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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第三章 水と大地の国 ベアストマン帝国
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第7話  狂乱への起因

『あの船を沈めた者と同じ、魔物(セイレーン)の血が・・・』

種族戦争以後、種族間の関係は緩和し、分け隔てなく暮らせるようになった。けれど、未だに差別意識が根深く残っている事は実感できる。

想像するに、人型の魔物との子となると例が無く、判明すればその異質さから強い偏見による拒絶が起こる事もあるように思う。

何となく彼女が只管に混血児(ハーフブリード)である事を隠していたのか解った気がした。

「あたしの母の一族は水の祭殿を守る事を条件に生きのびた種族なんです。ですから、本来ならあの様な事をする筈が無いんです」

ソフィアさんは唇を噛みしめ、何かを思いだそうとするような顔し、不安げに顔を曇らせる。

「なるほど・・・。教えてくれてありがとう」

「俺達は種族が何かなんて気にしちゃいねぇ。ただ、やるべき事をやるだけだ」

「ソフィアちゃんのあの姿はとても美しかったよ。あの相殺させた歌を聞きたいな。オレをソフィアちゃんの虜にして欲しいな」

本当にフェリクスさんは芯がぶれないな・・・

「は・・・・はあ」

それを聞いてソフィアさんは苦笑いを浮かべ後退る。

「姿形やその身に流れるものより、自分自身を確りと持つ事が重要よ。少なくとも此処にいる人達は一部を除いて気にしていないわ」

「そうですね・・・・ありがとうございます」

ソフィアさんの顔から緊張の色が消えた。

「でも、ソフィアさんの言う通りであるなら原因をつきとめる必要があるかも」

水の祭殿の守り手が何故、商船や旅客船を襲撃したのだろう?

様々な噂があるが、真相を知る為には真実を解き明かす情報が明らかに足りない。

「まっ、ソフィアちゃん達を送るついでに教会辺りで話を聞くのもありかもね」

「あたしもそう思います。教会には本も沢山ありますし、司祭様なら何かご存知かもしれません」

フェリクスさんの言葉にソフィアさんの顔がほころんだ。どうにか元気になってくれたみたい。

「それじゃ、港に着く前に船の厩舎に行くぞ」

「アルスヴィズ達、狭い場所に長期間、閉じ込められて鬱憤が堪っているだろうなぁ」

不機嫌な二頭のヒッポグリフの姿が頭を過る。

誤解とはいえ魔物騒ぎもあったし、すんなりと入国できれば良いけどなぁ。



************************************



船は無事にアマルフィーの港に到着したのだが・・・。

「ハリスーン、僕はもうダメだ・・・」

何時もの威勢のよさは何処へやら、すっかり船酔い状態になったレオニダと再会した。

「申し訳ございません、ぼっちゃ・・・レオニダ様がこの様な状態ですので、どうかマリーノ様をお先に教会の方へお連れになってください」

「僕を優先しない・・・クエ・・・降ろしてやる・・・うぐっ」

テイラーさんの横でしゃがんでいたレオニダの顔がみるみる青ざめて行く。

恐らく自分をおいて行くのなら護衛をクビにしてやると言いたいのだと思う。こんな時でも性根は変わらないのね。

「すっ、すみません。失礼します!」

それを小脇に抱えてテイラーさんは去って行った。

「これは一難去ってまた一難ね・・・」

「ピィー!」

げんなりとする私の横でアルスヴィズが小首を傾げ、不思議そうな顔をする。

「クエエ・・・!」

その隣のヒッポグリフ、スレイプニルはダリルに宥められているのに関わらず、イライラとしている為か前足の鉤爪で床をかじっている。

「流石に執事一人に任せて仕事を放棄するわけには行かないしな・・・」

「そうね・・・私が行くわ。アメリアとダリル達はソフィアさんを先に送って。私が教会までレオニダ君を護衛するわ。今後の為にも()()、お話しないと・・・うふふふ」

ケレブリエルさんはレオニダとテイラーさんを一瞥すると、意味深な黒い笑いを浮かべる。

「ケレブリエルちゃん、相手は弱っているんだから加減してあげなよ」

「あら、加減だなんて・・・うふふ!お話するだけよ」

何この大人達・・・・・怖い!


