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第33話 オディウムの困惑ー邪なる神の監獄編

※途中又は最後まで読んで頂いた方には申し訳ございません。大幅に本文の修正をさせて頂きました。

脱獄を経てのスライム地獄の先、全て計算づくかオディウム兵が私達を待ち構えていた。

何の妨害が無かった時点で怪しむべきだったのだ。

されど、後悔したり悩む暇は私達には与えられていない。

取り囲む兵士の中心に土人形(ゴーレム)の様な厳つい体形の首領と思わしき男性。

私は警戒し、腰に下げた剣へと手を滑りこませる、然しその視線は私達よりも、インウィンディアの兵士や住人へと向いた。


「温情をかけてやったのに此の仕打ちとは、飼い犬に手を噛まれるとはこの事だな」


男は苦々しい表情を浮かべると、眉間に深い皺が刻まれペトロナ達を威圧する。

それは多くのインウィンディアの領民を恐怖に落とし入れるが、牢に入れられていなかったペトロナだけは平然としていた。

眉は無く、大きな目玉が感情に合わせ変化し、良く動く目玉が自分に向いた事に気付くとペトロナは挑発的にほくそ笑む。


「何で、インウィンディアの民(わたしたち)がお前達に屈服したと勘違いしてんだい?」


それを耳にし、相手は部下達と顔合わせ笑い出す。

インウィンディアの領民はオディウム兵に完全に怯えて竦み上がっており、あの牢で植え付けられた恐怖は根深い事に気付かされた。

背後はスライムの群れがひしめく地下水路、前方はオディウム兵が囲んでおり、既に私達に選択の余地は無いだろう。

地下水路の先が町の中だったのは幸か不幸か、こうなってしまったら偵察どころか脱出すら怪しい。

そうなればいざこざは必須、できればヤスベーさん達へ合図をする事が最善なのだが。

ヤスベーさんへの合図は狼煙すら不可能、腰鞄の中身は通常の薬品類やシルヴェーヌさんから貰った怪しい丸薬のみ。

丸薬は球形の魔法被膜に包まれており、強い刺激を与えると破裂する仕組みになっている。

詰めの甘さに猛省しつつ頭を捻ると、ちらりと物思いに耽るコウギョクに目が留まった。


「コウギョク、さっきみたいに空に向かって火を放てないかな?」


水路でコウギョクが放った火はなかなかの威力だった、如何にか頼めないかこっそりとコウギョクに訊ねる。然し、その首は縦に振られる事は無かった。


「・・・気安く言ってくれるのう。だが残念、無理じゃ!」


コウギョクは何か考え込むよう頷くも、扇子を口元に添えると首を横に振りはっきりと断られる。

頭を捻る私を見てコウギョクは溜息をつくと、扇子の先に蠟燭ほどの弱々しい火を灯してみせた。


「もしかして、それって魔力切れ・・・?」


「その様な物じゃ。打つ手がない訳では無いが、今はちと難しいのう」


コウギョクは腕を組み申し訳なさそうに頷く。

然し打つ手がない訳が無いとは何だろうか、コウギョクの視線を追うと其れは腰に下げられた小さな竹籠に注がれており、中に入っている物を思い浮かべているのか、口元から一筋の雫が垂れようとしていた。


