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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第一章 光の国 カーライル
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第2話 世界への一歩

今回は試しに文字数を増やしてみました。読みにいようでしたらすみません。

祝福の儀(ブレッシング)への招待状が届いてから数日が経ち、旅立ちの日が明日へと迫っている。

今日は稽古も学校も休みと言う事で、村の商店街へとケイティーに協力をしてもらいながら旅の必需品選びに来ていた。

商店街は小さいながら村人たちの往来も多く、商人達の粋のよい掛け声や買い物をする村人の声が盛んに飛び交い賑わいを見せている。

街と比べれば小規模で品揃えが良いわけじゃないけど、村で生産された野菜に肉に衣類に生活必需品に交易品と様々な品が並んでいて盛況な様子を見せている。

最初は何時も愛用している細身の剣を鍛え直して貰おうとしていたけど、「そんな()()()()は恥ずかしいから止めろ」と言われて銀貨二枚を握らされた。

祖父に剣を習いだしてから十年近く愛用しているのに()()()とは酷くないかしら。



現在は武器屋の前でずらりと並ぶ剣を屈みながら眉間にしわを寄せて睨めっこをしている、その横でケイティーは物珍し気に店内を歩き回っている。

「よお、アメリアちゃんも祝福の儀を受けに行くんだってな」

そう声をかけてきたのは店主のレギンさん。

どっしりとした筋肉質の体躯(たいく)に赤毛の髪と縮れた髭を胸のあたりまで伸ばし、如何にもドワーフと言う容姿をしている。

「そうなんですよー。でも、正直言って爺ちゃんの方がはりきっていて困っているんです」

「がはは!アイツらしいな。俺の店に来たって事は何だい?得物でも探しに来たのか?」

「そのつもりなんですが迷っちゃって・・・」

「たしかアメリアちゃんは片手剣だったよな」

眉をハの字にして困った様子の私を見てレギンさんは少し考えた後、店の奥に消えて行った。

その間、店内を見回すとケイティーが陳列棚を凝視している。

「ケイティーなんか良いものでもあった?」

「なんか見たことが無いんだけど見てるとワクワクすると言うか第六感が囁くというか」

「よく分からないけど・・・それ欲しいの?」

ケイティーの目の前にあるのはパチンコのような弓のような不思議なもの。

蒼い塗装に柄の部分に花の彫刻がされた可愛らしい武器だ。

そこへ、私達の声を聞いたレギンさんが奥の部屋から顔を出してきた。

「ああ、何を見てるのかと思えばソレか。薬品投擲士(ケミカルシューター)の専用の武器らしくてな。この間、王都から来たっちゅー奴が試しにと言って置いてったヤツよ」

「ケミカルシューター?」

「そいつに酸や毒薬等の薬物をセットして魔物に向かって攻撃をする後方支援職だ」

「何それカッコイイ‼」

ケイティーは頬を上気させながら目を輝かせ武器を手に取る。

「ケイティーちゃん気に入ったみたいだな。その投擲銃(とうてきじゅう)はそうだな・・・おまけして銅貨三枚だな」

「もってけドロボーさんだぁああ‼」

お財布をちらりと見て耳を寝かせ眉間に皺を寄せながら躊躇(ちゅうちょ)するものの、ケイティーは勢いよくカウンターに銅貨を三枚叩き付ける。

レギンさんはまさか本当に買うと思っていなかったらしく驚愕の表情を浮かべた。

ケイティーは小さな声で「今日のおやつ代が」と呟いている。

本当に直感で動くなこの子は・・・

「でも、そのケミカルシューターだっけ・・・詳しい人はいないけど大丈夫?」

「うー、そこは感と言うか自己流で」

やはり深く考えてなかったみたいだ。

呆れつつ腕を組みながらケイティーを心配していると、再びレギンさんが一振りの剣を片手に現れた。

その剣は白い柄に細かな装飾が施され、(つば)の部分には魔結晶が埋め込まれ、その刀身は白銀の細くて美しい。

魔結晶とは魔法使いなどの魔力を結晶化させた物で、純度の高い透明度が高いものほど価値が高い。

それは、魔力の増幅や魔法付与効果などの籠められた威力や持続時間に影響する。

特に高位の魔物からとれる天然物は冒険者垂涎の品なのだ。

「魔結晶ついてるし・・・これは折角ですけど遠慮させて頂きますね」

祖父から貰った資金と畑を荒らす魔物退治で稼いだお小遣いを合わせても足りるかどうか心配になる。

しかし、剣をレギンさんに返そうとすると手を押し返されてしまった。

「これは魔結晶と言っても簡単な付与効果しかない上に純度も低い。それに此れは祝儀だって思ってくれりゃあ良いさ」

たっぷりと蓄えられた髭の合間から眩いばかりの白い歯が輝く。

「レギンさん・・・」

「ただしだ、俺の店の武器は素晴らしいって王都で宣伝してくれよな」

やはりと言うか商魂逞しい。

「ははは・・・任せてください」

「それでだ、ケイティーちゃん。投擲銃(ソイツ)は本来なら()()()()()()使えるやつが沢山いるんだろうが・・・今度、ソイツを売った奴が来るから扱い方でも習ってみるかい?」

「本当?!」

「おうよ、おじちゃんに任せときな」

レギンさんは胸を張り、片手で叩いてみせた。

何やらレギンさんの言い回しに含みを感じるものの、剣を貰うだけでは申訳ないので鞘等の付属品を購入し店を後にした。




今度は武器屋の隣の防具屋に向かい品定め。プレートメイルにするかドレスメイルにするか迷った挙句、実用性を加味しつつ、胸当て付きの花弁のように広がる白と淡い翡翠色のドレスメイルにした。

