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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第9章 善なる神の憂い
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第08話 闇市の神ー善神の憂い編

持ち去られた私達の荷物の行方は山賊の頭である菫の色付きの涙の末に易々と判明した。

菫の夫である副頭領は子分達を引きつれて向かったのは街道から外れた山間部の奥まった村。

そんな秘境への道のりは見知らぬ者を惑わす物となっており、山賊達に案内をされなければ辿り着けなかったかもしれない。

必死の思いで辿り着いた村は空気が悪く、少しでも気を抜ければ犯罪に巻き込まれそうな空気を持っている。

盗品を持ち込む者同士の暴力に口喧嘩などは当然、油断すれば何ら化に巻き込まれるのではと考えても過言ではなさそうだ。

如何いう経緯かは知らないが並ぶ建物はどれも酷く破損しており、廃材などで雑に修繕が施されているのが散見している。


「元廃村・・・もしくは襲撃した集落を乗っ取ったと言う所でござろうな」


ヤスベーさんは住人の視線を窺いつつ呟くと眉を顰める。

誰もが冷静に周囲を警戒する中で、妙に緊張感が無くて馴染み過ぎている人物が一人。

大股で歩き、馴染みの町を散歩している様な軽快な足取りでヒューゴーは周りの空気に馴染んでいく。


「よお!如何した?儲かってるか?」


ヒューゴーは大きな布で荷物を包み、背中を丸めながら歩く男性に声をかける。

私達に向けられた品定めしているような目は暫くすると鋭くなり、へらへらと笑うヒューゴーを見て青筋を浮かべた。


「うるせぇな!クソガキが!!」


男性は往来にも拘らず、唾をまき散らしながらヒューゴーに向かって怒鳴りつけると、目線に耐えられずに足早に通り過ぎて行く。


「へへっ、悪かったよ」


当の本人は気に留める様子はなく涼しい顔をして大股で歩いてる。

何のつもりか知らないが、悪目立ちしかねないので控えて貰いたい物だ。


「ねぇ、そう言うのは止めた方が良いんじゃない?」


ヒューゴーは注意をする私を見て鼻で笑った。


「この雰囲気の中でクソ真面目な奴は逆に目立つんだよ。それに、後で俺に感謝する事になるだろうぜ」


確かに村は様々な喧噪が飛び交い、賑やかと言うよりも治安が悪いが下手に目立って奪われた装飾品を取り戻しに来たなど山賊に悟られてはたまらない。

正直、ヒューゴーの意図が理解できなかった。


「か、感謝ね・・・」


「まあ、見てろって。それよりも、取り戻すのは良いが懐の具合はどうなんだ?」


ヒューゴーは背中を丸めると、私達にだけ見える角度で指で御金を現す形を作って見せた。

一瞬だけ眉を顰めるヤスベーさんだったが、山賊の頭領がこっそりと己の物として懐に隠していた援助金が入りの財布を思い出し呆れたように溜息をつく。

ヤスベーさんは渋々と言った様子で懐に手を差し込むと、視線だけ此方に向けて静かに頷く。


「無事であるが、今後の事を鑑みれば散財など論外でござる」


ヤスベーさんはヒューゴーの顔を凝視すると、ゆっくりと念を押すように言った。

ヒューゴーは片眉を吊り上げると、不満げに顔を曇らせる。


「ちげぇよ、()りや商人の口車に注意しろと言ってんだよ」


「ふむ・・・真っ当な意見でござるな」


ヤスベーさんは感心すると、ヒューゴーを見ながら顎を片手で抑えて考え込みだした。

小声とはいえこんな往来だ、話を盗み聞きされて警戒される事を疑うが、視線に怪訝そうに眉を顰める者はいても此方に関心を持つ者は居らず助かった。

改めて村の風景に目を向ける、住居の他に小高い山の斜面にジンジャと大きな屋敷が目に付いた。


「ねぇ、この土地にも神様って居るの?」


コウギョクは珍しく無言で歩いていたが、私が声をかけると耳を此方に向けてゆっくりと見上げてきた。


「ああ、国に数多く在れど・・・此処のはちと癖が強い奴じゃな。此処の奴は何と言うか、名は体を表すって奴じゃな」


コウギョクは扇で壁に立て掛けられた板を指す、そこには「盗掘村」と明け透けに彫られており、村民達に隠す気が無い事が判明した。何と安直な名前なのだろうか。

つまり、村全体の犯罪を容認すると言う恐ろしく怠惰で悪質な神様と言う事になる。

ヒノモトには複数の神様がいると聞き及んでいたが、とんでもない一柱が居るものだ。


「・・・なるほど。神様は清廉な方ばかりでは無いと知っていたけど、これには驚いたわ」


ヒノモトはやはり不思議だ、善き神も悪しき神も混在し、しかも悪人の巣窟が護るなんて。

コウギョクが何度も頷くと、ヤスベーさんもつられて立て看板を覘きこむ。


「ふむ、村の名前に加えて闇市と書いてあるな。されど、気安く立ち入る事は叶わない様でござるが」


看板から視線を数メトル先に向けると、通り沿いに敷かれた何枚もの布の上に様々な品物が並べられるのが見える。売主は商品の前に胡坐をかき、近づいてきた買い手との商談をしているもよう。

