第01話 生還ー善なる神の憂い編
冷たく澄んだ風が全身を撫でる様に吹き去っていく。
こんな淀みのない風を感じたのは何時以来なのだろう、けれども腐った玉子のような臭いが僅かに混じる、これに関しては不快でしかない。
背中にゴツゴツと当たる石の感触で目を覚ませば、複数の松明の灯りに浮かぶ擂鉢状の地形が視界に入る。
見渡せば馴染みのある面々の姿が其処に在った、安堵すると同時に中央に揺れる青緑色の水面が見えた。
臭いと地形からするに、ガルーダに感謝はしているが帰還場所を考えてほしいと思う。
「火口湖だ・・・」
慌てて手で口元を抑えると、ヤスベーさんがヒノモト柄の布を渡してくれた。
「これを口元に・・・。此処は生きて帰って来られただけで文句は言えまい、此処は留まらずに出来得る限り早く離れるとしよう」
私達は帰って早々に移動を余儀なくされたが、そんな苦労も気にならない程に気分が高揚していた。
火口を抜け出したもの、視界は未だに夜闇に包まれているので下山は中断し、開けた場所で野営をする事にする。
小精霊が踊る煌々と私達を照らす赤い炎、些細な事にすら感動してしまい思いの外、この世界を恋しく思っていたと実感した。
周りの顔見渡すと、アヤカシ達を背景にヒューゴーの仏頂面が炎に浮かぶ。
アヤカシは人の目に触れないようにする術が有るらしいが、今は遠慮なしに闊歩している。
「帰って来られたのに嬉しくないの?」
何気にヒューゴーに尋ねると、視線だけ此方に向けてきた。
「いや、嬉しいさ。だけどよ、あの鳥に一言文句をいってやろうとしたにも拘わらず姿がねーんだわ」
いつも通り不満を抱えて憤ってはいるが、それだけではなく素直な反応も聞けて驚いてしまった。
「あー・・・成程ね」
「くくく・・・実にヒューゴー殿らしい。拙者は逆にガルーダ殿に礼を述べたかったでござるよ」
ヤスベーさんは低くい笑い声をあげると、異界と比べ物にならない程に輝く星空を見上げて目を細める。
しみじみとした静寂が流れる中、コウギョクの呆れ声が破った。
「はあ、お主は相変わらず捻くれておるのぉ。こーして無事に戻れた事じたいで御の字じゃろ」
一頻りヒューゴーを非難すると、コウギョクは大きな葉に包まれたオアゲを取り出すと、私達の前で見せつける様にかぶりつく。
「・・・うっせ、火口なんて下手すれば毒で永遠に目が覚めないって事も・・・ってお前、何を食ってんだ?」
ヒューゴーは言い返すも、目の前の光景に気付きコウギョクの姿を凝視する。
「ふぐっ、此れはあげふぞ」
コウギョクは自分に集まる鋭い視線に怯えてビクリと肩を震わすと、オアゲを咀嚼する速度をあげる。
誰に奪われる事なく早々にオアゲはコウギョクの口内に全て収まる、その頬は冬眠前のリスの様だった。
「寄越せ!俺も腹減ってんだよ」
ヒューゴーが怒声を上げると同時に御腹の虫が鳴き声を上げる。
そう言えば食事をしていなかったな・・・
「・・・元の世界に戻れた事は確かみたいですけど、問題は此処が何処かですよね」
「ふむ・・・麓に港町でもあれば良いのだが」
「それなら、アタシがひとっ飛び見てきてやるよ」
ザイラさんは薪を追加すると赤い小さな火を一吹き、ゆっくりと小さな火から炎に変わると場が先程より明るく私達を照らす。
「かたじけない・・・」
「んなに気を使わなくって良いって・・・そういや、ヤスベー達は今後どうすんだい?」
「うーむ、仮に港があったとてヒノモトは国交をほぼ断っているのでな・・・近場の大陸まで到着したら漁師に船を出して貰うしか他は有るまいな」
