第13話 焔の駆け引きー善なる神の憂い編
町は温泉による療養に集まる人々や、その人々を相手に品々を売る商に旅籠などで賑わっているらしいがそれを上回る賑わいを見せるのが、年に一度行われる朱華神社で行われる鎮火祭らしい。
此処に祀られるのは竈や囲炉裏の火を通し、民を見守る火の神であるカエン様。
神社を飾り付け、祭壇を設けるなどして火難が起きぬように祈る大祭なのだそうだ。
「シュカジンジャって・・・随分と色鮮やかなのね」
炎等をを現す配色と金の細工、黒い瓦屋根とヒノモトらしい荘厳な造りの社は美しい。
朱色の門、鳥居の内側では神職の方々に混じり町民らしき人々が何かを運びながら忙しなく走り回っている。
「朱華神社だ。相手は神様だぞ今、そんな片言で大丈夫か?」
ヒューゴーは嘲笑しながら私の顔を見上げると、神社の名前を正しく発音できた事を誇るように鼻を膨らませる。
種族の関係で外見から年齢は計り知れない、彼らは其れを利用して人を欺く所が有るが、長く付き合っていれば扱いも慣れてしまう。
「ありがとう、気を付けるよ。そう言えば明日のお祭りの名前は解る?」
「はあ、そんなの当然だチンカサ・・・う、チン」
ヒューゴーは私の反応に不満げにするが、祭りについて訊ねると動きが止まり、間が空くにつれて額からじわりと汗が滲ませる。
視界の端にコウギョクの何とも言えない悪い笑い顔が見える、ヒューゴーが舌をかんだ所で小馬鹿にしたた声が聞こえてきた。
「朱華神社の鎮火際じゃ!良いか、神どうしの対話の際に妾に恥をかかすで無いぞ」
念を押すようにコウギョクは私達に扇を突き付けていく。
如何やら、コウギョクは私達にヒノモト語を教えてくれているつもりらしい。
「まあまあ、コウギョク殿。皆はここに来て間もない故、此方が助け舟を出せばよかろう」
ヤスベーさんはコウギョクの振る舞いに慣れている為か、諦め交じりの苦笑いを浮かべながら宥める。
「そこが甘いのじゃ、あの娘みたいに罰を与えられたくないなら気を使うべきじゃ」
納得いかないと言う顔でコウギョクは食い下がる。
そこで静かに見守ていたシルヴェーヌさんがコウギョクの姿を見て頷いては微笑んだ。
「あー、つまりコウギョクは華エン様を怒らせて罰を与えられる事が怖いのデスネ」
暫し、シルヴェーヌさんを見つめては固まり黙り込むコウギョク。
どうやら図星だったらしい。
ヒノモトに来て一月は経つ、そろそろ独特の単語を真面に喋る事ができるように努力しないといけないな。
「まあ、御尤もだよね。そう言えばカンザ・・・簪を差して来たんだね」
「ふふん、似合うじゃろ?宣伝にと思ったのじゃが、周囲の者どもを自然に魅了してしまう妾は罪な女よのう」
コウギョクは大きな耳を立てると、簪を挿した自分の姿を見せつける様にひらりと舞う。
そして自分の姿を通りすがりに見てくる人々の視線に悦に浸った表情を浮かべていた。
「そ、そうでござるな。はっはは・・・」
コウギョクと目が合い、ヤスベーさんは困ったような曖昧な笑みを作る。
それを肯定と受け取ったのか、コウギョクは上機嫌な様子で自分に酔いしれ始めた。
「強いて言うなら微笑ましいって所だろ」
ヒューゴーはそう面倒くさそうに吐き捨てると、朱華神社の境内へと視線を逸らす。
ザイラさんはそれに頷き笑うと、面白そうにコウギョクとヤスベーさんの顔を覗き込んだ。
「ふっ・・・だねっ!もっと言えばヤスベーが父親でコウギョクがそれに甘える娘ってとこじゃないかい」
「ち、父親・・・」
ヤスベーさんは驚愕の表情を顔に張り付けたまま硬直する。
「あの、ヤスベーさんは如何したの?」
「みなまで言うな、奴は春告げ鳥が鳴くのを待っているのじゃよ」
コウギョクは瞳を遠くを見る様に逸らすと、何処か憐みの表情を浮かべる。
