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第27話 凶報ー邪なる神の監獄編

騒動は一旦は終息を迎え、熱におかされた双子を抱えて必死の思いで辿り着いたバラハス邸。

今になれば、あれだけの数の使用人を抱えている屋敷にも拘わらず妙に静まり返っていた。

何気に開いた重い扉、出迎えたのは使用人で無ければバラハスさんでもない。

屋敷にとって部外者であるシルヴェーヌさんただ一人、ここで気付けば良かったのだ。

良く見知った顔である為に油断していた、そして亡命者から情報を聞きだす役割を任されていたのもシルヴェーヌさんで間違いない。

ヤスベーさんの手から領主の証が奪われ動揺しかけたが、この世界に封じられた支配者の好みに()わなければ例え奪ったとしても証は使用できず、主と認められるにはパヴォールの承認がいる事を思い出した。

まだ審判は下されていない、取り戻す猶予は十分にある。

落ち着きを取り戻し仲間にに目を向けると皆も冷静に相手を観察しているもよう。

然し、ヤスベーさんの視線だけは変わらず証を掠め取ったマリルーへと向いていた。

向かい合う魔族の顔からはシルヴェーヌさんの重い影は消え、顔の一部が緑色の鱗に覆われ、大きな目はぐるりと見回す様に回転している。

リザードマンと同様に蜥蜴(とかげ)の様な特徴を有しているが、人間の特徴が多く残っており、魔族らしく角も生えていた。所謂、爬虫類人種(レプティレ)と言う所だろうか。

