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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第二章 風の国「エリン・ラスガレン」
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第18話 風は澄み渡り緑は萌える

多くの妖精達が舞い踊る中、情報を求め取引をしていた事が嘘のように静寂は訪れ、私達は風で枝が薙ぎ葉が擦れ合うのを聞きながら木々と戦の痕跡(こんせき)が残るその場に立ち尽くしていた。

・・・蜜に守護者。愛し仔が妖精にとって魅力的で重要な存在である事のみが判明したのみだ。

「その愛し仔ってヤツは何がしたかったんだろうな・・・」

「うーん、たぶん・・・私達にこの件を解決させたかったんだと思う」

まるで私達が世界樹の為、風の精霊王の為に動いていた事を知っていたみたい。

「あ゛?なんで俺達が関わってるなんて知ってんだ?もし、んな事あるとしたら監視でもしねぇと無理だろ」

ダリルは半ば呆れた様な声でそう言うと、自分の頭をクシャクシャと掻き(むし)る。

「監視・・・・・考え過ぎかもしれないけどそれ、当たりかも」

愛し仔は妖精を自由に指示が出来る・・・それはつまり。

「ハハッ・・・マジかよ。俺も森へ逃げるまで警戒していたが、つけられた覚えは無かったぞ」

「いい?あくまで推測だけど・・・ごく当たり前に私達の傍にいて決して不自然じゃないものであり、愛し仔に使える存在と言ったら?」

「・・・・妖精か」

どうやらダリルも合点が言ったようす。

「ともかく、相手の目的や敵味方が不明な以上は慎重に対応すべきだと思う」

「めんどくせぇな・・・」

そう悪態をつくとダリルはポキポキと手をならす。

いったい、愛し仔は何時から私達を見ていたのだろう。そもそも人なのだろうか?

疑問に首を捻る私達に応えるものは無く、考え事をしていると背後から人が近付いてくるような気配がした。



************************************



振り返ると祭殿から此方へと歩いて来るイズレンディア部長とフェリクスさんの姿があった。

「すまないが、アイナノア殿下がお呼びだ。オレの後を付いて来てくれ」

そう告げたのはフェリクスさん。その背後に立つイズレンディア部長は戦いの後に現れた時に比べ若干、顔色が良くなってきているようだ。

暫く言われるがままに祭殿に入り、黙ったまま人気のない廊下を四人で歩く。

そこで沈黙を破ったのはイズレンディア部長だった。

「クルニアを尋問したんだが、困った事に研究所内で逃走した不審者の事を知らないとの一点張りでな」

イズレンディア部長はチラリと私達を一瞥(いちべつ)する。

どうやら、研究所の廊下での短い逃走劇の事を憶えているらしい。まさか・・・

「それは不可解ですね」

「そ・・・そうだな、その二人が早く捕まると良いな」

ダリルは思わず目を泳がせる。

フェリクスさんは私達をへ視線を動かし、苦笑いを浮かべていた。

「なるほど・・・・」とイズレンディア部長は低く唸る様に呟く。

「それは自白と受け取っていいのか?私は不審者が()()いると告げた憶えが無いのだがな」

「・・・・チッ」

墓穴を掘ってしまったダリルはバツが悪そうな表情を浮かべ、イズレンディア部長の問いかけに頷く。

それに私は呆れつつ、恐るおそるイズレンディア部長へと問いかける。

「私達を不法侵入で捕らえると言う事でしょうか?」

「そうだな・・・これは動機に関わらず国同士の問題に発展する可能性がある。侵入をしたのは()()指図だ?」

つまりはカーライル王国の諜報員(スパイ)と思われているって事!?

「違います!これは・・・」

そう言いだしたその時、フェリクスさんに肩を掴まれた。

フェリクスさんは小声で「お兄さんに任せて」と私の耳元で呟く。

「申し訳ございません。貴国の重要な機関へ無関係の者を侵入させたのはオレの独断であり、国も彼女達も無関係です。責任ならオレが償わせて頂きます・・」

フェリクスさんは真剣な面持ちでイズレンディア部長の目を見据える。

そんな!私達の勝手な我儘なのにフェリクスさんが・・・

「・・・・ふむ、そう言う事か。無関係の者を侵入させる事は看過しがたいが・・・。国を救ってくれた事を(かんが)みて不問としよう」

イズレンディア部長は私達の顔を一瞥すると、先程までの硬い表情を崩し、安堵をする私達を見て口角を上げる。何故か反応を楽しんでいる様に見える気がするのは気のせいだろうか。