そんな闇市の入り口には腰に下げたカタナに手を添え、鋭い視線を通りに向けている男性がいた。

男性は通りかかる人々に声をかけては何かを受け取り、ニヤニヤと頬を緩ませて掌の中を確認する事に夢中になっている。


「袖の下・・・いや、通行料かの?」


コウギョクは何度もヤスベーさんに目配せをする。

ライラさんから貰った財布の中をヤスベーさんと共に確認するが、その感想は賄賂なんてとんでもない。


「通行料・・・ともかく、行ってみましょう」


取り敢えずは見張り役の男性の出方次第、ゆっくりと近づけば怪訝そうな視線が私達に向けられる。

見張りの男性は腰に下げた酒瓶に口を付けると、カタナの柄を用心深く握りしめる。


「何やってんだ、ぐずぐずしていると市が閉まっちまうぞ」


人混みを縫いながら慎重に歩けば軽々とヒューゴーが軽々と私達を追い抜いて行く。

ヒューゴーは一旦、足を止めて此方を振り返ったかと思うと、任せろと言わんばかりの自信ありげな顔でほくそ笑んだ。

それを見て、ザイラさんは怒る訳でも止めるでも無く興味深げな表情を浮かべてはヒューゴーを(はや)し立てた。


「何だいヒューゴー、武力で解決とか止めとくれよ」


「アホか!俺はそんな誰かさんみたいに単純じゃねぇんだよ」


「へぇ、そう言うって事は何か妙案でもあるのかい?」


如何やらザイラさんはヒューゴーに探りを入れながら釘を刺そうとしているらしい。

ヒューゴーは不敵な笑みを浮かべると、何かを片手に颯爽と見張りの男性の許に赴く。

見張りの男性は雑に束ねた癖毛の髪の合間から、鋭い眼光をヒューゴーに向けると袋を奪い取り、何かを確認する様に私達を一瞥する。


「それだけ居るなら、通行料はそれの中身全部だ!文句ないよな?」


淀んだ目で此方の顔色を窺うと、ニヤリと歯が欠けた口元で不気味な笑みを作る。

まったくヒューゴーは何を渡したのやら。

ヒューゴーは余裕綽々(しゃくしゃく)と言った様子で腰に手を当てながら鼻を鳴らす。


「ああ!全部もらっちまって構わねぇぜ」


そう言って見張りの男性に見せつけるヒューゴーの手には紺色の袋が握られていた。

見立てでは財布に見えるが、やけに気前が良いなと疑い、事の成り行きを見守っているとシルヴェーヌさんが無言でヒューゴーに詰め寄った。


「ヒューゴー、何を渡すつもりデスカ?」


「へへっ、何ってコレだよ」


そう言うとヒューゴーは私達の前で財部を揺らしながら見せ付ける。

それは見るからに使い古された物に見えた。

形からしてヒノモト製で間違いはない、そこで私の頭にヒューゴーが村に入るなり引き起こした小競り合いが思い浮かんだ。


「その財布ってまさか、さっきの人から・・・」


そして、疑惑は確証に至る。

何か言いたげにシルヴェーヌさんの口は開いたままになり、ヤスベーさんは頭を抱えだした。

ヒューゴーは気まずさを紛らわすように薄ら笑いを浮かべる。


「まあ、睨むなって。役に立ったろ?」


見張りの男性は私達の様子を見て視線を泳がせると、取られまいと財布を懐にしまうと市場に向けて手を差し出し大きな声を上げた。


「へへっ、六名様お通りぃー!」


村民からは視線は集まり、見張りの男性は苛立ちを隠さず舌打ちをすると早く通れと顔で訴えてくる。

此処は闇に生きる人々が生きる場所、自分の中の正義に従えば許しがたいが、此処は敢えて目を瞑って進む事も厭うべきじゃないのだろうか。




**************



道の両端を埋め尽くさんばかりの珍しい品の数々は確かに驚愕させられる物ばかりだった。

現在、シルヴェーヌさんの正義感に基づき(みそぎ)を科せられたヒューゴーは山賊達が売り飛ばした商品の中から、装飾品を探しに向かわされている。

取り敢えず、手分けしたおかげで生活用具及び薬は正体不明の物として苦も無く取り戻せたが、菓子は売れてはいたが正直に言うと何の宣伝にもならず気が重い。

ヤスベーさんのカタナに関しては物が良いのか、恐ろしい金額で売られており、ヤスベーさんが必死に交渉をしている最中だ。


「まあ、手段はアレだけど今の所は順調じゃないかい」


ザイラさんは屈むと敷物に並べられた金槌を拾い上げ、方向を変えながら眺めると軽く溜息をつく。


