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第56話 隧道を抜けてー邪なる神の監獄編

現在、私達は数十メトルは有ると思われる巨人に握りしめられながら異界を闊歩している。

食人樹を叩き潰し、私達を森から救い出してくれたのはコウギョクいわく、ダイダラボッチと言うアヤカシだそうだ。

山を護る守護者の様なアヤカシらしいが、やはりヒノモト同様に世界の綻びに呑まれ、コウギョク達に救われて以来、友好関係が続いているらしい。

大きさに加えて夜闇の中と言うのもあり、その顔を拝む事は叶わないが、あの窮地から救い出してくれた事には感謝しかなかった。

寡黙な性格らしく御礼を言うと短く地鳴りのような声が返ってきたが、それ以降は何を言うわけでもなく追っ手の魔物を腕の一振りで粉砕しつつ、黙々と何処かへ向けて歩き続けている。


「コウギョク、私達を何処に連れて行くのか訊けないかな?」


ただ移動するのみだと、つい変に考え過ぎてしまい気持ちが逸る。

一人で落ち着きなく尋ねると、コウギョクは首を捻り、眉根を寄せて不愉快そうに問返してきた。


「何じゃお主、疑っておるのか?」


「えぇ?!そうじゃないよ!」


「落ち着きなよ。どうせコイツを寄越したのはヒノモトの連中だろ、こうやって体をゆっくりと休めな」


ザイラさんは座りながらのんびりと背筋を伸ばすと、ダイダラボッチの掌の上で体勢を崩して足を投げ出した。

それを見てヤスベーさんも無言で頷いたので、如何にか足を崩す。


「そうそう、このまま放り投げられるなんて事はねぇんだから一休みしよう・・・ぜ?」


ヒューゴーは立ち上がると大船に乗ったつもりでいろと言わんばかりに暢気にヘラヘラと笑いだす。

然しその直後、全体が揺れたかと思うとダイダラボッチは立ち止まっていた。

嫌な予感程、妙に当たるものだと思う。

止まると同時に掌が斜めに傾き、ヒューゴーやコウギョクの体が跳ねて宙に浮く。

あからさまに危険な事態に備える間もなく、ダイダラボッチの体は傾き、始めに袖を掴んでいたヤスベーさんとコウギョクが吊られながら落ちていき、ついに私とザイラさんも掌から転がり落ちてしまった。

死を半分だけ覚悟しながら見下ろす大地には巨大な峡谷、一瞬の事で何が起きたか把握できずにいると、ザイラさんに後ろから人形のように抱きかかえられ一命を取り留めたが、恐怖で心臓が早鐘の様に打ち付ける。


「皆さん、無事ですか?!」


「落ち着きな、乱暴だけど怪我人すらいないから」


ザイラさんからは慌てて呼びかける私に呆れたような声をあげる、そのまま眼下を指さされて見下ろす。三人をそれぞれを抱きかかえて飛ぶ影が三体、翼と赤い顔、立派な鼻を持つアヤカシ達に連れられ峡谷へと降下していた。

早くも差し向けられた助け舟に感謝しつつ、それと同時に生き延びた人が近くに潜んでいる確信が持てる。


「ありがたいですね」


「・・・だろ?ダイタラボッチの奴に囮を任せているみたいだから、その内にテング達の後を追うよ」


ザイラさんに連れられながらテングの後を追って風を切り、峡谷の底まで下りていく。

今まで気にした事がなかったが、砂漠に平原に湿地と異世界の地形も様々だ。

それが元からの物なのか、邪神の眷族に達の影響か、綻びから落ちた大地の一部が呑まれた事も作用しているのかもしれない。

私達は案内されるままに峡谷の壁面を見れば複数の洞穴、そのうちの幾つかは岩などで塞がれている。


「此処はとある飛び地から駆り出された鉱夫らの元職場じゃと。んで、そこを再利用したらしい」


コウギョクはテング達の後に続き行動の入り口に立つと、その光景を眺めて立ち尽くす私達へ手招きをした。

古びた石造りの骨組みに支えられた入口を潜り抜け、坑道の中を松明の明かりを頼りにテング達の後を追うと一軒の木製の襤褸屋(ぼろや)に出た。

どの様な事態があったのかは察する事はできないが隣家の壁が打ち抜かれて渡り廊下の様にされておりおり、坑道の出口などは其れに適当な木材を釘で打ち付けて繋げたと言う雑な目隠しだ。


