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第46話 魔人ー邪なる神の監獄編

この選択をした時、正気を疑われるものだと思っていた。

異界に戻る事を選択した私にガルーダから返って来た言葉は、それ以外を選択したら適当な世界に投げ捨てるつもりと言う笑えない冗談だ。

恐らくはガルーダも邪神側がパヴォールを遣わせ憎き封印を解こうとしている事に感づいているのだと思う。

世界の境を抜けると、相変わらずな憂鬱な空が飛び込んできた。

ガルーダは塔の上空を旋回すると、蔓で編みこまれた風の塔の頂上へ急降下する。

再開するなり喜ばれるどころかコウギョクとヒューゴーから厳しく非難されたが、おかげで常世で過ごした時間は一日どころか半刻に満たないと知る事が出来て驚いた。

塔の中は静寂に包まれており、世界樹を模した岩に降り立つと、途端に立ち込める焦げ臭く不快な臭いが鼻につく。

そして三人で咄嗟に口元を抑えて目にしたのは、数多の屍人を殲滅させたヤスベーさんとザイラさんの誇りに満ちた顔だった。


「うぇ・・・色々と酷いのじゃ」


コウギョクはガルーダの背で青白い顔をしながら屈みこむ。

ヒューゴーはそれを見て「ふんっ」と鼻で笑うも、堪え切れず眉根を寄せた。

そんな二人に苦笑すると、ザイラさんはガルーダを気に留めずに大声を張り上げた。


「しかたないだろ、屍人共を確実に始末するにはコレが一番なんだからさ」


「ふむ、その通りでござるな。しかし・・・」


ヤスベーさんはザイラさんに圧倒されつつ頷くと、戸惑いながら訝し気にガルーダを眺めている。

屍人を確実に再起不能にする方法には、司令塔である頭を潰すか高温で焼き尽くす事が必要。

悪臭は置いといて、この数の屍人を相手にするにはザイラさんの言う通り最善策だ。


「二人とも此処は御二人を賞賛しようよ」


私がヒュ-ゴー達を宥めるや否や、ガルーダは真紅の翼を広げ旋風を起こした。

風が過ぎ去り、煌びやかな金と魔結晶が散りばめられた繊細な装飾が涼やかな音を立てる。

屍人により出来上がった灰は腐臭と共に天井から外へ飛散したらしい。

私はコウギョクとヒューゴーを連れて降りると、ガルーダはすっとヤスベーさんとザイラさんに向かい頭を下げた。


「此度の働きは私に代わり、封印を死守して貰い心より感謝する」


私達がヤスベーさん達と合流した所でブツンとガルーダは自身の身に着けている装飾品から魔結晶を引き千切る。すると、それをヤスベーさんの目の前へ差し出した。

ヤスベーさんはガルーダと自身の目の前の魔結晶を交互に見つめ、戸惑いながらそれを受け取ると戸惑いながら尋ねた。


「これを・・・拙者に?」


「ふむ、そこな竜人族の女との働きを称してだがな」


ガルーダは封印岩をじっくりと眺めると、満足げにヤスベーさんとザイラさんの顔を眺める。

それでもぼんやりと翡翠色の魔結晶を見つめるヤスベーさんの様子を見て、隣で羨望の眼差しを送っていたザイラさんは魔結晶を爪で摘かみ掠め取った。

それに対してヤスベーさんは怒るのではなく無反応、それを良い事にザイラさんは目を輝かせながら掲げるとうっとりと眺める。


「ほほーう、金装飾つきの魔結晶かい!良いね、アタシもキラキラピカピカする物に目が無いんだよ」


ザイラさんは心底から嬉しそうに回り、うっとりと宝石の様に見つめながら(はしゃ)いでいた。

皆で苦笑する中、ザイラさんの魔結晶を握る手をヤスベーさんが掴んだ。


「・・・」


「何だい?怖い顔をして・・・」


流石のザイラさんもヤスベーさんの反応に恐怖し、奇妙なものを見るような目でヤスベーさんを見ている。

嫌な沈黙が続いた後、ヤスベーさんはザイラさんの腕から手を離すと急に慌てだす。


「す、すまぬ、今まで守護者殿から受け取った物はアメリア殿殿が持っておられる。一か所にまとめた方が良いのではないか?」


確かに私が守護者から与えられた物を持っている。

それを強調するのは何故だろうか?


