第2話 結晶よりいずる物
船を下りると想像以上に美しい緑と独自の造形をした白く美しい建物が並んでいた。
下船した私の肩を大きな手が叩くのを感じ振り向くとランドルさんが立っていた。
「よぉ、最悪な船旅になってしまったようだな」
「いえ、これも私達が勝手な事してしまったのが原因ですし」
遠慮気味にランドルさんに向かって微笑むと、私の顔を一瞥した後、何か考えるようなそぶりをし何かを思い出したように拳と手のひらを打ち付けた。
「おおっといけない言い忘れてたよ。Cランク以上の冒険者向けのクエストについて交渉をしに行くんだった!困ったなぁ・・依頼の数もさる事ながら依頼主が気位が高くて頑固だから交渉成立には一月以上かかるかもななぁ。アメリアさん達の事をもあるしな困ったなぁ~」
「あ・・・あの、一月ぐらいなら私達だけで何とかしますよ?」
「本当か?!ありがとう助かるよ!それじゃあ、一月後の予定で此処で落ち合おう!」
ランドルさんは早口で捲し立てる様に喋ると、嵐の様に私の目の前から去って行った。
「ランドルさん・・・どうしたのかしら?」
呆然としていると再び背後から声がした。
「あのギルドマスターも粋な事してくれるじゃないか」
「フェリクスさん?」
「アメリアちゃん、あれはワザと帰国するまでの時間を作ってくれたんだよ」
「そんな・・・」
もしそうだとしたら精霊の剣の事を知っているランドルさんの事だから十中八九、その為に時間を作ってくれたんだ。
「その心意気を無駄にしちゃいけないよね!」
「え・・・はい?」
「そこでだ、アメリアちゃん。お兄さんと一緒に観光をしないか?」
あ、そう言えばフェリクスさんには事情を話していなかったんだったわ・・・
そこへ殺意に満ちた低い声が私達の耳に届いた。
「そりゃあ、是非とも一緒に連れてってもらえねぇかな?お兄さんよぉ・・」
「げっ、デコ助!」
「そうね、せっかく帰国まで一月ぐらい時間を貰った事だし」
「お、いつの間にかそんな事になってたのか?」
使命が一番大事だけれど、初めての海外と言う事もあって浮足立つ気持ちがも無くもない。
「先ずはエリン・ラスガレンを知る為にも散策は大事よね!」
「お、ノリが良いねアメリアちゃん」
「んじゃ、地図でも買ってきてやるよ」
「お、デコ助の癖に気が利くじゃないか」
「うっせ、お前達の為なんかじゃねぇ。俺はお荷物を引っ張って見知らぬ土地で迷子なんてごめんだからな」
そう言うとダリルは不貞腐れた顔をしながら私達に背を向け、港の周辺に並ぶ商店街へと足早に向かう。
それを見て私とフェリクスさんは目を合わせ肩を竦める。
「まったく相変わらずね・・・」
「ん、アメリアちゃんはアイツの事どう思う?」
「なんですか・・女子同士の雑談みたい」
唐突に行ってきた言葉に呆れた目線をフェリクスさんに送る。
「まあまあ・・・良いじゃないの」
「心配性と言うか過保護で・・・うーん、何と言うかお前は私の母親かっ!って感じですね~」
私が思いつく限りのダリルの印象を指折り数えていると、フェリクスさんは残念そうな顔をして首を振った。
「うーん、可笑しいなお兄さん頑張ったんだけどな。あからさまなのになぁ・・・」
何故かぶつぶつ呟きながら遠いい目をするフェリクスさんに首を捻りつつ周りを見渡していると、ダリルが走って来るのが見えた。
「おい、地図を買って来たぞ。王都までは馬車が出てるらしい」
地図を見ながら王都の方向を見上げると船上で見た時には気づかなかったが、王都らしき都市は深い森に囲まれた先の小高い山の上に在った。
「王都マルローンか。あまり明かせないが、魔法歴史研究所ってとこが研究の成果を出したらしい。それで家の国も王族の訪問を兼ねて利益に・・・おっと」
余計な事を話そうになったと言う様子でフェリクスさんは口元を抑えた。
要するにエルフの国で作られたその何かが危険な物かを見極めに来たのね。
「ともかく・・・馬車を出して貰いましょ」