「コウギョク、涎が垂れているわよ」


「すっ、すまぬ。しかしのう・・・」


気が付けば私達へ向けられる視線の変化はインウィンディアの領民にも起きていた。

ヒューゴーはひりつく異様な空気に警戒し、罵声を浴びせ掛けると、オディウムとインウィンディアを見比べ顔を睨み付ける。


「なんだぁ?!何を見てやがる」


ヒューゴーの振る舞いにオディウムの首領らしき男性は不快を隠さず露骨に顔を顰めた。

首領自身は異界人に聞く口は無いと言った所だろうか、代わってその部下が感情のままにヒューゴーを口汚く罵った。


「道具風情がニコラオ隊長に話しかけるな!お前ら如きに屈した者達と違い、我々に対して口を利くなど許されないぞ」


これは予測が的中、その差別の意識の高さから来る言動の荒さは他の領民より露骨だ。

私達とインウィンディアの領民の関係は盤石ではない、自分達が不利な状況であると実感した。

地下で助けられ油断していたが、思い返せばそれは脱獄と言う利害の一致があっての行動とも言えなくはない。


「さて、同胞よ正しい選択は理解できたか?今再び牢に戻り、大人しく毒の精製に徹するのであれば見逃そう。さあ、応えて見せろ」


ニコラオから同意を求められ、ぽつぽつと借り物の武器を各々で手に取りだす。

侵略を受けた際、その頭に沁みついた恐怖が諦めの気持ちを呼び起こしたのかもしれない。

態度を翻した彼らの瞳は、何者にも縛られず生きる私達への羨望に似た憎しみが向けられている。

抗いもせず、そのうえ自身の意思も持たずただ流されるのみのインウィンディアの領民に対し、苛立ちが込み上げて来た。


「何をやってんだ!あんたらインウィンディアを取り戻すんじゃないのかよ」


私が口火を切るより早く、血の気の多いいヒューゴーが堪え切れず、勝手に無力感に圧し潰されるインウィンディアの領民に怒鳴りつけたが響かず。

インウィンディアの領民は更に深い闇へと沈みこんでいく。


「こんな者が何を言おうと関係ない。どうせ証は戻らない、命あっての物種だ」


インウィンディアの領民はすっかり私達さえオディウムへ引き渡しさえすれば生きながらえる事が出来ると信じ込み、思考は完全に傾いてしまっている。

これにには堪忍ならず、思いが気付けば口から溢れ出していた。


「なんで・・・何で諦めるのよ!」


周囲に人々は騒めき、溜息や罵声が私達へと浴びせ掛けられる。

そんな中、無言で腕を組みながら、飛び交う声に耳を傾けていたペトロナが口を開く。


「生意気言ってんじゃないよ・・・道具のくせに」


そう忌々し気に吐き捨てられたが、怯えていた双子も此方側の声に突き動かされる様にペトロナに噛みついた。


「ペトロナはインウィンディアが無くなって良いの?!」


「何の為に一人で行動していたのー?」


インウィンディアを取り戻す為ではないかと双子はペトロナに疑問を投げつける。

兄のティトが勇敢にも大勢の冷たい視線を受けながらペトロナに訴えかけると、マリルーもそれを追いかけ捲し立てた。

それに対し、ペトロナは煙た気に眉根を寄せるも言葉が詰まらせた後、観念したのか自身の考えと気持ちを元に抗う意思を示した。


「ああ、もう・・・煩いね。確かにアタシは薄暗くかび臭いあの場所で毒を作って生きながらえるなんて御免だ。アタシは生まれ育った土地を無法者に占拠されたままなんて許せないよ」


