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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第二章 風の国「エリン・ラスガレン」
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第10話 包囲網は広がっていく

幾ら平和的に解決できたとは言え、宿の宿泊客に迷惑をかけてしまったわけで、当然の如く次の日には宿を出る羽目になってしまった。やはりと言うか何というか・・・

「まあっ、深夜に追い出されなかったのは温情だな」

ダリルは申し出を受けた例に出された飲み物を一口飲むと呟いた。

「ごめんなさい、宿が・・・」

「なぁに、宿は此処だけじゃないから気にしないでくれ。ちょっと上への連絡を済ませば問題ないって」

フェリクスさんは落ち込む私の頭をポンポンと優しく叩く。

「んな事より、明日からどうするんだ?狙われてるなら何処の宿も同じじゃねぇか」

「そうだな、今回の件でオレも十中八九、お仲間だと認識されただろうしな」

「んー、それなら当てが無いわけじゃないかな?」

そう言って私が思い浮かべたのは深い森に住まう銀のエルフ。

結界の張られたあの森なら追手を逃れられるかもしれない。

「ギルドマスターのとこか?」

「んー、そこも考えたんだけど・・・。もっと、最近知り合った人かな」

「あの森のエルフところだったりして?」

フェリクスさんはおどけたような顔をしながら訪ねてくる。

私はフェリクスさんの勘の良さに驚き目を丸くする。

「え?マジ?当たっちゃった?」

「それにしても、(いささか)か強引じゃねぇか?」

「まぁ、そこは当たって砕けろよ!さあ、もう遅いし部屋に戻りましょ!」

行き当たりばったりなのは承知だ。

私は呆れたり苦笑いを浮かべる二人を背に部屋に戻った。駄目なら野宿でも何でもするわ。



**************************************



その夜、不思議な夢を見た。

深い森の奥で私は空を覆う程の枝を伸ばした大樹を見上げている。

「・・・世界樹?」

その瞬間、一瞬で幹は枯れ、茶色く変色した葉は地に落ちる。

それに困惑している私の前に緑の髪に背に蝶の(はね)を生やした少年が姿を現す。


「これは近いうちに起きるかもしれない未来でもあり起きないかもしれない未来。剣よお前は本気でオイラを本気で救うつもりなのかい?」


そう呟くと少年の姿はぼやけて消えて行く。しかし、その姿には覚えがあった・・・

「風の精霊王様?!」

そう叫び伸ばした手は空を切る。枯れた世界樹も落ち葉も無い、広がるのは朝日が差し込む宿の一室だった。

「夢・・・?」

とりあえず二人を待たせちゃいけない。

ベッドから飛び降り、身支度を済まし荷物をまとめて階下の談話室へと向かう。


「はぁー・・」

フェリクスさんが溜息をつきながらラウンジのソファに座る姿が見えてきた。

しかし、ダリルは何故か姿が見えない。


「あれ?どうなされたんですか?」

「やあ、おはようアメリアちゃん。今回の件は全面的に手伝う事が出来る事になりそうだよ」

「それはとてもありがたいお話ですけど・・・どうかしましたか?」

上の方に連絡すると言っていたけど、如何にもフェリクスさんの元気が無い。

すると、少し離れた宿の入り口の扉が乱暴に開き誰かが近づいてくる。

「大方、素人を城に入れたのがバレて任務を外されたか何かだろ?」

宿に入り、此方に近付いて来たのはダリルだった。

「な・・・」

「な・・・」

「「何やってるんだー!」」

襲撃を受けたにも関わらず、呑気に単独で外に出ていた事に声を揃えて責め立てると、ダリルは眉間に皺を寄せ、煩わしそうな表情を浮かべながら首を捻る。

「何って・・・朝の走り込みだよ」

「アンタは警戒心は無いの?!」

「大丈夫だ、人通りの多いい所を走ったが、誰も追ってこなかったぜ」

「そう言う問題か?まあ、ともかく朝食を済ませて宿を出ようか」

なんだかフェリクスさんに理由を上手くはぐらかされてしまった様だ。

ダリルの言った通りだったらと考えると申し訳ない様な複雑な気持ちだけれど。

「なんでお前がしきるんだよ」

「ん?最年長だから?」

何時ものへらへらとした笑いを浮かべると、フェリクスさんは食堂の方へと歩いて行く。

ダリルも「まっ、外に怪しい奴の気配はなかったぜ」と私に対して去り際に呟くと食堂に向かった。

見回りしてくれていたなら素直に言ってくれれば良いのに。


何にしても先ずは朝食ね。流石に肉無しでも慣れて来た気がする。私の胃袋はどうやら順応するのが早いらしい。

