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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第9章 善なる神の憂い
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第11話 再誕ー善なる神の憂い編

サンダは食欲に支配されていた。

敵味方の分別もつけられず、本能のままに襲い掛かる姿はまさに魔物そのもの。

大きな口にから滴る唾液を顔に浴びようと、信仰してきた神に裏切られた村長は放心状態で動かずにいた。

タンジは奥歯を噛みしめると、大槌でサンダの背中に振り下ろが虚しく目測は外れてしまう。


「・・・っく!!」


タンジの絶望に満ちた顔を横目にサンダを退けようと走るが、村長の頭はサンダに加えられていた。

絶望に染まる瞬間、押し寄せる異臭と共に穢れがベッタリとサンダの目鼻を覆い尽くした。


「グア・・・!!」


サンダは村長を吐き出すと、唾液塗れの村長を放置して己の顔に纏わりつく穢れを拭い去ろうと床の上でもがき始めた。

暴れるサンダの腕を躱し、固まるタンジに檄を飛ばす。


「村長さんをお願い!」


タンジは私の声に一言も発さず、ただ目を見開くと唾液塗れの父親の体を突き飛ばすと大槌でサンダの顎を打ち砕いた。

あの中庭にある針葉樹が在る限り堂々巡りだが、これで取り敢えずはサンダの動きを封じられた訳だ。

然し、何時でも善意は感謝される物では無いと思い知る。

タンジは静かに村長に歩み寄るが、渡された手拭いを奪い取るなり眉間に深い皺を刻み、理不尽な言葉を浴びせ掛けてきた。


「余計な事を・・・我らの神の糧となる事を邪魔しおって!」


村長の拳がタンジの頬を打つ。

よろめきながらもタンジは、それでもゆっくりと体を起こすと、村長の頬を殴り返した。

拭いきれずに体に唾液がついていたのか、村長は床に体を叩きつけられると面白いほど床を滑り、衝撃で柱に叩きつけられた。


「宮司、貴方は正気になるべきです!あの鬼に踊らされてはなりません、異国の石を配した奇怪な樹木、何かおかしいと思いませんか?!」


タンジは赤く腫れた拳を震わせながら握り締めるも、真直ぐ村長を見ては僅かな希望に縋りつく様に懇願していた。

ふと鼻に着く異臭に気付き眉を顰めると、怖気と共に黒紫色の瘴気が漂って来る。


「正気じゃない?護る者に碌な恩恵も与えず、質素な生活を強いたうえに捨てられて祟り神なんぞに堕ちた幽霊の様な奴に傾倒する者が偉そうに言うな」


タンジに死の淵から命を助けられても村長の瞳から狂気は消えず、無言で耳を傾けるスイの姿を見て恐怖するも(そし)り、我欲からサンダを選んだ。

タンジは失望に顔を曇らせるも、何か決心がついたような表情をする。


天冴(あまさえる)鋼神(はがねのかみ)様は本尊を隠した者を処しに現れた、地の底まで堕ちのは貴方だ!」


タンジは一瞬だけ村長を見て固まると、拳を握り締めてから噛みつくように怒鳴りつけた。

崇めるものは違えど信仰する者への熱は、やはり二人は血筋の繋がりが色濃く感じる。


「ふん、大そうに振舞おうと儂を完全に否定する事はできぬか。お前は力なきアレに依存しているだけに過ぎない。この土地の繁栄を阻害する神など、壊す事も()かす事ができぬのなら封じる事が最適解ではないか」


村長は自身の考えを解さないタンジを嘲笑し、開き直りながらも顔に隠しきれない憤りが滲み出ていた。

タンジは村長が吐き捨てるように叫ぶ様に眉を(ひそ)め、大槌を堅く握りしめる。


「それに三田九郎神の御力で我が村で打つ武器は、いずれヒノモト中から我が村は必要とされる。そしてこの土地には人が集まり繫栄していくのだ。どうだ、今直ぐ考えを改めれば許してやるぞ」


