第13話 焔の罰ー善なる神の憂い編
多くの人々が忙しなく行き交う雑踏の中においても、誰もが振り向く程の轟音が街に響いた。
「ぐぅーぐこぉぎゅるるる」と魔物の鳴き声に似た凄まじいコウギョクの腹の虫が空腹を訴えている。
コウギョクはヤスベーさんに背負われ、ぐったりと身を預けていた。
空腹で術が使えずないと言う所に神様候補として一抹の不安が過るが、これは口にせずに呑み込んでおこうと思う。
御揚げを求めてヤスベーさんが思いつく限りの食事処を周っていたが見つからず、暫くすると前方が急に騒がしくなった。
「このクソガキ!ちょろちょろと邪魔なんだよ!」
「へへっ、そんなで財布は大丈夫かよ」
容赦なく罵倒されようとお構いなしに、人混みを掻き分けながら現れたのはヒューゴーだった。
「くそっ!冗談だろ?!」
罵倒をした住人は慌てて立ち止まり、自身の服をまさぐり出したが財布を確認できたのか此方に逃げてきたヒューゴーを顔を赤くして怒り出した。
「申し訳ない、よく言って聞かせますので・・・」
ヤスベーさんはヒューゴーを襟首を掴んで捕えると、頭を押さえて共に謝罪をした。
「ああ、わかりゃあ良いんだよ」
ヒューゴーはそんなヤスベーさんの判断に不満があったのか、謝罪を受け入れて立ち去る住人の背に向けて舌打ちをする。
「チッ・・・」
これは流石に看過できないと、ヤスベーさんの拳がヒューゴーの脳天に落ちた。
だが、間もなくすると叱られたのも何のその、ヒューゴーは得意げな顔を私達に見せつける。
「それで飯屋なんだけどよ、数軒みつけたぜ」
ヒューゴーはヤスベーさん顔色を確認する様に一瞥すると、私達へと視線を戻す。
「そうか、では御揚げを使った料理を見つかったのでござろうか?」
ヤスベーさんはそれに頷き、此処で肝心な事を訊ねる。
すると、じわじわとヒューゴーの額に汗が滲んできた。
ヒューゴーは暫く黙り込むと、わなわなと肩を震わせて開き直った。
「んな、細かいところ見てられっかよ!」
「なんだい、気が利かないねぇ」
ザイラさんは呆れ顔を浮かべながら軽口まじりに言うと、私達を見て肩を竦めた。。
「んだと!調べてやったんだから、皆で店を当たればいいだろう」
ヒューゴーはザイラさんを面倒くさそうに見上げては鼻で笑う。
吠えるヒューゴーの声に、ぐったりとしていたコウギョクが顔を上げると煙たそうに睨んだ。
「うっさいぞ・・・往来で騒ぐではない妾にはよ、御揚げを献上せよ」
「あのなぁ・・・」
このまま此処で騒いだら、役人を呼ばれかねない。
ヒューゴーがコウギョクに何か言い切る前に私は言葉を遮った。
「二人とも、後ろが詰まっているわ。ともかく、ヒューゴーの言う通りに店を当たりましょう」
この私の言葉にヒューゴーは見方を得たと強気な態度を取り戻す。
「ほら、コウギョクの上から目線が気に食わねぇが、とっとと行こうぜ。早くしねぇと店が閉まっちまう!」
「むむっ・・・なるべく早く頼む」
こうしてコウギョクは力なく態度を改めるのを聞き、ヒューゴーの案内の許に店を周る事にした。
どこも食欲がそそられる良い店だったが、結果は芳しくなかった。
「天ぷらに温泉卵に饅頭に蕎麦、見事に全て外れでござるな。せめて、寿司屋があれば・・・」
ヤスベーさんは困ったように首を言寝る。
「此処は山間の町じゃ、海の物など着く前に腐ってしまうわ。油が使われているなら、売っている店があっても可笑しくはないんじゃがのう」
コウギョクはせめてもと用意されたアマザケと言う飲み物をヤスベーさんに買ってもらい、チビチビと少しづつ味わっている。
「もう少し粘ってみマス?」
シルヴェーヌさんは自身が持つ薬を確かめると手を止め、心配そうにコウギョクの顔色を窺う。
恐らくは、効くかも不明なうえに西側の薬を此処でどうどうと使うのは流石に憚られるからだろう。
