第5話 異変と投擲
何時も読んで頂きありがとうございます。戦闘回です※血・微グロ表現注意。
野営地をでて三日、本来なら馬車や旅人が通る道は付近の村の自警団や冒険者等によって定期的に駆除され、完全ではないにしろ安全に旅ができる筈なのだけど何かおかしい。
連日、昼間は戦闘に夜は交代での見張りに明け暮れてるからだ。
「なんなんだよっ・・・!この魔物の量!」
私とウォルフガングさんは黙々と魔物を狩る中、口火を切ったのはダリルだった。
森へと差し掛かった私達の目の前には大量の動物の死骸と植物系の魔物、ヴァンプヴァインが群れを成していた。
この魔物は木に寄生し、近づいてきた人や動物を発見すると背後から青紫の蔓を伸ばし巻き付け、吸血した血液を貯めこんだ実から種子を飛散させ、増殖する魔物だ。
十分に血液を貯めこんだ蔓の先についた実は、赤黒く熟れ今にもはち切れそう。
普段は遭遇したとしても少数で、襲われても大した事はない。今はそれが大量に発生し、無数の蔓を伸ばし襲ってくるのだ。
「此処では火は使えない。オレは馬車を守るから、奴らの実を切り落とし、種の飛散と増殖を防げ・・・!【鋼掌】!」
ウォルフガングさんは馬車に襲い来る蔓を鋭い爪で切り裂きながら、ヴァンプヴァインの実を魔力を練り上げた拳で粉砕していく。
弾けた実から砕けた種と共に液体が飛び散り服が染まってしまっている。
おもわずその光景に私はその光景に一瞬、躊躇してしまった。
「馬鹿!何を迷ってるんだ!」
「ごめん!」
ダリルと私は左右に分かれると、蔓を剣で薙ぎ払いつつ実を次々と引き裂いき砕いていく。
どうにか三人で全て倒し終わった後には地面は赤黒く染まり、鉄錆のような臭いが混ざった悪臭が漂いだした。
「ふう・・・このままじゃ、他の魔物を呼びかねないわね」
あまりの臭いに耐えられずに口元を抑える。
「あながち、あの吟遊詩人の歌は嘘じゃないかもな」
「やめてくれよ、師匠!笑えねえって」
マナが奪われ世界のバランスが崩されるなんてあり得ない、あってはいけないわ。
ダリルの言葉に私も同意して頷いた。
ウォルフガングさんはそんな私達が面白いのか、ニヤニヤと悪い顔をしていた。
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しかし次の瞬間、一瞬にして空気が変わる。
木を軋ませ枝を折りなが草を掻き分ける音と共に地面が揺れるほどの足音が響く。
その音は徐々に近づき、その恐怖が馬車の中まで伝わり不安に震える声が聞こえてくる。
「皆さん心配しないでください。私達が必ずお守りしますから」
「馬車からでるんじゃねぇぞ。出たら命の保証はねぇからな」
ダリルの「命の保証はねぇからな」の一言で馬車の中の不安と恐怖の声が大きくなる。
無言でダリルを睨みつつ、辺りを警戒しているとケイティーが馬車から顔を出した。
「二人とも!アタシが馬車の皆を落ち着かせるからしっかり守ってよ!」
頼もしいことを言ってくれるわね義妹よ。
音が徐々に近づいてきているのが感じられる。そして木々をなぎ倒し地面に散らばった魔物の死骸を踏みしめる不快な音と共に姿を現したのは大きな二足歩行の蜥蜴、頭の周りには棘のついた斑模様の皮膜が有り、その双眸は焦点が合わずにグリンと落ち着きなく動いている。
「フリルリザード・・・?!」
「こんな大きな奴は見たことないぞ。姿は似ているが・・・変異種か?!」
ウォルフガングさんは眉間に深い皺が寄せながらフリルリザードを睨み構える。
三人で出方を見ようと構えるが、どうやら相手はその猶予も与えるつもりが無いらしい。
裂けた口から唾液を滴らせ、こちらにグリッと目を向けたかと思うと、なんとも気味の悪い鳴き声を上げて此方に向かってきた。
