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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第四章 ベアストマン帝国ー帝都レオネと地の祭殿編
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第 1話 いざ帝都へ

一緒に旅をするにあたって、ソフィアさんに諸々の事情を話す事にした。

懸念していた精霊の剣の事に関しても、聖ウァル教会の教えや本に綴られていた事は真実だったのだと喜ばれた。まあ、そうじゃなくても水の祭殿で目の当たりにした光景を思えば納得せざる得なかったのかもしれない。

そして今、多くの人々が新鮮な海産物を使った料理に舌鼓を打ちつつ、酒を飲み馬鹿話や武勇伝を語らう冒険者ギルドの片隅で私達五人は運ばれて来た料理を突きながら今後の算段を練っている。

セモリ粉の生地にトマテを使った赤いソースとプリップリのシュリプ、噛めば旨味の出るスクウィドに絡む熱々の(まろ)やかでコクのあるチーザに悪戦苦闘しつつ、其れをレモネに蜂蜜をあわせた飲み物で喉に流し込む。


「うーん、此れは他の事なんてどーでも良くなるね」


「ったく顔だけじゃなく脳味噌までチーザみたいに(とろ)けちまったのか?」


うっとりと口に広がる幸せに酔いしれる私をダリルは呆れ顔を浮かべ皮肉交じりに揶揄(からか)う。


「何よ美味しいものは活力の源よ!それに、何も考えていないわけじゃないのよ」


その時、コホンと咳払いが私達の間を遮った。


「あー、二人とも。此処にはじゃれ合う為に来たわけじゃないのを失念していない?」


ケレブリエルさんは私達の顔を見まわし、静かで落ち着いた声で制する。


「じゃ・・・じゃれ合うってなんだよ」


「・・・すみません、本題に入りましょう」


静かになった所で本題に移る、カルメンの一件から各祭殿が守る精霊石を狙い争う事は確実だ。同一の祭殿が襲われる可能性に関してはザナージ団長と戻って来た祭殿関係者で守りは固められているとの話だったので、土の祭殿の在る帝都に向かう件に関しては満場一致。

ただ、少しだけ問題があった。


「ヒッポグリフ達じゃ馬車を引くの無理そうだし、乗って行くにしてもこの人数を乗せて長距離は難しいよね」


「そう、そこが問題。この際、乗合馬車を探すか御者を雇っちゃう?」


フェリクスさんはそう言うと、更に残った料理の最後の一欠けに手を伸ばす。

しかし、その指は料理を掴む事は無く、ソースがこびり付いた皿を撫でるだけだった。

何時の間にそこに居たのだろう?

茶色の癖の強い髪を馬の尾の様に縛った小さな少女の様に見えるが違う、流浪の民であり各地で仕入れた珍品や名品を売りさばき生計を立てる小人族だ。そして私達は彼女の顔に何となく覚えがあった。

エリン・ラスガレンで情報をくれた、流浪の商人のライラ・ヴォルナネンさんだ。


「ライラさん!?」


「はぐ、モグモグごっくん・・・!どーも、お久しぶりです皆さーん、どうやら皆さんお困りの様ですねぇ。宜しければ良いお仕事を紹介しますが如何なさいますぅ?」


彼女は手に付いたトマテソースをハンカチで拭きながら、ぐいぐいとテーブルに手をつき前のめりになりながら目を輝かせている。

突然の登場と申し出に、ソフィアさんは困惑し私達は呆気に取られていた。



*************************************



南の地特産の豆を焙煎し抽出した物にカウの乳をいれたカフィと言う飲み物が私達の前に並べられる。

湯気と共に香ばしく甘い香りが漂い、鼻腔をくすぐる。


「それで、お仕事とは具体的にどのようなものなのでしょうか?」


「そうですねぇ、皆さんには私の馬車の帝都までの護衛をお願いしたいと思っていますー。勿論、報酬と食事に加えて要望が有れば情報提供なんかもしちゃいますよ~。如何です?悪くないでしょ?」


ライラさんは自信ありげに私たち一人ひとりの顔見回す。

帝都に行くまでの足に不安もあったし、これなら受けても良いかも。


「それじゃあ・・・」


返事をしようとする私の前にフェリクスさんが身を乗り出した。

指を口元に当てている、自分に任せてって事?


「大変魅力的な申し出だが、詳細を聞かずに安請け合いはできないな」


フェリクスさんは肩を(すく)め、苦笑いを浮かべる。

それを聞いてケレブリエルさんは頷くとライラさんを見つめ口を開く。


「そうね、報酬の金額と保障についてお聞きしたいのだけれど宜しいかしら?」


ライラさんは二人の言葉に眉を寄せると何かを思案し、仕方がないと言った表情を浮かべ小さく溜息をつき懐から串刺しの複数の小さな石を木枠で囲んだ何かの道具を取り出し弾く。

しかし、こう言う時の大人二人の存在は有り難いなぁ。


「そうですねぇ・・・。報酬は往復成功で一人、大銀貨二枚の失敗しても銀貨一枚は保障しますー。勿論、皆さんの生命を最優先で構いませんが、積み荷は商人生命に関わるので必ず守って下されば大丈夫ですよぉ」


