻ると、ソフィアさんはランプを壊れていない机に置く。


「この型のランプは少量の魔力でも触れただけで、僅かな魔力を感知し灯がともるんです。先程の魔法がどれだけ消耗するのか不明ですが、此れは恐らく魔力切れかと・・・」


その言葉に思わず胸を撫で下ろす。


「それなら、ゆっくり休んでもらおう。またあいつ等が仲間を連れて報復に来る可能性は有るし、皆に連絡して一晩、此処で泊まらせて貰おうか」


「・・・・ええ、そうしましょう」


教会や宿に来れない事情を簡単に説明した物を、土の妖精に故郷の知識と交換に伝言として頼んだ。ファウストさんにも連絡を取りたい所だが、妖精に伝言を頼めるのは伝える者と縁が深い者と限られているからだ。理由は本来の自分達の役割じゃないからだそうだ。

つまり、この場でファウストさんへ連絡をとれるのはエミリオさんのみと言う事だ。

双子の言い伝えに闇魔法と色々と疑問は浮かびつつ、その夜はソフィアさんと交代で見張りながら夜を越した。



**************************************



翌朝、ソフィアさんと共に簡単な朝食を用意していると、寝室の方で人が起きる気配がし、エミリオさんが気まずげに眉を下げながら顔をだした。

事の顛末を多少は誤魔化したが伝えると、頭を抱え何度も謝罪の言葉を繰り返された。

エミリオさんは風の妖精にそれを兄へと伝える様にと伝えて見送ると小さく溜息をつく。


「この度は行きずりのお二人に、大変なご迷惑をおかけして申し訳ありません。怒りに我を失っていたとはいえ、危うくお二人を・・・」


「いえいえ、おかげで悪漢を追い払えましたし。それと名乗るのが遅れて申訳中りませんでした、私はアメリア、此方はソフィアさんです」


「ソフィアと申します。魔法ならあたしが防ぎましたし心配いりませんよ」


「そう・・・ですか」


それから、エミリオさんは安堵の表情を浮かべると、ポツポツと自分の事を語りだした。

幼い頃から双子と言う事で周囲から訝しみの目で見られていた事、祝福の儀で闇の属性と判明した事でますます周囲の風当たりが悪くなっていったそうだ。しかし、生れ付き心臓が悪く魔力も少ない為に魔法は余り使えないし、できれば使いたくは無いらしい。

エミリオさんを治療院に送り届けた所で兵士と祭殿の関係者らしき集団がいがみ合い道を塞いでいた為、遠回りした所で予想外の人物と遭遇する。


「お前は・・・あの時の・・!」


そう指さし叫んだのはワニの獣人のジルド。エミリオさんが居ない為か、些か余裕の表情を浮かべている。気付かないふりをし、教会の横の建物に沿って歩くが、逆に神経を逆なでたのか追跡の足が止まらない。

私が撒こうとすると、建物の小さな黒い鉄柵扉が開く。「こっちじゃ」と声がし、躊躇する間も無く私達は腕を強く引っ張られ中に招き入れられる。耳には扉が閉じる金属音と怒号が響いていた。

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