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第15話 盤上の影-邪なる神の監獄編

他の領土からの襲撃に発狂する魔族の顔役を名乗るバラハスさん。

カリストとヘシカも必死の制止も役目を果たすには弱い、それは抑える二人の不安が原因であり、バラハスさんを正気に戻す事は(まま)ならない。

このまま彼らの期待を背負って良いものか、この世界が邪神にの支配下にあるのあいまり、心の底では気が進んではいない。

助けを求められたヤスベーさんさえも、その豹変ぶりに難しい表情を浮かべており、その背後に響く戦の気配に(かぶり)を振ると私達の方へ向けた。


「助けを求めてきた者を無碍(むげ)に扱うつもりはない、だから如何か安心してほしい。護衛の二人はご老人を何処か安全な場所へ避難させてくれ」


緊迫した表情の護衛の二人だったが、ヤスベーさんに諭され少し安堵したかのように口元を緩めるとカリストが重たかった口を漸く開いた。


「解った・・・」


短い言葉であったがカリストの一言に含まれる意味はとても重く感じられるだろう。

そうかと言ってヤスベーさんも体裁を整える為の戯言では無いだろう、孫のヘシカは祖父の腕を掴みながら月を眺め祈ると此方を見て微笑み会釈した。


「月・・・邪神の瞳ね」


ヘシカの祈る姿にあの魔物の森で見た月を思い出すと同時に、邪神を崇拝する者だと確認出来て怖気がする。

発狂するバラハスさんの言動を振り返れば、彼らは生存する為なら何にでも縋りつくしかないのだろう、然し祈る彼の神はこの事態すら楽しんでいそうだ。

それは決して気分が良い物では無い、ふと視線を向けた所でバラハスさんと目が合う、見る間に表情を変えると、ヘシカを振り切り驚く私の両肩に掴みかかってきた。


「如何にかしてくれ!この際、アンタら異界人だろうとなんだって良い!このままでは終いだ!い、急がねば・・・わ、儂らは神を楽しませねば、駒であり続けなければ成らないのじゃ!」


正気を失った瞳、酷い剣幕で捲し立てるバラハスさんの手の力は思いのほか強く、感情の高ぶりに合わせて変わりゆく表情に背筋を冷たい物が伝った。

それは作り物では無く本物の恐怖、まるで邪神の遊戯の駒と言う事自体が存在意義と言っているかのようだ。

肩を掴まれたままだった私をヤスベーさんが引き離してくれたが、直後に警戒するカリストを一睨みするが顔を緩めると呆然自失のバラハスさんを押し付けるように引き渡した。


「必ずや此の領土を護って見せると誓う。如何か信じてはくれぬだろうか」


「も・・・申し訳ない」


バラハスさんは暫し呆然としていたが、心配そうに駆け寄るヘシカを見て脱力し、力なく肩を落とした。

カリストとヘシカは申し訳なさそうにヤスベーさんを見るが直ぐに顔を逸らし、無言でバラハスさんの肩を抱き其の場を立ち去った。

廃墟と化した領主の館を歩く三人の背中が徐々に小さくなっていく、薄暗くなった地上を戦火が照らす。


「戦が方角を知らせるとは何ともね」


「方角は南西か・・・急ごう」


レックスは空を眺め方角を確認しつつ溜息をつくと渋い顔をして歩き出す。

その姿をヒューゴーは怪訝そうに見つめると、理解できないと言わんばかりに肩を竦めて見せた。


「ったく人よし良いとこだな。この際、屋敷もボロボロだし奴らを捨てて別の領に向かえばいいじゃねぇか。証さえ手に入れちまえばこっちのもんだろ」


ヒューゴーは如何にもバラハスさん達の件が引っ掛かるらしく、廃墟と化した屋敷を眺めると領地の放棄を提案する。

その言葉に足を止めると辺りは静まり返るが、ヒューゴーは薄ら笑いを浮かべながら同意を求めるように私達へ視線を向けた。

ヤスベーさんは何か思案をしている様だったが、片方の眉を吊り上げ薄っすらと瞼を開くと、横目でゆっくりと視線をヒューゴーへ向けた。


「ヒューゴー殿の目には彼らは唯の傲慢に映ったのでござるか?」


「なんだよ・・・自分達の面倒をただ押し付けいたじゃねぇか」


ヒューゴーは想定外だったのか驚き身を退くが、負けじと眉を吊り上げ、ヤスベーさんに人差し指を突き付けた。

今はともかくこんな事で揉めている暇は無い。


「あの人達は神自体を恐れている・・・駒で無ければ存在意義を失うと考えているんだと思う」


「そうか?好きで争っているんだろ?」


未だ腑に落ちていない様子のヒューゴー、それに対しレックスは侮蔑の視線を送る。


「要は見返りか。どのみち、証を手に入れた時点で追われる事に変わりない」


レックスの言葉に戸惑うがヒューゴーは開きかけた口を閉じ、唇を嚙み締めた。


「・・・悪りぃ、俺の悪癖だ」


レックスの言葉にヒューゴーは息を飲むと観念したのか、しぶしぶ頭上に両手を上げた。

その様子にやれやれと肩を竦めた所で扇子が打ち付けられる音が二回響く。


「まっことにしょうもないのう、無駄足を踏んだんじゃ、敵を一早く討とうぞ」


コウギョクは苛々としながらヒューゴーを睨み付けると、私達を急かすように門がある方向へと歩き出す。ヒューゴーは悔しそうにコウギョクを睨むが、それには嘲笑が返された。