まさか助けた恩を仇で返されるとは、双子は種は同じだがシルヴェーヌさんとは違う容姿へと変貌。

マリルーが木の葉の様な形状の手を広げると、うっとりと見つめる掌に置かれた領主の証は長く伸びる舌に絡め取られてしまう。


「ふふふ・・・取り敢えずは一つか。でも、あの変な喋りのエルフも此処の連中も隙だらけね。これなら領主様に知らせて初めから此処を落とせばよかったかも知れないわ」


女魔族は奪い取った事に愉悦に浸り、うっとりと証を頬に擦り付ける。

すると、顔や手を被う鱗が証の色を模倣し赤く染まった。

三人の魔族は私達を見て勝ち誇った顔でニヤリとほくそ笑む。

そもそも門の前でカリストが示した自重が無く異界人を軽蔑する異常な行動は、疑うべき点だった。

さあ、後悔と反省は此処までだ。


「・・・亡命は嘘なのね」


私達が睨むと女魔族は唖然としたが直ぐにほくそ笑んだ。

そんな問い掛けを煙たげに顔を歪めると証を見せつけ、女魔族は小馬鹿にして鼻で笑う。


「それが何よ、この遊戯に有りがちな事でしょ?ウドブリムの連中もあんたらに毒されてお頭が空っぽだし、楽だったわ」


そんな彼女が私達を前に気持ちよく悦に浸っていると、双子の片割れで領主の証を始めに奪ったマリルーは頬を膨らませると脛を蹴り飛ばした。


「ペトロナ、それはアタシ達の手柄なんだからねー」


女魔族の名前はペトロナと言うらしい。

ペトロナはマリルーが苛立ち短剣を向けてくると、大きく開いた口から長い舌を鞭の様にしならせ叩きつけた。

マリルーは嫌悪感を示し更に怒りを露にするも、頬を抑えたまま兄のティトの背に庇われ、その後ろからペトロナに罵り返し合っていた。


「うるさいよクソガキ!この案を思いついたのは此の私よ?手柄は当然、私の物でしょ?」


「このコソ泥、許さないからな!」


ティトは妹を庇い、ペトロナの口汚い声に臆さず言い返すと暫し思案し、ひそひそと妹に何かを囁き宥めた。

ペトロナは双子の声に耳を傾けずに私達に視線を向けると、怒りに顔を染めながら喚き散らす。


「幾らギャーギャー喚こうと駄目よ。それより、コレの主になっている奴だれ?けち臭い事しないで私に寄越しなさいよ」


その瞳は証を求め貪欲に欲すると、ヤスベーさんが所持する残り一つを妬ましげに見つめ、奪った物を堅く握り締めにじり寄った。

ヤスベーさんは残る一つをそっと懐にしまうと、カタナの柄を握りながら一歩前へと踏み出した。


「・・・今、お主が己の領主にソレを届けようとぬか喜びになるのみ。拙者はお主を悪いようにしない、それを返してくれぬか?」


ペトロナはカタナを握りしめ、自分を見つめるヤスベーさんを見て鼻を鳴らした。


「ぬか喜び?ありえない。証の事なら知っているわ、道具風情が所持している事が許せないのよ!」


ペトロナはそう言い放つや否や、拳を構えて挑発的な仕草を見せつける。

二人は対峙するが、その合間にマリルーとティトは割り込むとペトロナを突き飛ばし、徐々に鱗や肌の色を変えてカリストとザイラさんに姿を変えた。

武器は本物の様に剣や大槌は所持していないが、不意を突かれてヤスベーさんの動きが僅かに鈍った。


「むぅっ!」


ガキィンと言う音を響かせカタナと短剣が火花を散らし、繰り返す金属音は部屋に満たす。

ティトはマリルーと共にペトロナに宣戦布告の様な事を言って見せる。


「残りはは、ボク達の手柄だよペトロナ。強欲婆に全部なんて持って行かせるもんか!」


「当然だよ、兄ちゃん!」


此処で仲間割れかと三人を呆れながら眺めながら、私とレックスも領主の証を奪い返す為に剣を構えた。

ペトロナはティトの言葉に反応して蟀谷に青筋を立てるも、すぐさま切り替えヤスベーさんを狙い駆け出す。


「・・・調子にのんじゃないよ!」


その.湧き上がる怒りを抑えて疾風のようにヤスベーさんの横面へと拳を叩きこもうとするペトロナ、そこに私は迷わず剣を突き出した。

私の剣の切っ先が二の腕をなぞる様に切り裂くも、苦痛による呻き声が漏れる中、ペトロナは身体能力を生かし身を反らす。

如何にか踏み止まるペトロナは怯まずヤスベーさんを狙おうとするが、私達は挟み込み身動きが取れないよう囲み込んだ。


「おっと、お前の相手は私達よ」


「ああ、必ず証は返してもらうぞ」


如何にかこのまま大人しく返却、そう上手くいかないのが現実か。

この状況を見て、ヒューゴーは戸惑うもティト達を相手するヤスベーさんを見て次の手を決めたらしい、ゴソゴソと腰鞄を探り出した。


「なら、俺はヤスベーを助けるぜ!」


ヒューゴーはそう言うと小柄な者同士で接近を図る、相手が近づいた所で握っていた何かをなげつけた。構わずペトロナの武技を躱すと、爆発音と悲鳴と共に焦げ臭いにおいが漂ってくる。


「室内で何を使っているの!」


床が壁が焦げて黒ずんでいる、そして炸裂団の標的の二人はと言うと、爆発を逃れ近くの柱に両手両足で貼り付き愉快そうにニヤニヤと此方を小馬鹿にし悪い表情を浮かべている。

