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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第65話 共同戦線ーベアストマン帝国奪還編

突然の転移に仲間との分離、その先で見聞きしたのは土の精霊王様から不穏なお告げ。

目覚めた私の前に現れたのは教会で倒れていたシスターだった。

ただし、拭えない違和感を感じながらも行動を共にした末に炙り出したのは、彼女が影渡りの魔女マリベルである事。

対峙する私達の前に二点の光と共に鈍器を手にしたシスターと魔法使いが現れ、姿を現すなり荒々しい罵声を浴びせかけ周囲にそれが木霊する。

敵味方の識別付かずの戦いは嵐の如く、粗暴なシスターに振り回された結果、魔女を討ち逃し戦いの幕はいったん閉じる。

然し収穫はゼロでは無かった、敵は全ての精霊王様の抹殺を魔族が企んでいる事を迂闊に漏らしており、今後の戦いの指針となりそうだ。


「おっし!こんなもんだろっ」


シスタージュリアは聖水を撒き、申請魔法による浄化を終えると何処か満足げに腰に手を当てる。

星球式鎚矛(モーニングスター)を振り回し、暴れ回る姿は荒々しく竜族の如く。

そんな彼女もやはり聖職者、放つ浄化魔法は意外なほど強力で鮮やかな物だった。


「・・・意外か?」


突然背後から聞こえる重く低い声、妙な圧が有る気配に振り向けば、ガスパロさんが無表情のまま私とシスタージュリアを交互の顔を交互に見る。

意外かと訊ねられようと、はいそうですと答えられる訳が無いでしょうに・・・


「えっ、そんな失礼な事は思ってませんよ」


少し困った様にそう答えるが、ガスパロさんは顔色を変えず、暫し間をおいて「そうか・・・」と呟いただけだった。

何故、そんな事をわざわざ訪ねたのかと疑問に思っていると、聞かれるのを恐れていた張本人の怒号が飛んでくる。


「あ?聞こえてんぞ小娘。人は趣向と才能は別ってだけだ。くだらねー事を言ったら、脳天粉砕するぞ?」


シスタージュリアは眉を吊り上げ、青筋を頬に浮かび上がらせ、星球式鎚矛(モーニングスター)を振り回す。これ、既に殺るき満々じゃないですか。


「いっ・・・言いませんて!」


何故にこんなにも職に適した才を称賛される事を嫌うのか疑問に思っていたが、シスタージュリア曰く、あくまで武闘派シスターの矜持と言う物が有る故らしい。

死者を弔う姿はシスター然としていたが、そこは十人十色なのだろう。


「くくくっ・・・軽率な発言は気を付けるんだな」


ガスパロさんは慌てて弁解する私を見て愉快そうに笑い声を漏らす、如何やら確信犯だったようだ。

何て嫌な人なんだ・・・

悔しい半分、自身の失態でもあるので安易に怒る事も出来ない。


「・・・誰のせいだと思っているんですか」


こうして私達が薄暗い中である程度の距離が有りながらも、暢気に話しながら歩くこの地下迷宮は教会と祭殿の緊急避難路なんだそうだ。

此れにより教会も祭殿も全滅してい無い事が確定した訳で、この報せは正直に嬉しい。

話すにつれ明らかになったのは、シスタージュリア達が現れたのは偶然や巡回などでは無い事。

如何やら嬉しい事に消息不明の仲間二人の依頼で私を探しに来てくれたらしい。

なんたる幸運、少しずれれば擦れ違う可能性も有った訳だ。


「ちゃんと付いて来いよ、アタシは置いて行かれる様な愚図の為に時間を浪費するほど甘ちゃんじゃないんだからな」


