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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第9章 善なる神の憂い
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第05話 商いは儘ならないー善神の憂い編

迎島の商館は東西の国の様式が混じる珍しい建物が並んでいる。

そんな迎島の一室で、ヒノモト側からの思わぬ制限により計算狂ったとライラさんは失望により叫んだ後、頭を抱え込んでいた。

このまま退くか、ヒノモト側の条件を呑んで相手に商品を委託するかの二択が迫られる中でライラさんは勢い良く頭を上げる。


「良いでしょう、大きな物を得るには時には痛みも伴う物ですぅ・・・必ず儲けてやるですよ」


ライラさんは腕を組み少し仰け反ると、あくまで自分が妥協してやったと姿勢のまま記名押印を済ませた。

傲慢に振舞っているが、気落ちしている事を隠しきれずに書類を眺めるライラさんを見ると商会長は其れを微笑ましそうに眺める。

国交断絶していた為、他の人種に対する知識が不足している為か、外見との乖離にときおり困惑する事もあった。


「ははっ・・・西国の方は実に粋な物言いをされる。然し、我々の殆どは未知の物を恐れる者が多く、好事家の手にでも渡らない限りご希望に添えない場合がございますのでご了承ください」


紳士的で謙虚な物言いの中に、商売っ気が疑わる部分があり何とも胡散臭い。


「キリシマ商会長、こっちは其方に優位な条件を呑んだと言うのに、あんたは本当に商売する気あるんですかぁ?」


ライラさんも遠回しな物言いが癇に障ったらしく、媚びを売る事を忘れて苛立ちを露にキリシマ商会長を指さし詰め寄る。

長机越しに責め立てられる本人は頬を引きつらせるも、次の瞬間にはライラさんに向けて商売人らしい愛想笑いを浮かべていた。


「ええ、勿論ですとも。下手な事をすれば我々の国際的信用に関わります。故に誠実に責任もって商売させて頂きますよ」


ライラさん自身は相手が怯みもしなかった事に敗北感を感じたらしく、悔しそうに唇を嚙み締めながら小柄な体をプルプルと震わせている。


「ふんっ・・・その誠意がどれほどの物か示してもらうですよぉ」


「ええ、勿論。国を背負う商人として、品をぞんざいに扱うような阿漕な商売はしない主義なので」


張り付いた仮面のような笑顔だが、国を引き合いに出してまで出されては流石のライラさんも満足の様だ。

私達はあくまで護衛として傍らに立っていたが、二人が交渉成立させて書類を書き込み始めた所で、仲介を任されていたヤスベーさんは胸を撫で下ろす。

次は船員総出の商品の船降ろしに検品にその他もろもろと、その後もライラさんとヤスベーさんは頭から煙が出そうな勢いで迎島内を奔走しdす。

キリシマ商会長からの気遣いで宿となる館を紹介すると言う話が出たが、そこまで御世話をかける訳にはいかないと遠慮させてもらった。

結果、慣れない様式の宿では落ち着かないだろうから、それで良かったようにも思える。

ライラさん曰く、その宿代も売り上げから天引きされそうで疑わしいから正しい判断とのこと。

私達は荷運びを終え、船の一室に設けられた談話室に集まり、空き箱を利用して座りながら愚痴や各々感想を語らいながらコウギョクを質問攻めにしていた。


「なあ、観光はできないのかよ?」


ヒューゴーは退屈そうに窓から迎島の風景を眺めると小さく溜息をつく。

コウギョクはヤスベーさんが不在な事により皆の注目が自分に集まっている事に満更でもなさそうだ。

ただ、的外れなヒューゴーの質問には顔を顰めては溜息をついた。


「できぬ事は無いが、事と次第によっては間諜と疑われて此の船ごと海に沈められかねないぞ」


連帯責任と聞くと流石に怖気が走る、ヒューゴーの背後から休憩をする船員達からも冷たい視線が突き刺さっていく。


「うげっ・・・」


コウギョクの忠告を受けて想像したのか、ヒューゴーは潰れた蛙の様な声を漏らすと、他者の視線から逃れるように窓の外へと視線を逸らす。

然し、ヒノモトと言う国も変わっている、そこまでして他国との交易を始めたのだろうか。


「西側への警戒が露骨だけど、これって何か原因が有るの?」


そう尋ねると、コウギョクは思考を巡らせるように視線を右上に移す。

コウギョクは自身の腕を組み、唸りながら眉間に皺をよせると首を捻り、ゆっくりと喋り出した。


「んむぅ、参拝に来ていた氏子の雑談を耳にしておったのじゃが・・・。そちら側の宗教を通じた民への洗脳による侵略及び、国民を奴隷として拉致をしていたからと耳にしたぞ」