「私ですか?別に構いませんけど」


まあ、恐らくはザイラさんの魔結晶好きを恐れての進言だろう。

それなら尤もと私は承諾した。


「・・・ちゃんと持っているんだよ」


ザイラさんは名残惜しそうな顔で此方を見てくるが扱いは荒く、躊躇した事により震えた手で魔結晶を私に向かって投げて来た。

私とザイラさんの間を翡翠色の魔結晶が飛んだのを見逃さず、慌てて受け止め安堵した所で釘をさす。


「あの、雑過ぎではありませんか?」


「良いじゃないか、落とさなかったんだし」


ザイラさんは抗議など何のその、私の反応を見てヘラヘラと楽しそうに笑っている。


「そいつにはもう、魔結晶を渡すなよ。下手すりゃ換金されちまうぞ」


戦いが終わって気が抜けたのか、ヒューゴーが何時もの調子で軽口をたたくも当然、間も無くしてザイラさんに頬をつねられて泣きを見ていた。

ヤスベーさんは腕を組みながら困ったような表情を浮かべると、大きな溜息の後に滾々(こんこん)と説教を始めだした。

ザイラさんに関しては貴重な物を投げること自体が良くない、喧嘩した二人にも同情する気は無い。

こんな時、コウギョクが何かとちょっかいをかけては鬱陶しいぐらい揶揄うのだが、珍しく口を堅く閉じてヤスベーさんを怪訝そうに見ていた。


「魔が差しよったか・・・」


「コウギョク?」


異国の聞き覚えのない言い回しが気になり、コウギョクに話しかけると一瞬だけ驚き目を丸くする。

反応を窺うと、口籠り慌てて取り繕いだした。


「う、美しい物には誰であろうと魅了されると言う事じゃ」


鼻を鳴らし、得意げに振舞いだすが実に解りやすい。

私達の脇でやり取りを眺めているだけのガルーダと目が合うと、一瞬でコウギョクは尻尾を巻いてヤスベーさんの許に逃げていったが追及はしない事にした。

ガルーダは小馬鹿にするようにふんと鼻を鳴らすと、ジッと私の顔を見つめて来た。

表情はからは何も読みとれず、その心の内もその意図も読めない。

『守護者より受け取りし物を邪神に(かしず)く者に渡すな』

突然、ガルーダの声が頭に流れて来た。


「それって・・・」


驚き口に出しかけたが、周囲の反応を見て此処で口を噤む。

守護者より受け取りし物を渡さない。

これは魔結晶の事として、それを何故に私にだけ聞こえるようにしたのだろうか。

困惑する私を置き去りにしたまま、ガルーダは周囲にも視線を向けて語りだした。


「私に用が有ればその魔結晶を使うと良い。何処に居ようと駆け付けるとしよう」


ガルーダはヤスベーさん達の反応に満足げに頷くと、翼を大きく広げ羽搏き甲高い声で鳴いた。

すると、声に呼応するように塔の内壁を覆う蔓が動き出した。

蔓はまるで生き物の様に二方向に分かれると、ガルーダが身に着けている装飾と似た金の扉が現れる。

扉が自然と開く、吹き込む風を浴びながらどんよりとした空を眺めると赤く燃える塔が見えた。

ガルーダと別れ、扉をくぐると皆の視線が妙に私に集まっている事に気付く。


「あー・・・その、先程の事も含め、色々と聞かせて貰えないだろうか?」


すっかり常世の存在と、そこで起きた事の報告をすっかり忘れていた。

私は記憶を手繰り寄せ考える、さて何処から話したものか・・・



***************



黒鉄の塔が燃え上がっている。

今までの塔の様に岩や蔦が這う石煉瓦に塔と違い、全てが鋼鉄の監獄の様な造りだ。

然し専らの問題は、入る事を躊躇(ためら)う程の高熱が放たれている事にある。