「そうでござるな・・・」
「もう、腹に溜まれば何でも良いだろ?ほれ、マンジュウって言う物らしいぞ」
何時の間に買ったのだろうか、ヒューゴーはマンジュウを差し出す。
ヤスベーさんは困ったような顔をすると、マンジュウを受け取りコウギョクに見せるとオアゲじゃないからと拒否すると思いきや、手ごと食べそうな勢いで一口で食べてしまった。
「これでは歩けても、ただの術は使えぬ。御荷物になってしまうのが悲しいのう」
御腹は満ちてきたのか顔色は良くなったが、さり気にヤスベーさんの背中から下りるのが面倒と言う本音が透けて見えなくもない。
「・・・さっきから思ってたけどよ、その元気があるなら歩けるだろ?」
此処でヒューゴーだけは腹立たし気に直球でコウギョクに釘を刺す。
「ああ、ひもじいのう・・・」
コウギョクはその言葉に慌てて、顔をヤスベーさんの背中に埋めてか細い声で呟く。
然し、それを咎めたのはヒューゴーでは無かった。
「紅玉殿、礼を欠く行為はいただけないでござるな」
ヤスベーさんは低く落ち着いた声で、コウギョクを咎める。
コウギョクは暫くヤスベーさんの方に顔を埋めていたが、少し顔を上げてヒューゴーを見ると「感謝する」と小さく呟いた。
そんな騒がしい三人を眺めていると、複数の店舗の中から一軒の古い建物が目に付く。
見る限り、鍋や私には用途不明な金物が数多く並んでいる様子。
「あの、此処ってタンジさんの手紙の届け先じゃないですか?」
タンジさんからは手紙と共に、簡単に描かれた地図を渡されている。
それを取り出しては、今まで歩いてきた道と思い出しながら比較してみると、位置も書かれた店の名前も一致していた。
皆の視線が私の手元に集まる、皆で考え込み間が空き、ゆっくりと顔を上げて確認する。
近くで見ると地図の通り「よろづ金物」と書かれた看板はくたびれており、小さな鍛冶場の横には農具や鍋など生活に必要な物が並んでいた。
「何か、埃を被っているけど・・・」
手紙を持ってきたのは良いけどこの店は大丈夫なんだろうか。
店に並べられた鍋に手を伸ばす、それはヒノモト式の口が広く底が浅く鉄製で木製の蓋がついている。
「それに触るな」
店の奥から低く威圧するような声がしたかと思うと、髪を適当に結い無精髭を生やした壮年の男性が出てきた。
男性はキモノをだらしが無く着崩した姿で私達の前で立ち止まると視線を泳がせた後、鋭く私達を睨んだ。
「どーせ、お前らも盗品を売る店と冷やかしに来たんだろ?買う気が無いなら失せろ、今日はもう店じまいだ!」
そう乱暴に言い放つなり男性は包丁を手を伸ばすと、私達に見せつける様に見せつけてきた。
ヤスベーさんは静かに私に下がるように合図をすると、私と包丁との間に割り入る。
切っ先がヤスベーさんの喉元で止まると、男性は顔を顰めて僅かに腕を引いた。
「店主殿、拙者達は冷やかしではござらん。前村長殿の亡き後、心を入れ替え復興した天鋼村の村長殿からの言伝を預かり、拙者達は其れを届けにまいったのでござる」
ヤスベーさんが差し出す手に、タンジから預かった手紙を差しだす。
それを目の前に突き付けられるよりも早く、店主の顔は見る間に赤く染まった。
「なら余計にだ!とっと帰れ、盗品が売れるほど此の村は腐っちゃいねぇ!」
店主は腕を振り上げたまま堪える様に動きを止めると、包丁を地面に叩き付けるように振り下ろす。
ヤスベーさんはその腕を掴んでは捻り上げた。
「八百万に神は宿る物、如何なる理由があれど粗末な扱いをしては罰が下りましょうぞ」
ヤスベーさんの腕から逃れようとする店主に淡々と窘めると次第におとなしくなり、怒りに震えていた拳から力が抜ける。
「わ・・・解った!放せ!」
店主は屈辱を顔に浮かべながら、弱々しい声でヤスベーさんに放すように懇願する。
ヤスベーさんはそれを耳にすると安堵の表情を浮かべ、掴んでいた店主を解放した。