頭に血が上ったのか、ヒューゴーは私の失跡に反発し逆上した。


「緊急時だ!ちょこまか動く奴を相手に正面からやってられっかよ!」


そこからは周りを無視した、炸裂玉の投擲の嵐。

これ以上の被害を避ける為、ヤスベーさんも貼り付いた天井から飛び降りて短剣を突き立てようとするマリルーを切りつけた。

短剣は弾かれ、マリルーはカタナにより肩に深い傷を負い床に伏せる、ティトはヤスベーさんに怒りをぶつけるよりも衝動的に妹の方へ駆けより何やら傷口に塗り込みだした。


「さあ、後はあなた一人よ。怪我も負っているんだし、諦めて領主の証を返してもらえるかしら?」


私は残されたペトロナに凄んで見せる、ヤスベーさんは双子の様子を複雑な心境で眺めていたが、ヒューゴーはそれに対し苛立ち舌打ちをした。

ギリッと歯軋りがペトロナから聞こえてくる、そこからブツブツと何かを呟いたと思うと、それを隠す様にティトが口笛を吹く。

ペトロナの鱗は宙に融けるように透過していくが、レックスはそれに目聡く気付き剣を喉元に突きつけた。


「逃がすかっ!」


ペトロナは首から赤い筋が胸元に垂れようと構わず仰け反ると、無言でレックスを蹴り飛ばした。

レックスは腹部に蹴りをくらうが咳き込みながらも持ち堪えて踏み留まる。

ティトの口笛に応え、バラハス邸の使用人が屋敷のあちらこちらから出て来たと思うと、次々とその姿を変えていく。

どの人も亡命者として来た人々ばかり、中にはティトとマリルーの両親の姿も在った。


「妬ましいったらありゃしないよ、何で異界人なんかに戦況が味方するのか。こうなったら双子が仕えなくなったから全員で行くよ!」


思い通りにいかない事に自棄になりながらも、ペトロナは仲間に一斉に号令をかける。

仲間達も待ちくたびれていたのか、ペトロナ達もよりも更に大きな声があがった。

我先にと勢いづくこと十数名、対する私達は四人。

証を取り戻せていないうえに室内で戦うには狭く、そうかと言って外は空からの襲撃の真っ最中と言う最悪な状態。

その時、近くの扉ほどの大きさの壁がズシンと大きな音をたてて倒れ込み、そこからはやけに慌ただしい声が聞こえて来た。


「ヘイ!皆サン、ちょーっと鼻と口を塞ぐですヨー!」


信頼できる聞き覚えのある声、馴染む口調に直感的に剣を地面に置き鼻と口を抑える。

本物のシルヴェーヌさんが屋敷の人々を伴い現れ、何かを床に転がった。

ゴロゴロと転がる見覚えのある球体、それは弾けると黄土色の煙が室内に広がり、口や鼻を塞いでいるのにも拘わらず強烈な臭いが漏れてきた。

聞くに堪えない嗚咽と何人かが倒れる音、その中で慌ただしい複数の足音と共に入り口の扉が開かれる音がする。

煙が外に漏れ、視界が徐々に鮮明になる中、扉を開けた使用人を突き飛ばし、ペトロナが飛び出していく姿が見えた気がした。

逃さず追いかけようとすれば、臭いの元であるシルヴェーヌさんまで顔を青くして屈んでいる。


「うーん、魔物の糞の量をモット、調整の必要ある思いマス」


そんな物を入れるなと言いたいが、その暇も今はない。

薄く雲る視界の中を確認するが、やはりペトロナの姿はなかった。

私はシルヴェーヌさんにお礼を言いつつ、扉を開けた人の横をすり抜け外へと飛び出して行った。


「助かりました。私達はペトロナの後を追います!」


シルヴェーヌさんの驚いたような声、背後からヤスベーさん達が追いかけてくるのを確認、ペトロナはちらりと振り向き、走る速度が増したかと思うと細い路地へと飛び込んでいく。

