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第50話 六つ目の鍵ー邪なる神の監獄編

静寂を取り戻した東側通路に足音のみが響く。

されど頭を巡る思考も感情もそれぞれ、揃っていた足並みも乱れ始めてふと、下した決断が正しかったのか不安が過る。

きっと自分にそう言い聞かせていただけで、本心から認められていないからだろう。


「ねえ、本当に良いのかい?」


封印の意味を知るからこそ慎重になるのだと思われる。

周囲に説得され、(テネブラエ)の間をカルメンに任せたもの、ザイラさんは如何にも腹に据えかねるらしい。

一度は気持ちを心の鞘に収めたが、ザイラさんにとっては考えるほどに許容しがたいと感じてしまったようだった。

世界の一部が喪失する危険が間近にあり、封印を狙っていた人物に任せようと言うのだから、許容できないのも仕方がない。

見張りをつけると言う手もあるが、入室を拒否されては其れも叶わない。


「現状では、闇の精霊王を慕うカルメンほど守護者として相応しい存在は居ませんよ」


私とてカルメンを全面的に信用している訳ではない、彼女の闇の精霊王様への執着心を頼りにしているだけだ。

ザイラさんは腑に落ちない様子で頭を捻るも、意を決した顔で口を開く。


「もはや、此処に残ると言うまいな。万が一の時を鑑みれば、連絡の手段もなく仲、封印自体を放置する事も許容しがたいが?」


「・・・アタイの我儘だったよゴメン」


さすがに団長から、こうまで諭されては何も言い返しようがないらしい。

一悶着を終えた所で、早くもガルーダの力を借りての異界からの脱出へと話は切り替わる。


「うむ!ともかく、幾度となく往復する事は決定じゃな!出来得る限りは仲間を元の世界へ返さなくてはいかないしのう」


何故かコウギョクは鼻息を荒く胸を張り、ヤスベーさんを差し置いて我が物顔で仕切り出す。

ヤスベーさんは穏やかにそれに頷き、ザイラさんには苦笑されるが、ヒューゴーには生意気だと頬をつねられ暴走は早々に終幕を迎える。

実際、私達は一体どれだけの人数を返してあげられるだろうかと、ガルーダがくれた翡翠色の魔結晶を眺める。

この魔結晶は鍵と呼ばれていたが、通常の形状が違う事から鍵穴は無いとして、何処かにこの魔結晶を用いる場所が在って然り。けれども見つからない事が不可解で仕方がない。

ふと気が付くと広場に辿り着いており、視線を上げると光と闇の精霊王様と顔が無い人物と言う不思議な石像の前に立っていた。

そのまま周囲を見て回るも、背後の壁が妙に厚みがある事以外は違和感は無い。


「アメリア、如何した?」


レックスが操る人工妖精(ホムンクルス)が無表情のまま小首をかしげてきた。


「大丈夫、残った皆に元の世界へ戻る手段が手に入ったと伝えてくれる?」


「解った、離席するから人工妖精(コイツ)を頼む」


レックスはそう言い残すと途端に脱力し、ただの人形の様になり私の肩から滑り落ちかける。

慌てて其れを受け止めると、ヤスベーさん達が遺跡の扉を開けようと集まる姿が目に留まった。


「ちょ・・・待って!」


人工妖精を抱えながら皆の許へ駆け寄ろうとした瞬間、遺跡が地の底から何かが這いあがるような地鳴りが聞こえて来た。


「くそっ、扉が開きやしないよ!」


ザイラさんが扉の前で険しい顔をしながら扉の前で根を上げる。

必死に扉を抉じ開けようと試みようと、大槌で打ち破ろうとしようと開きはしない。


「そうだ・・・」


パヴォールが手にしていた不思議な色の魔結晶を思い出す。

あの無残な状態の守護者を探して見つけると、謝罪をした後に剣で魔結晶となった体を砕く。

魔結晶を入手し、扉へと振り返った所で遺跡全体を揺さぶる大きな揺れが起き、収まると驚き立ち尽くした所で異臭が鼻を突いた。

幾ら考えようと不吉な予感しかしない、先ずは状況を博しなくてはならないが、調べる必要もなく黒紫色の煙が歩いて来た西側の通路から広がってきた。


「・・・瘴気よ!」


「何と言う事だ・・・!?」


私の警告を耳にし、ヤスベーさんから混乱する仲間達へ伝達される。

遺跡からの脱出をしようとヤスベーさんに砕いた魔結晶を手渡すが瘴気の広がりは思うより早く、使用する暇も無く断念を余儀なくする事になってしまった。

こうなれば非難に適すると思われる場所は決まっている。


(ルークス)の間へ行きましょう。そこなら瘴気から逃れられるかもしれないわ」


「それじゃ、つべこべ言わずに速やかに移動だよ!」


襲い来る瘴気にザイラさんの顔に口惜しさが混じる、複雑そうな顔で瘴気を眺めるも声を張り上げ、非難を急ぐように背中を押しながら(はや)し立てた。

遺跡が揺れた事により、顔が無い石像の一部が崩れ落ちるも、それを大槌で薙ぎ払いながら迷いなく西側の通路へ先導を始める。

瘴気に追いつかれないよう急ぐ視界の先に光の精霊紋が彫られた白く重厚なつくりの扉があり、立ち止まると指一つも触れる事もなく、まるで私達を迎え入れるように扉が開いた。

暖かな力が身後に流れ込んできたかと思うと胸元が光り、頭の中に「早く中へ」と優しい声が響く。

如何やら今回は守護者から招待されたらしい。

急ぎ入室すると内部は闇の間と対照的な印象で、色調は白く厳かな雰囲気はまるで教会のようだ。

更に部屋の奥、封印石は其処で厳重に護られており、祭壇の様な複雑な装飾が施されている。

よく目を凝らすと、封印石を照らす光球は琥珀色の立体的な魔法陣。

それに感心していると、静かで穏やかな声が聞こえると同時に視界が眩く照らされた。


「どの様な事情があるか存じませんが、我が王の加護を授かりし人間よ。私は貴方達を歓迎致します」


何時の間にだろう、封印石から私達を遮るように二対の翼を持つ中性的な人物が目の前で腕を組みながら立っていた。有翼人と容姿は似ているが、その翼は輝く数枚の薄い魔結晶で出来ている。

