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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第78話 影と罠ーベストマン帝国奪還編

地下牢(カルケル)に響く足音は徐々に焦燥感にかられ早くなる、それは正にライモンド殿下の心情を表していた。

ライモンド殿下はマリベルに付き従っていた以上は複製体も、その末路も幾度となく目にしていたはず。

其れを原因から除外してもライモンド殿下の心の内は知る術はない、ただその心を搔き乱す要因となったと思わしきは、最後に覗き込んだ牢屋に残された薄汚れてはいるが質素で上品なデザインの一着のドレス。

記憶を辿り思案する内にブランカ団長の何か思いつめた顔が思い浮かんだ。

慌てながらも縫うようにブランカ団長の許へ辿り着き訊ねると、耳にしたのは思わぬ事実だった。


「あぁ、あのドレスは殿下が母の様に慕っていた乳母へ贈った物。そして彼女は私の姉だ・・・」


記憶が蘇ったのか悲し気な顔を見せ口を噤むと、そっと目を逸らすブランカ団長。

反応から推測するに、恐らくライモンド殿下は彼女が囚われている事を知ってはいたが、ブランカ団長と同様にその死は知らなかったと思われる。

それが大きな動揺を二人の心に(もたら)した一因。

追跡する内に魔物とも人とも区別がつかない叫び声が地下牢に響き、次第に漂ってくる臭気に顔を思わず顰めてしまった。

ライモンド殿下の突然の凶行に騎士達の歩調が鈍る中、ブランカ団長は騎士達を見回し声を張り上げる。


「何をこの程度で戸惑っている?忘れるな、我々は国の奪還に来たのだぞ!」


空気を一変させる程の覇気、騎士達の背筋が伸びるのを確認するとブランカ団長は呆れたように鼻で笑い、身を翻して団員を引いていく。

私は周囲に耳を澄まし、仲間の影を目で追う、此処までの道のりも含めここまで派手に事を起こしていると言うのにさっぱり音沙汰がないと言う違和感。


「・・・行きましょう」


再び訪れた静寂にケレブリエルさんは袖口で口元を抑え前へと杖を突きだす。

気が付けば騎士団に少し遅れを取ってしまっていた。


「ええ、すみません」


慌てて取り繕うと愛想笑いを浮かべながら歩き出すと、訳は知らないがダリルが怪訝そうな顔でこちらを見てくる。何なのかしら?

思わず何事かと睨み返すと、文句の一つでも言われると思ったがダリルは珍しく真面目な表情をしていた。


「・・・お前も、これが罠かも知れないと疑っているのか?」


確かに道のりも含めて何もかも妨害らしい物を受けていない、寧ろいつこの国を落とした魔族が襲撃して来ても可笑しくないとすら思っている。

眼を封じたとはいえ、此れだけ派手に暴れては否が応にもマリベル達に居場所は知られ、ライモンド殿下が反旗を翻したと疑われても可笑しくない。だからこそ波風が一切、立たない事が不自然でしかない。