「おい、そいつ刃物を振るって来たんだし役人かなんかに突き出さねぇのか」
ヒューゴーは店主を睨み、包丁がしまわれるのを確認するとヤスベーさんを見上げては眉間に皺を寄せる。
「些細な小競り合いに大袈裟な対応など、過ぎた処置は不要。牢獄になど入れば、生きて帰る保障などござらん」
ヤスベーさんはヒューゴーの言葉に首を横に振ると、淡々と身の毛もよだつ末路を臭わせる事を語る。
「おいおい、そりゃあどういう事だよ」
ヒューゴーは蟀谷から冷汗を流すと、信じられないと言った表情を浮かべては頬を引きつらせる。
ザイラさんは興味なさげに視線を泳がせ、シルヴェーヌさんの興味は既に金物店から付近の草に向いてしまっていた。
店主は疲れ切った様子で木戸を閉めると、店の前に置いてあった看板を裏返すと私達に目もくれずに背を向けて歩き出す。
「どこへ行くんですか?せめて・・・」
「飯屋へ行く。お前達も、とっと何処となりと行け!」
そう言って私の言葉を一蹴すると、店主は人混みに紛れていった。
*******
其処は質素だが落ち着く、良い雰囲気の店だった。
大通りを外れて辿り着いた小さな食事処、一人の女性が切り盛りしており、店主は入店するなりドカリと当然のように席に着き胡坐をかく。
「酒、それと冷奴を頼む」
食事処の女主人は注文を受けるなり「少々お待ちを」と短く答えると会釈をし、足早に店の奥へ消えていった。
さり気なく出された小鉢を一口摘まんでは店主は不機嫌そうに窓へ視線を逸らす。
まもなくして食事処の女主人は陶器の小さな器に入った白い正方形の食べ物と、円柱型の器を金物屋の店主の前に並べた。
私達と店主達しかいない閑散とした店内で、コウギョクの興奮した声があがる
「絹のような白色、豆の香りが鼻腔をくすぐる。と、豆腐ではないか!?」
コウギョクの瞳は爛々とし、口は緩ませながら食事処の女主人の肩に掴み掛る。
私達に注文を訊ねようと近づいてきた食事処の女主人は突然の事にビクリと肩を震わすと驚き目を丸くした。
「は・・・はい」
「ならば、有るじゃろ?御揚げ!!」
唐突に何を言っているのか解らない様子で戸惑う食事処の女主人の顔を見ても尚、期待に胸を躍らせたコウギョクは食い気味に迫る。
「御揚げですか?」
然し、食事処の女主人はコウギョクが説明したものが何か判らないらしい。
その表情から、コウギョクの勢いにほとほと困り果てている様だった。
「豆腐を油で揚げた、黄金色の美しい美味なる物じゃよ!」
如何にかオアゲがどういう物か伝えようと必死に粘るが、その必死の訴えは悲しく空を切るが予想外の言葉が食事処の女主人から紡がれた。
「申し訳ありませんが、当店ではそのような品は御出ししておりません。豆腐は仕入れた物が有りますがその・・・ワタシは火が使えないので」
食事処の女主人の反応から御揚げが無い事はコウギョク以外は解っているので呆れ顔。
然し、最後の火が使えないの言葉に私以外も引っかかったらしき反応も見えた。
「なぬ!?豆腐があるのに御揚げが無いとな!」
「コウギョク止めなよ、店に迷惑だよ」
「むー!ふぐむむむ?!」
油揚げの事で頭が満ちていて聞こえて無かったのか、納得がいかずに食い下がろうとするコウギョクの口を手で封じる。
漸く静かになった所で、昼から静かに酒盛りをしていた金物屋の店主の机を叩く音によって再び場は騒がしくなってしまった。
「食うもんないなら、とっとと帰れ。娘の店は寄合所じゃねぇ、此れ以上は俺に何を言おうと渡そうと無駄だ」
金物屋の店主は視線を集めながら酒を呷ると、不愉快そうに眉間に深い皺を刻み凄んだ。
私達を追い出そうとする金物屋の店主との間に流れる凍り付く空気、それをザイラさんの大きな声が打ち消した。