それが事実かどうかはさておき、不穏な言葉の羅列に誰もが息を呑んだ。

静寂は直ぐに途切れ、聞いた事がないなどとコウギョクの話に疑念を抱く声が聞こえる。


「お前ら、盗み聞き何て趣味悪いぞ」


ヒューゴーは部屋を見渡しながら船員達を睨みつける。

小人族だからと言って馬鹿にされる事は無く、普段のライラさんのしごきによる影響か、再び静まり船員達の視線は私達から離れてくれた。


「でっ、その話は信用できるのかい?」


ザイラさんは興味ありげに尋ねるが、じわりと滲む冷汗と共にコウギョクは動揺が隠しきれない様子。


「まてまて、これは又聞きしたのみで、妾は詳しくは知らぬ・・・」


如何やら本当に横から聞いていただけらしい。


「まったく身にならねぇ訳じゃないが、もっと根拠とか如何にかなんねぇの?」


ヒューゴーは呆れている素振りを見せるが、口許の緩みから小馬鹿にしている事が見え隠れしている。

コウギョク自身は噛みつくわけも反撃する訳でもなく、じっとりと忌々しそうにヒューゴーの顔を暫く睨みつけると声を荒らげた。


「うっさい!一々、上げ足など取りよって!」


また何時ものが始まったと言う空気の中、シルヴェーヌさんだけは顎に片手を添えて何度も頷いていた。


「成程、修道服が駄目な理由はそれでシタカ・・・!」


シルヴェーヌさんは突如としてヒューゴー達の前で気の抜けた声をあげたかと思うと、何故か目を輝かせていた。


「おい・・・今の話を間に受けたのか?」


一人で浮足立つシルヴェーヌさんにヒューゴーは疑わし気な視線を向ける。

頬を引きつらせるヒューゴーに対し、シルヴェーヌさんは興奮気味に答えた。


「否定できないなら、興味を無くすのでは無く調べれば良いデショウ?あと此処は、真実と考えた方が合点がいくからですカネ!」


如何やらシルヴェーヌさんの好奇心に火が点いたもよう。

せっかくなので商売が終わるまで、この国の事を学んでも良いかもしれない。

逸る気持ちを抑えきれずにいるシルヴェーヌさんの暴走をザイラさんが諫めると、仕切り直して話題を無ヒノモトに戻す。


「でも、他国を忌み嫌っているのに港を開くなんて本当に不思議ね」


「まあ、同じ所に立ち止まっていては衰退するだけだしの」


コウギョクは気だるげに背凭(せもた)れに身を預けると、扇を広げながら扇で自身を扇ぐ。


「つまり発展の為の譲歩って所かな・・・」


コウギョクの見解とおりなら、ヒノモトはなかなか強かな国だ。

然し、こうも美味しい所ばかり手に入れ続けられるかと考えれば些か疑問が湧くけどな。


「解んないけど、要はおいしい所を入手して儲けようって事かい?あまり気分が良い話じゃないね」


ザイラさんと意見が合致し、思わず咳き込んでしまった。

皆からは怪訝な顔をされてしまい、慌てて誤魔化す為に作り笑いを浮かべる。


「俺はそう言う面倒な話はどうでも良いな。取り敢えず船主が満足して、どこかの国で解放されればかってにしろって話しだ」


ヒューゴーは盛り上がる私達と真逆に冷めた物言いで早くもヒノモトを発った後の自分の行く末を気に掛けている。

そんなヒューゴーを目にし、コウギョクは小馬鹿にした表情を浮かべては其れを鼻で笑った。


「なんじゃ、観光ができない事で拗ねておるのか?しょうもない奴じゃのう」


「また、始まった」とこの場にいる誰もが思った事だろう。


「あ?ふざけんな!何様目線で言ってやがる」


「ん?神様じゃが?」


コウギョクは当然のように振舞い、堂々と言ってのける。


「まだ成ってねぇじゃねぇか!」


「そこまで!喧嘩しているのがばれたら海に捨てられるよ」


互いを威嚇し合い、掴み合いそうになったところでザイラさんが二人の襟首を掴み引き剥がし、軽々と持ち上げた。すると途端に二人は寸前の事が嘘のように鳴りを潜める。


「そういえば、コウギョク達は如何するつもりな訳?」


