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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第二章 風の国「エリン・ラスガレン」
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第11話 邂逅と探求

情報量は乏しく、犯人の特徴に関する事柄が不明瞭な事が幸いしてか、私達は無事に街外れ付近にまで辿り着いた。

それが油断を招いたのだろう、一人の憲兵が私達を訝しむ様な表情を浮かべ見つめると、ゆっくりと歩いてきた。

「突然、申し訳ございません。少しお伺いしたい事があるのですが、お時間を頂いても宜しいですか?」

そう丁寧な物腰で声を掛けてくる憲兵は、硬い表情を崩し柔和な笑みを浮かべる。

「えっ、はい」

「有難うございます。では、失礼ですが皆さまは我が国へはご旅行で?」

「ええ、そうですけど」

怪しまれない様に気を付けつつ返事をしたが、一体どうやって切り抜けようか・・・。

「いやー!オレたち兄妹は()()、この国に到着したばかりなんですよー」

フェリクスさんは大げさな身振りをしながら私を庇うように前へ出て来た。

え、兄妹?!

「え、あ・・・はい?」

余りの勢いに憲兵は嫌疑と困惑の入り混じった複雑な表情を浮かべている。

フェリクスさんはニコリと微笑み、私を抱き寄せ耳元で「オレに合わせて」と呟く。

「お兄ちゃん、早く行かないと夜になってしまうわ」

「そうだねアミィ、でももう少し待てるかな?ダニーも待ちきれなくても拗ねないでくれ、この兵士さんがオレ達に用が有るらしいんだ」

私達の突如始めた名演技・・・・もとい迷演技に困惑と戸惑いの表情を浮かべるダリルにフェリクスさんは視線を送る。

「ダニ・・・それで俺達に何か?」

一瞬、心底嫌そうな顔をするものの隠すと、ダリルは憲兵に向かい尋ねる。

「いっ・・いえ、失礼しました。では、楽しい旅になりますようお祈り申し上げます」

半ば勢いに押された為か戸惑いながらも憲兵は去って行く。

その背中を見ながらフェリクスさんは「お勤めご苦労様です」と手をひらひらと振っている。

この咄嗟の起点の良さは流石、最年長ってところね。

「有難うございます。おかげで助かりました」

「いやいや、このくらい大した事ないさ。お礼なら、もう一度、お兄ちゃんって呼んでくれれば良いよ」

フェリクスさんはニヤニヤと意地悪そうな笑顔で私の顔を覗いてくる。

「え・・無理」

「そりゃ、残念っ」

「・・・遊んでないで行くぞ」

ダリルはそう吐き捨て、私をフェリクスさんから私を引き剥がす。


「それじゃあ、いこう・・・かっ?」

やれやれと思いつつ視線を移したところ、勢いよく誰かと衝突する。

「すまない・・・っ」

そう言うと衝突した相手はフードを深く被り、覗かせていた黒い髪を覆い隠し走り去る。

「何だよアイツは」とダリルが呟いた後、走り去った人物と同じ服装をした人物が倒れていた私を引き上げてくれた。

「申訳ありません!失礼しますっ」

その人物も慌ててフードの人物を追う様に私の横を走り去っていった。

「なんだろ・・・」

「さあな・・・」

暫く進むと慌ただしく足音が響いてくる、また衛兵かと物陰から見ていると通り過ぎたのは見覚えのある制服を着た兵士。カーライル王国の制服だ。

「なんだ・・・こんな街中で?」

「フェリクスさんは何か知らないんですか?」

「うーん、オレも全ての事情を把握している訳じゃないからね」

フェリクスさんは頭をかきながら首を捻る。

その後、太陽が真上に上る頃には私達は大きな問題は無く街を抜ける事に成功した。



***************************************



宿の朝食の余りをくすねて来たもので昼食を済ませ、森の入り口まで辿り着くと、ケレブリエルさんと予想外の早さで私達は再開を果たした。

「あら、今日はお客様が多いいのね。さっきも貴方と同じような子が来ていたわ」

同じような子?疑問はともかく要件を伝えるのが先決だ。

「今日はケレブリエルさんの言葉を証明するものを持ってきました」

ケレブリエルさんは驚きの表情の後に浅く溜息をつく。

「・・・着いて来て。話は屋敷でしましょ」

ケレブリエルさんは長い銀糸の髪を風になびかせ、私達に背を向けると森へと歩き出した。


案内されるがままに進むと、見覚えのある屋敷が見えてくる。

応接室に通され椅子に腰を掛けるとカップが並べられ、花の香のお茶が注がれる。

「さて、お話を聞かせて貰おうかしら?噂好きの妖精達は屋敷から出ていって貰ったから安心して」

「それじゃあ・・・」

テーブルの上に世界樹の根の破片とアルラウネの召喚結晶を取り出と、結晶獣となったアルラウネを呼び出した。その姿にケレブリエルさんは表情をこわばらせると「こんな事に手を出してるなんて」と呟き項垂れる。