逆上し、本音を吐き出したペトロナは開き直り、それでいて揺るがず明確に断言する。

彼女はひねくれているが根が変わらない、これが信頼を勝ち取る好機に思えた。


「ペトロナ、あの約束を信じて欲しい。皆さんも心から故郷を捨てられないのなら、如何か私を信じてください」


ペトロナの顔にはやはり怪訝な表情が浮かぶ。

彼女は視線を同族とオディウム兵の順に泳がせた後、顔を顰め頭を振ると自棄気味に私に怒鳴りつけてきた。


「は?何を調子に乗ってんだい・・・そう言うのは此の状況を如何にかしてから言いな!」


ペトロナは蟀谷に汗を滴らせ苦笑いを浮かべている、その表情はやや暗く行き詰まり勝機を見いだせずに迷っている様に見えた。

それも含め、ペトロナは周囲からは完全に私達に傾倒したと認識され、武器を構えるペトロナを諫める声が響く。

然しこれだけ騒がしいと言うのにも拘らず、オディウムの首領、ニコラオが傍観に徹している事に疑問が湧いた。

一度は私と目が合うも無言のまま侮蔑するように嫌悪を示すと、ペトロナを見つめ鼻で笑った。


「ふんっ、毒の製造所を壊した奴がどんな屑かと思ったが、唆したのは貴様か。同胞を救う心算であろうと、裏切られると憐れな女だ」


話始めこそ憎々しい表情を浮かべていたが、ペトロナが動揺するのを目にするうちに嘲笑った。

相手の戦力はオディウム兵のみで十数名、対する此方側は私達とペトロナで五名。

かなりの戦力差、其処にインウィンディアの兵士が妨害に加われば太刀打ちできないだろう。

そうかと言って戦う以外の選択肢は無い、ゆっくりと剣を握ろうと手を伸ばすと腰鞄に手が当たり、カチャリと何かが当たる音がした。

これは使い時を悩んでいたが、今こそシルヴェーヌさんには感謝する時に思える時は無い。

ヒューゴーもペトロナもコウギョクに焚きつけられ、それに巻き込まれる形でテオドロも渋々だが武器を構えている。


「ヒューゴー!頼んだわよ!」


どの薬にするか迷っていたが当然、思考する暇は与えられず、私は中を見ずに腰鞄に手を突っ込むと一つの小瓶から丸薬を取り出し、オディウム兵に向かって投げた。

一瞬、怪訝そうな顔をするがヒューゴーは舌打ちをすると素早く弓に矢を番えては放つ。

ペトロナはコウギョクからの知らせを受けた双子により慌てて此方へ引き戻された。

始めこそ事態を理解せず空を眺めていたものの、風を切りながら丸薬を貫く矢を見てニコラオには盾を構えられた。

丸薬の軌道を読んでいたかのように貫かれ弾ける魔法被膜、バチンと弾ける音と共に青い液体が霧状に飛び散った。それは気付いた者と、そうでない者に明確な効果をもたらされる。

僅かな風の力を含むそれは広範囲に広がり、盾を構えずに浴びた者達がビクリと体を痙攣させ、短い呻き声をあげながら倒れだらりと脱力した。

広範囲に向けた麻痺をもたらす毒薬、シルヴェーヌさんがつけた「皆も危険」と言う名前の意味は十二分に理解したが、同時に彼女に怯えるコウギョクの気持ちを少し理解してしまいそうだ。