ヤスベーさんはそれを見て小さく笑うと、不満気な顔のままのヒューゴーの顔を覗き込む。


「うむ・・・」


じっとりとした視線にヒューゴーは口元を引きつらせると、不貞腐れながら腕を組んだ。


「ああ、もう異論はねぇよ!でっ、如何すんだよ?」


「このままでは拙者達も立つ瀬がない。そこで二手に分かれて攻め込もうと思う。本陣は偵察に拙者とヒューゴー、ザイラ殿達の下へはアメリア殿達と紅玉でいくとしよう」


「承知しました!」


正直、本陣の場所を探るにも当てが有る訳では無い、偵察組のその後の安否が不安でしかないが私達は快諾。ヒューゴーは頷こうとした所で目を丸くした。


「では、行こうか」


ヤスベーさんは笑顔でヒューゴの腕にがっしりと組み付く。


「おいおいおいおいっ、人任せにしておいて何だけどよ・・・戦力不足すぎんだろ!」


ヒューゴーの悪足掻きは虚しく、その甲斐も無くずるずるとそのまま連れ去られて行く。

遠くからザイラさん側に寄越していたツガルの助けを求める声が聞こえてくる。

その姿が視界に入るより早く、私達は屋敷跡を足早に後にした。



**************



城郭の門を塞ぐ様に隊列を組むガラクタ団、そして向かい合う魔族の勢力。

バラハスさん曰く、相手は嘲り(ウドブリム)らしいが、前回の戦いから多少は時間が経過したとはいえ、ガラクタ団が対峙した焦り(テロー)の兵と比べ、ある程度は装備が整っているように見える。