「解ったわ、事によっては私も協力するつもりよ。全てを話して貰えるかしら?」

それを受けて私達は城の研究所の地下にクルニアの事、そして宿への襲撃や嘘の情報による憲兵による捜査などなどを掻い摘んで伝えた。


「なるほどね・・・犯人以外は概ね予想通りね。でも、無警戒に話すけど良いのかしら?」

「え?」

「・・・その様子じゃ考えていなかったってとこかしら?」

「アイツは昔からあー言うやつなんだよ」

ボケっとする私を見てダリルが茶々をいれて来た。

「どういう意味よもう・・・。今回の件で今まで聞いた貴女の言葉は嘘を言っていないと思ったからです」

私がそう言うとケレブリエルさんは自嘲する様な笑みを浮かべる。

そして、軽く息を吐くとゆっくりと席から立ち上がり、私達を一瞥し顔を引き締めた。

「移動ばかりで申し訳ないんだけど、私の後を着いて来てもらえるかしら?」



言われるがままに着いて行った先は床に巨大な魔法陣が描かれた部屋だった。

ケレブリエルさんは戸惑う私達を手招きすると、魔法陣の中に入る様に誘導する。

「大丈夫、これは唯の転移魔法陣よ」

平然と言われたが、正直言って私達は魔法陣自体、初めて見た。そりゃあ、緊張するってものよ。

「イムグワエウダムベス・・・」

恐るおそる全員が魔法陣に乗ると、静かに詠唱が始まり、風の渦が私達を包み込んで行く。


暫くすると転移が終わったのか、耳に木々のざわめきが聞こえ、落ち葉が頬を(くすぐ)る。

「わわっ!」

ゆっくりと瞼を開けると、深い闇が広がる大きな空洞が目の前に広がっている。

場所を把握しようと見回すと、頭上に世界樹の大きな幹と根が広がっているのが見えた。

しかし、其れより目につくのが空洞の入り口に積まれた土の山、一部が剥がれかけた樹皮と緑の葉に混ざる枯葉。

「・・・世界樹が枯れかけている?これはどう言う事だ?」

ダリルは初めての転移に未だに足元が浮遊感が抜けないようでふらふらと歩きながら、世界樹を見上げている。

「これは点在する、奴等が根を掘りつくした跡。いくら街から外れているとはいえ、風の祭殿付近にまでこんな事をしでかすなんてね・・」

ケレブリエルさんは空洞を一瞥し、眉をしかめるとスタスタと再び歩き出す。

先程の言葉から察するに風の祭殿を目指しているのかな?

「ところで・・・行先を教えて貰って良いかな?」

フェリクスさんは黙って歩き出すケレブリエルさんを呼び止め尋ねた。

「・・・風の祭殿に。其処に両親と祭殿関係者がいるから相談に行くつもりよ」

やはりと言うか、ケレブリエルさんは風の祭殿の関係者だったのね。

街中でイズレンディア部長と言い合っていた言葉の真意の根幹はそこから(もたら)される情報に基づいていたのか。

「なるほど、それは助かります。クルニア達の悪行を懲らしめるにしても策は必要と感じていたので」

「そう・・なら急ぎましょう」

ケレブリエルさんの後を追い、森を抜けて行くと、道が土から石畳に変わって行く。

徐々に見えてくる祭殿の姿を木々の合間から見ながら、此れから話し合う事について思案する。

あの時、クルニアの言っていた『あの男』とは誰なのだろう?

イズレンディアの腰巾着と言う話から、彼は除外されると思うけれど・・・



*************************************



歩き続け訪れた風の祭殿は世界樹を背に建てられた荘厳な造りの建物だった。

その周辺には大きな琥珀色の石の様な物が祭殿を囲むように四方に置かれている。

「さあ、ついたわ」

「あそこの石は何ですか?」

私は琥珀色の其れを指さす。

「あれは世界樹の樹液が硬化したものを魔力で加工したもの。祭殿を守る結界の媒体よ。魔力の影響で変容し加工し易いからこの祭殿でも色々な魔道具に使用されているわ」

「んな重要なもん、ペラペラ喋って良いのかよ」

「ふふっ・・この事を喋った所で、この祭殿の守りは揺るぎないわ」

「へぇ、それは頼もしいな」

そんな話をしながら四人で祭殿に入ると、中では慌ただしく人が行き来しているのが見えた。

まさか、何か緊急事態?

「これ如何したのかしら?」

ケレブリエルさんは通路を走る治癒士の女性を呼び止める。

「それが・・・魔研のイズレンディア殿が血塗れで祭殿付近で倒れている所を発見されたのです」

え?嘘?何故、イズレンディア部長が!?

*作品をご覧いただき、ありがとうございました。次回も引き続き月曜更新の予定です。

*ブックマークの登録、ありがとうございました。本当に感謝しております。


どうかこれからも宜しくお願い致します。

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