目の前の人物からは人間や魔族の様な魔力は無く、光のマナを纏う所から守護者なのだろうと推察した。


「助けて頂き感謝いたします」


思わずつられて頭を下げてしまい、慌てて顔を上げると守護者は茜色の髪の下の金の瞳を優しく細めた。

守護者は呆然と自分を眺めている私達に気付くと、自身の身なりを確認した後、再び顔を上げて真剣な表情を和らげる。


(わたくし)の名はレム。在りし日より光の精霊王ウィル・オ・ウィスプ様よりお役目を賜りし精霊にございます」


「私は・・・」


「アメリア様にトウジュウロウ様、そしてその臣下の方々ですね」


如何やら光の加護を通じて私の記憶を読み取っていたらしい。

私やヤスベーさんに続くが簡略化され、ヒューゴー達から不満が漏れたがレムはそれに構う様子は無く、神妙な面持ちで此方を見るなり頭を下げた。


「突然の事により無理を承知ですが、皆様の御力をお借りしたく存じます」


「そう言うまどろっこしいのは良い、急ぎの用なら早よ要件を申さぬか」


コウギョクは苛立った様子で、畏まるレムに本題を話す様にと促す。

一瞬、レムは動きを止めるが、瞼を伏目がちにすると静かに口を開いた。


「・・・瘴気ならば私にお任せを。至急、皆様に此の地を封印すべく、六つの結晶を手に中枢に向かって頂いのです」


背負う二対の翼が光のマナを纏うレムはその訳も言わず私達に懇願する。

もう既にその訳は半分は予測できているので大人しく耳を傾ける事にした。

それにしても五つの塔もろとも、この地事態を封印すると言う言葉には大ごと過ぎて驚かされる。

私一人の問題では無いので、此処は敢えてガラクタ団の長であるヤスベーさんの判断を待つ。

するとヤスベーさんは短く「ふむ・・・」と思案に耽るが、顔を上げると真直ぐとレムへと向かい合う。


「勿論、承知いたす。そこでレム殿にお尋ねしたい、中枢への道と六つの結晶の扱い方を御教授願えないでござろうか」


そうヤスベーさんが懇願すると、あの三対の石像の後方に中枢への道が開くなど懇切丁寧にレムは教えてくれた。

レムの放つ光のマナが歌声にのせて遺跡を巡ると、去り際に私達は光の魔結晶を受け取ると光の間を後にした。



**************



通路も広場も瘴気は消え失せ、嘘の様にくすんだ視界は明瞭となっていた。

レムは期待に応えられれば良いがと不安視していたが、痕跡が残っている程度で歩き回るに支障はない。


「ふむ、アメリアや。中枢とやらに向かうのではなかったのかえ?」


広場を擦り抜けて闇の間へと続く通路に足を向けると、コウギョクは私の服の裾を引っ張りながら尋ねてきた。


「私達が持っているのは、レムがくれた魔結晶を合わせて五つ。正直に言うと私も気が進まないんだけど、六つ目の魔結晶を如何にかしないとね」


当然、闇の魔結晶は手に入れるつもりだが、粉砕されている点が如何にも不安要素だ。

それに加え、カルメンが掻き集めていた事も気掛かりである。


「むむっ、すっかり失念しておったわ」


コウギョクは気まずそうな表情を浮かべると、へらへらと笑っていた。