何処へ逃げようと言うのか、混乱する町中を私達は止まる事無く走り続けた。



***********



領主の証を持ったまま逃走するペトロナは追えばおう程、狭い路地へと入っていく。

通りが薄暗い訳は時間帯だけが理由では無い、建物同士の間に張られた洗濯用の縄、緊急時の為か日が落ちてきていると言うのにも拘わらず洗濯物が風に揺れていた。

成程、空からの敵の目を欺くのに最適と言う訳ね。

追跡するペトロナの行く先は読めた所で、改めて無駄になると説き伏せる。


「そのまま逃げても、パヴォールの審判には通らないわよ」


私の言葉にも揺らがず、パヴォールの名前を口にしても動揺せず、何か算段が有るのかペトロナは不敵な笑みを浮かべるばかり。


「ふん、それで動揺を誘っているつもり?此処の魔族に加え、異界人はやはり消えるべきよ」


そう言うと、ペトロナは此方へ振り向く事なく走りながら何かを唱えだす。

顔の大半を被う鱗が徐々に色を変えていき、ペトロナの姿が希薄になり、姿が融ける様に消えていった。


幻覚魔法(アールキナーティオ)?!」


まだ其処に居る筈にも拘わらず姿形

も無い、この際だから門へ回り込み待ち伏せをするべきかと迷う中、ヒューゴーが私達の様子を見て慌てて叫んだ。


「馬鹿、落ち着けって!諦めるのは早いぞ!」


ヒューゴーの指先は地面へ、其処には点々と血痕が落ちていた。

恐らくはバラハス邸で私に負わされた二の腕からの出血による物だろう。


「流石ね、助かったわ」


「あー、そう言う奴は如何でも良いから追うんだよ!」


私はヒューゴーの言う通り、点々と落ちる赤い痕跡を必死に目で追いながら更なるペトロナの軌跡を追う。その時、空がやけに騒がしい事に気付いた。


「敵襲・・・じゃない!」


空を(おお)う洗濯物用の縄が何本も絡め取られ、巻き付きながら私達の方へ落ちてきた。

目眩ましか足止めのつもりだろうか、視界が色とりどりの布で遮られるが、それを縫う様に避けながら飛び越えていく。

それよりも早く、滑り込むように縄を潜り抜けて先行するヒューゴー、血痕を頼りに腕を振りあげると炸裂玉を投げつけた。

投げたのは一粒だったようだが、爆発音は小さくともそれなりの威力はやはりある、路地沿いに置かれた木箱を巻き込んだうえに中に入っていた謎の果物が飛び散り地面を赤紫色に染めてしまう。