「こりゃあ、まるで渡り廊下だね」


ザイラさんは足元を見て、歩きにくそうにしながら呟く。


「長屋じゃ、まあこの状態では其れも強ち間違ってはいないがな」


コウギョクは身軽な体を活かし、軽々と飛び跳ねながら進んでいく。

朽ちた生活の痕跡により足の踏み場は少なく、歩きにくい事はこの上ないのだが、その中でも真面な一軒に招かれた。

其処には数人のヒノモト人とアヤカシがおり、ヤスベーさんの姿を見るなり深々と頭を下げてくる。


「安部団長、ご無事で何よりです。それで、そのヒノモトの事ですが・・・」


ヒノモトの服を纏った黒髪の女性は此方に見向きもせず、真直ぐヤスベーさんの元へ歩み寄る。

ヤスベーさんは本調子ではないらしく苦笑しながらも、渡された水を一気に飲み干して息を吐いた。


「ふむ、ヒノモトの被害状況は?」


「人と妖、その他の種族を合わせて死者と怪我人を合わせて四割。神社防衛に数名の者が残っています」


女性は悲しげな表情を浮かべながら紙束へ視線を落として淡々と内容を説明する。


「動けるのは半数・・・否、その内で実戦可能な者は三割でござるか・・・」


ヤスベーさんは報告を聞いて俯きながら顔を顰めて思案に耽る。

そんなヤスベーさんの首に赤髪の猫の獣人が浮かれた様子で腕を引っ掛けてきた。


「へへっ、如何します?俺達、何時でも出陣できるっすよ!」


女性が鋭い瞳で睨みつけると、怯えた素振りを見せて戯けながら腕を離すが男性は全く気に留めていないらしく、此方に気付くと何も言わずに物珍し気に見てくる。


「ルドビーコ、言葉を慎みなさい。・・・所で貴女は?」


女性は頭を抱えながら溜息をつくと、ゆっくりとルドヴィーゴの視線を追いかけて漸く私に気が付いたらしい。



「どうも初めまして、アメリアと申します」


「いえ、こちらこそ礼を欠いてしまって申し訳なかったわ、あたしは千鶴、そこの赤いろくでなしがルドビーゴよ」


チヅルは慌てた様子で名乗り、ヤスベーさんを挟んで隣に立つルドヴィーコさんを素っ気無い態度で紹介する。

自分の事を言われていると気づくなり、ルドヴィーコの顔はチヅルの方へ向き、不服そうな顔で抗議をし始めた。


「ルドヴィーゴっすよ!」


「・・・判れば、どっちでも良いじゃない」


「もう、覚えてくださいよ・・・それで団長、奪還は何時にします?なんなら、今直ぐでも歓迎っすよ!」


ルドヴィーゴはそっけいない返しに残念そうに不満を漏らすも、逸早く奪還作戦を実行したいらしく、ヒノモト出身であるチヅルを差し置いてヤスベーさんに決行を求めている。

それが逆にチヅルを冷静にさせているのかもしれない、実に対照的な二人だ。


「ルトビーゴ、そもそも出陣されるなど団長は一言も仰っていないでしょう」


チヅルは格子状の明り取りの窓へ視線を向けると、さも当然と言わんばかりにルドヴィーゴを諭す。

ルドヴィーゴは壁に(もた)れ掛かり、面倒くさそうに手をヒラヒラと手を振りながらチヅルの御小言にはうんざりと言わんばかりに遠い目をする。

然し、ヤスベーさんの口から出た言葉はチヅルの発言を否定する物だった。


「・・・今回ばかりはルドヴィーゴの意見を採用しよう」


「よっしゃ!全力で頑張るっす!」


先程までの死んだ目が光を取り戻して輝き、チヅルの口元が引きつる。


「団長・・・何故ですか?」


チヅルは邪神の監視下の行動や、身の内に潜む残虐性を掻き立てられた魔族の暴走を危惧しているのだろう。信じられないものを見る様にヤスベーさんへ視線を向ける。


「そこのアメリア殿の同郷の友であり、団員のレックス殿が邪神に囚われて傀儡とされているからでござるよ」


ヤスベーさん神妙な口調で邪神により団員が危険に晒されていると理由を告げる。

それによりチヅル達だけではなく、周囲の人々まで騒めき立った。


「え?アメリアちゃん、アイツの知り合いっすか?!」