そんな反論しない姿に優位と感じたのか、村長はタンジや私を見下したうえに、あまつさえ改宗を求めてきた。

その神と呼ぶ者が、ただの魔物化しかけている魔族だなんて思いもしないのだろう。

タンジは大槌で床を叩き割り、此処で漸く村長の顔から余裕が消える。


「確かに不変は進歩を止めてしまう、それは俺にも理解できます。けれど、衰退していくのは神頼みで自分達で努力をしなかった人間が一番の原因かと思います」


タンジは村長を痛烈に批判した。

その言葉に村長は顔を赤く染め、抑え込んでいた感情を発露させた。


「な・・・これだけ懇々と語ったと言うのに、お前は何を聞いていたんだ!」


それも束の間、沈黙を守り続けていたスイが村長へと穢れで軌跡を画きながら近づくのを見ると村長の顔が青を通り越して白く染まる。


「宮司よ、お前の意思はよく理解した。最後に話を聞かせて貰い感謝する・・・」


スイは私を一瞥し、村長の目の前で歩みを止めると不穏な目つきで見下ろす。

それを見上げて息を呑む村長だったが、我に返ると突如として唾液を飛ばしながら怒鳴り出した。


「こっ・・・この疫病神が、もう一度封じてやる!!」


村長は袖で口元を覆いながら、祝詞らしきものを呟きながらスイに接近しては火箸を担ぎ上げる。

それを床に突き立てる事により、引き抜かれたのは燃え上がるように赤い金属の板、その表面にはヒノモト語の文字が浮かび上がっていた。


「化け物は三田九郎でしょう!」


タンジは村長へと接近すると、大槌を大きく振り被り其れを打ち砕く。

せり上がっていた鉄板は叩き割られ、見る間に熱は冷めて黒い鉄塊となり地面へ崩れ落ちた。


「なっ、もう一度言ってみろ・・・!」


村長は肩を震わせると、目を血走らせながら怒声を浴びせ掛けると今度は火箸をタンジの喉元へ伸ばした。


「サンダは貴方を利用する為に、此の地の神を封じさせたのよ」


これは私の推測の域を出ない、ただサンダへの疑惑を持たせるか動揺を誘えれば良い。

火箸を私のカタナが捉える、火花を散らす刀身から伝わる衝撃は重いが、腕により力を込めて弾き飛ばす。

火箸は宙を舞い、回転しながら床を滑ると村長は歯軋りをした。


「黙れ小娘!!贄風情がしゃしゃり出てくるな!」


村長の信念は揺らがなかったが、自身の神を侮辱された怒りに自制が効かなくなってきたようだ。

如何やら既にサンダの生贄にする為に私達を招いた事を隠すつもりはないらしい。

村長の挙動を警戒していると、急激に異臭が濃くなる。

思わず手で口を塞ぎ中庭を仰ぎ見ると、穢れで床に軌跡を画きながら接近するスイに気が付いた。


「我は愚か者を滅し、此の地を浄化して胸の内を晴らす為に留まっていたのだ」


溢れ出す憤りや恨みが込められた憎悪は強く、放たれる瘴気は怯えながら床を這う村長を絡めとるように呑みこんでいった。

絶望でしかない脅威に二人で堪らず後方へ飛び退くと中庭から差す光が増し、村長を呑みこんだ瘴気の中にスイとは違った大きな輪郭が浮かび上がった。

枯れ枝の様な大角、絶望に取り乱す声と悲鳴の後にガキンと硬質な物どうしが衝突する音が響く。


「・・・なんて事なのっ!」


この時、隣に立つタンジの心情を思うと、瘴気が晴れるよりも早く私は飛び出していた。

サンダが生贄を得たと言う事は、本来の魔族の姿に戻った可能性が否めない。

怨念を抱く相手を目前で奪われたスイの静けさに、瘴気が漂う場所に近づくにつれて肌があわ立つ。

然し、瘴気に飛び込もうとすると突然に体に加わる衝撃に弾かれ、重心を調え終えて伸ばした手が見えない壁に触れた。


「許さぬ・・・」


沈黙は失われ、低く地を這うようなスイの声が屋敷に響く。

瞬く間に瘴気は消え去り、スイはその両腕でサンダを襲い首を絞め上げていた。



**********



世にも悍ましい争いが繰り広げられている。