その場にペトロナの姿はない事を確認し、私達は甘ったるい臭いが満ちる中を駆け抜けた。

ヒューゴーは狙いが外れた為、私達の方へ振り返り苦笑する。


「わりぃ・・・」


私は果汁に塗れた地面を踏み締め、ヒューゴーの肩をポンと優しく叩く。

気付けば遠くに見えていた門が大きく見えるようになっていた。


「・・・どのみち出血は止まるだろうし、何時までも頼り出来た訳じゃないわ」


レックスは私の言葉に頷くと、ヤスベーさんと共に辺りを見渡す。


「奴が町を出ようとしていると言っても、衛兵も居るのだから容易じゃない筈だ」


レックスが落ち着く様に呼びかけるが、冷静に努めていてもヤスベーさんの蟀谷には汗が一滴。

暫くテローに滞在した甲斐もあり、此処から一番近い門までの道筋で迷う事は無いだろう。


「ならば門まではあと僅か、繋がる道を塞ぐよう追い込もうでは無いか」


四人で頷き合うと、大通りを出来るだけ避けて門へと走りだす。

途中、テロー兵や魔物の死骸の横をすり抜け門へ向かう途中、腐敗臭を撒き散らす飛竜(ワイバーン)を見かけた。

それでも私は足を止めず走り続けると、辿り着いたのはヤスベーさんとヒューゴー、そして私の三人のみ。


「まさかさっきの飛竜と・・・」


レックスの身を案じて振り返った所で、ヤスベーさんの呼ぶ声に驚き肩が跳ね、振り返ると予想は当たり、ペトロナを衛兵が囲んでいるのが見えた。


「アメリア殿!」


「奴さん、やっぱ門で引っ掛かっているようだぜ」


ヒューゴーがそれを言うや否や、門へと駆け出す。

私達も続いて追いかけると、気付いたのかペトロナはニヤリと挑発するように口角を上げ、握りしめた拳を振り上げた。

ヤスベーさんも其れに気付いたらしく、衛兵たちに向けて声を張り上げる。


「むっ、いかん。爆発するぞ!」


衛兵がそれを見て一瞬、驚いてペトロナから目を離す。

それは仇となり、盗んだと思われていた炸裂玉は実際は所持してはおらず、ペトロナは衛兵を振り切り門を潜り抜けて外に出た。

私達は我に返り、ペトロナを追おうとする衛兵を押し退けると、一言だけ告げて戦場へと飛び込む。


「すみません、私達が如何にかします!」


「事情は後程、今は何も聞かず通してくれ」


飛び込んでくる光景は不死者の残骸と、骨や眉の様な物が転がっており、なかなか混沌とした様子。

テローとガラクタ団の連合とレンコルによる不死の兵団は膠着状態にあった。

互いに疲弊し出方を窺う様に空気が張り詰めているが、数は町の方へ不死者や魔物を裂いたせいか我々側の方が数的に優位に見える。

その事態を幸運に思ったのか、薄暗くなる空も助けとなり嬉々として通り過ぎようとするペトロナ。

私達が追いかける目の前で再び姿を消そうとするが、地面から突き出してきた腕に足を取られ地面へと顔面を打ち付けた。

それを見たレンコルの団長らしき人物は白い布を掲げながら振り、敗北宣言をした事により動揺が起きる。そして杖を片手に倒れ込んだままのペトロナへと歩み寄った。

ペトロナは必死に足を掴む手から逃れて立ち上がろうとするが、相手は既に目の前に立ち塞がっており、逃げ場を失い蒼褪めた。


「くそっ!何て事なのよ!」


悔しまぎれに悪態をつくペトロナにレンコルの団長は微笑んだ。


「君、嫉妬(インウィンディア)の人間だろ?勝手にレンコルを利用しといて、何処に行くんだい?」


穏やかな物腰、なのにペトロナに呼びかける人物の声を聞いていると怖気が背筋を走った。

ともかく領主の証を取り戻す事に集中し、私達もペトロナと距離を詰める。

インウィンディアと言う名前を思い出し、争い合う五つの領土の一つだと思い出す。

第三の勢力による羨望と罠には驚きはしたが、それよりも未だにペトロナの手の中の領主の証が奪い返す機会が訪れず気がきでなかった。

ペトロナへと視線を向ければ惚けては居るが、目が泳ぎあからさまに動揺している様子。


「な・・・それは何の事だい?」


ペトロナから滲む脂汗、肩を震わせる目の前でレンコルの団長は姿を変える。

淡い紫の髪はくすんだ薄桃色に、毛に覆われた長い耳が伸び、黒い一本角が突き出す。

ペトロナを見る目は暗く濁り、パヴォールは人形の様な不気味な微笑みを浮かべると淡々と言い聞かせてきた。


「質問に対し質問で返すのは頂けないな。でも僕も暇じゃないから、物わかりの悪い君にも教えてあげる。君がまんまと利用できたと思っていたレンコルだけど、今頃は攻め入った君の領主の許から証を奪って、勝利の美酒を楽しんでいる所だよ」


「そんな・・・嘘だ」


愉快な事が起きたかの様に語るパヴォール、ペトロナの瞳は徐々に絶望に変わり、膝をつくと服の中からコロリと奪われた領主の証が転がり落ちる。

誰もがその光景を呆然と見つめる中、ヒューゴーだけは必死の形相でそれを拾い上げると、ヤスベーさんへと投げ渡し、腰に下げた短剣を抜きさった。


「ふふふ・・・そんなに慌てなくても僕は盗りやしないよ」


パヴォールはその場でゆっくりと回転すると、ヒューゴーに対し苦笑する。

パトロナはヤスベーさんが領主の証を懐にしまうのを目にすると、顔を顰めじっとりと酷く睨み付け肩を震わせ掴み掛かろうとするがピタリと動きを止めた。


「ひっ・・・」


パヴォールが心の底から残念な物を見るように憐れんだ目を向けると、パトロナは短く悲鳴を漏らし、逃げ様と身を翻す。


「君も惜しかったね、此処で異界人の領主を殺していれば台頭出来たのにさ」


パヴォールは楽し気に踊る様に体を捻る、その足は弧を描きアンクレットについた鎌が夜空の光を反射する。その背後には不気味な銀の満月が輝いていた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

ガラクタ団と獲得数が並ぶ領主も出てきて徐々に事態は過酷に。

事態と命運は如何にと言う事で次回までゆっくりとお待ちください。


*今回も新たにブックマーク登録をして頂きました。本当にありがとうございます(*´∀人)


******************

次週も無事に投稿できれば、9月23日20時に更新いたします。

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