教会に祭殿、そして仲間と再会を目指す道中、道は思いのほか複雑であり樹状に分かれた道は多数、その性質を理解した者でなくては到底目的地に辿り着く事は敵わないだろう。


「了解です、気にせずに進んでください」


当たりは強いが此れは一応、忠告と言う所か。

立ち止まってくれるのは彼女なりの優しさと言う所なのだろう。

そんな中で突然、湿気と土埃、お世辞にも快適とは言い難い通路の空気が痺れる様に振るえ、地面の振動と共に壁や床が砕けた悲鳴があがる。


「むっ、またか。まぁ、落盤でも起きなければ問題は無い・・・ゆくぞ」


ガスパロさんは耳をピクリと震わせると眉を顰めて立ち止まり、再び歩き出す。

地上で感じた揺れに比べれば緩やかなものだが、閉塞感のある地下道と言う空間は決して万全と言う訳では無いのだ。


「ったく・・・縁起でも無い事を言うな!唯でさえ闇の国の連中が来てからしょっちゅう起きているんだからよ」


呆れる私の前でシスタージュリアの気だるげな声が響く。

その声に肩を竦めるガスパロさんを横目に見ては一睨みし、シスタージュリアは不機嫌そうに速足でドカドカと歩き出す。

その背中を追いながらふと私は立ち止まり、ふと疑問に思った事を口に出した。


「そんなに・・・実際に落盤が起きた事は?」


「めんどくせぇ・・・今は先を急ごうぜ」


シスタージュリアは振り返りもせず更に苛立った口調で急かすが、その様子を見ていたガスパロさんは何故かニヤニヤと愉快そうに笑っていた。


「・・・揺れも治まった。お喋りの続きは避難所でだ」


「そうですね、足止めしてすみませんでした」


地震も治まり、落ち着きを取り戻した地下道は静寂を取り戻している。

避けて通れない闇の軍勢との戦い、そして騎士団との合流は二日後。

私達は戦いを避けて通れない、譲れない大切な何かを取り戻し護りぬく為に。



**************



地下を大きくくり抜いた地下空洞、そこが教会と祭殿、双方の兵士が身を寄せる避難所であり基地だった。避難所は見た限り、教会と祭殿の双方の機能を交えた空間と言う所。

内装は区分けされており、其々の部屋を各々の関係者が忙しなく出入りをしているのが窺える。

壁には多数の魔結晶ランプが壁に掛けられており、わりと明るく何処か安心できた。


「先ずはお前達には、我々と共に影渡りの魔女の件で報告を大司教殿と大祭司殿に報告をして貰う。付いて来い」


ガスパロさんとシスタージュリアに連れられ、私達は大きな布に遮られた簡易的な部屋へと通される。

其処には岩壁を削った長椅子があり、木箱を挟んで座る二人の人物に目に止まった。

白い髪の犬の半獣人と豹の獣人の男性が二人が居る、祭服をまとっていると言う所から左が大祭司様、そしてカソックを着込んだ落ち着いた雰囲気の眼鏡の老人は大司祭様か。

私達の存在に気付いたのか、大祭司様は耳をピクリと動かすと、座ったままゆっくりと此方へ視線を向けた。


「ご苦労。その様子では何か遭ったようだな。それでは、我々に報告をしたまえ」


良く見ると、その視線は私にでは無くやはりシスタージュリアとガスパロさんに向けられている。

シスタージュリアとガスパロさんの部下か何かに見られている中、周囲を窺うと大司祭様と目が合ってしまう。大祭司様は私を見るなり目を丸くすると、何故か此方に向かって微笑んだ。


「その前に、儂に自己紹介をさせて貰えないかね?聖ウァルミネ教会大司祭プラチド・ヴェッキオじゃ。精霊の剣よ、アマルフィーでのお主の活躍はこの年寄りの耳にも届いておるぞ」


