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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第69話 金と不義理ーベアストマン帝国奪還編

甲高い声が止み古い蝶番が軋む、ゆっくりと開かれた古びた教会はには戦いの痕跡。

不愛想な大祭司と兵士の背中越しに覗くが声は聞こえど其の主の姿は見えない、座るように促されたのは何列にも並べられた長椅子。

ドニゼッティー大祭司が無言のまま最奥の長椅子に腰を掛ける、すると漸く声の主とその配下と思わしき数名の姿が現れる。

視界に飛び込んできた人物の姿の異様さに私達は何度も瞬きをする、寸法が合わない薄汚れた色の頭巾付き外套に地味な服。

声や口調は変わりないのに思い出の中にある印象とかけ離れた姿、私達は顔を見合わせて困惑の表情を浮かべた。

然し、現状で共通するのはライラさんと同じ小人族(ハーフリング)と言う事。

私達と別れて商売の為に船で旅立ってから一月、あまりの変わりように驚かされたが特徴的な喋り方は変わらない。


「・・・アイツは闇の国とも取引している。地獄の沙汰も金次第、金の為なら敵にも物を売る狡猾な商人だ」


ライラさんだと仮定しても以前、闇の国にて取引を行った事が有るのは確か、然し前回は追われる様に脱国した故に関係が続いているとは思えない。

何れにしろ、金次第で敵対する二ヶ国を双方を相手に商売をしていると言う狡猾な相手。

今回は奪還作戦、背に腹は代えられない事態であるが、危険と背中合わせなやり取りである。

警戒しつつ耳を傾け、思案に耽ると私の顔にドニゼッティー大祭司の視線が刺さる。


「・・・承知しました」


私は顔を上げると、此方に振り向くドニゼッティー大祭司と目が合う。

そこから恐るおそる目を逸らし、相手の様子を窺えば不機嫌そうに口を結んでいた。

これは他に有益な取引相手がいるのなら私達を切り捨てる事も容易、此方の情報を相手に売る事だって有り得る。まさに圧倒的に不平等な条件下での取引。


「失礼ですねぇ、あたしがやっているのは至極まっとうな商売ですよぉ。そこに、相手の素性など些末な事なだけですぅ」


小人族(ハーフリング)の女商人は同じような服装の配下を従え、何時の間にか私達の前へ割り入るとドニゼッティー大祭司を見上げ「んっ」と短く声を発し、小さな手を差し出す。

何事かと眺めると親指と人差し指を付けてお金のサインの円を画き代金の支払いを急く、物資の在り処も実物も確認させずに代金だけ要求するだなんて・・・

眉を顰め、ドニゼッティー大祭司に訊ねようとするが、それはフェリクスさんによって防がれる。


「アメリアちゃん、オレ達はあくまで助っ人。そんでもって、取引するのは彼方さんだよ」


「しかし・・・」


商品の受け渡しの確約も無いうえの取引だなんて。

もしや、相手の情報を敢えて知らせたのは、相手の振る舞いに対し動揺を軽減させる為だったのだろうか?


「・・・そうだったな、すまない」


ドニゼッティー大祭司は私達の事など気に留めず、荷物から革袋を数袋、商人では無くその配下の二人に手渡される。


「ほうほぅ、聞き分けの良い取引相手は助かるですぅ」


女商人の小さな手がぴょこぴょこと跳ねながら革袋に伸ばされた。

頭巾が跳ねる度にずれていき明るい茶色の癖毛と丸みを帯びた緑色の瞳が露わになる。

その容姿は良く見知った人物であった事に私達はおもわず言葉を失ってしまった。


「ライラさん、この国を出た筈じゃ・・・」


私の呼びかけにお金の袋に頬ずりをしていたライラさんの表情が一転して冷やかな物になる。

そうかと思えば、表情ががらりと変わり愛層の良い柔らかな笑みを向けて来た。


「久しぶりですぅ、クロックウェルさん。ん?何でってこんな事をと言いたそうですねぇ?どの航路を進もうと、どんな相手だろうと商売は商売なんですよぉ。ってな訳で何かご入用が有れば、何なりと申し付けくださいですぅ」