「アメリアちゃん太っ腹~」
「大人が子供に奢って貰おうとするな!アメリア、三等分で良いよな?」
「そうね、それで行きましょ」
こうして私達はエルフ中心の国と言うものか知る為の一歩を踏み出す。
馬車に三人で乗り込むと、走る馬車の中で緑の香る森を感じながら外を眺めていた。
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私達を乗せた馬車は寄り道をする事もなく森の中の道を問題なく進む。
王都マルローンに到着する頃には太陽は高い位置まで昇り、空を覆い尽くしそうに伸びる枝は豊かな緑を茂らせ、逞しい幹はその存在の偉大さを私達に示すようだった。
御者さんが何かを唱えると、私達の前で霧がはれて行くように徐々に王都の門が姿を現した。
「見なよあれは世界樹の根だ」
フェリクスさんは門の先に広がる町のあちら此方に張っている太い根を指さす。
「へぇ、世界樹と人々の共存ですね・・・」
フェリクスさんの言葉に頷いていると、地面を揺らすような足音がズシッズシッと背後から響いてきた。
「おい!何だありゃ!?」
ダリルの慌てるような声に視線を向けると、大小様々複数の角が針山の様に突き出し、涎の滴る口からは鋭い牙が顔を出す巨大な猪の様な魔物が門に向かって歩いてくる。
「ああ、あれね・・・くくくっ」
そんな私達の様子を見て何故かフェリクスさんはニタニタと笑う。
「あれって確かニードルボアよね?不味いわ都に入ろうとしているっ!」
「っしゃあ、ちょうど船旅で体が鈍ってたんだ」
私は剣を構え、ダリルは拳を鳴らす。
しかし、魔物が居る筈なのに周りが反応がさっぱりないのが些か疑問だ。
それどころか、門から出て来た小人の商人が慌てて声を掛けてくる。
小人族は一部を除いて定住地を持たない流浪の民だ、各地で商品を仕入れては世界を回って商売をしているらしい。
「ちょっと待ってくださぁい、あの子達は魔物であって魔物じゃないんですっ」
「は?どう言う事だ?」
ダリルは全く持って意味が解らないと言った様子で小人の商人らしい女性に対して怪訝な表情を浮かべる。
「あの~、魔結晶はご存知ですか?」
商人さんは穏やかな口調で私達に問いかける。
「ええ、魔物の能力の一部を使用する事が出来る様になる石ですよね?」
「それがですね~、何と魔結晶には採取した魔物のじょーほーがギュッと詰まっている事が判明したんです~。それに魔法で人工的に命と姿を与える事によって労働力や愛玩用に使えるようになったんです~」
「ただの魔物で無ければあれは何なんですか?」
「結晶獣と言います~。まあ、もっと詳しくは知りませんですが・・・」
「まあ、オレの判る範囲だと魔法による使役が可能な疑似生命体ってとこかな?これ以上はこの国の魔法省にでもあたるしかないね」
フェリクスさんは城の方を見上げる様に視線を向けていた。
その後、商人さんに別れを告げると「商人のライラ・ヴォルナネンをどうぞご贔屓に」と茶色の髪の下の緑の瞳を輝かせながら熱い握手をしてきた。どこに行っても商人さんって変わらないのね・・・
門を潜り都に入ると更に其処は別世界だった。
所々に人が型以外の魔物が荷物を運んだり、小型の魔物が美しい女性の肩に乗っている。
共通するのは基になる魔結晶が額に埋まっていると言う事ぐらいかな?
見渡すと住人の殆どがエルフなのは勿論だけれど、住人らしい他の種族の人々をちらほらと見かけた。
しかし、更に詳しく辺りを見回すけれどアレがない・・・
「う・・・ショックだわ」
「どうした?」
「肉料理が無い・・・・」
「・・・流石、アメリアちゃん。でも、仕方ないよエルフは菜食主義だからね」
半ば呆れ顔で励ましてくれる二人と一緒に道を歩いていると、穏やかな筈の通りに怒号と悲鳴が響き渡る。
それと同時に少女の凛とした叫び声が耳に入った。
「貴方達は魔結晶に頼り過ぎて風の精霊王様への感謝を忘れてるわっ!」