「そうですね、残りが大問題ですけど」


他の品は発見できたにも拘らず、露店には装飾品の類は一切見掛けない。

ヒューゴーも未だに帰ってきていないし、見る限りでは金品を仕入れるもしくは個人的に購入できそうな層の人間は居なそうだ。そうなると・・・

視線をずらせば、シルヴェーヌさんはカタナの交渉に苦戦するヤスベーさんを見て不安そうに見守っている姿が見える。


「うーん、此処はコウギョクにお願いする事できまセンカ?」


山賊と言い此処も含め、確かにヤスベーさんと言う戦力面が戻らない事も、此処で大枚叩いてもコウギョクの故郷までの旅路に支障をきたす。

シルヴェーヌさんが背に腹が帰られずに頼むのも納得だが、コウギョクからの反応は芳しくなかった。


「ん?妾の力は恐らく、闇市(ここ)では使えぬぞ。この地の神の力を強く感じるからのう」


コウギョクは周囲を渋い顔で眺める。


「え?!そんな・・・」


シルヴェーヌさんの顔は絶望に一気に蒼白となった。

然し、コウギョクに術を使用させるのは良いのかシルヴェーヌさん。


「この地の神は、住人達から力を得ている。つまり、その礼に加護を与えられた住人が損をしないようになっているのじゃ」


つまり、私物を取り戻す事に必死だったが無価値の物に値を付けられて買わされた可能性もあり得る。

そうだとしても、そこに関しては神力とは如何にも疑わしくも思える。

そんな中、商品によく似た姿の妖精の様な何かが此方に手を振っている姿が見えた。


「・・・」


付喪神(つくも)じゃな。ふむふむ、こ奴等を介して力を行使しておるな。まあ、今はヤスベーの行く末を見届けようではないか」


ヤスベーさんの手には楕円形の金の通貨が一枚、それに対して店主は指を三本突き付けている。

必死に食い下がる様子に店主は大きな溜息をつき、突き付けた指を三本から二本へと減らした。


「駄目だ!俺が今日、仕入れたばかりの年代物の逸品だ。使い古されているが、これ以上は負けられねぇよ」


「そ、そんな殺生な!」


それでも高いと言う態度のヤスベーさんに店主はカタナを掴み、腕を引っ込めては顔色を窺う。

店主は諦め切れない様子を確信したのか、何とも悪い笑みを湛えながらカタナを抱え込みしまおうとする。


「要らないなら、他の客に売っても良いんだぜぇ?」


「くっ、背に腹は代えられぬかっ!」


ヤスベーさんはすっかり根負けをし、御金を店主に差し出した。

店主はヤスベーさんの手から代金を強引に奪うと、ニヤニヤと上機嫌に笑う。


「あー、間に合わなかったか。あれは元値の三倍は固いぞ」


「やはりか・・・」


ヤスベーさんも解っていたらしく、シルヴェーヌさんに背中を撫でられながらカタナを見て肩を落としていた。

それを苦笑いをしながら見るヒューゴーの体は埃塗れ、そうとう苦労したらしい。


「お疲れ様!それで、ヒューゴーは・・・」


ヒューゴーに脚の甲を爪先で小突かれ、視線を合わせると口を堅く結び、余計な事を言うなと無言で睨まれた。

周囲の商人達からの煩わしそうな視線に気づき、迂闊だったと口を押えると荷物を見てヒューゴーは通りの先を指さす。


「ほら、買い戻したんだろ?市場を出ようぜ」


気付かない内に闇市で盗品を買い求める人の数もだいぶ増えてきた気がする。

コウギョクは扇で口元を抑えると、不愉快そうに眉間に深い皺を刻む。


「そうじゃの、此処は空気が悪くてかなわぬわ」


「じゃあ急ごう。ヤスベーさん、そろそろ此処を離れませんか?」


何やら細部を確認するヤスベーさんに声をかけるが、岩のよう固まり動こうとしない。


「まったく・・・他の客の邪魔になるから御暇するよ!」


ザイラさんはヤスベーさんの襟首を鷲掴みにすると、そのまま強制的に引きずり出す。

そのまま私達は闇市を出ると、人気が無い川沿いの雑木林に腰を下ろした。


「成果だが、山賊どもは特別な商品を持ち込んだってんで村長に気に入られたらしい。そしてまさに今、飲み会の席に招かれて大騒ぎしている最中って所だな」


突然、押しかけて高価な装飾を売り込んできたまでは此処の性質上、問題視はされないが色彩が豊かな石までついているとなれば、村長自身もお酒を振舞ってでも出所を知りたがる事だろう。