言葉の意味が解らずに首を傾げると何か赤い光が視界の隅に瞬く、熱風が押し寄せて毛先を焦がすと赤い髪の小さな子供がコウギョクの簪を掠め取った。
「・・・コウギョク!」
「おのれ、小童!それは妾の簪じゃ・・・うう、待たぬか!!」
私の叫び声にコウギョクは素早く扇を開くが、風は起きても木の葉の一枚も出てこない。
小さな子供はそのまま簪を握り締め、火花を散らしながら大人の足元を擦り抜けて境内に入っていく。
「あれは人じゃないわね・・・」
「こら!祭りの準備故に、本日の境内への立ち入りは禁止されている!」
慌てる私達の行く先を祭りの支度をしていた町人が阻む、その股座を潜り抜けていく子供を追おうとするが怒声が浴びせられた。
「悪いの!妾はお主の相手している暇はないのじゃ!」
思わず出鼻を挫かれる私達など構わずコウギョクは怒り任せに町人の脛を蹴る。
くぐもった声にならない悲鳴を上がり、悶絶しながら地面に崩れ落ちる町人の横をコウギョクは私達を待たずに擦り抜けていった。
「ぐううう、何て事だ、この多忙な時に!」
僅かに目尻に涙を浮かべながら立ち上がろうとする町人だが、如何にも身動きはできない様子だが何とか不審に思っている私達を引き留めようと手を伸ばす。
「あのー・・・」
シルヴェーヌさんは自分の足首を掴む町人を見て困惑しながら眉尻を下げながら見下ろした。
「お前が母親か!」
シルヴェーヌさんを逃がすまいと町人は声を荒らげる。
茫然と見下ろしていたシルヴェーヌさんだったが、コウギョクにより騒がしくなる境内に気付くと笑顔のまま懐から何かを取り出した。
それを拳で包み町人の目前に差し出すと、弾ける様な音をたてながら握り潰す。
プチンと何かが弾けたかと思うと、指の隙間から霧状の何かが散り、町人の顔に吹き付けられた。
シルヴェーヌさんは袖で口元を隠し、町人が地面に倒れて高鼾をかくのを確認すると振り向くなり微笑んだ。
「親切なこの方が特別に立ち入りを許可してくれるそうデス」
シルヴェーヌさんは何事も無かったようにそう言うと、周囲を見渡しながら急かしながら手招きをする。
今、キューブを割って薬を使った?
「し・・・親切は素直に受けないと逆に失礼よね」
何にしろ効果は火を見るよりも明らか、僅かな罪悪感から一瞥すると、何とも幸せそうな顔で眠りこけている。
「当然だろ!」
ヒューゴーは耳を境内に傾けると短く呟き、此方を待たずに朱華神社に向かって走っていく。
「・・・ささっ、拙者達も急ぐでござるよ」
ヤスベーさんは細かい事を考えるのを破棄した諦めの表情を浮かべると、物陰から手招きをするヒューゴーの後を追う。
コウギョクが勢いのままに引っ搔き回してくれたくれたおかげか、作業を行う者を残して見張りは手薄になっている。
最奥の門の前まで思いのほか早く辿り着いたが門を潜り抜けた途端、行く先から火柱が上がると一瞬で静まり返った。
背筋に詰めたい物が滴るのを感じ、思わず全員で顔を合わせる。
「ほう、狐の飼い主はお前達か?その祭りを乱す傍若無人な振る舞い、この華焔姫命が許さないぞ」
炎の如く赤から橙へと色が移りゆく波打つ長い髪、刺繡が施された紅白の着物は両袖が捲り上げられており、ザイラさんと似た筋肉質な腕をしている。
その姿はまさに食事処で見た絵に画かれていた火の神そのもの。
宙に浮かぶ透ける様な布が腕に巻き付いており、その指先にはイスズに作って貰った簪が握られていた。
気付けばその姿に気を取られていたせいか、周囲を囲まれて退路は完全に断たれている。
これは如何切り抜けたら良いのかと、周囲の人から突き刺さる凍てつくような視線を受けながら息を呑む。
「飼い主ではありませぬが、ある方の命を受けて共に旅をしている者でござる」
ヤスベーさんは顔を引き締め意を決した表情をすると、出す情報や言葉を選ぶように慎重に神の質問に答える。