「そうだねぇ、注文なしに居座れば何処だって迷惑だ。金物屋の娘さん、アタシ達は此処について間もない、オススメあったら人数分みつくろっておくれよ」
ザイラさんは金物屋の店主の意見に一理あると思ったのか何度か頷くと、不安顔の金物屋の娘に笑顔で料理を注文をする。
これで店を出れない理由ができた訳だ、ザイラさんは私達の尊敬の眼差しにパチリと片眼を閉じて見せた。
「は・・・はい!承りました」
突拍子も無い事態に戸惑うも、金物屋の店主の娘は嬉しそうに店の奥に小走りで引っ込んで行った。
金物屋の店主は其れをじっと見つめた後、呻きながら机に突っ伏し頭を掻きむしる。
「何で帰らない・・・」
髪を掻きむしる手を止めると、私達の姿を金物屋の店主はじっとりとした目で見上げてきた。
タンジの事を考えて説得を試みようと食事処までついてきたが、ここまで取っ掛かりが見つからないとはまいってしまう。
「今の天鋼村を見て欲しいからですよ。悪い噂は払拭するには先ずは今の村を知ってもらう必要が有りますし、それに新しい村長のタンジさんにはお世話になりましたから」
暗に退く気は無いと強気に出てみる。
失墜した信頼を回復するのは容易ではないが、今の目を塞いだままで頑なになられるのは困る。
それにしても、ここで前村長とサンダの悪行の影響の大きさを思い知らされるとは・・・
思わず頭の中に後ろ向きな考えが浮かんだところ、予想外の反応が返ってきた。
「何を売るつもりだ?」
金物屋の店主は、此方に手を伸ばして何か見せて見ろと催促する。
「カンザシですヨ」
まさかの発言に固まる私の横でシルヴェーヌさんがいそいそと、懐から一本の簪を取り出す。それを受け取ると、金物屋の店主は其れを受け取り指先で転がしだした。
「美しいな・・・だが駄目だ、俺の店には置けない」
うっとりと目を細めるが鼻で笑い、簪を机に置いて此方に突き返してきた。
「なんでだよオッサン!」
ヒューゴーは簪をつかみ取ると、空いた手で机を叩くが金物屋の店主は動じることなく淡々とした姿勢を崩さない。
「オッサンってうるせぇな、三矢だ。それ以外で呼ぶな、ドチビ」
ミツヤさんは揶揄われてヒューゴーの顔が怒りに染まるのを眺めると愉快そうに口角を吊り上げた。
短気な二人の間に火花が散った時、思わぬ助け舟が入る。
「もう、うちのお客さんに失礼な呼び方は止めて」
木製のトレーに数品の料理を乗せ、金物屋の娘が顔を出す。
「香菜は甘いんだよ。客に疎まれようと、店の風紀を乱す奴にはガツンと言うべきなんだ」
「もう大人げない・・・それは二人共でしょ!」
ミツヤさんの娘のカナさんは料理を私達の長机に並べながら、ヒューゴー庇いながらミツヤを睨みながら料理を私達の前に並べていく。
長机にミツヤさんが食べていたトウフを始め、野菜の漬物や生魚に温泉の香りの玉子とヒノモト料理が並ぶ。本当に他所で仕入れてきたと言う豆腐以外は火を使わない物ばかりだ。
「あー、悪かったよ」
娘に怒られて身動くミツヤさん。
「本当に聞いた通りの飯だとはな・・・」
ヒューゴーはげんなりとした顔をすると、物珍しい物を見る様に長机の上へ視線を泳がせる。
「ちゃんと人の気持ちを考えな」
「うぐっ・・・」
ザイラさんは申し訳なさそうにするカナさんを見るなり、ヒューゴーを拳で黙らせる。
ヤスベーさんは其れを見るなり騒がせた事を何度も親子に頭を下げて謝罪していた。
慣れない手つきで食事をしていると、壁にかけられた絵が目に留まる。
「この絵、不思議な雰囲気がしますね」
いがみ合うヒノモトの者とは違う容姿を持つ顔がよく似た男女が目をひく。
更に妙なのは女性側にのみ、ヒノモト側の人物達が見方をしている様子が画かれている事を興味深く思ったからだ。
カナさんはそんな私の様子に気付いたのか、目を輝かせながら急接近すると熱弁してきた。