サンダは鹿の角を持つ老齢の魔族の姿を取り戻し、苦痛に顔を歪めながらも狂った笑みを口元に浮かべていた。


「コウギョク、皆も居るんでしょう?」


呼びかけに応える様に障壁は一瞬で光る木の葉となり散っていく。


「何を怒っておる、あのまま飛び込めばお主も祟られておったぞ」


コウギョクはヤスベーさんに抱えられながら、扇で口元を隠して眉を顰める。

その後の面々の反応は言わずもがな、破壊された屋敷への驚きと、中庭の前でもみ合う祟り神と神を語る魔族に対する声が次々と上がった。


「いつの間にこんな事になったんだい?」


ザイラさんの手には何処から持ち出したのか錆び付いた大槌が握られており、ヒューゴーまでちゃっかりとヒノモト式の弓を拝借している。

色々と物申したくなる光景だが、さすが盗人に寛容な村だけ有り、咎められずにそれを活用する機会が与えられた。


「悪いけど説明している時間は無いわ、ともかく樹が光ったら逃げて!」


針葉樹に絡みつく様に伸びる魔法陣を伝わり魔結晶が魔力を宿す。

光が星の様に瞬くと緑の軌跡を画きながら風塊がスイの背を撃ち、サンダから引き剥がす。

針葉樹より放たれた追撃の風塊は弾かれて飛散し、私達を巻き込み屋敷へと降り注ぐ。

床や壁に穴が開くのは当然、屋敷の一部は倒壊し、目が当てられない有様になっていた。


「これ、もう屋敷ごと俺達を何とかって言う神と心中させるつもりかよ!」


土煙の中で瓦礫を踏みしめ、ヒューゴーは悪態をつく。

スイは怨念からかサンダへ執着し、多くの魔結晶による集中砲火にも臆さず、戦況は圧倒してさえ見える。


「何か手はないか、このままではヒューゴ殿の冗談が笑えなくなるでござるよ」


ヤスベーさんは屋敷を見回すと苦笑した。

針葉樹の様子は変わらず、このまま土地の力をサンダに吸い上げられては不毛な争いが繰り返される事は明白。

そうなると針葉樹を如何にかしなくてはならないが、盗まれた装飾品の魔結晶の無効にする事が課題になる。


「コウギョク、針葉樹にかかった術を解く事は出来る?」


コウギョクにそう訊ねると、白い髪に生える紅色の瞳でじっと針葉樹を見上げては、直ぐに此方に視線を戻す。


「なんじゃ、アレか。まあ、無理じゃな」


コウギョクは眉を寄せると肩を竦め、あっさりとお手上げだと言い切った。


「お前、神じゃないのかよ」


ヒューゴーは皮肉交じりにコウギョクに対して軽口をたたく。


「都合の良い時だけ神扱いするな戯け!異国の言葉など、読めぬと言う話じゃ」


コウギョクはヒューゴーを一睨みすると、ヤスベーさんの腕から下りては首を横に振る。

縋る思いの対策は行き詰まり、一斉に唸り声が上がった。


「うーん、面倒だねぇ。それならいっそ、ライラに悪いけど魔結晶を破壊するかい?」


悩む私達を見てザイラさんは眉根を寄せると、薄ら笑いを浮かべて提案する。

本人は私達の反応に思惑が外れた事に気付いたのか、戸惑った様子で此方を見て視線を泳がせた。


「いえ、破壊なんてとんでもナイ。結晶が術に組み込まれているのなら、全ての石の力で消滅なんて事が有るかもしれまセンヨ?」


シルヴェーヌさんは針葉樹を見て拳を握る姿を見て引き止め、穏やかな口調で語ると手で爆発するような動き見せ付ける。

安息は一時に過ぎず、祟り神と魔族の争いは再び私達を巻き込んでいった。


「そもそも、あの異様な力は石や術による物では無い様にうかがえるが」


スイの穢れを浴びて腐り落ちた筈のサンダの体が再生されるのを見て、ヤスベーさんは顔を青褪めさせながら息を呑む。

完全に元に戻るまで時間が掛かる模様、作戦を練るぐらいの時間は有りそうだ。

中庭からの光で視界に入る範囲だけでも、穢れと魔法で荒れ果てていてまるで戦場跡に見える。


「サンダは・・・あの魔族は、術で此の地の力を利用しています。先ずは供給を絶たなければ」


「ふむ、それで解呪か。まったく国が外来の者を制限するのも解らぬでもないな」


