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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第一章 光の国 カーライル
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第27話 知識は旅立ちの足掛かり

澄み渡る空気は季節の移り変わりを示し、華やかな季節を待ち望むのは草花や動物たちだけでは無く私達も例外じゃない。

口や体から上がる蒸気は白く、屋敷の裏庭で稽古をする私達には芽吹く季節がつい其処まで近づいているなどとは信じ難く感じる。

「出発まで一月、もう一本付き合ってもらうわよ!」

「へいへい・・・」

気怠そうにするダリルに木剣を振り下ろす。寸前の所で木剣はダリルの肩を掠め、ダリルの足が空いた私の脇腹を襲う。

「おっと・・・!」

稽古で加減をしてるとはいえ、この一撃は受けると堪った物じゃない。私はひらりと跳躍し態勢を整えた。

「おいおい、初めての国外に浮かれてんじゃねぇの?」

余裕の表情を浮かべ挑発するダリル。

「それはどっちかしらね?」

木剣を振り下ろすと見せかけた私の足払いが油断したダリルの足にきまった。


こうやって張り切るのも五日前、ランドルフさんから警備の話の詳細が告げられたから。

行先はエルフが治める北西の国「エリン・ラスガレン」。

麗しき美貌の女王が治める深き緑に囲まれた優秀な魔法使いを多く輩出する魔法と神秘の国だ。

そんな国で待ち受けるものは何か。異変は其処にも起きているのだろうか?

今まで出現場所の異常や変異種の発生などが確認されている。

「朝食の支度が整いました」と厨房から声が掛った為、私達は滴る汗を乾いた布で拭き、屋敷に戻る事にした。

テーブルに並んだのは、細切りの良く炒められた甘いイニオンが入った琥珀色のスープとキュベツとトマテを中心に沢山の野菜とピリリッと刺激的な風味のするスパイスに縁どられた薄切りハムのホットサンドだ。隠し味で入っているソースとチーザがとろけて美味しい。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

そう厨房に声をかけるとシェフからご機嫌な声が返って来た。足早に二階の自室に向かうと、今日も授業を受ける為に身支度を整え屋敷を出発した。



************************************



「おっせーぞ、どんだけ食ったんだよ」

「失礼ね。人を大食漢みたいに」

こんな何時もの光景が繰り広げられる中、学生街の入り口に差し掛かった所で上空からバサバサと羽ばたく音が聞こえてくる。

「アル!」

「スレイ!」

「ピィー」

「ピァアッ」

少しだけ大きくなった二匹は時折、厩舎から脱走するようになった。許可書もどうにか下り、首には国の紋章がついた盗難防止の首輪が付けられている。

そこに息をきらせながら世話役の男性が走って来た。

「申し訳ございません。厩舎の掃除をしている合間に・・ぜぇはぁ」

「いえいえ、此方こそご迷惑をおかけしてすみません」

離れるのを拒む二頭を無理やり剥がし、世話役の人に引き取って貰う。

やはり目立つのか、好奇の目が私達に向けられていたものの、私達は気にせず教室に向かう。


教室を見回すと改めて多種多様な人種が集まっているのが判る。よく見かける人種の他に魔族の血を引く混血の者もいる。優秀な若者なら分け隔て無いのがアカデミーの方針だそうだ。

しかし、その角や翼などの容姿は嘗て大罪を犯した先祖を彷彿とさせ、他の種族からは疎まれているようだった。当の本人達は大して気にならないようで涼しげな顔している様に見える。

「それでは、本文の前に前回のおさらいをしましょう。マナと魔力の関係性と意義について・・・説明できる方は居ませんか?」

「はい!」

ルミア先生の言葉に焦げ茶色の髪のエルフの少年が自信満々と言った様子で手を上げる。

「マナとは万物に宿る魔力の源であり、我々を含む知性のある生き物は様々な物から其れを体内の魔核に取り入れ魔力に変換する事により魔法を行使するもので、我々にとって不可欠な存在です」