「これは日乃本神話の一節を絵にした物で、海を越えて現れた月の神が、荒魂と和魂に分かれた際を現した物です。日乃本の神々が善なる神、和魂の味方をしたとされています」
「へぇ、神様が二柱に分かれてヒノモトの神様と協力したと・・・本当に神話が御好きなんですね」
聞いた事が無い話だが、何か此方側の神話と似ている気がした。
「え、あ、すみません!ワタシったら・・・」
私としては幾ら語られても迷惑に思ってはいないが、あまりに恥ずかしそうに何度も謝るので此方が恐縮してしまいそうだ。
「はあ・・・その内の一柱に祭事で失敗したぐらいで嫌われて罰を与えられているんだ、こんな物を何時までも飾っておいても胸糞悪いだろ?」
ミツヤさんは立ち上がると千鳥足のまま絵に近づき、壁から外そうと手を伸ばす。
神話の一節に画かれる神様に罰を与えられたと言うミツヤさんの発言に呆気に取られているとカナさんが叫んだ。
「止めて!華焔様は悪くないんだから!」
カナさんはミツヤさんの手首を必死に掴んで抑える。
「三矢殿、娘御は嫌がっておられる。無理に掛け軸を奪い取る事は感心できぬでござるな」
それを振り払おうとするミツヤさんの腕をヤスベーさんは掴んだ。
ミツヤさんは痛みに短く呻くと、絞り出すように訳を話しだす。
「此処の神のせいで、娘は苦労してんだ。それに店だって・・・」
神話に画かれるような神様を祀るジンジャがこの町にある事もそうだが、その罰を受けて店の命である火を奪われたと言う事に驚いた。
そのカエン様と言う神様の性格が苛烈なのか、相応の大罪を犯したのか。
ミツヤさんは父親として娘を心配している様に見えるが、如何に此方はこちらで行動や表現に難がある。
「娘の事を思うなら、そこまでにしておけよ。聞いているこっちも気分が悪ぃ」
捻り上げられていたミツヤさんはヒューゴーを一睨みすると、ヤスベーさんから逃れて入口の方へ身を翻した。
「・・・チッ、帰る」
代金を机に投げ捨てると、怒る娘に追われながら大股で歩いて行く。
「なんだあの糞オ・・・」
「止めなよ、今は食事中だよ」
悪態をつきかけたヒューゴーを指先で頬を掴み制する。
目の前の食器が見事に空になっている事に気付き失望した。
あまり喋らないと思っていたが、シルヴェーヌさんとヤスベーさん、そしてザイラさんが平らげてしまったらしい。
「悪いねっ、長々と語り合っている間に摘まんでいたらつい・・・」
ザイラさんは気まずげに苦笑する。
ヤスベーさんは気まずげに目を逸らしては急に立ち上がる。
諦めて空の食器を眺めていた頭を上げると、ヤスベーさんはカナさんに代金を丁寧に手渡す。
「香菜殿、厳しい中で食事を振舞って頂き心より感謝致す。お勘定を頼みたいのでござるが」
「は、はい、ただいま」
カナさんはパタパタと慌てた様子で伝票を手渡す。
料金を払い終え、全員で町を歩くとシルヴェーヌさんが不安そうに呟いた。
「日も傾き始めましたけど、そろそろ宿を探さなイト」
「そうでござるな・・・では、拙者が宿をとるとしよう」
ヤスベーさんは町中を見渡し始める。
「あの、その前に行きたい所が有るんですけど宜しいでしょうか」
「なんじゃ、食べ損ねたから飯屋かの?」
コウギョクは神力がない為か、何処か本調子ではない様子。
「いいえ、皆でカエン様に会いに行ってみませんか」
怒りで一人の料理人から、命でもある火を扱う術を奪う神様だ、十分な注意をする必要があるが行く価値はある。
カナさんの罰を免除してもらう、それがきっと天鋼村との信頼を取り戻す鍵となると私は睨んでいた。
本日も当作品を最後まで読んで頂き誠に有難うございました。
神話の話から、新たなヒノモトの神様との一悶着の予感。
これが唯の人助けに終わるのか?
それでは、次回までゆっくりとお待ちください。
**********
次週も無事に投稿できれば、9月15日20時に更新いたします。