カエン様の赤銅色の目が怪しく細められ、その視線は簪へと向く。
「ほう・・・。では、此処じゃ話しにくかろう、色々とお前達の話を聞きたくなったついてこい」
指先で転がされる簪についた砕けた火の魔結晶が光を反射し、此方に戻された視線は有無を言わせない圧倒される疑念が籠った物だった。
此処でその緊張に満ちた空気を壊し、一人の強者がカエン様の前へと歩み出る。
「華焔様!不敬を承知で申し上げます、何処の骨とも知れぬ余所者を本殿に置くべきではありません。今直ぐに外へ摘まみ出すべきかと・・・」
行き成り祭りの準備の最中に飛び込んできたのだから当然の反応だろう。
カエン様に接触はできたが罰については聞けずじまい、如何した物かと焦りを感じるとカエン様は煩わしそうに男性を見た。
「宮司よ不敬な事と端から理解しているのなら、お前は儂に命令をする立場にないと弁えろ」
実に人が思い描く神様らしい威厳のある物言いと振る舞い。
有無を言わせぬ迫力に宮司さんは息を呑み、顔を一気に青褪めさせる。
「大変申し訳ございませんっ!!」
宮司は酷く慌てながら額を地面へと擦り付け、死にそうな声で謝罪を口にする。
「ふん、人払いをしろ」
その声に人々は騒めき、蜘蛛の子を散らすように離れていく。
カエン様は其れを見て顔を顰める、ゆっくりと此方を振り向くと空を見上げた。
奇怪な鳥の鳴き声、黒い翼の群れ、その中心には日の光を背に屋根の上に立つ翼人の姿が目に留まる。
「魔・・・鬼がっ!」
魔族と言いかけて慌てて訂正しながら鳥の群れに目を向ける、異界から空いた穴の影響がこの極東の島国に短期間で続けて表れるなんて。
故郷に思いを馳せて震える唇を引き締めると、カエン様は慣れた反応で眉を顰めるては腹立たし気に溜息をついた。
「成程、カラスめ・・・また人を喰らったか」
カエン様の目はけたたましく鳴き声を上げ続ける有象無象のカラスでは無く、魔族を見上げては腕に掛けた浮かぶ不思議な布を炎に変えた。
赤く燃える布を引き抜くと、カエン様はそれで空を扇ぐ。
空を舐めるように宙を扇ぐ炎は空を赤く染めると、威嚇するカラスの声が全ての音を呑みこんだ。
焦げた獣の臭いが漂い、空は灰色に染まるが、何かが羽搏く音が聞こえて煙は急激に形を変える。
白む視界の中にぼんやりと浮かぶ赤、私はカタナを抜くと空に注意を払いながら目印を頼りに駆け出す。
カエン様を視界に捉えると、煙の中から黒い翼と鋭い嘴が突き出してきた。
「・・・っ、危ない!」
咄嗟にカエン様の前へ飛び出す、ともかく何がなんでも神様を傷つけまいと必死にカタナを握り煙に紛れて急襲する魔族の額にカタナを振り下ろす。
胸の奥から湧きあがる力が体を流れ、カタナが白く輝く光に包まれた。
「があぁっ!!」
一際、悍ましい悲鳴があがると魔族は傷口を抑えながら黒い羽根をまき散らし、痛みに悶えながら地面に転がる。
風が吹くと灰と煙が散り、視界はゆっくりと明瞭となるとカエン様の冷たい視線が突き刺さった。
「神域での抜刀は禁忌となるが此度ばかりは、その勇敢さに免じて見逃してやる。されど、次は無い良いな?」
大将が討たれ、逃げようとするカラス達は発火し、境内を出る事無く灰燼へと帰す。
その顔には感謝など微塵も無く怒りの感情が滲んでいた、神域で禁忌を犯す重みをひしひしと感じた。
これはただの警告ではない。
「御許し頂き感謝いたします」
一緒に話を聞いていたヤスベーさん達の反応は様々、さすがに神様の御前だけあって不満を口にする者はいなかった。
深々とお辞儀をしながら謝意を示すと、表情は相も変わらずだが幾分か周囲を包む熱が冷めたように感じる。それでも未だに意味ありげに睨まれている気がした。
それにしても、簪がカエン様の手元に有るのならコウギョクは何処に行ったのだろうか。