ヤスベーさんは帰路を想像し、眉間に皺を寄せながら首を捻る。
「そりゃー、面倒じゃのう。逆にお主等は如何するつもりじゃ?」
コウギョクは帰路の問題を他人事のように軽く受け流すと、口の周りについた油を舌で拭った。
「私は取り合えずレックスを教会に連れて行って石化を治療して貰い、南の大陸に残してきた仲間に連絡を取ってみます」
カルメンとレックスと共に世界の綻びへ落ちてからの経過日数は不明、仮に同じ時間の流れだとしても闇の国との戦いは終息したかどうかなど気になる事ばかりだ。
そしてフェリクスさんやケレブリエルさん達が未だにベアストマン帝国に留まっている保証もない。
帰って早々、問題が山積しているなと思うと頭が重い。
今は取り敢えず、他は考えずにレックスの治療を優先しよう。
「ふむ、そうか・・・お主さえ良ければ世話になった事じゃし、妾の故郷に招きたかったんじゃがの」
コウギョクは少し残念そうに口角を下げる。
ヒノモトには少し興味ある、異国の文化と西側ではあまり見掛けない、私と同じ黒髪の人が多いいからだ。
旅と思い返せば、船旅の事を考えるとヴォルナネン商会の会長にて船主のライラさんの事が思い浮かぶ。
ヒューゴーと同じ種族だが、やたらお金が絡むと目の色が変わる人だったなと思い出がよみがえった。
「ありがとう、知り合いに船を持っている人がいるから機会があったら寄らせてもらうね」
ライラさんの事を思い出した末に苦笑するが、コウギョクは急に目を輝かせる。
如何やら船を持っている人がいると言う部分が気になったらしい、食い気味に此方に身を寄せてきた。
「ほう!なら、その知り合いとやらに船を頼めぬのか?」
「うーん、妖精で連絡を取っても何処の港に船をつけているかも判らないから何とも。それと・・・乗せて貰うには懐に余裕が無いと乗船どころじゃないかも」
「失礼じゃがお主・・・よくそんなのと懇意になれたの」
商人である以上、金銭関係に対しては厳格なのは仕方がない。
ただ徹底しているので、情や気紛れで乗船を許可するとは思えないと言うつもりだったのだが、早くも予想通りの反応が返ってきて乾いた笑い声が漏れた。
「はははっ・・・」
「紅玉殿、縁があれば何れ必ず再会できよう。そう気落ちなさるな」
ヤスベーさんは肩を落とすコウギョクの頭をクシャリと撫でまわす。
「・・・うむ」
コウギョクはそれに不機嫌そうに眉根を寄せると、ヤスベーさんの手の甲を畳んだ扇で叩き払い除けた。
ヤスベーさんが痛そうに手の甲を撫でていると、シルヴェーヌさんが松明を片手に走ってくる姿が目に留まる。
其れに気付き座るように促してくるザイラさんに、シルヴェーヌさんは申し訳なさそうに軽く首を横に振る。そのまま両手で膝に手を置くと肩で息をしているので落ち着くのを待つ事にした。
「慌てていたみたいだけど何かありました?」
「えーっと、材料不足が否めませんガ、如何にか石化毒は抑えられていマス」
シルヴェーヌさんは困ったような表情を浮かべつつ、成果は出ていると誇らし気な表情を浮かべる。
少しだけ間が空くと、シルヴェーヌさんは何かを思い出したかのように目を大きく開いた。
「レックスさん、アメリアさんと話したいソウデス。真剣な顔してマシタ!」
シルヴェーヌさんはレックスの伝言を私に聞かせると、何故か此方の顔を期待しながら見てくる。
真剣な話か、あの頑なに外さない仮面の下の素顔を見せてくれるとか?