「そうなると何れは直接、私達に辿り着くかもしれないね」


「だろな・・・」


「山賊ごときを挟まずに、より良い利益を得て懐を潤す。成程、無い話ではないでござるな」


ヤスベーさんの言葉には山賊への私怨が誰よりも強く感じる。

コウギョクによると取り戻したカタナは代々受け継いできた家宝らしい。

然し、荷物の話になると毎回、コウギョクは妙な脂汗をかきながら急に大人しくなる事が不思議だ。


「そうなると、次の一手は決まりだね。荒事に巻き込まない為にもアタシはシルヴェーヌと一緒に潜伏するかな」


ザイラさんは大きな麻袋に詰めた荷物を担ぎ、シルヴェーヌさんへと頷き合う。


「ええ、薬の調合も十分とは言えませんシ。ご迷惑をおかけしますが如何ぞ宜しくお願いしマス」


さり気に薬を調合すると言っているが、どんな物をひっそりと作っているのかと思うと期待と不安が半分ずつ浮かぶ。

少し名残惜しそうに立ち去ろうとするザイラさんの背中をシルヴェーヌさんが小走りで覆うとした所でヒューゴーが声を上げた。


「いーや、ザイラは屋敷に向かえ。武器を持っていない俺より、素手でも戦える奴がいた方が良い筈だ」


「人気が少ない場所とはいえ、声が大きいし何言ってんだい!詳しい奴が居ないと!」


周囲を気にしヒューゴーを咎めるザイラさんだったが、その声も十分に大きい。

私達の反応からそれを悟ったザイラさんは慌てて口を押えては、気まずそうに背中を丸めた。

暫く間を置くと、ヒューゴーも周囲の様子を意識したのか小声で話し出す。


「身を隠すなら、でかい図体の御前より俺の方が得意に決まってんだろ」


「・・・でかい図体は余分だ。でも、荷物を運ぶのは無理だろ?アタシは気持ちだけで結構だよ」


「んなの、大丈夫に決まってんだろ」


ヒューゴーの指さす先には木の杭に縄で泊められた古びた船が三艘。

船主らしき人物達は離れた場所で荷物を囲んで酒盛りをしているもよう。


「・・・今回ばかりはシルヴェーヌも勘弁しておやりよ」


「ええ、さすがにワタシも此の状況で何も言うつもりはないデス」


ザイラさんは揶揄い混じりに言うが、シルヴェーヌさんは痛い所をつかれたかのように苦笑した。

取り敢えず、それぞれの指針は定まり互いに別行動に向けて装備を確認した後に整える。


「ほら、これを持ってけ。大まかな奴だがないよりマシだろ」


ヒューゴーは何かが書かれた紙を此方に向かって投げるが、薄すぎて風に流されて危うく川に落ちる所だった。


「地図をありがとう。でも、これ薄いし普通に渡してよ」


「受け取れたんだから良いだろ?それともフンドシって奴の切れ端の方が良かったか」


ヒューゴーは私を揶揄い、顔を顰める私に対しニヤニヤと笑う。

その頬をコウギョクが畳んだ扇で叩き、枝葉が揺れる雑木林に小気味良い音が響いた。


「良いからさっさと行け。仮にお主の小便がついた布など渡したら、妾が一瞬で灰に変えてやるわ」


コウギョクは扇の先に青白い火を灯し、ヒューゴーの鼻先に突き付ける。

ヒューゴーは視線は自然とヤスベーさんに助けを求めるが、ヤスベーさんは目を細めては逸らす。


「ヒューゴー殿、拙者も擁護できぬでござるよ」


「・・・ったく、冗談つうじねぇな。まあ、また後でな!」


「え、あ・・・待ってくださいヨ!」


つまらなそうに不貞腐れたヒューゴーは慌てるシルヴェーヌさんを置いて川へ降りていく。

私達はそれに倣い、真逆の丘の上を目指し村を通り抜けていく。

丘へ続く道は荷車や人の足跡でガタガタで苦労したが、その先に見えるジンジャは思いの外、参拝者が多く立派だった。

悪人でも願掛けはするらしい、服装も風貌も様々だが互いに干渉しあわず黙々と擦れ違っている。

それよりも目を引くのは、荒んだ空気の村と相反する瓦屋根の屋敷だった。