オディウム兵は未だに混乱の最中、ペトロナを始めとするインウィンディアの人々は私達を見て困惑の表情を浮かべている。


「どう?未だ牢の中で毒薬を作って生きるつもり?」


突如、投げかけた私の問い掛けに敵味方、双方から視線が集まる。

インウィンディアの領民の間にも動揺が見られ騒めき立つが、ここまで来ると奮い立つかは私の関与する所じゃない。

オディウム側も盾を構えた者は直撃を逃れた者にも、立ち上がる事や手足自由が利かなくなっており、多少なりと効果が出ている事が窺える。

ニコラオは歯を食い縛り、巨体を大剣に預けながら私達を引き留めようと叫んだ。


「待て!盗人に加担する逆賊・・・うがっ」


その声は大きく野太く、苛立ったペトロナに横面を殴られ、ニコラオは地面に転がった。

此れだけ示せば部下も慄く、長くは持たないだろうが十分に道は開かれたと言えるだろう。

尻目にコウギョクとヒューゴーを率いり横切った所でニコラオは何故かコウギョクを見つめ驚いた様な顔をした。


「ふむ・・・思惑が叶わなくて驚いたと言う所か」


其処で突然、足を止めるとコウギョクは扇子を口元を隠し、愉悦に浸りながらニコラオを見下し、ほくそ笑む。

その直後、コウギョクはヒューゴーに襟首を乱暴に掴まれ短く呻くと、ずるずると容赦なく引き摺られた。


「なに馬鹿やってんだ行くぞ!」


「なんじゃ、妾は犬猫では無いぞ。はーなーすーのじゃ!」


テオドロは二人の様子に不快そうに眉根を寄せると、私の視線に気づき目を逸らす。

やはり彼らが道具と称する異界人からの態度に懸念を抱いているのかもしれない。

人間、そう変われる物じゃないか。

ともかく此処を離れる事を優先しよう、後を追おうとするペトロナや双子達の慌てた様な声掛けが始まる。

この説得で恐怖を克服しどれだけ人の考えを変えられたか不明、形振り構わず走り抜ける内に地面に転がるオディウム兵に構わず町を駆け抜けた。



************



如何にかニコラオ達から逃れたと言うのにも拘わらず、情報だけは逃亡する私達を追い抜いていた。

暢気に街角で御酒を飲み交わす者や、家屋に浸入し金品を物色する者の姿も見えない。

約束を果たす為の逃走の末、心境は複雑であるが、共に脱獄した全員を救う事が出来た。

私達はインウィンディアの人々の事とヤスベーさん達への伝達を頼む。


「ペトロナ、そっちには非戦闘員も含まれているわ。そこで彼らをヤスベーさん達に引き渡し、そして此の領地を救う為にも救援要請をしてほしい。頼めるかな?」


私達と共に行動するより地理を把握する彼女達のみで逃げれば容易いだろう。

然しペトロナの方も推測したのか謙遜か、私達に揺さぶりをかけて来た。


「はあ?アタシ、一度はアンタらを捨てた女だよ?そんな重要な事を頼んで、囮にでもされて騙されると思わないのかい?」


「貴女しか頼めないのお願い!」


「ああ、もうそう言うの良いよ!ちょっと揶揄っただけだからムキに何じゃないよ・・・」


ペトロナも辟易した表情を浮かべては折れて了承し、返答代わりにインウィンディアの領民達を率いてく。

本格的にこの領土を武力で取り戻すにも情報も武器になる、取り敢えずはヤスベーさん達の到着まで。

領主不在の統治に盗まれた領主の証についてなどと、不穏な影は拭えない。

特に領主の証に関してはレンコルとの共謀疑惑などにより向けられる憎しみ、それには意図的な物を感じざる負えない。

改めて仲間の様子を確認すると、何時の間にか勝手な事にテオドロの姿が無くなっていた。

もとより差別意識による振る舞いが目立っていたが呆れたものだ。

そんな緊張感の最中、身を隠した民家でコウギョクは大きな楕円形の葉っぱに包まれていたオアゲにかぶりつく。口いっぱいに頬張っては引き千切り、幸せそうな顔をしながら味わい呑み込む。


