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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第三章 水と大地の国 ベアストマン帝国
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第10話  絡め取る闇

※今回は少々、残酷な描写が含まれております。ご注意ください。

ゆらりと揺れる目は生気が無く、とても正気とは思えない。ただ瞳に宿る不気味な光が線を描く。

見付かった・・・

セイレーンは船に乗るものを歌声で惑わす魔物、彼女達の仕業ではないのは明白だ。

そうだとしたら何がレオニダを変貌させたのだろう?

レオニダは無言のままペシャリと嫌な水音を立て、此方へと歩き出す。


「・・・そんな、レオニダ先輩!」


ソフィアさんは困惑をしつつ、レオニダの名前を呼ぶ。しかし、レオニダは無言で私達を品定めするかのように見つめるのみ。


「ちっ、大祭司様が殺られちまったか。アイツはお前さん達の尋ね人か?」

ザナージ団長は低く唸り、腰につけた手斧の柄に手を伸ばす。


「・・・ええ、そうです」


証拠品の発見場所が彼の失踪地点で間違いが無いのなら、海上で船を襲うセイレーンの仕業ではない。

しかし、魔法についての知識の浅い私でも何かしか邪な術による影響下にある事が判る。

そうだとしたら、いったい何者が・・・


「おい!これはどういう事だ説明しろ」


ダリルは未だに一言も発しない事に痺れを切らしたのか、苛立ちの籠った声でレオニダに詰め寄る。

しかし襟首へ手を伸ばした途端、レオニダが小さな声で何か唱えたかと思うと、ダリルの足元から無数の手が現れ足を絡めとる。


「ダリルっ!」


「く・・・何だ・・・これは」


「こりゃあ、聖職者の所業じゃないな。しかし・・・」


フェリクスさんは驚きと恐れの混じる様な表情を浮かべ、苦笑する。


「魂の傀儡(くぐつ)に冥府の(くさび)・・・闇魔法の中でも禁忌とされる術を目の前で見る事になるなんてね・・・」


「傀儡・・・やっぱり、レオニダさんは操られてたんだね」


ケレブリエルさんが緊張した面持ちでレオニダを睨みつけると、今まで口を閉ざしていたレオニダの口から高い女性のような笑い声が漏れた。


「ふふふっ・・・面白いわね。でも、貴方達と遊んでいる暇はないの」


驚愕する私達の前でレオニダは血塗れた刃物を片手に祭壇へと(きびす)を返し、手を伸ばし詠唱する。


「させねぇ!凍てつく水は山の如く 競りあがり砕け 立ち塞がらん!【氷壁(アイスウォール)】」


ザナージ団長の手から冷気と共に白い冷気が(あふ)れ、祭壇の前で高い氷の壁を形成する。

レオニダは安堵の表情を浮かべる私達の方へ向き直すと、忌々し気に顔を(ゆが)めた。


「あの方の目覚めを止めるものは何人たりと許さない・・・。あんた達にはアタシの人形達と遊んでもらうわ。沈め・・【常闇の扉(ダークポータル)】」


「あの方・・・?」


「って・・・不味い油断した!床が・・・!」


フェリクスさんの声を聞き足元に目をやると突如、石が敷き詰められた床はぬかるみ、まるで底なし沼に飲み込まれる様に体が沈む。

魔法で捕縛されたダリルは勿論、必死に抵抗した私達さえ抗う事もできずに飲まれてしまった。

いったい、彼を操るあの声の主は何者?その凶行を止めなくては・・・



**************************************



どこまで落ちるのだろう・・・

深淵(しんえん)に呑まれ、沈みゆく私の鼻腔に潮の香りが漂って来る。目を開けると小さな帆船の甲板の床に寝そべっていた。

しかし、潮の香りに吐き気を催すような死臭が混じりだす。

仲間の姿に安堵すると、落ち着いた為か周囲が目がいく。其処には見回す限りの船の残骸、正に船の墓場・・・。点在する見るも無残な死体、中には白骨化したものまで在る。


「う・・・皆、大丈夫?」


「どうにか」と言う声が聞こえてくる中、美しい歌声と竪琴の音色が耳に届き、鼓膜を震わせ頭の中へと溶けていく。

この、ふわりと浮遊感のような(ふや)けるような感覚に覚えがある。この国へ入港する前に船上できいたあの歌だ。


「しっかりしてください!」


控えめなソフィアさんらしくない強めの口調で目が冴える。どうやらセイレーンの歌声に私は魅了されてしまっていたらしい。

ソフィアさんの歌声とセイレーンの歌声が衝突し打ち消される。


「ソフィアさん、ありがとう!」


「いえ、お役に立てて幸いです」


そこに魅了が通用しないと察した為か、ソフィアさんの前にセイレーン達が姿を現し、彼女の行く手を阻む。

猛禽類の様な足に全身の六割を羽毛に覆われ背には大きな翼を持ち、うち一人は見事な細工の竪琴(たてごと)を抱えていた。恐らく、レオニダが言っていた人形とは彼女達の事だろう。

しかし、予想は外れた。


「お母様?!」


「・・・こ・・こには・・来ては駄目・・・ううっ」


正気を取り戻している?レオニダにかかっていた術と違い、(ほころ)びでもあるのだろうか?

