表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
278/366

第77話 監獄に残された跡ーベアストマン帝国奪還編

煌びやかな風景にむさ苦しい鎧の群れ、そして目の前には不機嫌そうな兎の半獣人のシスターリンダ。

直前に私達と言葉を交わした事により連絡役に任命されたらしく、本来の役目から外された事が大いに不服なんだそう。


「まー、ありきたりだが行き先は地下牢(カルケル)だ。以上!」


シスターリンダは引きずってきた胴締で纏めた丸めた布を乱暴に此方へ投げつける。

若草色の厚手の巨大な布、かなり重いらしく床に面する部分は擦れて汚れており、共に数本の棒が閉じられていた。唖然とした、室内で何故に天幕を張るのだと。


「ちょっと待って、こんな物を配るのは何で?出発は今日じゃないの?」


立ち去ろうとするシスターリンダは呼び止められ舌打ちをする、それでも苛立ちながらも振り返ってくれたがその顔は不機嫌なのを隠しきれていない。そして、何処か落ち着きがない様にも見える。


「・・・あー、魔女のペットや配下が徘徊しているし、夜は闇の精霊の力が強くなるから何とかで朝になってから出発だとよ!」


それだけ言うとシスターリンダは此方が口を開く間も与えず走り去っていく。

闇の精霊の強化か、精霊王様がその背景についていると考えれば、あり得ない話で話良い判断だ。

慌てながら走りさる彼女の横をフェリクスさんが通る際、擦れ違い様に衝突するも、何を其処まで急いているのか謝罪の一言もなかった。


「まるで、女版のダリルね・・・」


「ふざけんな!俺はあんな短気じゃねぇよ」


「・・・え?」


ダリルの発言に全員の視線が交わる。

フェリクスさんは肩を軽く掃うと、怒る様子は無く困ったように眉尻を下げた後に私達の姿を見て苦笑する。


「やあ、その様子では連絡は来たようだね。それで、皆は天幕を張らないのか?」


「それは此れからです、何というか色々と圧倒されてしまって・・・ハハッ」


畳みかけるような怒涛の説明を思い返し苦笑が漏れる。

フェリクスさんは数回瞬きをすると、何かを察したように肩眉をあげた。


「彼女は自分が重視している仕事を途中で放置するのが嫌いなんだよ。実は団長の回復役を拒否したお姉さんに代わって、役目を任されたんで張り切っているんじゃないかな」


そう言えばあの地下で会ったシスタージュリアは武闘派の姉、そして白魔法が得意な妹のシスターリンダ。

要は姉妹同士の競争に巻き込まれたわけだ。

それにしても、自分が仕える相手からの命令だと言うのに説明がやっつけすぎないか?

事情を把握し、ますます投げ槍な対応は嵐のようだったと思う。

そんな中、ケレブリエルさんは憮然とした表情のまま、シスターリンダの歩いて行った方へと視線を動かす。


「成程ね・・・今後が不安だわ」


「まあ、簡潔ですけど必要な情報は十分に得られましたし」


困り顔の私達と優しくシスターリンダを擁護するソフィア。

そんな私達を押しのけ、ダリルは妙に詳しく語るフェリクスさんに怪訝そうな顔で問い詰める。


「てっか、何でそんなに詳しいんだ?それって関心と言うより、気味悪ぃぞ」


「ははんっ、解っていないな此れだからお子様は。そんなの当然じゃないか、奇麗な女性の情報を把握するのは必須だろ」


訊ねてきたダリルを上から嘲笑う様にフェリクスさんはしたり顔を浮かべ指さす。

挑発に眉間に皺を寄せるも、先程の事もあってか私達を横目で見るなり奥歯をかみしめるように怒りを飲み込み、ひきつった顔で反論したのだが・・・


「安心しろ、お前がそれを活用する日なんて来ねぇよ!」


結局は我慢しきれず、挑発に乗ったフェリクスさんと醜い喧嘩を始めようとするダリル。

こんな緊張感が漂う状況下で何をやっているのだと私が口を開くより早く、二人めがけて天幕の束を投げつけたのはファウストさん。

互いに気を取られていた二人は天幕の束に脇腹を直撃され、呻き声を同時にあげると揃って床に倒れこんだ。


「体が疲弊している時は確りと休養が必要だ。無駄口を叩く時間が有るなら天幕を立てるぞ」


冷ややかな表情を浮かべ、珍しく怒るファウストさんに流石の二人も肝が冷えたらしい。

天幕の束を二人で担ぐと、ファウストさんも含めた三人で慌てて設営に取り掛かりだした。


「私達も天幕、設営しましょうか」


実際、天幕と言えど大きな布が二枚と支柱が二本の簡易的な物。

支柱を向かい合わせに並べた一人用のソファへ胴締めで固定し、その天辺にかけたロープへ二枚目の布を掛けると、各々で一息を突く中で私はソファへ手を伸ばすと、敷布へとクッションを枕に寝転がった。