「それでは・・・」

「ああ、アイナノア殿下にも可能性があると報告したが、君達を罪を問うどころか感謝の言葉を贈りたい仰っている」

その後、長い回廊を通り、王女様の待つ祭殿の奥の間に通され奥の間へ通された。

そこでは緊張する私達に対し、クルニアの起こした事件を解決への助力への感謝と、女王陛下から城へと招待されている事が告げられた。

勿論、断る訳にもいかず私達は承諾をし、諸々の事情を話した後、城へと向かう運びとなった。



*************************************



「なぁにが、お兄さんは忙しいからお前らだけで言ってこいよだ」

ダリルは苛立ちながら急遽、街で用意した礼服に戸惑い、動きにくそうにしている。

私も司祭様の手伝いから戻ったケレブリエルさんからドレスを貸してもらい、初の王族との謁見と言う事で作法や言葉使いなどを簡略的だが教わりもした。

「あら、二人ともお似合いよ」

ケレブリエルさんは瞳と同様の緑の美しいドレスに身を包み微笑む。

その容姿は実に美しく女性らしく、つくづく世の中は不平等だと自分を見て痛感した。

「ぐぬぬ・・・・」


白と淡い緑を基調とした城内は、世界樹と風の精霊をモチーフとした美麗な装飾が施され、どこか神秘的な雰囲気を(かも)し出していた。

「お待ちしていました、どうぞ此方に。アグラレス女王陛下がお待ちです」

案内役の人に導かれ、一際豪華で重厚な扉がゆっくりと開いていく。

私達の目の前に広がる謁見の間は花々に彩られ、兵士や貴族達から注がれる視線を潜り抜けると、宝石が散りばめられた玉座には銀の花冠とアイナノア殿下と同じ蜂蜜色の髪をした、美しい女王陛下の姿があった。傍らにはアイナノア殿下と護衛の騎士が控えているのが見える。


「其方達がこの度の件を治めた英雄か。話はアイナノアからきいておる」

跪く私達に対し、鈴の音の様な透き通った声で問いかけられる。

私は緊張のあまりに乾く口から、如何にか声を絞り出した。

「は、はい。アメリア・クロックウェルと申します。しかし・・・英雄とは恐れ多いいお言葉です。私達は自身の為に行動したまでで・・・」

一瞬、私の言葉を聞いて女王陛下の目が見開かれる。

「・・・謙遜はよい。この度は我国の名誉を侵害しかねない由々しき事態。この国を治める者として心より感謝する。真に大儀であった」

女王陛下は目を柔らかく細め、私達へと微笑みかけてきた。

「ありがとうございます・・・。勿体なきお言葉を賜り、恐縮でございます」

私達が深々と頭を下げると、「面を上げよ」と声がかかる。

女王陛下が手にしていた扇を閉じると、侍女がワゴンに何やら布を被せたものを乗せて運んできた。

布が剥がされると、そこには大きな布袋が三つ。手渡されるとズシリと手にその重みが伝わって来る。

「この度のお前達の働きへの褒美だ。お前達は冒険者と聞く、存分に今後に役立てるがよい」

「はっ、お心遣い感謝いたみいります」

私がお礼の言葉を言うと何故か女王陛下と目が合ってしまった。

「ふむ・・・お主、良い瞳をしているな。流石はエドガーの孫と言ったところか」

「えっ・・・祖父をご存知なのですか?!」

不味い・・知っている名前を聞いて思わず大声を出してしまった・・・

その様子を見て女王陛下はクスクスと笑い声を上げた。

「祖父に会う機会が有れば、大戦での友人が宜しく言っていたと伝えてほしい」

「はっ、畏まりました」

祖父が種族戦争の英雄とは知っていたけれど、まさかエルフの女王陛下と知り合いだとは。

その後、心の内では驚愕しつつも謁見は(つつが)なく終わった。

帰りがけに研究所の前を通った所、イズレンディア部長に呼び止められる。

所長にはあの挙動不審なケビが就くとのこと。

そして結晶獣の研究にいたっては今後、風の祭殿と協力し世界樹の樹液の塊である琥珀を代用する事で続投するとの事だった。



**********************************



「金も入ったし美味いもんでも食いに行くかー!」

緊張から解き放たれ解放されたダリルは先陣を切って街を掛けて行く。

「うふふ・・・元気ね」

「やれやれ、何やってんだか・・・」

ちなみに女王陛下からの報酬は何と恐ろしい事に大金貨五枚、二~三ヶ月は遊んで暮らせる金額だ。

正直、生まれて初めての大金に本気で手が震えた。

「アメリアちゃーん、お疲れだったね。何か奢ってくれる?なーんて」

フェリクスさんとは城門の前で合流していた。

「年下にたかるな屑!」

キレるダリル達を眺めていると、誰かが私達の下へ走って来るのが見えた。

「約束の日に間に合うか心配していたが見付けられてよかったよ」

「ランドルさん!どうし・・・」

それはお世話になっているギルドマスターだった。

「君達、帰りの護衛の仕事を忘れていないだろうな・・・」

「いいえ~、そんな・・」

すっかり忘れて冒険ついでに豪華な打ち上げをしようとしてたなんて言えない・・・絶対に!

「それじゃあ、仕事があるから失礼する。切符は渡しておいたからね!」

ランドルフさんは戸惑う私達の手に乗船切符を押し付け、再びどこかに行ってしまった。

嵐のような再会の後、切符を確認すると出発は明日の朝となっていた。

「あら、偶然ね。私も明日の船に乗るのよ」

「「「へ?!」」」

ケレブリエルさんの突拍子もない言葉に私達の声が重なる。

「そちらの国に久しぶりに会いたい人もいるし・・・アメリアさんの()()も聞いていないしね」

そう言えばあの戦いの最中にそんな約束したっけな・・・。

ふいに天を仰ぐと一陣の風が吹き、私は思わず(まぶた)を閉じる。

鼻腔を(くすぐ)る甘くも爽やかな香りに瞼を開け、見上げ私の瞳に映った物は、視界を埋め尽くすような白く美しい満開の世界樹の花だった。

*ここまでお読み頂き有難うございました。以上をもって2章終了となります。

*引き続き3章を投稿させて頂く所存ですので、宜しければ引き続き宜しくお願い致します。

*1章の2話(第3部)と3話(第4部)の誤字報告をして頂き有難うございます。

*早速、ご指摘いただいた箇所の修正をさせて頂きました。

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