「どう?これで男女なんて言わせないわよ!」

「うん!可愛い。でも・・・こっちの方が良いんじゃない?」

妹が差し出したのは、先に選んだ物より装飾がシンプルで動きやすいデザインの細やかな花の刺繍が施された臙脂(えんじ)色と黒のドレスメイル。

「う・・・結構いいかも」

「でしょでしょ!」

勧められるままに決めたドレスメイルに黒いタイツに(すね)当てと鉄靴(てっか)に膝当と肘当てや手甲と腕当まで購入する。

防具屋の主人でレギンさんの弟のノーリさんは上機嫌な様子で見送ってくれた。




最後は道具屋へ、煉瓦造りの小さなお店に所狭しと様々な薬品の原料に瓶詰のカラフルな回復キューブ等の冒険の必需品と言える物が並んでいる。

キューブとは薬品生成スキルを持つ職業の者が濃縮した薬品を魔法で作成した薄い透明の被膜に封じたもので噛んだり割ったりして使用する。

効果は下級・中級・上級と色で区別され、お菓子のようで可愛らしい為に女冒険者に好評だ。

全種類揃えたくなる衝動が沸くけど幾らか軽くなったお財布の音が手を止めてくれた。


帰る頃にはすっかり空は茜色になり、商店は人混みも疎らになっている。

私達も露店で串焼をお土産に買い、帰路についている。

それをこっそりと二人で一本ずつ食べながら歩いた。

口いっぱいに広がる肉汁と香ばしい炭火の香りに程よいスパイスと塩加減が絶妙、それを口の中に溜まった熱気を逃がしながら食べる。

「んー!美味しい!これが暫く食べれなくなると思うと残念だわ」

「ん、はふっはふっ。そうだね・・・おねえちゃんが居なくなると寂しくなっちゃうな」

祝福の儀(ブレッシング)が終わったら帰って来るから大丈夫よ。それに来年はケイティーの番でしょ」

「・・・うん、楽しみなんだけど・・・」

「ん?」

「もう一本ちょうだい」

「だーめ!」

そんな他愛のない話を交わし後、帰宅すると祖父特製の適当な大きさに肉や野菜が多く入った豪快な煮込み料理が夕食の食卓に乗っていた。

祖父は私達が買ってきた串焼きを肴に麦酒を一気に飲み干し、私の方を真剣な面持ちで見つめたかと思うと懐から古びて傷だらけのロケット付きのペンダントを出してきた。

「これはおめぇが俺の家族になる前から持っていたもんだ。お守りとして持っていくと良い」

「え!?これを私が?」

思わぬ過去への手掛かりの存在に驚愕しつつも、そっと手に取り中を見ようとするが幾ら力を入れても開く様子が無い。

「そいつは開けられないぞ。どうやら()()な仕組みになってるらしくてな」

「うーん、残念」

「焦らなくていいじゃねぇか。世界を知り多くの出会い語らう中できっと嫌でも求めている答えは掴めるはずさぁ」

何時になく真剣な面持ちの顔に、普段の豪胆な祖父の雰囲気は身を潜めている。

「じいちゃん・・・絶対戻って来るから。私の魔法を見てよね!」

「・・・・」

「じいちゃん?」

「ぐごああああ・・・」

地響きの様な(いびき)がキッチンに鳴り響く。

私のしんみりとした気分を返してもらいたい。

酔いつぶれた祖父をケイティーと一緒に寝室に運び寝かすと、自分たちも寝支度を済まし床に就いた。



日の光が優しく私達を照らし、まるで旅立ちを祝福してくれるような朝が訪れた。

旅支度の後に乗合馬車が停まっている村の入り口にて、私やダリルを含めて同世代の面々が緊張の面持ちで保護者の方々と一緒に出発までの時間を待ちながら思いおもいに家族で語らっている。


「弟子さえいなければ俺がついて行ってやるんだがなあ-!!」

号泣する祖父に口が引きつる私と他の保護者の皆さん。

その声に祖父の背後からは朝早く集まってくれた兄妹弟子の皆さんから「師匠それは無いですよ!」と言う抗議の声が上がった。

しかし、一番はりきって見送ると言っていたケイティーの姿がどこにも見えない。

「じいちゃん、ケイティーは?」

「ケイティーか、あいつは寝起きが悪いからな。弟子に呼んでこさせるか?」

「いいよ、寝かしてあげよう。私がいない間、ケイティーを頼むね」

「おうよ!キッチンごと守ってやるよ!」

キッチンと言う言葉で思わず二人で笑ってしまった。

荷物を積み終わり、御者さんから出発をするとの声掛けがあった為、慌てて私も乗り込んだ。

中にはやはり子供だけでは心配なためか、護衛の為にダリルの師匠である狼の獣人のウォルフガングさんが同行してくれていた。

出発直前、外を覗くと私の名前を呼び慌てて走って来る祖父の姿がみえる。

「これを持ってけ!ランドル・サザランドと言う俺の弟子が冒険者ギルドに居る筈だ。そいつにこの手紙を持っていけば世話してくれるからよ」

「ありがとう。じいちゃん・・・私頑張るよ」

祖父は私の手に手紙を握らせると、頭をくしゃくしゃと撫でつけて去って行った。

御者さんから鞭の合図で馬がゆっくりと進んでいく。

故郷が遠ざかっていく手を振る祖父達の姿が遠ざかっていく。

あんなに出たいと思っていた村がいざとなるとこんなに寂しくなるなんて・・・。

しかし次の瞬間、馬車の積み荷の中から怪しい音が聞こえてきた。

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