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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第二章 風の国「エリン・ラスガレン」
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第7話 求めし真実は其処に

私は呼吸を軽く乱しながら廊下を小走りに進む。

取り敢えず柱に隠れて立ち止まり深呼吸をし、思惑通りに行った事を私は喜び口角をあげた。

そこに背後から不意打ちのような声がかかる。

「おい、どうするんだよ逃げちまって」

「気配を殺して近づくのやめてよ・・もう」

「お前、存外怖がりなんだな。あんな奴、ガツンと一発殴ってやりゃ良いのに」

ダリルは声を潜めながら、拳を前後に振る。

「馬鹿ね、此処は王城の敷地内よ。それに今の私達の服装がカーライル王国(どこの)ものか忘れて無い?下手すれば投獄どころか国同士の問題に発展しかねないわ」

町の人にはもう、カーライルの兵士だと誤解されちゃったよね・・・

「・・・・」

ダリルは此方を見ながら苦笑いを浮かべる。

「それと、飛び出したのは研究室を抜け出す切っ掛けを作っりたかったの」

「だけどよ、それを言うならこの服のまま散策するのも不味いじゃないか?」

「そうね、取り敢えず・・・」

私の着ていた制服が、バサリと音を立て地面に落ちる。

「ちょ・・まっ!何やってんだよ!」

「なに顔隠してるのよ。下に着ているに決まっているじゃない」

「何考えてるんだろ」と思いながら呆れていると、ダリルの手がゆっくりと下がって行く。

フェリクスさんの入れ知恵で、事前に制服の大きさが合わない事を利用して私服を下に着ておいたのは正解だったみたい。


「私服来てたのかよ・・・・。じゃあ、俺はこうするか」

ダリルは上着を脱ぎ、シャツを着崩す。二人ともは着ていた物は目立たない様に裏返し、腰に結び付けておいた。

隠れながら歩いていると、何やら研究員らしい人達が布が掛けられた重そうな荷物を息をきらし、よろけながら運んでいるのが見えた。

「何かな・・・」

「おい、付いて行くぞ」

ダリルは立ち上がり、その後を躊躇(ちゅうちょ)なく追いかける。

こう言う時のダリルの行動力は見習うべきかもしれないと思った。


そうやって追跡をする中、後ろから声を掛けられた。

「お前達、何者だ・・・何をしている?」

突如かけられた威圧感の有る低い声には聞き覚えがあった。

「イズレンディア部長・・・」

しかし彼は私達と距離がある為、どうやらハッキリと視認できていない様だ。

研究員を追跡できずに焦る気持ちを抑え、平静を装い振り向かずに二人で研究員の曲がった廊下の角を曲がり、近くの部屋に入り息を殺し扉にもたれ掛かる。

苛立つような足音が私達の背後で響くと、それが遠のいて行くのを感じた。思わず二人で安堵し、へたり込んでしまった。



**************************************



飛び込んだ部屋は上品で落ち着いた色調の調度品が整えられ、重厚な造りの大きな机には書類と幾つかの魔結晶が転がっている。

「誰か偉い人の部屋に入ってしまったみたい」

「だな、平の研究員の制服じゃないな」

遠慮なしに部屋を探り出したダリルは質の良い布で作られ、不思議な文字が刺繍された一着の制服を此方に投げてくる。

「これって・・・」

「袖でも捲っとけ、私服より目立たないだろ」

「確かにそうかも・・・」

誰の服なのかは判らないけれど私は服の上から着用する。袖をめくっていると、床に汚れた大きな布が落ちているのに気が付いた。

部屋は綺麗なのに何で汚れた布が・・・・?