ルトヴィーコの眼は驚きと嫌悪に染まり、信じられない物を見るように訊ねてきた。

口調こそ変わらないが、その表情が徐々に硬くなっていく。


「え、ええ・・・」


思わず戸惑いながら肯定すると、ルトヴィーコは心底残念そうに大きな溜息をついた。


「なら、俺はアンタを信用できないっす。避難民や俺達を襲撃するよう手引きしたアイツと繋がりが有る人間を連れてくること自体ありえないっすよ」


一瞬で友好的な態度から、軽蔑するような冷たい物へと変わった。

あまりの豹変ぶりに驚くより、レックスがヒノモトへの襲撃に加担したと言う言葉に衝撃を受けた。

その露骨な態度をチヅルは呆れたような目で見ている。


「待ちなさい、直前まで団長達と行動していたのよ。彼女は今回の件にはおいては無関係だと思うわ」


怪訝な視線が私に集中する様子を見てもチヅルは一貫して感情を昂らせず冷静だ、それでもルトヴィーコの様に露骨では無いが疑念は持っているだろう。

しかし嫌疑をかけられた所で、このまま引き下がって奪還戦へ参戦を離脱するわけにはいかない。

邪神は封印こそされてはいるが、依り代であるレックスへの執着は有るはず。

抵抗されようものなら更なる負傷者や死人が出る、それを防ぐ為にも私は参戦しなくてはならない。


「ならば、レックスを捕らえる役目を私に任せてください。必ず信用に足る事を証明します」


「そう言われても困るっすね・・・」


ルトビーコは頭を下げる私を目にして困惑しつつ、何かを言おうと口を薄く開くも躊躇しては閉じる。

一方的な対立図にヒューゴーは堪忍ならなかったのか、蟀谷に青筋をたてながらルトヴィーコに指を突き立てた。


「コイツは邪神の回し者じゃねぇ事は長く行動をしてきた俺が保証してやるよ!」


「妾達も同意じゃ、お主は口調だけではなく頭も柔らかくすべきじゃぞ」


ヒューゴーにコウギョクはルトヴィーコに噛みつくように抗議し、それにザイラさんも頷いてくれた。

三人の言葉に思わず感動していると、チヅルは面倒臭そうに溜息をつき、ルトヴィーコの背中を落ち着かせるように優しく叩いた。


「団長、彼女は本当に信用できるのですか?」


仲間を死に導いた憎いレックスの姿は心に焼き付いて離れないのだろう、ヤスベーさんは少し困ったように苦笑した。


「拙者はアメリア殿を信用している・・・判断するならヒノモトを取り返してからでも遅くはあるまい」


穏やかな口調でそう言うと、ヤスベーさんはチヅルとルトヴィーゴの顔を順に見つめる。


「御意・・・では、戦支度を整えてまいります」


チヅルは従順に頷くと、煙と共に姿を消した。


「もうヒノモトを取り戻せるなら何でも良いっす!今日は満月だし、なかなか血沸き肉躍る夜になりそうで滾るなあ」


ルトヴィーゴは自棄気味に明るく振舞うと、窓から外を覗き見て肩を震わせた。

夜空は紫がかっており、不気味なぐらい星が瞬いている。

下手に動けば、たちまち満月に姿を捉えられてしまうだろう。


「直ぐには無理じゃが、月なら妾が何とかしよう。代わりに、お主等は疑念ばかり口にせずに妾達をヒノモトへ導かれよ」


コウギョクは意味ありげにほくそ笑む、チヅルとルドヴィーゴはそれを見て困ったような複雑な表情を浮かべていた。



***************



月明かりが差し込む戸口に人影が映る。

黙っていると、チヅルが扉越しに声を潜めながら呼びかけてきた。


「団長、此方は準備が整いました」


「承知。皆に告ぐ、ヒューゴー殿を中心に我々を庇いつつ護衛を優先すべし。良いな?」


先ずはヒノモトへの潜入、そして満月を隠す手段を有すると言うコウギョクの策を頼りにジンジャへ送り届け、術が発動するまで私達が時間稼ぎをすると言うのが作戦の流れだ。

一方のガラクタ団に下した命令はヒューゴーが緊急時の為に掘ったという隧道へ辿り着くまで護衛をすると言う物。それに加え、時機を見て魔族の掃討戦へ加わるようにと言う物らしい。