剣の柄を握り素早く相手に接近すると素早く斬りつけ、相手の腹を蹴り上げる。
フリルリザードは鱗状の皮膚を切り裂き複数の傷は負わせたが、蹴り上げた体はよろめきはしたものの攻撃態勢は崩さずに襲い掛かってきた。
「ツ・・・!」
振り上げられた爪はとっさに庇った腕を裂き、血が滴る。
「アメリア!」
ダリルは私の背後から飛び出すと、私の前に躍り出るとすかさず一撃をフリルリザードにお見舞いする。
「【鋼掌】」
メリッと肋骨が折れるような音と共にダリルの拳が相手の胸に減り込む。
「ギェッ」と言う声と共にフリルリザードは長い舌を突き出しながら紫色の血液を吐く。
そこを背後から現れたウォルフガングさんが跳躍をしながら追撃をする。
「【飛翔連脚】」
ダリルの一撃を受けて動けずにいたフリルリザードの体は宙で一回転し木をなぎ倒し地面に叩き付けられる。
すかさず止めを刺そうと剣の柄を握り走り出す、すると山岳地帯での戦いの時と同様に剣の鍔についた魔結晶が淡く光った。
体が軽くなると同時に相手の反撃を許す間もなく、相手の懐に飛び込み胸へと深く突き立てる。フリルリザードは叫び声をあげながら大きく襟巻を振動させ、奇怪な音を森全体に響かせ絶命した。
「どうにかなったわね・・・」
安堵のため息をつくと、回復キューブを口に放り込む。口の中でキューブを覆う膜が割れると、液体が口に流れ込み即座に気化し体内に吸収され、傷口がゆっくりと塞がっていく。
「わりぃ、さっきの奴の血液に毒があったみたいだ。毒の回復キューブもってねぇか?」
「あるよー」
腰に下げた布袋から紫色のキューブを一粒、ダリルに向かって投げる。
ダリルはそれを片手で掴み取ると、キューブを指先で割って患部に直接かける。赤紫色に変色していた部分はあっと言う間に正常な色に戻っていった。
「回復をして落ち着いたところを悪いんだが・・・増援が来たみたいだぞ」
ウォルフガングさんの言葉の直後、振動は先程のものほど大きくはないが複数の足音が此方に迫って来るのが伝わってくる。
「まさか、さっき絶命寸前にたてた音って!」
「マジか・・・仲間を呼びやがった!」
「そう言う事だな」
空は茜色に染まりかけている。森を抜けて安全な場所に向かわなくてはならないのに、馬車を守りながらの戦闘は厳しい。
しかし、そうは言っていられない。三方向から馬車を囲み、魔物の迎撃に向けて構える。
「君達!そこから動かないでくれたまえ!」
突如、背後から大きな声が響く。あまりの突然の事に呆気にとられ、全員で振り返ると見た事の無い武器を構えた女性が立っていた。
その合間にも魔物達の気配が間近に迫っているのを感じる。
「へ?誰?!」
その女性は困惑をする私達に向けてニタリと不気味な笑いを浮かべると横をすり抜け走っていく。
それと同時にフリルリザードが四体、飛び出してきた。
女性は鉛色のキューブを腰の皮袋から取り出すと武器につがえる。
「【装填】【魔法付与】」
武器に詰められたキューブに魔法がこめられ光ったと思うと、襲い来るフリルリザードに向けて一斉に鉛色のキューブが放たれる。
「【百連弾丸】!!」
放たれた鉛色のキューブのような物が魔法を纏い、雨のように魔物に降り注ぐと爆音と光が辺りを飲み込む。
「「「・・・・・っ!!」」」
フリルリザードの断末魔と爆音が徐々に薄れていく。うっすらと開けた私達の目に映ったのは砕け散った木と焦げた魔物の肉片に抉れた地面。
煙の合間から見えた女性に目線を向けると、持っている武器に目がいく。
「それって・・・投擲銃?」
彼女の手に握られていた武器はケイティーが村で買った、薬品投擲士の武器と酷似していた。