たっぷりのクリーミーなアボガードとラタスとトマテに甘酸っぱいソースがかかった絶品のパンにコクのあるポタトの白い冷製スープ。良い朝になったわ・・・


そんな穏やかな空気を壊すような知らせがもたらされる。

「おい・・・これ」

食事を済ませてご満悦な所でダリルが慌てた様子でテーブルに一枚の紙を置く。

「あんた、勝手に宿の張り紙を破いてんのよ」

紙の四隅が引き千切られたようになっているのを見て私は思わず溜息をつく。

よくよく見てみると絵と複数の文字が書かれている、どうやら瓦版らしい。

「良いからここ!見てみろよ」

ダリルはその記事の一部を指で何度も指をさして突く。

「何々・・・」

「魔法技術研究所にて強奪事件発生って・・・・」

私と一緒に瓦版の記事を覗き込んでいたフェリクスさんが私達をゆっくりと首をこちらに向け、苦笑いを浮かべる。

「・・・はっきりとした人相は不明。犯人の特徴は研究所所長の証言によると、オレンジの髪の男性ともう一人は髪は黒で小柄な事から恐らくは女性ではないかと思われる・・ね」

こういう具合に簡単な犯人の特徴も書かれており、証言から予想した絵が添えられていたが下手な為、似ても似つかないものだった。

「それだけじゃないぜ」

「宿の襲撃犯を釈放?!」

「これと言って被害者や盗難も無い為・・」

確かに何も盗まれてはいない。でも・・・

「まあ、これと言って()()()や実害が無い以上は追及は不可能って事だな」

そう言うとフェリクスさんはカップに入ったお茶を一口飲む。

「私達以外はアノ結晶獣を見ていないからかな・・・」

「だろうな、コカトリス(あんな危険な結晶獣)なんか国の許可が下りる訳ねぇし証明できないからな」

ダリルは眉間に皺をよせ悔しそうに言うと舌打ちをした。

「何にしろこうなった以上は今すぐ出る必要があるようね」

「まあまあ、此処はなるべく気取られない様に速やかにかつ自然にね」

フェリクスさんは緊張して表情が強張る私を宥める様な口調で話すと、ウィンクをしてきた。

「チッ・・自分は殆ど関係無いからって余裕ぶってんじゃねぇよ」

そう言うとダリルは一人で立ち上がり出口へ歩き出す。


「まったくしょうがない奴ね」

「それじゃあ、オレ達も行こうか子猫ちゃん」

「はぁ、何を言ってるんですか・・・」

相も変わらずな態度をとるフェリクスさんに呆れるけどおかげで少し緊張が解れたかも知れない。

「・・・・腰に手を回すのは止めてくださいね」

「痛だだだっ!」

私は後ろ手にそっと手を伸ばし、腰に回されたフェリクスさんの手の甲を抓りあげた。



****************************************



宿を出ると瓦版に書かれていた影響か、外には衛兵の数が多いい気がする。

それに気が付いた私達は慌てて裏路地に逃げ込む。

「昨晩の襲撃者は私達の後をつけていて顔も特定されている筈なのに、記事に載っていたのは何故、犯人の特徴をぼやかした様な内容だったのかしら?」

「そりゃあ、襲撃者(アイツら)からの情報は公にできないだろうし、出所を探られる訳にはいかないってとこだろ」

「お、デコ助は鋭いな。お兄さんが誉めてやろう」

フェリクスさんはダリルを見ながらニヤニヤと笑っていた。

「馬鹿にすんな!」

何時もの調子で口喧嘩をしようとした二人へ私は静かにする様に手で合図をおくる。

そこで冷静になったのか、どうにか二人は溜飲を下げてくれた。

「そうね、ダリルの言う通りだとしたら襲撃者は暗殺と強奪、衛兵は予防線ってところかな」

「・・・多分ね。まあ、何にしろ無事に目的地に着くのが先決だよアメリアちゃん」

「馬車は・・・・まっ、駄目だろうな」

「そうだね、御者さんから行先がわれてしまうかも。これで、徒歩は決定ね」

ケレブリエルさんの住む森は王都の外れ、馬車でもかなりの時間が掛ったのを思い出す。

追手に気を使いながらの長距離の移動はかなり気疲れしそう。


「敵は衛兵だけじゃねえし、もしも昨日の奴等につけられたりしたらフェリクスを盾にして逃げるぞアメリア」

「ねぇ、酷いと思わない?アメリアちゃん!」

フェリクスさんが必死に抗議をしながら私の傍に寄って来る。

「いい歳した大人が年下の女に泣きついてんじゃねぇよ。気持ち悪ぃな」

またもや始まる犬猿の仲。私には二人が現状を正しく認識している気がしない。

「貴方達ねぇ・・・」

無言でわなわなと震える私の拳は二人の鳩尾(みぞおち)に綺麗にきまるのだった。

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