冗談は置いておいて考え込むと、ヒューゴーが鼻の穴を膨らませ気持ち悪くニヤニヤしながら私を見てきた。
「真剣・・・最後にヤベェ私物を処分してくれとかか?」
「やばい私物ってなんじゃ!遺言とか、そう言う縁起でもない物言いをするでない」
「・・・その言葉、そのまま返すぞ」
「そうなると・・・」
コウギョク達のとんでもない発言にあてられたのか、ザイラさんやヤスベーさんまで真剣に考えだす。
シルヴェーヌさんはそんな面子に困惑しながら、石化は治せると口を挟めず歯痒そうに呟いている。
異界から生還した解放感からとはいえ、このままでは収拾がつかないので考えずに素直に呼び出しに答える事にした。
「解りました、何処に行けば良いですか?」
「良かった!それナラ、私が案内しますデス」
シルヴェーヌさんは松明を片手にやっと解放されたと言わんばかりに声を弾ませると、行きとは違いゆっくりとした速さで歩き出す。
そうは言っても長くは歩かない、なだらかな傾斜に幾つかの仲間に分かれて焚火を囲んでいる。
レックスはその中でも細くてやや背が高い木の下に寝かされていた。
「それじゃあ、私はお暇しマスネ!」
シルヴェーヌさんは自分に任せろと言わんばかりの表情で此方に向けてバチリと片眼を瞑る。
なんと言うか貴女もか。
思わず溜息が漏らすと、レックスも仮面を抑えて俯いている。
「調子は良くないと思うけど、どんな感じ?」
「まあ、薬のおかげで如何にかって所だな」
片手に両足と石化してしまっているが、異界で見た時と変わらない様子。
「そうか、明日は早く教会を見つけなければね」
「ああ、それで話があるんだ。明日、町を見つけて教会に俺を運んだら其処に置いて行ってほしい」
まさかの予想外の話に少しだけ驚き、何度か私は瞬きをする。
憑依されていたとはいえ、自分の失態で石化させてしまった人間を教会に放り込んで知らぬ顔をするなんて不義理が過ぎないだろうか。
「え?こっち急いでいないし、船を見つけたらで良いんじゃない?」
「そう言う問題じゃ無い、お前達の為なんだ」
旅の足止めになる事を危惧しているのならと言ってみるものの、レックスは不機嫌そうに目を逸らす。
これは何か訳ありなのだろうか。
そういえば協力関係ではあるが、その素性がどの様な身なのかなど語った事は無い。
然し、封じられても尚も邪神の影響下にある異世界から生還してきた仲を教会に丸投げするのは気が進まなかった。
「・・・せめて何が私達の為なのか教えてよ」
レックスは不機嫌そうに眉間に深く皺を刻み込む。
「何でもだ・・・!そんな事になって見ろ、逃亡しながらの旅なんて碌なもんじゃない、お前は賊に襲われた挙句に崖に落ちて死にかけただろ?!」
訳が分からず唖然としてしまった、レックスが言っている事が理解できない。
毒に侵されて見た幻覚か、逃亡中に賊に襲われて崖に落ちるだなんて、邪神の影響も否めないがあまりに突拍子がなさすぎる。
「は・・・?」
自分の記憶を手繰り寄せても覚えがない、だけど何かが頭をよぎる。
次第にそれはレックスの言葉と重なる、幾度となく魘されながら見た悪夢だ。
然し思い込みの可能性が十分ある、此処で下手に口に出すべきでは無い。
「す、すまない、意味が解らなかったな。ともかく知らなくて良いんだ忘れてくれ」
如何やらレックスも困惑しているらしい、それでも此の消化不良の様な感覚を残すのは勘弁してほしいものだ。思わず溜息が漏れる。
暫し硬直していたが此処で私は頭を振る、もうこれは忘れて体を休める事にしよう。
本人は口を割る気がないようだし、教会の事に関してはザイラさん達に相談するべきと判断した。
互いの間に気まずい沈黙が流れる中、その雰囲気を壊す程のシルヴェーヌさんの陽気な声が響く。
「喧嘩は駄目デス!それとレックスさん、負傷者を我が身かわいさに教会に捨てるなんて人道に反する事をワタシも主も許しまセンヨ!」
静寂が広がる山の一角にて気恥しくなる勢いで仲裁に入られると、レックスは敷物の上に寝転び私達に背を向けた。
「許されなくていい・・・ともかく、女神様からの責め苦は俺が甘んじて受ける。話が終わったから寝かせてくれ」
「なんですかソレ・・・」
シルヴェーヌさんは戸惑いながら残念そうに肩を落とす、さては好奇心に駆られた挙句に盗み聞きしていた所で辛抱ならず干渉してきたな。
完全な夜明けまで時間があるので私もレックスに倣って戻って寝る事にした。