ライラさんは如何だと言わんばかりにニタリと笑い、持っていた道具をテーブルに叩き付けるように置く。


「・・・なるほど、悪くないわね」


「オレも悪くないと思うけど、アメリアちゃんはどう思う?」


「そうですね、引き受けようと思います。ただ質問なのですが、情報提供は何処まで?」


「わたしで答えられる範囲なら可能な限り提供しますよぉ」


ライラさんは満面の笑みを浮かべ、交渉成立の感謝の言葉等を言い、私達に握手を求めて来た。

しかしソフィアさんだけは躊躇したかと思うと、不安そうにしながら私達を見回すと喋り出す。


「あのぉ、新参者が烏滸(おこ)がましいかと思われますが。その、お互いの為にも個人同士の契約ではなく、ギルドのクエストと言う形式の方が安全かと・・・」


「いえいえ~、ごもっともですよぉ」


こうして、途中で()きて居眠りしていたダリルを叩き起こし、私達はクエストとしてライラさんの依頼を受け、早朝に帝都レオネに向けて旅立つ事となり宿に戻り休む事にした。


「次は土の祭殿か・・・」


部屋に戻り身支度を整えると、綺麗に整えられたベッドにもぐりこむ。

窓の外から漏れる波の音と潮の香りを感じながら、この地を訪れ次々と起きた目まぐるしい出来事と戦い。今も瞼に裏に残る残酷な映像を何故、自分の事だと確証はないのに思ってしまったのだろう。

もし、これが事実なら何故、私は生きているのだろう。

所詮は想像、一人で考えても仕方がないか・・・


「なぁに、駄目よ新天地に行くって言うのに陰気な顔しちゃって?おねーさんに話してみなさい」


隣のベットに腰を掛け、髪を()かしながらケレブリエルさんが此方を見ていた。


「ぷっ、何だかフェリクスさんみたい」


「・・・アメリアさん、水の祭殿で何かあったのですか?」


ソフィアさんまで此方を心配そうな顔で見ている。中々、鋭いなと驚きつつ体を起こすと二人はすっかり話を聞く態勢で、話すまで寝かせてくれなそうだ。

観念して多少ぼやかして話をするものの、二人は真剣に話を聞いてくれた。


「なるほど、次の地に向かう事への不安ではないのね。実の所、闇の魔法に関しては魔族の血を受け継ぐ者にしか発現していないが故に研究が進まず、多くは世間に知られていないのよ。しかし潜在意識から精神に影響をあたえる魔法ね・・・」


ケレブリエルさんは眉間に皺を寄せ難しい顔をしながら口元に片手を当てると、自分の手元の分厚い本をパラパラとめくる。


「・・・しかし、それがご自身の過去ではないかと思われていると。それはどうしてですか?」


「うーん、はっきりとは言えないけれど、しいて言うなら悪夢の中で手鏡に映る自分を見たからかな?」


ソフィアさんはそれを聞いて頭に疑問符を浮かべ小首を傾げるが、すぐさま気まずそうに眉を下げる。


「・・・何か有る様だけど聞かないでおくわ。でも、辛くなったら何時でも私達に吐露してちょうだいね」


ケレブリエルさんは微笑むとソフィアさんへ視線を送る、それに気が付くとコクコクと頷き私を見る


「ありがとう・・・」


優しく温かな言葉と心の(わだかま)りは解け、心が軽くなった気がする。

私は温かな布団の中で微睡みつつ、沈む意識で深い眠りへと落ちて行った。



***********************************



暖かい南の地と言えど早朝の風はやや涼しく、薄く霧がかった街道をヒッポグリフに(またが)り並走しながら私とダリルで馬車を挟むように警護している。

御者台の横にはフェリクスさん、後方を幌から外を覗き警戒するのはケレブリエルさんとソフィアさん。


「皆さん助かります~、輸送用の街道は賊や魔物対策に定期的に変えているんですけど、この街道を使うのは初めてなんですよぉ。あ、でも心配しないでください地図は用意していますから~」


「不安しかねぇな・・・」


「如何なさいましたか?」


そんなダリルのぼやきも耳聡く聞き取ったのか、ライラさんはくるりと首を捻る。

失礼だけど結構、地獄耳みたいだ。

緊張する私達と相反して高く子供の様な声が静かな街道に響く。

ライラさんも初めてと言う事は、どんな危険が潜んでいるか彼女自身も把握していないと言う事だ。

突如、馬の(いなな)き声と共にガタリと順調に動いていた車輪が止まる。


「え?!待ってください!」


ライラさんは止める間も無く御者台から下りる、再び戻って来た時には顔は少し青褪めていた。


「ああ、まさかまさかの事態が・・・橋が崩落しています~」


私とダリルで馬車の前へと確認しに向かうと・・・


「マジか・・・」


木製の橋は中程まで粉々となり、私達の前で深く裂けた大地が大きく口を開く、地の底からは獣の様な唸り声が響き空気を震わせた。

今回も此処まで読んで頂き有難うございます。

此れからも可能な限り、現投稿ペースで更新したいと考えております。

もし、宜しければ来年もお付き合い頂ければ幸いです。

それでは、良いお年をお迎えください。

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