「当然、狐護様の無き地に社を建立し、新たな土地神として見守るつもりじゃが?」


その反応こそ当然の事と言う振舞いだが、やはり期待と緊張も窺える。

女神様に加えて邪神とも関り、改めて興味が深まったが、つくづくヒノモトの神様の概念は特殊だと思う。


「そうか、今度は本当にお別れになるのね」


奇妙な再会であったが、短期間とはいえど不思議な縁だった。

ヤスベーさんはコウギョクの術で迎島を旅立つとして、綻びにより異界に落ちた大地の穴はヒノモトではどうなるのだろうか。

自分がいた場所へ戻ると聞いて、妖精がいない地に起きた綻びの跡が気になった。


「なんじゃ、皆して妾と離れたくないなんて困ったのぉ。そんなに妾の神として姿を拝みたいのかぁ・・・うむぅ」


さりげない一言のつもりが、何やらコウギョクには歪曲して伝わったらしい。


「ん?あれ・・・?」


「誰も言ってそんな事を言っていないじゃないか・・・」


ザイラさんも自分の世界に浸る姿に困惑しながら見ているが、コウギョクは構わずに思い悩む素振りまで見せだす。


「いやー、確かに出来ぬ事はないと言ったがのお」


腕を組みながら首を捻ると、ちらちらと横目で私達に期待の眼差しを送る。

なかなか無茶な相談だが、自分の晴れの舞台を見てほしいらしく、此方の反応を待っている。

そして、その期待に一番に答えたのはやはりシルヴェーヌさんだった。


「わお!アタシ、異国の神事に興味が有りマス!」


シルヴェーヌさんは目を爛々と輝かせる。

思ったより自分に正直な人だなと思うと同時に、ヒューゴーが言っていた危険性が思い浮かんだ。


「下手すると間諜と疑われかねないし、残念だけどコウギョク達についていく事は出来ないよ」


よく考えてみれば、歴史の資料なども見せて貰えるか怪しい。

そんな私達の心配をよそに、コウギョクはニヤリと口角を吊り上げては一枚の輝く木の葉を見せる。


「ふふふっ、妾にはコレが有るのを忘れたのかの?おまけに妖達に協力を仰げば、迎島を抜け出すなど万事・・・」


ついに私達をヒノモトへ招きたいと言う気持ちを露に悪巧みを企てるコウギョク。

然し、次の瞬間には談話室の戸が開き、コウギョクの思惑を咎める声が響き渡る。


「それは、無理な話でござるよ」


そこには疲労を顔に浮かべながらも、コウギョクを睨みつけるヤスベーさんの姿が在った。

当然、その傍らには怒りに震えるライラさんが姿が見える。

そこには疲労を顔に浮かべながらも、コウギョクを睨みつけるヤスベーさんの姿が在った。

当然、その傍らには怒りに震えるライラさんが姿が見える。

惜しくもコウギョクの思惑はこうして玉砕するのだった。



**********



ライラさんの報告によると、商売は如何にか上手く進んでいるのだそうだ。

ただ、それで機嫌が良いとしても、様々な危険をはらむ密入国は咎めずにはいられないらしい。


「良いですかぁ?ここまでどれだけの費用が関わっていると思っているです?」


蟀谷に浮かび上がる血管に、眉間に深く刻まれた皺、普段の振る舞いが無に帰すような強烈な怒

りを顔にたたえながら、ライラさんは私達を床に座らせながら叱りつける。

下手すれば商談による儲けどころじゃない損害になるのだから、気持ちは解らなくもない。


「だとよ、神様」


ヒューゴーは成り行きで並んで座ってはいるが、本音では無関係と思っているらしく、要因と

なったコウギョクにちくりと嫌味を言う。

悔しさからか、コウギョクは顔を赤くするが、説教の最中であると言う事も有り唇を噛みしめだした。


「ぐぬぬ、船員などこれだけ居るんじゃ。数人が抜けようと幾らでも誤魔化せよう」


諦め切れずについ口を衝いて出たのは恐らくはコウギョクの本音。

ライラさんがそれを聞き逃す訳がなく、鋭い目つきでコウギョクを睨んだ。


「それができないから、こうして御前達にアタシの貴重な時間を割いてやっているですよぉ」