完璧な演技に心の内は見えず、その顔は取引相手のみに見せる顔だった。

解雇され船を下り、無関係となった今でも、それでも何かを隠している事は伝わる。

それが何なのか、闇の国との取引は何時からか、困惑気味の私の目の前に小さくも働き者と解る小さな手が差し伸べられる。その手の甲に視線を向ければ、妙な文様が刻まれているのが見えた。


「えぇ、何か機会が有れば是非・・・」


今や平和を脅かす闇の国と関わりが有りながら、健全な商売とあくまで言い切るライラさん。

私が握手に応えようとしながら自身の手を見つめている事に気付くと、ライラさんは目を見開き焦った様子でその手を引っ込めた。

それに対し手を引くと、反対の手を自ら伸ばし私の手を痛いほど強く握り締めてくる。

如何やら、現状について深く詮索するなと言いたい様だ。


「あー、そろそろ、離した方が良いと思うよ」


フェリクスさんは苦笑いを浮かべながら諭す。

ライラさんは手を緩めると、怪訝そうな顔でフェリクスさんを見上げると目を逸らす。


「あの・・・」


ソフィアも何かに気付いたのか戸惑う様に視線を泳がせる、その視線を追えばドニゼッティー大祭司が腕を組み苛立った様子で此方を睨んでいた。

ライラさんは其れに対し何故か安堵した表情を浮かべ溜息をつくと、顔を隠した姿の従業員に目配せ。

正体は恐らく馴染みの船員達、言い含められているのか何の動揺も見せずに黙々と木箱を山の様に積まれていく。

それを確認したドニゼッティー大祭司は命令を下す、それと同時に扉が開かれ慌ただしい足音と共に続々と荷物が運び出されていった。

そんな最中、ライラさんは口を開く事も此方を気に留める様子も無く、嬉しそうに黙々と金貨を数えるのみ。これで長居をする必要は無くなった。

ドニゼッティー大祭司の指揮の下、騎士団や教会と合流を目指して教会を後にしようとした所でソフィアが後を振り返り立ち止まった。


「どうし・・・」


「ライラさん、あたしは貴女を見損ないました。どの様な事情が有るにせよ、世界を危機に落とし入れようとする者に加担する事は女神ウァルミナスもお許しにならないでしょう」