「そこな娘、仲間を連れて儂の社に来い」
カエン様は不愛想にそう告げると、炎が揺らめく様に長い髪を揺らしながら私達に背を向け、地面に敷き詰められた小石を踏みしめながら社へと歩いて行く。
「ほら・・・此処は大人しく付いて行こうぜ」
ヒューゴーが苦笑しながら小脇を突いて来る。
「そうね・・・」
何処か見透かされ、後戻りも許されないだろう事態に足が重く感じた。
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「ふん、月の神の信徒がよく日乃本まで来たものだ。発言を許可してやる、何か申し開きをして見せろ」
カエン様は私達を入り口近くに座らせると、祭壇の前で立ち止まりドカリと胡坐をかいて座り込んで此方を指さした。
如何やら月の神の信徒とは私達を示している様だが、どの様な意味が有るのだろうか。
けれどもその呼称に覚えが無い訳では無かった、思い浮かべる記憶の中に食事処で見た絵が浮かび上がった。
食事処の女主人であるカナの話の中に確か、月の神と日の神と言う名前が挙がっていた事を思い出す。
日の神がヒノモトの最高神を現す比喩なら、月は自然と女神様を意味すると推察できる。
つまり姿を変えようと、神様の前では通用しないと言う事だ。
人祓いをしたのは町民を護る為か、それとも人知れず排除する為だろうか。
これは、反応を試されているのかもしれない。
カエン様は迂闊に発言できずにいる私達を見て愉快そうに目を細め、口角を吊り上げる。
「如何した?お前達の目的を言ってみろ」
「コウギョクの・・・次代の狐護の神様の継承の議の手伝いに同行させて頂いております」
俄かに信じられまいと喋らずにいたが、この際は明かしてしまった方が下手な誤解を生まないのではと判断した。此処で、下手に害意は無いと必死に弁論したところで逆効果に思える。
おかげでヤスベーさんの視線が刺さり気まずい。
然し、弧護と言う名前に思わぬ反応が返ってきた。
「奴は森ごと消失した、今や五行の木属性は戻らぬもの思っていたが・・・」
カエン様に思わぬ知人の名前を耳にしたような驚きの表情が垣間見えたが、次第に険しくなっていく。
聞き慣れない木属性や五行と言う言葉に、西国との違いに私達は戸惑う。
「落ちた大地にて弧護様に出会い、私達はそのカンザシの持ち主を次代の一柱と選ばれるのを目にしました」
カエン様は私の話にカンザシを指先で遊ばせていた手を止めた。
「確かに神気は感じる・・・。然し今の日乃本を支える守護神と呼ぶには到底無理ある。火に水に土、そして木と金とあるが、そこの妖狐が加わった所で力不足だ。寧ろ、半端な神力はいらん」
カエン様そう吐き捨てると、不機嫌そうにフンと鼻を鳴らす。
その肩に掛けた長い布が燃え上る、そこから先程の子供達が弾けるように飛び出してきた。
「何と、簪を盗んだ童ではないか?!」
あまりに突然の事に驚くヤスベーさんを赤髪の不思議な子供達は嘲笑し、くすくすと笑い声をあげると社の奥へと消えていく。
「アヤツ等は儂の式、火の子だ。懐かしい神気を感じた為に誘き寄せさせたが、とんだ見当違いもよいところ。今直ぐ自国へ帰れ、この機を逃せば次は無いやもしれないぞ」
私達の目標を無謀と打ち砕くように言葉を紡ぐと、カエン様は先程の高圧的な態度と裏腹に寛容な態度を示してくる。
それでも命令に従わずに硬直していると、火の子達が寝ているコウギョクを担ぎながら走ってきた。
慎重に私達の前まで来ると、ゆっくりと床に寝かせる。
「力不足?危機感があるなら何であろうと加えるべきに決まっているじゃないのかい。コウギョクをアンタが必要しなくても、仙台に託されたんだアタシ達は何があっても今は帰りゃしないよ」