敵の総数は三十人から五十人程と言うのがチヅルとルトヴィーゴの推測、だいたい一個小隊程の人数だ。


「それにしても、救助された先に目的の抜け穴が有るなんて偉く都合がいいじゃない」


抜け道が有るとは聞いていたが、ヒノモトに近いとはいえ、助けられて案内された飛び地に都合よく目的の場所が在るなど不自然すぎる。


「そう言えばアンタ、しょっちゅう姿を消していたねぇ。おかげで他の連中がよく顔を青褪めながら血眼で探すのを見たっけね」


ザイラさんは私の言葉にうんうんと思い返すように何度か頷くと、悪い笑みを口許にたたえながらヒューゴーをじっとりとした目で見る。

それにヒューゴーはうっと息を呑むと、話を逸らそうとするが妙案が浮かばなかったのだろう、頭を掻きむしった。


「あー、バレてたか。まあ、息抜きだよ・・・色んな所へ抜けられる様に地下空洞を繋げておいたんだ」


ヒューゴーは開き直りながらヘラヘラとした振る舞いをし、自分の気持ちに同情を求めながら私達の顔を見上げる。

然し、返ってきた反応は様々、特にコウギョクとヤスベーさんの反応は手厳しいものがあった。


「息抜き・・・まあ、これは追々じゃな」


「うむ、ともかく今はヒノモトの奪還のみを頭において欲しいでござるよ」


二人の言葉にヒューゴーは凍り付くも、容赦なくヤスベーさんはヒューゴーの両肩を掴んでは戸を開いて外へと連れ出していく。

それに私達も続き、建物の屋根を複数の団員たちが屋根の上を走りながら追従してきた。

建物の合間の狭い路地を走ると、間もなくして飛来してきた魔物を団員達が次々と殲滅していく。

邪神の視線を受けながら、私達は魔物の断末魔を耳に廃村を駆け抜ける。

村の外れまで辿り着くと、長方形の石が何基も並ぶ不気味な開けた場所に出た。


「は、墓場ではないか!」


「まさか、此処に隠し通路が有ると言うのでござるか?!」


コウギョクとヤスベーさんは声を震わせながらヒューゴーの背中に向けて叫ぶ。

ヒューゴーは其れを無視し、横並びの名が刻まれていない墓石を蹴り倒した。


「そのまさかだよ。こんな薄気味悪い所なら、人が寄り付かないし都合が良いだろ?」


ヒューゴーは罰当たりなと憤慨するヤスベーさん達を気にも止めずに黙々と足で土を払い除けると、現れた古めかしい二基の棺を持ち上げようと踏ん張る。


「確かに人気は無いけど、あんまりじゃない?」


必死に棺を持ち上げる姿を見て堪らず手を貸すと、見かねたザイラさんも軽々ともう一基を退かしてくれた。

そこをヤスベーさん達が松明に照らす、熊の巣穴ほどの入り口から続く隧道(ずいどう)だ。


「本当にヒノモトに繋がっているのでござるか?」


「文句あるなら、正面からヒノモトへ突っ込むか?」


サボリへの御咎めが無かった事で調子に乗ったのか、開き直りと取れる態度をとるヒューゴー。

それに対して怒るどころか、冷めきった眼をしながら鼻で笑う。

ヒューゴーには全く伝わっていないが、彼は何かしらの厳しい報いを受ける事になりそうだ。


「・・・では、行くとしよう」


ヤスベーさんとザイラさんは松明の火を消すと、コウギョクは火球状態のフジとツガルをヒューゴーに付かせて抜け道へと潜り込む。

最後にザイラさんが棺桶で穴を塞ぐと、隧道の中は青白い光で照らされた。


「コウギョク、月を如何にかできるって本当なの?」


「ふむっ、無論。妾は運が良い、神社の裏庭には池が有る。よって、術の根源が希少な異界においても、龍神様の御力を賜りテローと同様に雨乞いができると言う事じゃ!」


薄暗く表情を窺い知れないが、声色のみでコウギョクがしたり顔を浮かべているであろうことが判ってしまう。


「リュウジンサマ・・・精霊ではなく?」


聞き覚えのない呼び名に、何か分からずにコウギョクに尋ねてみる。

然し、素朴な疑問のつもりがコウギョクの逆鱗に触れてしまったらしい。


「霊と同列に考えるとは不敬じゃぞ!」


「あー?そんなのどうでも良いだろ?地域の概念の違いぐらいで喧嘩すんなって」


狐火の青白い光に照らされ、ヒューゴーの心底からどうでも良いと言う顔が暗闇に浮かび上がる。


「むう・・・」


喧嘩を咎められ、不服そうなコウギョク。

そして私を見てザイラさんは唸りながら考え込むと明るい声で(たしな)めてきた。


「まあ、要は東側には神様が沢山いるって事だよ。ともかく、此処はアメリアから謝っときな」