ただ、先程耳にした情報を加味しても、それを断言し口にする事は(はばか)られると思うので控えているだけだ。


「今は目の前の事を考えるので精一杯と言うとこ」


「・・・ふーん、そうかよ」


ライモンド殿下と騎士団を追うべきと言うのにダリルは隠し事をしているのではないかと疑っている模様。

でも、これまでの流れの中で疑いを持っていると言うのなら、ダリルもなかなか勘が鋭い。

そんな私達を見て、ソフィアまで此方を気にしている模様。


「大丈夫、騎士団の皆さんも居ますし、アメリアさんにはあたし達も居ますよ!」


如何やら戦いを前に私がダリルに相談していたと思い、自分からも励まそうとしてくれたらしい。

此処は素直に応えておこう。


「そうだね、ありがとう」


それからは終始、誰もが無言のまま、もぬけの殻の牢を横切れば目を覆いたくなる光景が目に飛び込んできた。捌けられているとはいえ、魔物に低級の魔族にと屍累々。


「・・・これは酷いな」


あまりの光景にファウストさんは顔を顰め目を逸らす。

目の前には騎士達の背中、剣の柄に手を掛けながら耳を澄ますが争っている様子は無い。

騎士達をかき分けて進めば、地下牢を区切る鋼の大扉の前で誰にも目にくれず噛り付くように開錠を試みるライモンド殿下の姿が在った。

一見、落ち着いて見えるが、此方を無視して完全に意識が扉に向いているだけで平常心ではなさそう。

扉の表面にはドアノブは無く、立体的な装飾が施されており、ライモンド殿下は息を飲むと何度も震える自身の手に苛立ちながら装飾を弄り続けている。


魔法式(マギーア)錠前(クラーウィス)とは厳重ね・・・」


ケレブリエルさんはライモンド殿下の動きを目で追うように視線を動かすとブランカ団長もそれにつられる様にライモンド殿下を見ては後ろ手に手を回す。


「当然だ、此処より先は重罪人の収容区域だからな」


その手は背負っている戦斧へと伸びていた。


「では、あそこまで殿下が救出しようとしている方は何者なのでしょうか?」


半狂乱になりながらも救おうとする相手、思い返せばその姿も行方も不明な人々がいる。

その答えを思い至るより早く、地下牢に硬質な破裂音が響いた。

突然の異音に全員の視線が集まる中、大扉ががたりと揺れながらライモンド殿下の戦斧により扉が叩き切られた。


「失敗か・・・」


「・・・・・」


ブランカ団長ライモンド殿下は無言のまま壊れた扉の隙間を通り抜けていく。

その姿に誰もが呆然としたが、我に返ると愚痴交じりに大きな溜息が漏れた。

強引であるが扉を全て撤去しようという話が持ち上がるが、騎士団と共に扉へと歩み寄るとブランカ団長が大声を張り上げた。


「扉に近づくな、そのまま構えろ!!!」


騎士達は突然の号令に反射的に武器を構え、硬直しながら見つめる先の大扉の異変にその意味を理解する。

大扉の破壊という強行突破に何の罠が仕掛けられていない筈がない。

目の前の扉は黒ずみ穢れへと変化、それはどろりと溶けては生み出された気泡と共に床へ柄崩れ落ち、水分は蒸発し灰と化した。

灰は山の様に盛り上がり、人の姿を模りだすと誰とは言わずにライモンド殿下への裏切りを疑う声が聞こえてくる。扉を強引に破壊して突破した挙句、こんな置き土産をしてくるなんてね・・・