「なんじゃ、その顔は?」


「何か良い食べっぷりだなーと思って」


「ふっふっふっ、お揚げは美味いうえに妖力も回復する至高の食べ物よ。ふむ・・・誰にもやらぬぞ!」


コウギョクは何を思ったのか、オアゲについて熱く語ると勢いよく噛り付き頬張ると、じっとりと私を睨み付ける。


「狙ってないから、ゆっくり食べて良いよ」


然し、いつ敵襲が来ても可笑しくない状況でも揺るがないのは、暢気と言うより腹が据わっている。


「ふむ・・・ならば残りはあと僅か故に、じっくりと堪能するとしようかのう・・・」


否、やはり暢気なだけかもしれない。

実益を兼ねたお楽しみの時間を阻止されずに済み、落ち着きを取り戻すと大きな口を開けて放り込んだ。

黙々と残りを平らげようと咀嚼するコウギョクだったが、その目の前にどさりと大きな何かが投げ捨てられゴクリと一気に飲み込み咳き込んだ。

それは、痛めつけられ薄汚れた縄によって全身を縛られたオディウム兵であり、顔は恐怖に固まり白目をむいている。


「おい、そんな油臭いもん食っている暇があったら兵士の一人でも捕まえてこいよな」 


好物を油臭いと言われ、コウギョクは嫌味ったらしく鼻を摘まむテオドロを睨み付ける。

成程、どうやって此処を突き止めたと思えばオアゲの臭いを嗅いで偶然に見つけたのね。

テオドロは血で汚れた足先をオディウム兵の服に擦り付けると、口周りが油でテカテカのコウギョクを見て頬を引きつらせる。


「なんじゃ、てっきり敵に寝返ったかと思っておったわ」


コウギョクもテオドロが抜け出していた事に気付いていたらしい。

此方を見下し嘲笑うテオドロの顔を見るなり、コウギョクは冷たくあしらった。


「・・・俺は無能な不良品どもと違う。鼠のようにこそこそ盗み聞く事しかできないお前達に変わって情報を仕入れてやった。俺に従うなら教えてやっても良いが如何する?」


テオドロは私達の反応など鼻にもかけず、謝罪も反省も無いどころか、兵士を拷問して得たと思われる情報と引き換えに道具らしく自分に従うように求めてくる。

そんなテオドロの下らない言動に惑わされている暇は無い。


「如何するも無いわ。今、私達が探っている内容は状況の把握、他の物はこの領土を取り戻してからでも遅くないわ」


「・・・へ?おい!何でだよ、此処に常駐してるのが本陣じゃないとか知っているんだぜ」


テオドロは思った反応が返って来た事に驚いたのか、間抜けな声を上げたうえに仕入れた情報を一部だけ漏らす。その様子にヒューゴーは私との間に入る。


「黙れ、お前が其処に居る奴を締めたせいで奴らに気付かれたかもしれないんだぞ」


何もかも想像と懸け離れ、おまけに相手にもされない。

おまけに自分達にとって下等な存在である異界人に反発された事が許せなかったのか、潜伏をしていると言う事を忘れ声を荒らげた。


「ふざけ・・・るなっ」


怒声はヒューゴーが喉元に差し出した短剣により遮られる。


「此処に居るのが本陣の奴じゃないにしても、一人でも欠員が出れば潜伏している事が疑われんだよ」


「ふむ、近いな。寧ろ、お主等の口論が悪目立ちしてしまったやも知れぬぞ」 


コウギョクは耳を立て、尻尾をゆらゆらと左右に揺らし扇を握りしめる。

その良いし知れぬ感を証明するように、辺りが急激に静まり返った。


「・・・くそっ!」


テオドロは歯軋りをし、わなわなと震えだすと慌てて地面に寝かせた兵士を抱え上げると、潜伏していた家屋から飛び出した。

テオドロは咄嗟に人質にでもと考えたのだろう、引き摺りながら通りに出ようとする腕を掴もうと駆け出すも手は届かず。

ドスッと鈍い音をたてて、人質だけではなくテオドロの肩が矢に貫かれる瞬間が目に焼き付いた。

痛みと射貫かれた衝撃に目を見開くテオドロを反射的に引き戻すと、ティトとマリルーの助けで身を隠す。

テオドロとオディウム兵からティトとマリルーの助けを借りながら矢を抜くと、魔法被膜を破り薬剤を傷口に流し込む。

回復するにはしたが深手の為、流石に一度の投薬では完治しない。


「あの、これ・・・使って?」


双子は慣れているのか怪我に対し怖がる様子も無い、マリルーはテオドロの傷口を見て考える素振りを見せると、首に巻いていたスカーフを私に手渡した。


「え、良いの?」


私がそう訊ねると、マリルーはコクコクと何ども頷く。

止血を終え、テオドロの顔を見ると以前と同様に反省の色が見えない。


「既に囲まれてるな如何する?」


「・・・如何するも何も決まっているじゃない」


ヒューゴーはコウギョクと共に外を警戒しているが、位置は気付いている筈なのに此方に攻め込む様子が無い。待ち伏せをされている可能性が高いが、このまま狭い空間に籠城しても囲まれて何れは袋の鼠。

そんな中、コウギョクはテオドロを気にかけている。


「助けられて屈辱だと言った所よの・・・まあ、もう妾達は何もせぬ。好きにするが良い」


「・・・・」


テオドロも何か言いたげに口を開くが声が打ち消される程の轟音が全てを呑み込んだ。

痺れを切らして炙り出しに切り替えたのかもしれない。


「行くよ!」


皆に聞こえるかどうかも怪しい、顔を合わせ目を合わせると物陰に身を隠す間も無く衝撃的な光景が飛び込んでくる。戸惑いながらも罵倒し合いながら戦い、絶望しきり命乞いをする者。


「何で・・・こんな事を?!」


この悍ましい光景、恐らく先程の矢は最初からテオドロのみを狙ったものではないのかもしれない。

オディウム兵による同士討ち、理解不能な凄惨な光景に私は酷い眩暈がした。                  

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

諸事情により、投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

絶望的な光景から、物語は好転するのか?

次回までゆっくりとお待ちください。

追記:本文を修正致しました。(10/29)

*ブックマーク登録を一件頂けました!ありがとうございます!

***********

次週も無事に投稿できれば10月4日20時に更新いたします。

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