「よく勉強をされているようですね、セドリック。では、マナの管理者である存在は?」

「えー・・・火・水・土・風の妖精です」

「おしいですね・・・・ではクロエ」

ルミア先生はちらりと生徒達を一瞥すると角の生えた混血の少女を指名する。

「・・・火・水・土・風に加え光と闇の精霊王様です」

「正解です」

ルミア先生はクロエの答えを聞いて微笑む。

セイドリックはクロエの方を見て苦虫を噛み潰したような顔をし、何やら小声で呟いていた。


授業後、図書館に通うのが私の定番の過ごし方になっていた。

ダリルは例のごとく「眠くなる」と言う理由でそそくさと何処かに行ってしまった。

三階建て程の建物の内部は三層になっており、壁を埋め尽くさんばかりに書架が並び、なかなか壮観だった。

「アメリアさんこっちこっち」

図書館の一角で私を手招きをする人物が二人。

図書館に通うようになってから2週間、学年が一つ上の狐の半獣人のベアトリクス・ケネットと同じ魔法指導教室に通う黒髪に眼鏡のレックス・スペンサーだ。

二人は貴族らしいが、私の様な庶民にも気さくに声をかけてくれる良い友人だ。

「こんにちは二人とも。お待たせしてごめんね~」

「こっちこっち」

促されるままにベアトリクスの隣に座るが、レックスは読書に夢中になっている様で、長い前髪が掛る眼鏡の下の青みのかかった灰色の瞳は目の前の本に釘つけになっている。

「こら、レックス。アメリアさんが来てるよ」

ベアトリクスはレックスの読んでいた本をひょいと取り上げる。

「何をするんだベアトリクス」

「まーた、妖精?この妖精中毒」

「失敬な事を言うな。僕は勉強意欲があるだけだ」

レックスは眼鏡に指を添えると位置を直す。

「勉強意欲云々と言う前に礼儀を欠いて偉そうな発言をするのは如何かしら?」

ベアトリクスはレックスの本を取り戻そうとして伸ばす手を遠ざける。

レックスは軽く睨みつける様にベアトリクスを一瞥(いちべつ)すると、私の存在に気が付きハッとしたような顔をする。

「む・・・失礼をした。これは僕の悪い癖だな」

レックスは申し訳なさそうに頭を下げる。

「良いよいいよ気にしないで。本来なら二人に気軽に口を聞ける身分じゃないし」

「・・・問題ない。アカデミーの中では上も下もないからな」

そう言うとレックスは静かに微笑む。

「なによ!私とは偉い違いね。でも、アメリアちゃんの一番の仲良しは私なんだからね!」

ベアトリクスは座ったままガタガタと音を立てながら椅子を引きずり私の椅子につけてくる。

大きな声と音を立てた為、あちらこちらから咳払いが聞こえてくる。

「ベアトリクス・・・暫く口を閉じていろ」

「はい・・・申し訳ございません・・・」

諭されて先程の勢いが嘘のように大人しくなるベアトリクス。

何だかどっちが年上なんだと言う感じだ。


二人と仲良くなった切っ掛けは、私がこの国の歴史について調べていた際、二人に声をかけられたのが切っ掛けだ。話をして行く内に仲良くなり、勉強を教える代わりに庶民の文化について教えるのを交換条件で勉強会を行うようになった。

この国は精霊崇拝が盛んだった時代から続いていて、光の精霊と精霊王を纏める女神様への信仰が強く、現王の王妃様は光の精霊の巫女を務めていた方だったらしい。

その王妃様は十年程前にご病気にかかり亡くなられてしまわれたらしい・・・

忘れ形見の王子の存在が王の支えとなっているのだとか。

私の話しで興味を持たれたのは生活様式と食事。

「ふむ、知恵を絞った質素でありながら堅実な生活だな。特に食文化は興味深い・・・実食してみたいものだ」

「うんうん、食堂が開いていたら持ち込んで貰いたいんだけどなぁ」

「はは、考えておくわね」



**************************************



二人と別れた後、ルミア先生の特別指導と言う名の居残り教室に急ぐ。

途中、授業の最中に競い合っていたセドリックとクロエが取り巻きを連れて小競り合いをしているのが見えた。

「大丈夫かしら・・・」

「おーい、おせぇぞ」

「こちらですよ、お馬鹿さん」

先に来ていたダリルとルミア先生に呼ばれて入ったのは魔法訓練室だった。しかも貸し切り。

アカデミーの学長はルミア先生の学友で()()()()()()をしたら快く貸してくれたらしい。

特別なお願いとは何だろうと思ったけれども、笑顔が怖いので聞かないでおこう・・・

「世界のマナが偏れば国同士の関係や全ての生態系に、失われれば全ての人の魔力の喪失。それは想像できないほどの災厄をもたらすかも知れません」

「・・・はい!」

「おう・・・」

ルミア先生の何時になく真剣な表情に緩みかけた気持ちが引き締まる。

「そこで旅立ちまで時間はありませんし、世界の一欠けらしか知識のないお二人により世界を知り、使命を果たせるよう徹底的に魔法を詰め込みますから覚悟なさい」

残り一月でどれだけ実力をつけられるか。ルミア先生の言葉が私の胸に重く響いた。

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