ソフィアさんの母親らしいセイレーンは頭を片手で抑え、体をくの字に曲げ苦しみ出した。


「・・・お母・・・様」



ソフィアさんの腹部を鋭い脚部の爪が襲い掛かる。服が裂け、そこから赤く染めあがる。セイレーンの瞳は正気を失い、レオニダと同様の紫の光を宿した。


「・・・っ!【跳梁足(ちょうりょうそく)】!」


瞬時に動いたダリルにより海へ落ちる事は防げたが、ソフィアさんは心への強い衝撃の為か、苦痛に顔を歪めつつも唖然(あぜん)としている。

彼女の腹部に受けた傷はやや深かったが、買っておいたとっておきの上級回復キューブが役に立った。


「すみません助かりました・・・」


「どーいたしましてっ」


武器を構えなおす私達へとセイレーン達の殺意が向けられる。

ソフィアさんの母親らしいセイレーンの背後からもう一人が竪琴を掻き鳴らすと、美しくも怪しい音色と共に海面が盛り上がり、大きな水の塊を作ると一気にそれが弾け飛ぶ。

ケレブリエルさんは私達の前に素早く飛び出すと、杖を空へと向けた。


「渦巻くは旋風の如く 旋風は半球を描き 退く盾となる! 【風防護(エアプロテクション)】」


ケレブリエルさんの放った風は私達を覆う様に広がり、絶え間なく打ち付ける水球を受け止める。

しかし、敵の攻撃はそれに留まらず、ソフィアさんの母親のセイレーンの奇襲が迫る。


「吹き渡る風にて 精霊を統べる者 シルフよ私に天駆ける力を示せ! 【レヴィア】!」


風は鉄靴(サバトン)から脛当て(グリーヴ)へと巻き上がり、私の体を巻き上げた。

セイレーンと空中で対峙し、その鋭利な爪を()ぎ払おうと剣と詰めをかませるが、お互いの力が反発しあい体勢が崩れる。

惨状が広がる海へ落ちかけ焦ったがレヴィアで船の残骸を足場に元の船へと戻る事ができた。

しかしお墨付きをもらっているとはいえ、あまり頻度を上げると魔力の辛いかもしれない。


「たしか、片方は母親なんだろ?無傷ってのは難しいぞ・・・」


ダリルは皆に加速魔法(アクセレーション)をかけるソフィアさんを庇いつつ、振り向き目線を送る。


「ええ・・・。けれど、手立てが無いわけじゃありません」


「なんだって良い!やってみてくれ!」


「デコ助は相変わらず短絡的だな。せっかちな男は嫌われるぞ?」


「んだと、ゴラァ!」


反発し吠えるダリルを無視し、フェリクスさんはソフィアさんに優しく語り掛ける。


「君の不安を解消するには何が必要なんだい?」


「効果があるか判りませんが、解呪(ディスペル)を使用したいんです。飛んで近づくのは難しいので、二人を捉える事ができれば良いのですが・・・」


「ふむ、捕縛か・・・。だが(やっこ)さん、呑気に考える暇を与えてくれ無い様だぜ・・・」


ザナージ団長は警戒すると、耳をピクリと動かす。竪琴の音色が響き、再び水が周囲から集まりだしたのだ。


「また・・・来るわ」


「辺り一面に水・・・そうか!」


フェリクスさんは何か思案したかと思うと、再び魔法で防ごうとするケレブリエルさんの杖を押しのけた。


「何をするの!」


「いーから、オレに任せて」


怒るケレブリエルさんに任せろと言わんばかりにウィンクをし、自信ありげに口を開く。


「天に轟く(いかづち)よ 我が剣に集い 力となれ【雷撃(ライトニング)】!」


フェリクスさんの双剣にバチバチと光の筋が弾け集束する、双方の刀身を滑り、振り上げるのと同時に波紋のようにセイレーンの放つ無数の水塊と衝突する。しかし、これは何属性の派生魔法だろう?

直後、激しく鼓膜が振動するような音と悲鳴が響き、目の前が一瞬だけ白む。

視界が元に戻るのと同時に空を見上げるが、セイレーン達の姿が見えない。暫く辺りを見回すと、船の残骸の上に横たわる姿を目に捕らえた。


「フェリクスさん・・・・」


「どう?カッコいいお兄さんに痺れっちゃった?なーんて・・・」


ジト目で見る私達の視線にフェリクスさんはギクリと肩を跳ねさせる。

ともかく、今はそれより優先すべきは解呪だ。成功すれば良いんだけど・・・


「良かった・・・・息はしています」


ソフィアさんはセイレーン達の許に飛んで行くと、ほっと安堵の息を漏らす。

順番に解呪を施すが、セイレーン達は目覚める様子は無い。


「結果は判らないが、ここはお達で水の祭殿へいけ。ここが巣なら、このまま真直ぐ行けば祭殿に着く」


ザナージ団長は眠ったままのセイレーン達を一瞥すると、北方面を指さす。


「でも・・・」


「なぁに、下を断つより大本を断てば確実だってんだよ。後はおいちゃんに任せろ!」


ザナージ団長は不安げにするソフィアさんの頭を撫で、ニカッと白い牙を出した。

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