その片隅には荷車と見覚えの有る焼き印つきのナガビツが三(さお)

中身を確認しようと荷車へと近づこうとすると不意に聞き覚えが無い声に呼び止められた。


「そこ、立派だろ?アンタ達も村長に金を無心に来たのかい」


振り向いて目にした顔には覚えが無い、箒の様な髪は薄汚れており、キモノも継ぎ接ぎや汚れている事や人に避けられている事から浮浪者に見える。


「・・・いいえ」


そう一言だけ告げて振り返ると、手招きをするヤスベーさんと睨みつけるザイラさんが目に入る。

このまま黙って屋敷に向かうべきと言う意見は一致しているらしい。

そんな私達の思惑を見抜く様に、避けられていようとも臆さずに声をかけてきた。


「俺の名前は(すい)ってんだ、あんたら此処に入っていった奴らが売り捌いた物を市場で集めていたろ。山賊どもの情報を聞きたくはないか?」


祟と名乗った男性は私達が立ち止まった事で話を聞いて貰えると判断したのだろう、ゆっくりと此方へと歩いてくる。すると急に足元を何かが引っ張った。


「・・・不快じゃ」


コウギョクの耳は後ろに下がり、尻尾は足の間に挟み込まれる。

あまりの怖がり様に背後に隠すと、祟は此方を虚ろな目で見つめたまま足を止めた。


「ふむ、妖か?いや、こいつはもっと・・・」


ぶつぶつと呟きながら祟はコウギョクへと手を伸ばすが、それはヤスベーさんの手により塞がれた。


「嫌がる者に触れる事は頂けな・・・い」


ヤスベーさんが腕を掴むと祟の目も驚きに見開かれる。


「わたしに触るんじゃない!」


黒い煙が立ち上がり、スイはヤスベーさんの手を振り払い突き飛ばした。

ヤスベーさんの手は黒く変色して煙が上っている。


「穢れ・・・?!」


レックスの時を思い出して浄化できるのではとヤスベーさんに近づくと、それよりも早く輝く木の葉がヤスベーさんの手を祓い清めた。


「やはり神格・・・もしくは其れに準ずる者か」


スイは腕を下ろすと、コウギョクをじっと見つめる。


「そ、それが何じゃ!そんな禍々しい姿なうえに、妾の仲間を祟りよって!」


コウギョクはスイから私達を庇う様に前へ出ると、ザイラさんがその肩を引き戻した。


「コウギョク止めな、こいつは人間じゃないんだろう?」


「うむ・・・しかし」


二人が睨みつける中、スイは黒煙が漏れる掌を見つめて続けている。

人を害する力を持つ人ならざる者、私達に接触してきた理由は何なのだろうか。

此の地の神様による妨害、もしくはその神様に恨みを持つ者の可能性も考えられるだろう。


「山賊の情報を聞かせると言ったのは嘘だったんですか?」


そう訊ねると、スイの死んだ魚の様な目に激情の様な物が燃え上がるのを見た気がした。


「嘘ではない。奴らは我欲が強い、それ故に此処の土地を護る神を語る者に取り込まれ様としている」


語るは真実か偽りか。

堰を切ったようにスイの口から恨みと憎悪が籠った思いが溢れ出した。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠に有難うございます。

投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした!

遅延は出来得る限りしないよう尽力するので見捨てずに今後も読んで頂けたら

幸いです。


【感謝】

新たにブックマークへの登録を頂けました!有難うございます!


それでは雲行きの怪しい犯罪まみれの村で何が起きるのか、ゆっくりとお待ちください。


***********

次週こそ無事に投稿できれば8月11日20時に更新いたします。

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