ライラさんは冷笑を浮かべながら扇を取り上げると、釘を刺すかのようにコウギョクの目前に突き付けた。

コウギョクはそれに驚き目を丸くするが扇を掴み、ライラさんから奪い取ると広げては口元を隠し、目元だけで覘かせ嘲る。


「ならば、アメリア達にヒノモトの名品を持って帰らせよう。ふふんっ、高く売れるぞぉ」


相手の様子を見ながらパチリと小気味よい音をたて、扇を閉じたかと思うと、今度はコウギョクがライラさんに向けて突き付けた。

最後の言葉が決め手になったのだろう、呆然としていたライラさんの瞳がお金の誘惑に揺れる。

けれども私達や船員の反応見て我に返り、慌てて冷静さを取り戻した。


「むっ・・・だ、駄目です!リスクが高すぎるですぅ!!」


動揺を隠す為に反論した声が誤魔化せずに乱れる。


「ライラさん・・・今、迷ったでしょ?」


私からの指摘にライラさんはますます意固地になってしまう。


「ともかく!駄目なものはダメですからっ!散歩は許されても、商会や国勤めの連中への接触は禁止と言われているですぅ」


如何やら、ヒノモト側も警戒は徹底しているらしい。

ライラさんは大きな溜息をつくと、ヤスベーさんを置いて談話室から出て行ってしまった。

こんな小さな箱庭に閉じ込められて、商売が終わるまでどうやって大人しく滞在せよと言うのだろうか。

さすがに、これには私も辟易とした。


「それで、好い加減に諦められたのかい?」


ザイラさんは半笑いでコウギョクに訊ねる。

コウギョクは首を何度か横に振ると、何を思ったのか悪い笑みを浮かべ私を見てきた。


「いんや、この程度じゃ屁でもないわ。ところでアメリアや、今までの働きからして、お主は其方の神と縁が深いようじゃな?」


「まあ色々とね。その為に旅をしているようなものだし」


「ふふんっ。では、其方の神と此方の神々に世界の理が関わっていたらどうする?」


突拍子も無く、あからさまに取って付けた様な誘い文句に一瞬だけ言葉を失う。


「・・・そう言うつもりなら遠慮するよ。それによって背負う危険が重すぎるわ」


「ううっ、シルヴェーヌぅ」


唯一の味方の見做したコウギョクは縋るようにシルヴェーヌさんに助けを求める。

頼られた当の本人は、困惑するもコウギョクを見ては考え込み固まってしまった。


「そもそも、コウギョクは何でそこまでして私達を故郷に連れて行きたいの?」


「そっ、それはじゃなぁ・・・」


すると先程よりも激しく動揺しながら、コウギョクはばつが悪そうな顔で目を泳がせる。

そこで談話室に入った時いらい、黙って私達の遣り取りを生暖かい目で見ていたヤスベーさんが重い口を開く。


「狐護様の亡き後、どの者の加護が無ければ土地は死んでしまう。よって、神が不在の地の所有権を争う戦いが起こり得るからでござるよ」


「これっ!余計な事を言うでないわ」


図星をつかれたコウギョクは取り繕うとするが、もはや後の祭り。

ヤスベーさんは理由を教えてくれたものの、コウギョクの考えには相変わらず賛同できない様子。

もしや、アヤカシ達は参戦できないのだろうか。


「拙者達は翌日の早朝にはこの船を発とうと思う。皆々には此方の勝手で騒がせてしまい、大変申し訳ないでござる」


ヤスベーさんはコウギョクの頭を押さえながら気まずそうに眼を逸らすと、自身も深々と頭を下げた。


「こちらこそ、お役に立てずにすみません」


話が本当であれば戦力は二人となる、相手はどの程度の者で二人で勝ち、あのコゴ様の土地を取り戻す事ができるのだろうか。

コウギョクの事情を知り、二人への憐憫で談話室の空気はどんよりと曇る。


「気にすんじゃないよ、コウギョクの奴が勝手に言っていただけなんだから」


ザイラさんは私の背中を叩いてくる、手加減をしてくれてはいるが痛い。


「何を・・・」


ヤスベーさんの手を逃れたコウギョクだったが、一言発したところで其れも遮られてしまう。