「私はザイラさん達と少し話をしてみます。それじゃあ、おやすみなさい」
「えーっと・・・おやすみなサイ」
笑顔で就寝前の挨拶をすると、シルヴェーヌさんは苦笑しながら松明を受け取った。
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翌朝は簡単な食事を済ませてから下山し、ザイラさんの活躍で海沿いに広がる港町を発見できた。
山側に石造りの大小様々な建物が継ぎ足ししながら増設されたように乱雑に並び建っており、港側は数棟の倉庫と巨大な市場が作られている。
ヤスベーさん達は異文化を物珍しそうに眺めていたが、私やヒューゴー達には何処であるかだいたい見当がついていた。
「これは、運が良いですね。この島はカーライルと言う国の一部で、商人達によって作られたフォンドールって言う自治区です」
「ふむ・・・些か不安があるが、船を探すには事欠かぬようでござるな」
ヤスベーさんは港に停泊されている船を眺めて安堵した様子を見せるが、自身の懐に手を差し入れると大きな溜息をついた。
そんな気落ちしたヤスベーさんをコウギョクは意味深な悪い笑みを浮かべながら見上げる。
「銭なら問題なかろう。ほれ、この通り潤沢じゃ!」
コウギョクは大きく膨らんだ布袋を握り締めると、したり顔を浮かべながら差し出す。
ヤスベーさんはそんなコウギョクを見て暫し沈黙すると、ヒューゴーから短剣を借りて袋に突き刺す。
引き抜くと金貨が零れ落ちてきたが、それは地面に落ちた途端に枯葉へと変化した。
「ああー!何をするんじゃ!」
山にコウギョクの絶叫が木霊する。
「何事も真面目に対処せねば、墓穴を掘るだけでござるよ」
何か色々とコウギョクが文句を言ってごねていたが、ヤスベーさんは落ち着いた口調でそれを窘めると此方へ振り向いた。
「それじゃあ、此処でお別れですね。本当に色々とお世話になりました・・・」
「いやいや、拙者達が生還できたのはアメリア殿もいてくれたおかげでござるよ」
「いっ、いえ、とんでもない!」
反射的に答えるも、どう考えてもヤスベーさんがガラクタ団に入れてくれたから今が有ると思っている。
思わずしんみりとした空気が流れると、ヤスベーさんが笑い声をあげた。
「ははっ、縁が有れば何れ巡り合う事も大いに有り得る。これは今生の別れではない」
「はっ、よくそんな歯が浮く事を言うな。国交がない東の果ての国なんて関わる事あるかよ」
ヒューゴは両手で自身の肩を寒そうに擦ると、ヤスベーさんの言葉を鼻で笑う。
「ヒューゴー!世話になってんだから言葉を選びな!」
ザイラさんはレックスを背負いながらヒューゴーに近づくと爪先でヒューゴーの足を突く。
隙を突かれて受けた衝撃にヒューゴーはよろめくと、膝を地面に打ち付けて痛そうに顔を歪めた。
「痛って!膝裏を蹴る事ないだろ?」
「ふん・・・」
足を仕返しと言わんばかりにヒューゴーは繰り返し蹴るが、ザイラさんは痛くも痒くもない様子。
「三人ともアメリア殿たちを頼む」
「はい、お任せくだサイ」
シルヴェーヌさんはヤスベーさんに対しにこやかに応えた。
旅の面子は西と東で解れたが、ザイラさんにはレックスの搬送を手伝ってもらい、シルヴェーヌさんには教会に逸早く治療をしてもらえるよう口利きして貰う事を約束している。
「俺は同族達と変わらず、気分で自由に世界を周るだけだ。それはザイラにだけ言えよ」
私達を任せる者の中に自分が含まれている事を不服に思ったのか、ヒューゴーは不機嫌そうにヤスベーさんに釘をさす。
別れ際の言葉がそれなのかと呆れながらヒューゴーを見ていると、ザイラさんは残念な物を見る目で見下ろし、再び顔を上げてヤスベーさんに目を向けた。
「まったくコイツは・・・解ったよ、故郷に戻るまでは責任取るよ」
「ヤスベーさんにコウギョク、御二人とも本当に・・・ありがとうございました!また、会いましょう!」
「勿論でござる」
「うむ・・・じゃあの」
互いに手を振ると、町を望む崖で別れて山を下っていく。
獣道から林道へと抜けると石造りの壁と木製の門が見えてくる。
門兵には、先に到着していたらしいヤスベーさん達といい、何のクエストだと軽く訝しがられたがヒューゴーが適当にあしらい如何にか町に入る事を許して貰えた。
町の中を見渡せば花壇には妖精、魔法でやり取りをする人々や馴染みの料理を食べ歩きする人々の姿を見かけて目をひかれてしまう。
そんな事をしながら教会を目指していると、やたらとカーライル兵が巡回している姿を見かける。