私が小首を傾げているとダリルが何だなんだと覗き込んでくる。

「何を見ているんだ?」

「汚い布が落ちているのよ」

私がそう言うと、ダリルは布をめくり舌を覗き込む。

「ふぅん、気になるが何にもなさそうだな」

「そっか、それじゃあ他の部屋に行ってみよう・・・かっ?!」

立ち上がろうとした所で布が靴の裏に絡まり足を掬われる。

しかし、よろめき倒れまいと伸ばした壁に私の手がつく事は無い。

何故なら、私の体は軽い反発の後に壁の中に飲まれてしまったのだった。



*************************************



「痛てて・・・っ」

私は気が付くと薄暗い石造りの冷たい床の上に転がっていた。

立ち上がり入って来た筈の背後の壁を叩いてみるものの、先程の様に飲み込まれる事は無く、ただ硬い壁を叩く音が響くだけだった。

「どう言う事だろう・・・」

そう思案している私の向かい側の壁からガンガンと数回、壁を叩くような音がする。

恐らく音を出している張本人はダリルだろう。

つまり、この壁の向こうは確かに先程の部屋が存在すると言う事だ。しかし、何故か急にその音が鳴りやんだ。そして・・・

「まさか壁にこんな仕掛けが有るなんてな」

ダリルが勢いをつけて飛び込んで来た。

「つまりは叩くのでは無く衝突するのが鍵・・・単純だけれど隠し扉だなんてきな臭いね」

壁に掛けられた松明の明かりを頼りに辺りを見回すと、地下へ続く階段があるのに気が付く。

「だなっ、どうする?無関係で藪蛇だったらごめんだぜ」

ダリルは暗い階下を一瞥すると、私の表情を窺う様に見つめてくる。

「・・・・何処を調べるか手掛かりが無い以上は此処を調べてみるのも有りだと思う」

「くくっ・・・やっぱりか。じゃあ、取り敢えず覗くだけだ」

「そうね、慎重に行きましょ」


滑りやすい階段を薄明りを頼りに降りて行くと、石を積み上げた壁の細い通路が続く。

所々に何やら細い根の様な物が飛び出していた。

そして、通路の先から光が漏れ、私達の耳に何かを叩き付けるような大きな音が繰り返し響いてくる。

「人が居るな・・・」

ダリルは私に対して小声で言うと、少しずつ明かりの方へと徐々に歩を進めていた。

「こんな場所でこんな音って・・・ツルハシ?鉱石でも掘っているのかな?」

「いや、そんな硬いものじゃ無い様だぜ・・・」


先行していたダリルに手招きされて進むと、そこは予想外の大きな空間が広がっていた。

そして、ダリルが言っていた「硬いものじゃない」の意味が確りと理解できてしまう。

「世界樹が・・・根が・・・」


石壁の隙間や街中に張りめぐっていた根とは比べ物にならない複数の根がフードを被った男達によって斧で削ぎ取られている光景が広がっていた。

ケレブリエルさんの言っていた事は本当だったんだ・・・

「しかも、地下か・・・どうりでな見付からない訳だ。何が愚の骨頂だふざけるな」

「待って、世界樹の根が伐られているのは判ったけれど、結晶獣の材料にされていると言う決定打は無いわ」

「・・・・もしかして、この先に進むのか?」

「勿論よ、私達の証言だけじゃ証拠にならないもの。情報源を追及されてお終いよ」

「はぁ、お前・・・慎重にはどうしたんだよ」

ダリルは溜息をつくと、呆れ顔で私に答える。

こんな物を見た以上はケレブリエルさんが正しいと絶対に証明したい。

根を伐る斧の音が幸いしてか、気付かれずに物陰を移動する事ができた。山積みにされた世界樹の根から破片を掠め取ると、その山に隠れながら見上げる。世界樹の根は切り落とされた部分が腐敗し、変色した部分が広がっている。


その時、何人かいるローブ姿の男達の中の主導者が近くの頑丈そうな箱を指さし、部下に何かを支持している。何か大きさには覚えがある気がするけど・・・

すると、箱はゆっくりと開かれ、長い緑の蔦の様な髪と同系色の肌を持つ女性型の魔物が猿轡(さるぐつわ)を噛まされ、ロープで引きずられながら出て来た。

「ふはははっ、アルラウネか面白い。此奴の声は人を殺め、その能力は富を与える。これを実用化すれば我が研究所の・・・ゆくゆくは魔法省の大臣の座も陛下より頂けるかもしれないな」

主導者の男が高笑いしながらそう述べると、如何にもと言った感じで部下が作業の手を止めて賛同する。

「おい、アレを持ってくるのだ。先ずは此れで邪魔な男を引きずり下ろす礎を魔法省に贈るとしよう」

「はっ!ここに」

部下の一人が世界樹の根を主導者に差し出すと、それを受け取った主導者は(おもむろ)に怯えるアルラウネの胸に突き立てた。

私は其れを見て眉をしかめる。

「・・・・っ、無抵抗の相手に。しかも人型は違法じゃないの?」

「我慢しろ、出た所で俺達には何もできないぞ」

ダリルに腕で制されて、私は思わず奥歯を噛みしめる。


根を突き刺され苦しむアルラウネに対して主導者は何やら呪文を唱え始めた。

すると、美しい緑の肌と蔦の髪は見る間に萎れて行く。

しかし最後の悪足掻きか、アルラウネは髪を生き物の様にうねらせ主導者に襲い掛かる。

だが、それは風を巻き上げ主導者のローブのフードを掠め、床には根に絡め取られた魔結晶が結晶獣を呼び出す召喚結晶として転がっていた。

「そんな・・・あの人は!」

ハラリと裂けた主導者のフードから現れた顔は少し前に見た意外な人物だった。

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