予想通り、ザンネビアンケ自警団からの検問があったが、幸運な事に提供された情報と特徴が一致する人物がおらず騒動は水に流れた。

港を歩いていると「まったくデマはやんなっちまうよ」とぼやく兵士の中に白く大柄な熊の獣人で自警団の隊長、ゴッフレードさんの姿をみつけた。

「よお、客人。神殿近くの岩場によるなよ。俺が居れば氷漬けにしてやるが、最近の奴等は船だけじゃなく人も襲うからな」

「この地域の水が淀んでいるのは奴等に捕まった客人達の死体やその血で染まっているかららしいぜぇ」

一緒に居た隊員らしき男がニヤニヤと怯える私達の反応を見て愉快そうに笑う。

それを無視すると私達は二匹のヒッポグリフに乗り、ソフィアさんに案内をして貰いながら教会へと向かった。



************************************



岩肌を切り開き階段状に建物が建つ、ベアストマン帝国の入り口の一つにあたる海獣領アマルフィー。その海岸沿いは色とりどりの絵柄の付いたタイルで装飾され、高台の方は淡い黄色やオレンジ等の建物が建つ、岸壁を削り出して作られた美しい街だった。

赤煉瓦と白磁の壁の教会へ辿り着きシスターに厩舎(きゅうしゃ)に案内され、ヒッポグリフ達を休ませると、遅れて来たケレブリエルさん達と共に応接室に通された。

部屋を見回し視線が止まったのは一冊の聖書。さり気無く中を斜め読みをしていると、ある一文に目が止まる。

「・・・魔を封ぜし異界の門?」

これってウァル様の仰っていた魔界の門?

私が聖書を見て小首を傾げていると扉を開き、カソックを身に纏った男性が私達に声を掛けて来た。

「遠路はるばる、ソフィアとレオニダをお連れ頂きありがとうございます。私の名前はダンテ・ザナントーニ。司祭を務めさせて頂いております」

その声に驚いて本から顔を上げると、海豹(シール)の獣人である司祭様が穏やかな笑みを湛えながら、開いた聖書を覗き込んで来た。

「おや?熱心ですね。何か気になる事がおありですか?」

「異界の門と言うのが気になって・・・これって開いてしまったらどうなります?なーんて・・・」

ザナントーニ司祭の眉間には深い(しわ)が刻まれ、大きな黒いヒレ状の手を顎に当てた。

不味い質問だったかな・・・?

「有り得ないお話ですが、もし開いたのなら溢れる瘴気で魔物は狂乱し、汚染された世界は(たちま)ち、死の大地に変わると伝えられています・・・。しかし何故、その様な事を?」

それは、貴方がたの神様から知らされたからです・・とは言えないよね。

でも、司祭様の言葉が確かなら今までの魔物に関する事なども合点がいくかもしれない。いずれにしろ背筋が凍るような思いがするけれど。

「すみません、好奇心で・・・あはは」

「なるほど・・・。しかし、ウァル様は精霊の力と繋がる龍脈をたった一柱で管理する偉大な神。興味を持ち知ろうとする事は信徒として当然の務めと言えるでしょう」

異界の門と死の大地に魔物の狂乱・・・後者が胸にひっかかる。たしか、ソフィアさんの母方の一族は魔物であるセイレーン。自国でもそれらしい事象はみられたけど・・・

しかし、良く調べられていない現状じゃ確証が持てない。レオニダを帝都に送る仕事もあるしどうしたものかな・・・

「ところで、近くの海域で船が魔物に襲われたのだけれど、何かご存知かしら?」

ケレブリエルさんは司祭様の顔を見て尋ねると、シスターが振る舞ってくれたお茶を一口飲む。

「それは、よくご無事で・・。教会(われわれ)も自警団と協力していますが何分、難しい問題でして」

ザナントーニ司祭は白く太いひげを掻き、困り果てた顔をした。

そこで、ガタリと空気を遮る様な音が静かな部屋に響く。

「今考えるべきはそんな事じゃ無く、帝都へ向かう事じゃないか?お前達の仕事はこの僕を護衛する事だ・・・ひっ!」

「あらあら・・・」

今まで大人しくしていたが我慢の限界が来たのか、レオニダは勢いよく立ち上がったものの、ケレブリエルさんに睨まれて小さく悲鳴を上げる。いったい、ケレブリエルさんに何をされたのだろう・・・

「ふ・・・ふん、教会や自警団だけで駄目なら水の祭殿にも協力を求めればいいだろう?」

「それが、水の祭殿に協力を求めようにもセイレーンの住処が近い為、祭殿の在る小島へ渡れないのだよ」

「なら、将来も有望なこの僕がいってやる。歌なんて耳を塞いでいれば大丈夫だろ」

レオニダは司祭様に向かい、強がり息まく。

「それはなりません、レオニダ様!お命に関わります!」

テイラーさんは真剣な面持ちで、主であるレオニダを強く口調で叱りたてついた。

「ハリスン・・・帰国したら父上に報告させて貰うからな」

レオニダはテイラーさんを一睨みしてそう言うと、不機嫌そうな顔をし椅子に座り込んだ。


その後、私達はソフィアさんと別れ、レオニダ達と共に大きな宿屋で部屋をとり休む事にした。

しかし翌朝の事だった、ドンドンと部屋の扉を叩く音とテイラーさんの声で目が覚めた。

「大変です!坊ちゃんが!レオニダ様が居なくなってしまわれました!」

それは私達にとって正に寝耳に水の話しだった。

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