「何か物騒ね・・・」
スリや強盗や喧嘩が起きると言う話は聞くけど、こんな小さな島に国から派兵されるなんて珍しいな。
「何があったかなんて関係ないだろ、さっさと行こうぜ」
ヒューゴーは先頭へ駆けていくと、教会を指さしては早く用を済まそうと囃し立てる。
「まあ、そうだね・・・」
何気に視線を泳がせると噂話に盛り上がる人々の姿が散見している。
通りすがりに聞いていると、魔物の狂化や高貴な身分の方が誘拐されたのだの不穏な話ばかり。
後者はともかく、前者はいただけないな。
そう思い眉を顰めていると、ザイラさんの翼に隠れてレックスが顔を伏せている姿が見えた。
「教会です!さあ、これで安心でスヨ!」
シルヴェーヌさんは教会の前で嬉しそうに此方へ振り向く。
教会の規模は小さいが、木製では無く煉瓦製と確りとした造りをしている。
「解ったから、とっとと話を通してこい」
ヒューゴーが私達の反応まちのシルヴェーヌさんを急かす。
慌てて教会に入っていくシルヴェーヌさんを見送り終えると、レックスの事が無性に気になった。
「昨日、私達で話し合ったけどやはり教会に預けてそのまま旅に出る訳にはいかないと言う話になったよ」
「置いて行くように言った筈だ」
少し間が空いたかと思えば、言う事は変わりないが口調が先程より強く、怒気が含まれている様に聞こえた。これに何か一言いうよりも早く教会の扉が大きな音を立てて開く。
すると、シルヴェーヌさんを先頭に数人の修道女と司祭が慌てた様子で出てきた。
石化に何を大げさなとシルヴェーヌさんを見ると、司祭達は顔を互いに合わせて頷くとザイラさんに背負われているレックスを覗き青褪める。
「だいぶ石化が進んでいます。如何かレックスを助けてあげてください」
そう言うと、一人の修道女は私の声に振り返り睨みつけてきた。
余計な事を言ったのだろうか?
私が口を噤むと、ザイラさんを教会の中へと案内していく。
慌ただしかったが無事にレックスに治療を受けさせられて一安心だ。
そうしていると、シルヴェーヌさんが小柄な修道女と話している事に気付く。
「処置が終わるまで中で待ちませんカ、だそうデスヨ」
シルヴェーヌさんは修道女の肩に優しく手を添えると、代弁をした後に微笑んだ。
然し、それを聞くと修道女は慌てた様子で喋り出す。
「あ、あああの、やはり待つのは・・・」
長い若葉色の髪の下の青い瞳は怯えながらも、何か躊躇う様にゆらゆらと揺れる。
話し終えるのを待つと、教会の中から女性の声の怒鳴り声が聞こえてきた。
「エリーズ、何をしているのです!早く、仲間の方々を教会へ御案内なさい!」
「はっ、はひぃ!その、教会へ案内しますど・・・どうぞ」
エリーズは小刻みに肩を震わせながら教会へと私達を案内する。
シルヴェーヌさんはその様子を見つめると、その後を心配そうに付いて行く。
「・・・行くぞ」
「うん・・・」
ヒューゴーに促され教会へと入っていくが、神聖であり争い事に縁遠い筈だが如何にも足が重い。
通されたのは何ら変哲の無い聖堂であり、ザイラさんは長椅子に体を預けて暢気に肩を鳴らしていた。
「そ、それじゃあ、ごゆっくり・・・」
エリーズは私達が着席した事を確認すると、怯えながら置き去りにして立ち去っていく。
ヒューゴーがその背中を見ながら舌打ちをした。
「ヒューゴーさん、お茶を出されないからって怒るの駄目デスヨ」
「あ?怒ってねぇよ、顔は元からだっての」
シルヴェーヌさんのずれた注意にヒューゴーは煙たそうに眉を顰める。
「そんな事より、アタシに労いの言葉は無いのかい?」
ザイラさんは肩を鳴らすと、ゆっくりと此方へと振り向く。
「遅れてすみません、此処まで運んで頂きありがとうございます」
ザイラさんにお礼を言うも束の間、外が妙に騒がしい事に気付いた。
教会の外から複数の足音、それは徐々に大きくなり近づいてきている。
私達は動きを止めると顔を合わせて息を呑む。
小さな島の教会に扉を乱暴に叩く音が響き渡った。
本日も当作品を最後まで読んで頂き誠に有難うございます。
漸く新章が開始しました!
これから更に大きく話が動いていきますが、良い結末目指して更新していきますので
宜しければ今後も当作品を読んで頂けたら幸いです。
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次週も無事に投稿できれば6月23日20時に更新いたします。