ともかく今は六つ目の結晶を手にしなくては始まらない。


「ザイラ、あくまで冷静に動けよ」


ヒューゴーはザイラさんのカルメンへの疑念を怪しんだらしく、揶揄い半分だがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。

ザイラさんは顔を顰めながら立ち止まると、屈んでヒューゴーを見下ろすと鼻で笑った。


「アンタさ、色々と見た目を格好つけている割にモテないのは、そう言う所だと思うよ」


「なっ、関係ないだろ!」


ヒューゴーは見下されたうえに嘲笑された事に一瞬だけ言葉を失うが、色々と心当たりが有るらしく顔を赤くして怒り出す。

コウギョクはそれを尻目に面白がっている様だったが、闇の間に近づくにつれ不快そうに顔を顰めながら臭いを嗅ぎ眉根を寄せた。


「嫌な臭いがする、されど瘴気による物ではないな・・・」


闇の間の前に辿り着いた所で、コウギョクは青い顔をしながら扇では無く袖で口元を覆った。

先程の爆発と瘴気の為か扉も蝶番も歪み、僅かな隙間が開いており結晶灯に照らされて不気味な影が伸びている。


「・・・では、参ろうではないか」


ヤスベーさんの意を決した顔からの真剣な声に突き動かされ、ザイラさんと共に扉に手を掛けるとガタリと、今にも壊れてしまいそうな音と共に冷たい空気が顔を撫でる。

それに交じる物から私は、コウギョクが言う「嫌な臭い」の正体に気付いてしまった。


「これは・・・」


嗅いだ事がない訳では無いが、漂う鉄錆の臭いに言葉を失いながらも慎重に歩を進めた。

床を穢す水溜まり、そこには複数の羽根が浮かんでいる。

徐々に視線を移すと天井には穴が開いており、そこから覗く空はカルメンの言う通り月は見えない。

恐らく本人としては、生きて外に出れないと言う意味の隠喩で言ったのだと思う。

空は分厚い雲が渦巻き、瘴気が吸い上げるのを目で追うと何かが突き刺さったままの封印石が目に飛び込んできた。レムが焦っていた訳は此の危険を察知したのかもしれない。


「おい、アレ・・・」


ヒューゴーに声を潜めながら脇腹を突かれ、視線を落とすと薄闇の中で何かが(うごめ)く。

それはゆっくりと何かを踏みつけベシャリと水音をたてながら立ち上がると、封印石に突き刺さる大鎌に手を掛けた。

一切、何かをしようとした訳でも無いにも拘らずに放たれる殺気に、思わず剣に手を伸ばすと、近くの壊れかけていた結晶灯が不自然にともる。

それにより光に浮かぶ凄惨な光景、血塗れのカルメンを踏みつける何者かと目が合った。

当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

物語は暗雲が立ち込めて来ましたが、救いに必ず結びつきますので

御安心ください。

それでは、次週の更新までゆっくりとお待ち頂ければ幸いです。(o˘◡˘o)


**************

次週の更新も無事に投稿できれば、3月17日20時に更新いたします。

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