ザイラさんは私達が顔面蒼白になる中、蟀谷に血管を浮かべると腕を組み、カエン様に啖呵を切って見せた。
カエン様はそのままザイラさんと睨み合うと、此処で初めて声を上げて笑い出した。
「くくくっ、威勢ばかりが良い者ばかりだな。何故、そこまでして狐を神にしたいと言い張るのか。儂には理解に苦しむ。だが・・・良いだろう今の弧護りの森を知れば諦めがつく」
カエン様は目を覚まし、ゆっくりと起き上がるコウギョクを見下しては苦笑する。
「な・・・何を言う。妾は邪な神が封じられた世界に落ちた後、弧護様より直々に神命を託されたのじゃぞ」
コウギョクは勢い良く立ち上がると眩暈に足元をふら付かせ、扇を振り回しながら声を張り上げる。
「邪な神・・・成程な、こ奴等は荒魂の地より連れてきたのか」
カエン様の瞳が邪神と耳にして冷やかな物に変わる、凍り付く空気の中でまたもや荒魂と神話に出てきた言葉が飛び交う。
ヒノモトの神話と此方の神話の繋がりの可能性を思考を巡らせながら、弁解する前に誰かが憤怒しないか見張るが時は既に遅し。
「馬鹿者!早合点するとは何事じゃ」
コウギョクの手が怒りでぶるぶると振るえ、今にも殴り描かんばかりに手を振り上げたのを目にしたので反射的にその手を掴んで引き留めた。
「・・・コウギョク、大丈夫だから」
「この不名誉、晴らさずにはいられぬ・・・二度と社の外を目にする事は叶わないぞ」
コウギョクが必死に訴える言葉に、カエン様の発言の意図を察する。
浴びせ掛ける言葉の数々で此方を煽り、不穏分子として私達を排除する大義名分を引き出そうとしたのではないかと。抑えられたコウギョクは私の手から逃れようと藻掻いている。
情に厚いのは素晴らしいが、如何せん喧嘩を売る相手が悪い。
「異国の者に好き放題ふみ荒らされる事は決して快い物では無いでしょう。然し、私達はコウギョク達に恩を返さねば帰国する事はできません」
「この拙者の魂に賭けて、彼女達は日乃本を穢させないと誓うでござる」
ヤスベーさんは腰に下げたカタナの留め紐を解くと、納刀したまま見せつける様に床に突き立てる。
ゆらゆらと揺れるカエン様の炎の羽衣は、心情を映すかのように荒々しく燃え盛った。
「儂に目溢しをしろと言うか、人間風情が神に指図するとは愚かだな・・・。そこまで強情であるのなら好きにしろ、情けぐらい掛けてやる。ただし、条件を呑んでもらおうか」
カエン様は怒りと呆れが綯交ぜになった煩わしそうな顔。
「その条件はどの様な物でござるか?」
ヤスベーさんはカタナを腰に下げ直すと、カエン様は捧げ物が並ぶ祭壇の前をゆっくりと歩く。
木製の台座には円錐状の土、水瓶に葉野菜、瓢箪が並ぶが、最奥の大きな台座には紙が敷かれているだけで何故かなにも置かれていない。
「そうだな・・・昨年はとある娘に祭りの捧げ物を火にくべられてしまい鎮火は叶わなかった。期日は明日、とある魚を祭りが始まるまでに用意できなければコウギョクとやらを認めない。違えれば此の約束は反故とする」
まさかの食事処の店主から火を奪った理由を知り言葉を失うも、名誉を挽回させる機会を設ける事ができそうだ。これだけは僥倖に思う。
コウギョクの神力に天鋼村へ恩返しの為とはいえ思わぬ寄り道となってしまった、ただの気楽な旅の筈の旅路はますます厄介になってしまった。
本日も当作品を最後まで読んで頂き誠に有難うございました。
武器も手に入り、ライラさんから預かった装飾品の問題も解決した所で厄介な神様に絡まれて
お使いを頼まれましたとさ。
東西の神話の関連性、そして紅玉は無事に御揚げにありつけるのか。
次回までゆっくりとお待ちください。
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次回も無事に投稿できれば、9月22日20時に更新いたします。