ぼんやりと唐突に予想もしない人物の奪還作戦への参戦に困惑気味の頭を整理しようと物思いに耽る。

アマルフィーに街道沿いの街、そして大地を割りマリベルを伴い現れた地下道。

不利な立場における鞍替え、そして条件付きの真意不明の交渉術、様々な事があったと瞼を閉じる、そこには皮肉にも深い闇が広がっていた。



***************



城内を巡回する見覚えのある顔。

行き先を多方面から阻むやっかいな視線に放たれる白光、放たれようとするそれは意識を刈り取る魔法だった。


「目を瞑れ・・・」


ブランカ団長は息を潜め、緊張する騎士団員に向けて声を抑えながら命じる。

それを合図に魔法使いは銭湯へ躍り出ると杖を廊下へ向け、困惑の声が混じるも全員が一斉に瞼を閉じて耳も抑えた。


失神魔法(マギーアペルデレ)!」


数名の魔法使いの声が重なる、塞がれた視界の中で何かが複数、バタバタと倒れる音が響く。

恐々と開く瞼のその先にはライラさんを始めとする商船の面々が床に転がていた。

騎士団員はそれを素早く拘束し、目隠しまですると廊下の隅に転がすとブランカ団長と共に歩き出す。


「急いで、確かこの魔法はもって一刻ね」


ケレブリエルさんは床に寝かされる船員を眺めると振り向き様に手招きをする。

私達はそれに黙って頷くと、ライモンド殿下が割り入ってきた。


「一刻か、そんな猶予はない。マリベルは既に気付いている」


突如として背後から聞こえた思わぬ人の声に不信感を隠し、私はゆっくりと振り向く。

ライモンド殿下は白金の鬣をふわりと風に靡かせ、白い被毛に生える青い瞳を細め、何処か鼻持ちならない笑みを口元に浮かべていた。


「此処で私達と話していて大丈夫ですか?」


騎士団は城内を歩くにあたって迷い様がないが、自分で取引条件として挙げておきながら先行役を放棄して持ち場を離れるなんて大丈夫なのだろうか?

それとも、私達の態度や表情から心情を察し、何らかの妨害を疑われ警戒されてしまっているのだろうか?


「フンッ・・・忠告だ、足元を見てみろ」


そんな私達の顔を一瞥すると、不快そうにする訳でもなく鼻で笑うと一転して冷めた表情を浮かべ船員達の影を指さす。各々の影は揺らぎ、何者かが這い出ようとしているかのように見える。


「・・・探知されている?!」


「二段構えだなんて、魔族も大概に慎重なものね」


「もう此処はいがみ合っている場合では無いと思います」


ライモンド殿下の忠告には助けられたが、それについて考える間も疑念を抱く暇もないのだと理解される。

繰り返し言葉が紡がれ忠告が騎士団へと伝わり、ライモンド殿下を遠巻きに眺め眉を顰めるが、ソフィアの声に我に返る。

何か言いたげなダリルは男性陣に諭され、不服そうにしつつ生返事を返してふらふらと歩き出した。


「忠告ありがとうございます」


ライモンドへ心象は変わらないが、忠告に感謝すると何の相槌を打つわけでもなくライモンド殿下は騎士団へと無言で戻っていく。

私達は幾度となく目線と戦闘を潜り抜けるも、そこで起きた惨劇を物語る壁や床の染み、調度品には魔物が潜んでいたりと以前と別の場所のようだった。

ただ、鎧も武器も何処にも人がいた形跡がない。

ライモンド殿下を信じて良い物かは未だに判断に迷う、気配は感じるものの接触はなく、まるで誘導されているのではと思えてくる。

魔物の巣窟と化した城内を抜けて辿り着いた地下への歩を進める度に空気が淀み、背筋も凍る寒さだった。

ライモンド殿下は地下へ辿り着くと、私達と騎士団を伏せさせて一人で奥へ進んでいく。

直後、幾つかの喋り声が聞こえた後に悲痛な声と複数の重い何かが床に倒れこむ音が響き、騒がしかった地下は静まり返った。


「終わったぞ・・・」


戻ってきたライモンド殿下の姿に何処からともなく短い悲鳴が上がる。

その姿は体中に魔族の血で染め上げられていた。

驚愕する騎士団と私達を一瞥すると、ライモンド殿下はついて来るようにと急かしてくる。

手招きに応え、地下牢(カルケル)の更に奥へと招かれると、残虐な光景に目を向けずに進んだ先に重厚な扉が出迎えていた。

ライモンド殿下から看守から取り上げたであろう汚れた鍵束をブランカ団長が受け取ると、高い音を立て幾つかの仕組みが解除されていくと金属が擦れる音共に扉が開き私達と騎士団を迎え入れる。

中はやはり想像通りの光景が広がっていた、幾つかの拘束具に汚れた寝藁、そして囚人達のもがき足掻いた形跡が残る監獄。

ただ城の中と同様、目にする物は人が其処に収監されていた痕跡、あからさまに奇妙だった。


「なんで、此れしか残っていないの?」


ブランカ団長達と共に調査して出てきたのは何処の房にも洋服だけではなく装飾品に靴に髪留め等など。

収監された人物の中には貴族も居たのだろうか、ドレスや宝飾品が残っている房まである。

背後に妙な気配を感じて振り返るとライモンド殿下は酷く動揺していた。


「如何した?救出する相手は何処にいる?」


そう言い放ったブランカ団長の顔は暗く、それでいて何もかも悟ったような表情でライモンド殿下を見ていた。

ゆっくりとライモンド殿下の瞳が此方へ向く、唾をのみ息を吐くと表情を整え「まだだ・・・」と何度も呟き更なる奥へと私達と騎士団を置いて歩いて行った。


「何だよありゃ?」


ブランカ団長が騎士団を引き連れ後を追うのを見て、ダリルは困惑しながら私に訊ねてくる。


「良いから、私達も追うよ」


監獄の薄暗い廊下を眺め、何とも形容し難い不安に駆られる、私達は広い監獄を騎士団の背中を追いかけていった。


本日も当作品を最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。

口先ばかりで更新時間が遅れて申し訳ございませんm(__)m

そんな中、ブックマーク登録を新たに頂けてとても励みになりました。

宜しければ今後も見捨てずに頂けたら幸いです。


******************

次回こそ無事投稿できれば2月12日18時に更新いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