察するに、先刻の戦いは暴走による消耗、そこから全滅を防ぐ為に正気に戻った者のみが逃亡を図ったのかもしれない。

敵前逃亡による屈辱、戦力の減少による不安、そんな状態の彼らの許へ私達の襲撃。

そこから鑑みるに、例え取るに足らない存在であろうと領主が命と地位おしさに姿を変えて応戦したのは当然の事かもしれない。

一方、ウドブリムば敵兵を取り逃したうえに、ガラクタ団に横取りされた事により目を付け早速、領土を奪いに来たと言う所だろう。

そして、ツガルが救助を求めてきたと言う事は危機的状況に置かれていると思い駆け付けると、窮地に陥っている訳では無いが危機的状況に変わりなかった。


「・・・何で仲間同士で争っているの?」


ザイラさん達が各々の武器を手に敵に応戦する最中で土蜘蛛達が糸で絡め取り、カマイタチが目前で相手に気付かせずに切り裂く。

そしてザイラさん達が攻撃を交わしながら、土蜘蛛の糸で毛糸玉のようになった敵兵を貫き横取りし、カマイタチ達の鎌を大槌で弾きながら敵を叩きのめす。

確りと敵に応戦をしているが、そこに協調性は無く、互いを蹴落としながらの醜い小競り合いが起きていた。


「どーしてこうなるんじゃ、混沌としておるではないかっ」


コウギョクはその光景に愕然としながらも、ツガルを問い詰めるように素っ頓狂な声を上げる。

レックスと共にその光景を見守っていると、ツガルは尻尾を足の間に挟みながらコウギョクに涙ながらに助けを求めた。


「うっうっ・・・助けてくださぁい。何方がガラクタ団の戦力として有能かってぇ」


「やれやれ、妾が此方に寄越された理由が解ったわい。初の戦に血が滾り目立ちたいと言う欲が出たのじゃな」


コウギョクが思いの外くだらない争いに呆れつつ諭すと、ツガルは困ったような表情を浮かべ何度も頷く。

それを聞いて、私達もコウギョクの反応に共感してしまったが、何時までも高見の見物をしている訳には行かないと剣をゆっくりと引き抜いた。


「はぁ、二重の意味でこの事態を治めないといけないわね」


戦いの渦中に飛び込もうとすると何かを叩く音がし、私達の目の前に東方の花が画かれた扇子が広げられた。


「いんや、その内の一つは妾が治めよう。これ、そこの火車や、ちと協力してはくれんかのう」


コウギョクは私達が立ち止まったのを確認すると溜息を吐き、門を護る様に右往左往する厳つい男性の顔が付いた炎を纏う車輪のアヤカシを二人ほど呼び寄せた。


「承知!」


カシャ達が野太い声でそう答えると、コウギョクは二人に耳打ちをし、光る赤い木の葉を宙に撒いた。

すると、それはカシャを包み込むと巨大な赤い塊となり、コウギョクの合図を受けて巨大な顎を開く。


「もしかして・・・」


「うむ、二人とも確と刮目せよ!」


満足そうなコウギョクの悪い笑顔、その術を目にした面々が敵味方関係なく悲鳴を上げた。


「竜だー!」


此方から見たら木の葉の山にしか見えないが、そこから飛び出したカシャ達を竜が吐いた炎と思い込み一同、ちりぢりになり逃げ回る。

こちらから見れば木の葉の塊と、其処から飛び出し逃げ惑う敵兵と身内の反応を面白がるカシャなのだが、あちら側には炎を浴びせかける火竜に見えているらしい

火車達もその遊びに飽き、振り回されたガラクタ団と敵兵はその場に呆然と立ち尽くしていた。

騒ぎは鎮まり、前線で戦っていた兵士の背後に明らかに装備の質が違う一団が現れた、障壁でカシャ達の炎を防いだ事から神術使いまでいる。

ガラクタ団と立ち尽くす兵士達を憎たらしそうに睨むと怒り、大声で喚き立てた。


「・・・ただの塵の山じゃねぇか!見間違いをしたうえに魔物を仕掛けられて震え上がるとは情けない奴め、俺達を散々馬鹿にしておいて此の様とはな。お前達から受けた屈辱はそんな物じゃ許さないぞ!」


障壁で身を護っていた一団の一人の兵士の声により、賛同する声が次々と上がる。

それを耳にし前線で体を張っていた側の兵士が周囲から上がる煙に咳き込みながら、ヘラヘラと道化の様に笑った。


「何時までかこの事を引きづってるんだ。俺達が資源乏しい土地に住まうお前達に施してやっているのか忘れたのか?上に言って其れを止めてやってもいいんだぞ?」


如何やら脅し脅されの関係のもよう、そうだとすれば装備の違いから逆の様な気がする。

それにしても、まさかの仲違いに開いた口が塞がらなかった。

そして、幾ら見渡せど何故か双方の主と呼べる人物の姿が見えない。


「なんじゃ、なんじゃ?相手さんは喧嘩などしておるぞ?」


コウギョクは何かを企んでいるのか、此方を唆す様に悪い笑顔を浮かべる。

私が苦笑すると、溜息をつきながらレックスは無言で頷いた。


「この際、卑怯など奇麗事を言っている訳には行かないしな・・・」


気怠そうにしながらも、レックスは素早く剣に手を伸ばす。

この状況では致し方無いかと覚悟を決めて私も剣に手を伸ばすと、この隙を突いた奇襲を台無しにする戦いに飢えた竜人の声が響いた。


「何だ!戦いかい?なら良い機会じゃないか、今度こそ誰が最強か決めようじゃない!」


ザイラさんの目は輝き、戦いの予感に心が踊るままに笑顔で筋肉を浮き上がらせながらハンマーを握り、振り回し担いだ。すると、更に妖達もその声に沸き立つ。


「ザイラさん達・・・それは、やりませんよ」


何でこんな状況で最強を競おうと言う発想が出てくるか解らない。

私が返した一言に、ザイラさん達は露骨に絶望の表情を浮かべた。


「何でだい!そういう楽しみが有るから戦いが盛り上がるんじゃないか」


その絶望からくる迫真の訴えが繰り広げられる中、私達が騒ぐ声に反応した魔族の兵士達が迫っている。

ついにはコウギョクが憤怒し、ザイラさんの膝を閉じた扇で叩き付けた。


「こんの・・・ど阿保!自分自身でぶち壊しておいて何を言うてるのじゃ」


バチッと痛そうな音が響いたにも拘わらず、ザイラさんは驚いたが痛くも痒くもない様子。

それでも、目の前で繰り広げられれていく危機的状況に驚きで間抜けな声が上がった。


「へっ?」


私とレックスは剣を構えると迫る敵兵に立ち向かい、剣を交えた事により火花が飛び散る。

内輪もめによる鬱憤もあいまり、八つ当たりの様に神術による追撃が空から降り注ぐ。

空に幾筋もの黒い線が画かれたかと思うと、降り注ぐのは矢でも槍でもなく、何体もの悪霊(ゴースト)が襲い掛かって来た。


「何と言う事じゃ・・・っとでも言うと思うたか愚かな事よな!」


コウギョクが迫る悪霊に向けて扇子を仰ぐと、木の葉が宙を舞い、扇が小気味よい音を立て閉じられると同時に木の葉は空一面を覆う結界に変わる。

悪霊は結界に触れると紫の灰となって飛び散り消滅していく。


「いいね、良いね!イイねぇ!!ワクワクするよ!」


それを合図に敵兵が一斉に押し寄せると、我らが戦闘狂はその状況に心が沸き立ち、周りを巻き込み一人で燃え上がっていた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

争いの渦が大きくなった所で次回へ!


************

次週も無事投稿できれば7月1日に更新いたします。

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