リヴァイアサンが護る、水の塔を出た時点では此れだけ目立つ塔など見掛けなかった気がした。

そうなると要因は、塔の中に侵入者が入った可能性が考えられる。

塔の入り口は筋力で強引に開けたらしく、蝶番が壊れており、傾いていた扉が自然に倒れて熱風が此方に押し寄せて来た。


「何だい!まるでアタシ達を歓迎してくれているみたいじゃないか!」


コウギョクから受けた翼の治療が終り、自信を取り戻したザイラさんは上機嫌だった。

それは良い事なのだが、ザイラさんは火や熱風などお構いなくズカズカと塔へ近づくと、中を覗いたのちに開いていない扉へ手をかけた。


「ザイラ殿、誰しもお主の様に火や熱さに強くはござらん。せめて、一人で先行するのは控えてはくれぬか?」


ヤスベーさんは腕をまくり上げると、勝手に進もうとするザイラさんを宥めた。


「ごめん、つい慣れでさ。でも、ともかく入るしかないし如何にかしてやるよ」


ザイラさんは少しはにかみ頭をかくと、手をかけた片方の扉を両手でつかむと腕に力を込めて躊躇なく外した。

何の前触れもなく勢いで開けられた入り口から熱風が一気に押し寄せた事により危うく一人を除き、炙り焼きになる所だった。

そして今、皆を危険にさらした罰としてザイラさんに先陣を切ってもらいつつ、火の塔を進んでいる。

塔内はまさに坑道の様になっており、螺旋状に進むと遠くで溶岩が湧き立つ音まで聞こえきたりと不穏な気配しかない。


「そのー・・・わ、妾だけ引き返しては駄目かのう?」


コウギョクは服を汗でぐっしょりと濡らし、息も絶えだえに必死に訴えかけて来た。

何だか足元もふらふらと覚束ない様子。


「あぁ?我儘を言うなよ、皆も我慢しているんだよ!」


ヒューゴーは熱さも相まって、コウギョクの弱音にヒューゴーは苛立ち、高温の室内で大声で喚き散らす。

流石に此れには見逃せない、私は二人の許へ駆け寄った。


「あのね・・・どっちでも良いから喧嘩は止めなさいよね」


何がこの先、待っているのかわからない以上、こんな熱い中で無駄な体力の消耗は避けたい。

私の一言に二人は動きを止めてはくれたが、コウギョクは泣き落としに、ヒューゴーは何がなんでも全員で行くべきと根性論で語る。

収拾がつかなくなり、団長であるヤスベーさんに判断を委ねようとした所、困ったように苦笑するとコウギョクの許へ近寄り、懐から大きな葉っぱに包まれた四角形の物を差し出した。


「コウギョク殿、如何かこの拙者に免じて此処は収めてはくれぬか?」


「おっ!おおおっ!」


すると、途端に歓喜の声が上がりコウギョクの尾は嬉しそうに左右に揺れ、目は爛々と輝くと空腹から涎まで垂らし始めた。

さすがヤスベーさん、コウギョクの扱いに長けていらっしゃる。

感心していると、ヒューゴーは完全に留飲を下げきれてはいない様子なものの、辟易しているといった様子で大きな溜息をついた。


「あー、本当にくだらねぇ!我慢できるなら最初から・・・」


急に癇癪が収まったかと思いきや、ヒューゴーは動きを止めるとゆっくりと此方へ顔を向けてくる。


「なに?」


思わず顔を顰めると、ヒューゴーは私に向けて機体の眼差しを向けて来た。


「そうだ!お前、精霊と関係が有るんだろ?この熱さを何とかするように説得できなねぇのか」


「そんな無茶な!」


如何やらリヴァイアサンなど、守護者達と私のやり取りを目にして過大な期待を抱いたらしい。

今まで力を借りる事は有ったが、別に従えている訳ではないので強引な申し出だ。

リヴァイアサン・・・?