コウギョクはスイと争い、何度も立ち上がるサンダを忌々しげに眺める。

自分でもその制限の甘さの恩恵で今も此処にいる訳だから非難できたものでは無いのだが。


「・・・解呪ですカ。術は媒体が有りませんし自信が有りませんが、時間を頂ければでき無くはないかもしれまセン」


シルヴェーヌさんは手元を所在なさげに動かすと握り締め、少し自信無さげな顔をする。


「ならば、俺が三田九郎を・・・この天冴鋼神具で抑えて見せましょう」


すっかり気が回っていなかったが、タンジの手には大槌だけでは無く、村長が使用していた火箸が握られていた。


「神具・・・村長の物と対の道具だったのですね」


「ええ、もとより俺達の村は鍛冶を生業にするものが集う地でした。火箸で大地の力を掴み上げ、それを大槌で打つ事で生じる火花が邪を祓うと言う物になります」


タンジは神具を誇らし気にしながら、複雑そうに火箸を見て表情を曇らせると、意を決したように走り出す。

その行く先には複数の魔法を受け、穢れを垂れ流しながらサンダを追い詰めていくスイの姿があった。

今のスイは何を考え、サンダを追い詰めているのだろうか。

土地と民を護ろうとしているのか、堕ちた要因である存在を抹消するため。

相手が不死と解りながら襲い続ける姿は、善側に見えなかった。


「邪を祓う・・・私達もタンジの後を追いましょう!」


物陰に身を隠しながら徐々にスイ達に接近していくタンジを目で追う。


「解った、この弓を試したいから俺はアメリアとタンジを追う」


ヒューゴーは何処か浮かれた様子で弓を眺めると、落ち着かない様子で弦を引く。


「ふむ、戦力を分けるべきでござるな・・・」


ヤスベーさんが静かに一歩踏み出し立ち止まると、ザイラさんは背中を遠慮なく私達の方へと突き飛ばした。


「それなら、アタシとシルヴェーヌであの樹を如何にしかしてやるよ。それと、アタシは無鉄砲でも熱い奴は嫌いじゃないんだ、あの大槌をもっている奴を頼んだよ!、」


「え?えエ?!」


ザイラさんはシルヴェーヌさんを軽々と小脇に抱えると、困惑する声を無視して走って行く。


「それじゃあ・・・・って待たぬか!!!」


後方でヤスベーさんに対し、抗議の声を上げるコウギョクの声が聞こえる。

追いついた頃にはタンジは既に争い合う一柱と一人を目の前に儀式を始めていたが行き詰っている様子。

地面に火箸を突き立て、額に大粒の汗を浮かべながら何度も祝詞を繰り返し唱え続けている。


「あ、アヤツの術もこの地の神の力由来・・・。三田とやらによって消耗され過ぎたせいもあるが、本来の主が弱ってきているのもあるな」


コウギョクはそこまで言い切ると両手を地面に突っ伏して肩で荒い息をする。


「ならば急がねばなるまい・・・!」


ヤスベーさんが啖呵を切る。

コウギョクの術で守られてはいるが、スイが放つ瘴気と穢れは避けなければならない。


「おや、祟り神よ。そのままでは人間を巻き込むことになるぞ」


サンダは薄ら笑いを浮かべながら錆びた金属片を避け、私達の方へ接近すると火球によりスイの体が燃え上がる。

スイは其れをものともせずサンダを捕えようと胴体から瘴気を纏うカタナを生み出す。


「構わん、どうなろうと我にはお前を滅する他は無い!!」


タンジの儀式を護る為に一部をカタナで弾くが地面は何時の間にか針山の様になっていた。


「ふん、だから民に捨てられるのだ」


サンダは岩を盾にし逃げ延び、憐れむようにスイを見上げるとタンジを指さす。

スイの視線がタンジに向かうと、三田の詠唱に伴い頭に生える一対の角は次第に光だす。


「何故だ!」


憎むべき相手の言葉に耳を貸すなんて。

タンジへと降り注ぐ金属片をヤスベーさんと共に一片も残さず弾き飛ばそうとしようにも限度はある。


「馬鹿者!妾がおるであろう、臆するではないわ」