「では、今まで大変世話になったでござる」


コウギョクの首に腕をかけ、小脇に抱えようとするヤスベーさん。

次に談話室に響いた声の主はシルヴェーヌさんだった。


「では、さっそく行きましょう!」


その傍らには薄い布に包まれた荷物が置かれている。


「・・・は?」


「ライラさんは散歩なら良いと言ってましたヨネ?」


そう言って今度は満面の笑みを浮かべていた。


「確かにそう言っていたけど・・・」


「どう見ても散歩に行くって恰好じゃないだろ」


私に続きヒューゴーがシルヴェーヌさんに疑問を投げかけると、一瞬でその姿は金色の木の葉で包まれる。

何度も目にした事が有るそれに、自然と視線がヤスベーさんの脇に抱えられた人物に移った。


「長い散歩もたまには良いではないか」


青褪めるヤスベーさんと、してやったりと言わんばかりの扇を広げたコウギョク。

ザイラさんにシルヴェーヌさんまで一様に木の葉に全身を包まれ、全員が黒髪のヒノモト人の容姿へと変えられている。


「服装で駄目でしょこれ・・・痛っ」


引き留めようとすると、目に木の葉が飛んできた。

霞む視界の中でコウギョクの声が聞こえてくる、もう嫌な予感しかしない。


「その程度、如何にでもなるわい。ヤスベーも神聖な儀式故に一人では不安だと愚痴を漏らしていたではないか」


「しっ、しかし・・・」


コウギョクからの仕返しを食らい、羞恥に悩まされるヤスベーさんを見ていると手鏡をシルヴェーヌさんに手渡された。髪はそのまま、瞳の色だけが栗色に変わっていた。


「長い散歩か・・・もう、強い奴と戦えれば良い気がしてきたよ」


ザイラさんは自棄気味にそう吐き出すと、ヒューゴーを抱え込みながら私の腕を掴み、楽しそうなシルヴェーヌさんとコウギョクの後を追いかけだす。


「投げ槍になんな!放せ!」


談話室にいた船員達は全員、巻き込まれたくないのか私達から目を逸らし、ヒューゴーの罵りにも動揺を見せもしない。

この強行も長くは持たないと私は高を括っていた、気なしに迎島を皆で散策すると奇異の目があちら此方から飛んでくる。それも、意外なくらい早い終幕を迎えるのだった。

兵士しが要所に配備されている以外、ほぼヒノモトの人間を見かけない路地で大きな荷物の山に遭遇する。荷車にそれは積まれており、されど引手はいない。

その荷物の陰から意外な人物の登場に、その場にいた全員が目を見開いた。


「そろそろ、来ると思っていたですよぉ。その容姿と、この状況なら問題ないですねぇ・・・とっと自分の荷物と此れを持って商会(うち)の宣伝をして貴族にでも商品を売り込んでくるですぅ」


ライラさんはふてぶてしく荷物の上に座っていたかと思うと飛び降り、人数分の布包みを指さす。

困惑する頭の中、これもライラさんの術中なのだと気づかされた。

シルヴェーヌさんはそんなライラさんを目にして安堵の息を吐く。


「船で使い魔・・・シキがいた時は中止になると思っていましタヨ」


「強運も商才の内ですからねぇ。少しばかり心遣いを掴ませただけで色々と運んでくれたうえに抜け道まで用意してくれるなんて、ヒノモトは親切な人達ばかりで良かったですぅ」


私達には断固として反対している様に見えたが、何処までが演技だったのやら・・・

ライラさんの悪い笑顔が、日の沈みかけた空の光に浮かび上がっていた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

今回はついにヒノモトを巡る為の入り口に立ったと言う所ですが、次から色々と進展させていこうと思いますので、気長に読んで頂けたら幸いです。


**********

少し今回は遅れてしまいましたが、次週も無事に投稿できれば7月21日20時に投稿いたします。

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