如何やら大切な取引に水を差さない様に気遣っていたのも限界が来たらしい、ソフィアは怒りつつも悲しげな表情を浮かべライラさんの背中を睨みつけた。

そのヒヤリとする発言に振り替える事無くライラさんは「まいどあり」と呟き、ただヒラヒラと手を振りながら去って行った。

それに落胆するソフィアをフェリクスさんと共に宥め、苛立つドニゼッティー大祭司の視線に促され足早に建物を後にしていく。

間も無く、祈る人々が居なくなった古い空虚な教会は、何者かの魔法により大地も震わせる振動と爆音、そして土埃交じりの押し寄せる風と共に消滅する。

立つ鳥は跡を濁さず、此処で起きた奇妙な取引の全ての痕跡を浚う様に。



**************



帝都と繋がる枯れた水路の薄闇の中、三勢力が(ひし)めき合う様に集う。

手に入れたばかりの武具を身に着け、精悍な顔立ちに強い意志を固めた瞳に爛々と闘志を宿して。

本当に金さえあれば敵に塩を送る様な事をするんだなと淡々と思う。

あくまで商売をしているだけだと、中立のつもりでいる様だが、一瞬だけ垣間見た手の甲の印がどうにも引っ掛かった。

敵には此方が奪還を目論んでいる事は知られている、その上で今回の事も漏洩しているのかも知れない。

きっと三勢力もその危険を承知で取引を求めたのだろう。


「誓いを立てたと言うのに残念だな・・・」


ブランカ団長は槍を片手にヴェッキオ大司教と共に立ち止まる。

私は引き続き、ドニゼッティー大祭司に付き従いながら祭殿へと今度はフェリクスさんに代わり、ダリルやファウストさんを加えた四人で向かう事に成った。


「・・・期待に応えられず、申し訳ございません」


確かにあの丘での誓いを果たさずに我儘を通してしまったのは、我ながら不義理だったなと思う。


「いや、大したことでは無い。攻城戦は何れにしろ苛烈な物になるだろう、合流を果たし共に戦う時を心待ちにしているぞ」


ブランカ団長は少し揶揄うような悪い表情を浮かべそう言い、期待と言う名の重圧をかけて来た。

それは別に構わないが何方かと言うと終始、無言で此方へ笑顔を向けて来るヴェッキオ大司教の方が怖い。

私達はこれを成し遂げ、土の精霊王様を解放しだい、別行動の二人が加わった皇城組と合流する手筈になっている。


「ええ・・・勿論です!」


「ふぉふぉふぉっ、若いのぅ。此処で我らの希望であるお主に儂からも伝えておこうかのう」


ブランカ団長の問い掛けに快く私が返事をかえすのを眺め、ヴェッキオ大司教は満足そうにな表情を浮かべる。それにしても、やけに仰々しい物言いだ。


「・・・私が希望?」


私が聞き返すと、ヴェッキオ大司教は大きく頷く。


「ふむ、お主が救おうとする精霊王様は世界を創造と維持をする要。然しどの方も自身の攻撃手段を持たぬ。我らが護り、お主が剣となる故に儂らもドニゼッティーも期待しておるのじゃよ」


希望の意味を知り、水の精霊王様と力を借り戦った海での戦闘が脳裏に走る。

それでも、あの刺々しい態度のドニゼッティー大祭司までと言うのは信じがたいが。


「・・・えぇ、必ずや土の精霊王様をお救いします」


こうして士気が高まる中、爆音により奪還作戦の開始の合図が帝都に響き渡る。

先ず、祭殿へ向かった私達がなすべくは土の精霊王様を呪う術師達の排除だ。

ドニゼッティー大祭司の命により、祭殿兵たちが抗う術師を囲い込む様に土人形で壁を作り陣を組む。

いきなり手持ち無沙汰になる私の前で祭殿兵に続き、白魔術師が詠唱をし始めた。


「対魔術式防御魔法を展開!奴らの得意手を潰してやれ、【封魔壁】!」


白魔術師の魔法が付与されると、もはや大楯にも岩壁の様にも見える土人形たちが青白く光り、相手の放った術を散らした後に進撃を始める。

私達は怯んで混乱しかけた敵を祭殿兵達に混じり次々と切り伏せて行き、祭殿を囲んでいた魔法陣はドニゼッティー大祭司達により解呪される。

その後は最深部である精霊の間を目指すのだが、此処で不気味な違和感を感じる。

幾ら港側に敵を引き寄せる策をとって居るのにも関わらず増援も罠も無く、戦いの痕跡残る祭殿をひた歩く。


「静かすぎる・・・」


あまりにも最深部への道則が容易すぎる、土の精霊王様を弱らせる事が目的、又は弱らせたうえで何かを行う、その何方かが推測されるが謎は増すばかり。


「何だ?拍子抜けで戦闘不足か?」


幾らか小声だが、ダリルは此の異様な雰囲気の中で的外れな事を言い揶揄ってくる。


「今は冗談を言うべきじゃないわ」


「あぁ、悪かったな・・・」


珍しく素直に謝罪を口にするダリルに意表を突かれていると隊列が足を止め、周囲がひときわ明るく照らされる。

そんな中、祭殿兵に紛れていたファウストさんが速足で此方へと近づいて来た。


「妙な違和感を感じないか?」


「妙な?」


「兵も白魔術師も口々に異物感と言うか、異質なマナを感じるらしい」


明かりに照らされる神妙なファウストさん、その直後に照明魔法が一瞬で吹き飛び、目の前を闇が支配する。

そんな闇の中、混乱は起きずとも明かりを灯す様に命令が飛び交った。

再び明かりが灯るも、直後に起きた異変には動揺が波の様に辺りに押し寄せる。


「皆さん、精霊の間が・・・」


誰が触れる訳でも無く、扉地震に石が有るかのように精霊の間の扉がゆっくりと開く。

然し、中は此方側の灯りを闇が呑み込んだかのようにぽっかりと闇が広がっていた。

私達が人混みを掻き分け更に最前列へと足を運ぶと、それはまるで待っていたかのように明かりの下、目の前にそれは姿を晒す。


「闇の精霊王様・・・」


其処に顕現したのは嘗て私達を追い詰めた深淵、本来の役目を忘れ、邪なる神の許に下った精霊の王だった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

諸事情により投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。

次回こそは通常の時間に投稿できるように気を付けます。

それでは次回も読んで頂けたら幸いです。

*********

次回も無事に投稿できれば12月18日18時に更新致します。

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