コウギョクの扇から舞う木の葉は宙で刃を塞き止めると向きを変え、弾き飛ばされた金属片はサンダへと突き刺さる。


「無駄だと言っておるじゃろう?」


サンダの体は穢れで黒く染まるが、金属片はずるりと抜け落ちる。

然し、無傷と言う訳では無い。

サンダの角の先端に突き刺さった金属片からじわりと腐敗が始まっていた。


「へぇ、そこは再生しないのね」


スイに目もくれずにサンダの目前まで迫るとカタナを振り下ろす。

サンダは片眉を吊り上げて怪訝そうにするが、余裕の表情を浮かべながら嘲笑していた。

ゴトリとサンダの枯れ枝の様な角が二つに分かれ、地面に落ちて転がる。


「何て事じゃ!!」


サンダは初めて取り乱した様子を此方に見せる。

如何やら推測は当たっていたらしい、針葉樹の方向から歓声が聞こえてきた。


「術には自身の魔力を変換する媒体を必要とする物があると聞いた事があるらしいわね」


西国ではヒノモトの術と違い、杖などの媒体が必要となる。

魔力を精霊の力へと変換して近づけ、詠唱を基に各属性の魔法を放つ仕組みだ。

それが、まさかの自身の角とは予想外だったけどコウギョクのおかげで助かった。


「おっと、それは使わせないぜ」


ヒューゴーの矢が少しずれたがサンダの前に突き刺さり、地面の一部と共に折れた角は砕け散る。


「小娘、まさかお前も・・・」


動揺するサンダは切られた角を拾い上げ、私を苦々しい顔で睨む。

その姿は一瞬でスイが落とした黒い金床に押しつぶされ、穢れに呑まれる。

意図せぬ方向から空気が震えるのを感じて目を向けると、落雷のような音をたてながら針葉樹が倒れてきた。

その根元付近には、此方へと手を振るシルヴェーヌさんと何かを掲げるザイラさん。


「あっぶねーな!考えて倒せよ!」


「御尤もでござるな」


ヒューゴーは怒りながらもヤスベーさんと共に装飾品を倒木から拾い上げる。

肝心のスイの姿は妄執が晴れても姿が変わらず、それでも何かが抜け落ちたように見えた。

暫しの沈黙が続くと、火花が風に乗って舞う。


「天下原に座される日出大神、八百万の神を束ねし大神よ、万物を照らす御力にて穢れを祓い御救い給えと、かしこみかしこみお願い申す・・・・【清浄鉄火】」


火箸は手に触れずとも自然と地面からせり上がると、タンジは大槌を叩きつけた。


「無駄な事を・・・」


諦めた様なスイの声に反し、凄まじい熱気と共に火花が体を包み込む。

タンジは私達に深々と頭を下げると、赤く照らされながら嬉しそうに微笑んだ。


「御神よ、これは無駄なんかじゃありません。貴方の民もこの土地もお帰りを心よりお待ち申しておりましたから」


スイからの返答はなかった、しかしタンジの笑みの理由は思うより早く判明する事になる。


「驚いたよ!切り株が急に金床になるなんてさ!」


此方の様子を見て駆け寄ってきたザイラさんの手には琥珀色の金床、指示を受けて床に置かれるとタンジによって大槌が打ち付けられた。

音が止むと火花が散り、朝日が私達を照らす中で一柱の男神が顕現した。

タンジは私達に顔を隠すように顔を逸らすと、地面に伏して首をたれてこう口にする。


「天冴鋼神様のお帰りを心よりお待ちしておりました」


澄み渡る空気と、何処からか聞こえる騒がしく威勢の良い声が村の生まれ変わりを報せているようだった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠に有難うございます。

今週はこちらの都合によりお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。

次週こそは通常通りに更新できるよう努力いたしますのでお許し頂けたら

幸いです。


**********

次週こそ無事に投稿できれば、9月1日20時に更新いたします。

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