単純明快とはまさにこの事だ。

知らなかったとはいえ、コウギョクを不快にさせてしまったのだから素直に謝罪をする事にした。


「コウギョク、さっきのは失言だった。本当にごめんね」


私が頭を下げると、コウギョクは目を丸くするが顔を顰めたまま何も言わずにわなわなと震えだす。


「なんじゃもう!妾が大人げないみたいではないか!」


コウギョクの怒りの声が隧道に響き渡る。

おまけにわなわなと震えだし、何かを言いたそうに口をパクパクさせた。


「コウギョク、いい加減に口を閉じてろ」


ヒューゴーは葛藤するコウギョクを静かにするよう諫める。

振り替えずにいるヒューゴーの視線の先から弱々しい風が此方に吹いてくるのが分かった。


(ようや)く、ヒノモトへ到着したようでござるな」


手掘りの荒っぽい造りの隧道から漸く抜け出せる時が訪れた。

出口は板で塞がれており、背が高いザイラさんが手を伸ばすとヒューゴーは息を切らしながら何処からか鉄の棒を持って先に押し開けた。

埃の様なものが舞い落ちてくるのを避けると、ヒューゴーは岩壁をよじ登り、跳躍して入口へと両手をかけて軽々とよじ登る。


「こっちは大丈夫だ、早く来い!」


ヒューゴーは穴から顔を出すと此方に手招きをする。

背が低いコウギョクをザイラさんが抱え上げて登らせ、元から隧道の天井は低いので私達は難なく軽々と外へ這い上がる事が出来た。

抜け出たのは生活感があふれた建物の一室で、脱ぎ捨てて裏返しになった服や酒瓶などがごろごろと床へ転がっている。床板を外して穴を掘るとは、ヒューゴーはどこぞの囚人か。

如何やら此処は宿舎であり、ヒューゴーとその仲間の共同部屋らしい。


「なんじゃ、このせいで慌てていたのか」


「う、煩い、良いだろ今は!」


「此処はヒノモトで間違いありませんよね?」


「ああ、窓から神社が見えるし、間違いないでござる」


ヤスベーさんがそう答えると、誰もが緊張から息を呑んだ。

建物に開いた穴を潜り、植木や建物に身を隠しながら徐々にジンジャへと歩を進めていく。


「何だい、これは拍子抜けだねぇ。もっと背後からガツンとやりながら進むと思ったのにさ」


「お前のガツンは死人を出すから止めろ。隠すのが面倒だろ」


ヒューゴーとザイラさんが声を潜めながら言い合いをし、ヤスベーさんとコウギョクに無言で叩かれている中、周囲を見渡しつつ耳を澄ます。

確かに人影も目にしなければ、耳にする音は己等の足音と草や葉が擦れる音のみ。


「確かに妙ですね・・・」


ジンジャまでは目と鼻の先であり、以前にコウギョクが座っていた長方形の石柱も見える。

幾ら何でもヒノモト側に人員を配備しないとは思えない。


「・・・確かにそうでござるが、此処で足踏みをしたままや引き返す事などできまい」


ヤスベーさんの眉間の皺が深く刻まれていく。

その顔をコウギョクは覗き込むと、ヤスベーさんの眉間を指先で弾いた。


「やれやれ、解っておるなら、とっとと周囲を固めぬか。幸い、神社には邪な者を退ける術もかかっておるが相手があいてじゃぞ」


何時になく神妙な面持ちでコウギョクは私達を(はや)し立てる。


「それじゃ、アタシがコウギョクの護衛をするよ」


ザイラさんはジンジャの正面に立ち、腕を伸ばすコウギョクの背を護るように立つ。

残る私達は儀式が遂行されるまでの防衛と言う訳だ。

今も邪神の眼が私達を捉えていると言うのにこの異常事態、それでも儀式などが始まれば嫌が応にも敵は此方を嗅ぎつけてくるだろう。


「ふむ、二匹を餞別としてお主等に貸してやろう」


狐火状態のフジとツガルは主であるコウギョクの許を離れると、私達の方へ飛んでいき周囲を照らす。

すると、赤い門を背に立つ私の正面に一人の影が浮かび上がった。

本日も当作品を最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

今回も遅くなってしまい申し訳ございません。

話を進める為とはいえ、このまま更新日を破り続けるのも問題なので火曜日に

変更させて頂きます。ごめんなさい(´; x ;`)m

もし宜しければ、当作品を今後も読んで頂けたら幸いです。


**********

次回は5月6日20時までに更新いたします。

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