「やはり・・・」


複製体達の服装に覚えがある、そう其れは持ち主を失った牢屋の中の遺品たち、その主達がゆらりと無表情のまま立ち上がり這い寄ってきた。

兵士に魔法使い等、城で務める臣下の複製体を騎士団と共に切り伏せていと、その中に青く上品で質素なドレス姿の獅子の獣人の女性が立っていた。

そのドレスには覚えが有る、覇気のない瞳をしているが男女の差はあれど、その顔に誰かの面影が重なる。


「闇の国の者とは、かくも悪趣味なものだな・・・」


目の前の複製体の女性に気を取られ、ブランカ団長が傍に立っている事に気が付けなかった。

ブランカ団長は静かに複製体を見つめて目を細めると、ゆっくりと私の前に出て戦斧を握りしめる。


「あの、この複製体は・・・」


「余計な事を言うな、お前は仲間を連れてあの馬鹿弟子を追え」


ブランカ団長は此方を振り返らず複製体の動きを警戒しながら戦斧を構えた。

馬鹿弟子・・・

こんな状況にも関わらず、自分達に罠を押し付けて先へ進んでいったライモンド殿下の事も口は悪いが心配しているのが解る。


「ブランカ団長は殿下を信用しているのですね」


背を向けたままのブランカ団長を信じ、私は他の複製体と戦う騎士団の間を縫いながら仲間達を収集した。

わけも説明する暇もなく困惑するダリルやソフィアを強引に引っ張りながら私達は扉が焼失した入り口を潜り抜けていく。


「扉の罠と言い、居場所を教えてもらう必要は無いかもしれないかもしれないな」


ファウストさんは静かに怒りを込めた声色でそう呟く。

床に転がる煌びやかな宝石が埋め込まれた金細工に、並ぶ使用済みの拷問具。

だが、それを使用した者の姿も使用された者の姿もない。

床に目を向けても埃はあまり積もっていない。そこそこ出入りが有るみたいだ・・・

敷かれた煤けた絨毯(じゅうたん)が乱れているが争った形跡は無い。


「うわっ、えぐいな此れ・・・」


ダリルはふらふらと周囲を見渡し、目についた拷問器具をまじまじと眺め頬を引きつらせる。

そんなダリルを見て、フェリクスさんは面白い玩具を見つけた子供の様にほくそ笑むと、ニタニタと品のない表情を浮かべ背後に歩み寄っていく。


「何だよデコ助、もしかしてそう言うのに興味あんのか?」


「な、何を言ってんだ意味が解んねぇよ!」


「ふぅん・・・痛っ!」


揶揄いだしたフェリクスさんの後頭部にケレブリエルさんとソフィアの杖が叩きつけられる。

頭を摩り振り向くと二人の目は冷たく、フェリクスさんもダリルも何か言いたげに開いたが口を噤んだ。


「お二人とも、今が如何いう状況か把握されていますか?」


「この状況下でふざける事ができる神経を疑うわ」


二人に蔑まれ委縮するフェリクスさんと理不尽さに不貞腐れるダリル。

そんな二人を置いて慎重に歩き出すと、見覚えのある背中が見えてきた。


「居たわ・・・」


ライモンド殿下が立ち尽くす牢屋は他の物より広いつくり、その中には複数の女性と男性が一人が収監されている模様。


「不自然だな・・・」


ファウストさんは眉を顰めては物陰に隠れながら前進すると此方に手招きをする。


「ええ、男女が一緒の牢に収監される事はまず無い。気を付けて、これは罠だと思うわ」


ケレブリエルさんは声を潜めながら警戒を強める。

私達はファウストさんからの手招きに導かれるままにライモンド殿下の方へ身を隠し更に近づいていく。

例え罠であろうと、そこにはライモンド殿下が騎士団や私達を振り切って此処まで駆けていった理由が在るのだ。


「おい、待てよアメリアっ」


背後からダリルが私を制止する声がする、呆れる声を後ろ手に私は身を隠さず私は剣を握りしめ歩いていく。

ライモンド殿下は気付くと胡乱な目つきを此方をじっくりと見つめてほくそ笑んだ。


「あぁ、マリベルの居場所だったな。くくく・・・」


次第に正気はライモンド殿下から消え、目を逸らせば牢屋の中へ目線が行き(おぞ)ましい光景に息を飲む。

床には複数の小さな骸が転がり、その異様な牢屋には色とりどりの豪華なドレスを纏ったお妃様達と、ぐったりと壁にもたれ掛かる皇帝の姿が在った。


「此処に居るんですね・・・」


「あぁ、いるさ。彼女は何処だろうと陰が有る所に存在する。だが、この国を此処まで貶めたのは・・・」


私の問い掛けにライモンド殿下の表情から感情が薄れていく。

壊れかけの結晶灯に照らされて伸びる陰がゆっくりと盛り上がり、マリベルがゆらりと姿を現せる。


「嫌ね、こそこそ陰口を言うなんて」


揶揄う様に笑うマリベルと対峙すると、違う方向から聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「やだなぁ、貶めただなんてオイラ達はこの衰退する世界を救おうとしているのに」


へらへらと小馬鹿にしたような口調、現れたのは闇の国での苦い思い出を蘇らせる魔族だった。

本日も当作品を最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

今回も遅れてしまい申し訳ございませんでした。

そこで誠に勝手で申し訳ありませんが更新時間を20時に変更させてください。m(__)m

新たにブックマーク登録いただき、本当にありがとうございます!

宜しければ今後も当作品をどうかよろしくお願いいたします。

***********

次回も無事に投稿できれば2月19日20時に更新いたします。

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