色々と知られているうえに、アマルフィーでの活躍まで思わぬ速さで予想外の人物へと知れ渡っていた。

訳が解らず困惑する大祭司様とガスパロさん、教会の関係者の為か女神の剣と言う言葉に怪訝そうな表情を浮かべるシスタージュリア。取り敢えず、私からも名乗ろう。


「・・・それは大変恐縮です。初めましてヴェッキオ大司祭様、私の名前はアメリア・クロックウェルと申します」


私が緊張しながらも名乗ると、ヴェッキオ大司教は眉をピクリと動かし、物思いに耽る素振りをすると髭を撫でる。


「ふむ・・・では、アメリア嬢と呼んでも良いかの?」


少し困った様な表情を浮かべ苦笑すると、敢えてなのか精霊の剣と呼ばずべきかと判断したのか、呼び方を改めて名前で呼ぶ事に対して許しを求めて来た。


「ええ、どうぞ」


誰かさんの様な下心と言うより、やはり孫を見る祖父的な暖かな眼差し、気遣いを無下にする気は無いので了承すると大司祭様は頷いた。

大祭司様は暫し、黙って私達の話に耳を傾けていたが事態を理解すると溜息をつく。


「成程、突然の依頼にウチの者をだしたのはそう言う事でしたか。それと、先程は先走ってしまい大変申し訳ない・・・」


「いやいや、儂も話の腰を折る様な事をしてしまった、お互い様じゃよドニゼッティー大祭司殿。・・・それでは続きを話すとしよう、報告とやらはどの様になっている?」


ヴェッキオ大司祭は一息だけ吐くと、怪訝そうにしながら黙って立ち続けていた二人に視線を向ける。

シスタージュリアは背筋を正し、先程までの事を思い返す様に視線を動かすと口を開いた。


「ああ・・・端的に言うと此処の場所こそばれていないが、影渡りの魔女マリベルに地下道の存在が知られた・・・知られてしまいました」


重要な障害と成りかねない問題を耳にし、ヴェッキオ大司教とドニゼッティー大司祭は眉間に皺を刻み、顔を顰める。一人は聖なる首飾りを手に祈る様に目を閉じ、もう一人はじわりと汗を蟀谷(こめかみ)に滲ませ物思いに耽る


「そうか、ならば此処も時間の問題か。早急に出現区域の封鎖および結界の展開、警備の強化もしようか」


先ずはドニゼティー大祭司により土の精霊魔法の使用者が多く有する土の祭殿が動き、伝達にシスタージュリアが走る。


「ならば双方から兵を出そう。では、国の奪還は我等の悲願、三勢力の集結こそ勝利の鍵じゃ。連絡路を死守して何としても成し遂げるぞ」


明後日の騎士団との合流と言う勝利の生命線を死守しようと教会側も用心を深め、兵士へ命を下す。


「はっ、その様に手配いたします」


それを受けたガスパロさんも祭殿兵を動かす為、私達の前を速足で飛び出し防衛線を張る二勢力は警戒と守りを強める。


「騎士団に仲間が同行しています、如何か私にも協力させてください!」


突然の迫真の私の申し出に、二人は虚を突かれたのか驚き目を丸くするも、直ぐに顔は渋い物になるが一息間を置いて頷く。


「少しでも戦力が欲しい。先ずは此方が拾った二人にも協力する様にと伝えるのじゃ」


ドニゼッティー大司祭は最初からそのつもりと言わんばかりに、私の申し出を受け入れてくれた。

シスタージュリアからの報告を捕捉する様に説明を加えて二人に報告し、ダリル達が待つ避難所へと急ぐ。

そんな中で再び悪夢が地下を襲う、先刻に地震の話が嘘の様な立つ事も難しく恐ろしい、大きく揺れる縦運動は地面を突き上げる恐ろしい物、地震は全ての音を討ち消す程の轟音をとどろかせたのだ。

忽然と起きたそれに悲鳴は飛び交うも、壁の一部が崩れたり地面には亀裂が入るも混乱し逃げ出す者もおらず、身を護りつつも原因究明へと直走る。


「アメリア!」


多くの人々の波の中からダリルの声が響き、ジャンニ隊長は腹部を押さえながらも安堵の表情を浮かべる。

然しそんな中、慌ただしい足音を立てる数人の斥候がもたらした報告により俄かに避難所内は冷静さを欠き始めた。


「再会して早々だけど、暢気に話をしている場合じゃないみたい・・・」


混乱と緊張が入り混じる空気の中、不安に恐怖に焦燥感、様々な感情が入り混じる声が辺りに響き渡る。


「先刻の地震により地上が陥没し、落盤で地下道が埋まってしまった!穢れの浄化と瓦礫の除去に土人形(ゴーレム)が欲しい。手が空いている者は急いでくれ!」


それに対し賛同の声が上がり、人流は一気にその兵士達に引き連れられ外へと流れていく。


「この慌てよう、何処が埋まったなんて聞くのは不要だと思いますよ」


ジャンニ隊長は飾り羽を逆立て私達を急かし、何度も視線を交互に動かしてみせる。

勿論、それは言うまでもなく、私とダリルは黙って頷くと三人で兵士達を追う。

兵士達の慌てよう、道中の歩くのも困難な地下通路の様子に私の中で不安が募って行く。

人の流れを追い、辿り着いたその先は今までと比べ物にならない広さの通路に思えたが、それも過去の事のようだ。

埃まみれの空気の中、差し込むはずの無い茜色の光が地下に降り注ぐ、見上げる大穴から覗くのは夕暮れ。そして、脅威はそれだけじゃなかった。

次々と魔物が舞い降り、穢れと瘴気に汚染されつつある地下道を塞ぐ瓦礫の上には戦斧を握る人影。

突き留められた策の生命線、困惑と驚愕が入り乱れる。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠に有難うございました。

一難去ってからの更なる一難に混乱の中でどう立ち向かうのか?

それでは、次回までゆっくりとお待ちください。

*************

次回も無事に投稿できれば11月20日18時に更新致します。

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