「コレ、何の為に貰ったんだ?」


聞き覚えのある声が何処からともなく聞こえてくる。

声の許を辿れば自身の腰に、レックスの人工妖精を腰に括りつけたままだった事を思い出した。

レックスは身動きがしずらそうにしながら、私の腰鞄を探るとリヴァイアサンの鱗を取り出す。


「これはただの水を噴射させる代物じゃないんだぞ?何で使わないんだ」


そう言われても、私には魔結晶に詳しい訳ではない。

当たり前の様に訊ねてくるレックスに私は困り果ててしまった。


「そう言われても、私には各々の属性の付与か動力源としか知らないわよ」


隣にいたヒューゴーも縛られたままのレックスに対し、うんうんと何度も頷く。

それに対し、レックスは衝撃を受けたように固まってから、何処か得意げな表情を浮かべた。


「そうか、そうか・・・やっとこの不便な体を通じて付いて来た甲斐があったな」


私達を見渡して嬉しそうにすると、勝ち誇った口調で語るとレックスはリヴァイアサンの鱗を額に付けて詠唱を始める。


「清浄なる水の精霊よ、その護りの力をもって我らを包み給え 害なす者の力が及ばぬように 其の王の共にて妖精王に仕える者が命ず【水の護符(アムレートゥムアクア)】」


リヴァイアサンの鱗が淡く青く輝く、見上げるレックスの手元から宙へと浮かびあがると、回転しながら閃光を放った。

その眩さに瞼を閉じると一瞬、体が水に沈み込み、浮遊する様な感覚に呑み込まれていく。

次第に体が浮上し、水面へと上がる感覚に目を覚ますと、ぼんやりとした視界に水の精霊紋が胸元に浮かぶヤスベーさん達の姿が目に映った。


「これって!」


薄い膜に覆われたような感覚がする、完全ではないが先程までの皮膚が焼けるような熱さや痛みも和らいだ。

各々で歓喜の声をあげ、喜び合うとリヴァイアサンの鱗がゆっくりと手元へ降りてくる。

それを私が受け取ると、それを見てレックスは疲弊しきった顔で笑みを浮かべ、そのまま力なく項垂れた。


「魔力の使い過ぎじゃな。恐らく、お主があの鳥に攫われている間にもソレを動かそうと試みたのであろう」


コウギョクは熱さから逃れ、すっかり元の調子を取り戻したようで口の周りを油だらけにしながらレックスの様子を観察し、満足そうに舌なめずりをして此方を見上げた。

どうも大人しいと思いきや、ヤスベーさんに餌付けされ、オアゲを食べていたらしい。

それにホッと息を吐くと、穏やかな空気を打ち壊す衝突音が響きわたる。

空気も塔自体も震わせていると、ビリビリと震わせる恐ろしい轟音は止む事なく繰り返し響き渡った。

ついには(ひび)が入り、迫る脅威を察して逃げるや否や壁が砕けて破裂し四散する。

砕けた壁は床へ打ち付けられると視界は曇り、熱を帯びた土煙を透かし、赤い炎の光が垣間見えた。

その正体は解らず、言い知れぬ恐怖と威圧感から自然と各々の武器に自然と手が伸びる。

低く地響きのような声、土煙は赤く染まると其の正体が徐々に明かされていく。


「覚えのある魔力を辿り来てみれば・・・」


押し寄せる熱風、崩れ落ちた壁に何かが掴んだ、其れは炎の魔人の左手。

燃える拳で砕いた内壁から光が漏れ、魔法を持っても及ばぬ熱が押し寄せたかと思うと、土煙の中から赤い瞳が覗き込んだ。


「我は火の守護者イフリート。(うぬ)らも禁忌を犯す者か?」


土煙は消えると火の魔人が発する火が、その内に流れる岩漿(がんしょう)が周囲を赤く染める。

他の守護者と同様に疑念を抱いているだろうか?否、違う。

開けた視界にレオポルト達の影が見える、イフリートは自分の領域を侵す者を目で追いながら嘲笑い、消炭に変える事を楽しんでいる様だった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。


最近、遅くなってばかりで申し訳ございません。

此のところ、テンポが遅くなっていますが、長くなりそうなので区切りをつけて結末は持ち越させていただきました。

ダレ無いよう気を付けますので、宜しければ今後も当作品を宜しくお願いします。


******************

次回も無事に投稿できれば2月10日20時に更新いたします。

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