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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第64話 戦闘狂ーベアストマン帝国奪還編

前門の上級魔族に後門の悪人面のシスターと大男と言った所。

今直ぐにでもシスターたちと組んだ方が得策だが、魔族を罵る際の言葉からするに、如何やら私とマリベルが仲間と見做されてしまったらしく非常に厄介だ。

何と言うかこの様なやり取りを何回やればいいのかと辟易するが、現状はどうにも避けようがない。

互いに手にするカンテラで照らされる明るい通路、誰が動き出すわけでも無く三すくみ状態の中で、マリベルがクスリと笑い声を漏らす。


「これだから獣人は!あたし達の事をクソ塗れだなんて許せないわよね?」


マリベルの動きに相手方が警戒し、武器を構える事も厭わずに素早く私の隣に立つと、共感を友人にでも求めるかのような身振りをするマリベル。

コイツ、共闘をしているかのように見せかけようと・・・

私はそれに応えも頷きもせず距離を取り、剣を向けるが既に遅しと、シスター達の様子にマリベルはほくそ笑む。


「お前らの許可など必要ねぇ・・・。その頭、挽肉にしてやるから覚悟しろ」


シスターは殺意の籠った瞳に眼光を宿し、握り締める星球式鎚矛(モーニングスター)の鎖と鋭い棘が付いた鉄球が重低音を鳴らしながら引きずられ、振り回した反動で宙を舞う。

その重い一撃は的確に私とマリベルを巻き込もうと弧を描き、流星の如く降り注ぐ鉄球が襲い掛かった。

身を屈め、私達は弾かれるように駆け出す後ろで床が粉砕される音が響く。

如何にか難を逃れるも、引き戻された鉄球が顔の真横を通り、肝が冷える思いに怖気が走る。

シスターは私達を仕留めそこなった事により、兎の半獣人らしかぬ肉食獣に似た光が紅玉の瞳から消え、つまらなそうに顔を曇らせた。


「あの、如何か聞いてください!私は魔族に与する者じゃ・・・」


「誤解だぁ?時間稼ぎのつもりか、魔族のやりかたなんてコッチは知り尽くしてんだよ!」


私の一縷(いちる)の望みをかけた説得は露と消え、感情の噴出と共に繰り出された無慈悲な一撃が私を狙い襲い掛かって来た。

身を隠す暇が無く、咄嗟の事に剣で防いでは見たが、耐え忍ぶにはその一撃はあまりに重すぎた。

高い(つんざ)く金属音、剣が折れなかった事が奇跡のようであるが、その衝撃は体を背後へ押し返し、背中を壁に叩き付けられた。


「う・・かはっ」


鎧を身に纏って居なければ、此処での次の一手を打つ事も出来なかったように思う。

背中に伝わる衝撃で咳き込みつつ、立ち上がろうとするとマリベルは何もせずに此方を眺め嘲笑する。

そんな私達を遠回しに見ながらシスターは残忍な表情を浮かべ、星球式鎚矛(モーニングスター)を大きく振ると目の前に叩きつけた。


「生憎、あたしは害獣共に掛ける情けは持ち合わせていない。今直ぐ駆除してやるから、せいぜい抗えよ」


それはもう獲物をわざと泳がせゆっくりと追い詰めのを楽しむかのように一歩づつ近づいて来る。

そんな中、沈黙を保っていた魔術師が漸く口を開いた。


「ジュリア、手短に最小限で済ませ。此処も脆くなってきている、崩れたら元も子もないぞ」


「あぁ?つまらない事を言うなよガスパロ。でもまぁ、善処してやるよ・・・」


ジュリアと呼ばれたシスターはガスパロと呼んだ魔術師を煩わしそうに一睨みすると視線を前へと戻す。

背後に立つ熊の半獣人の魔術師、ガスパロは頭を押さえ顔を顰めるが、呆れか諦めの表情を浮かべたまま、何故か大岩の様に動かず傍観するのみ。

足止めにすらならなかったが、一方は静観をし、もう一方は話が居の狂犬の如くの振る舞い。

それも疑問だが、この魔族は何時までその下手な演技が通用すると思っているのだろうか。


「あらぁ、痛そー。わたしが魔法を使うのが遅れたせいでごめんね」


何時、魔法を使おうとしたのよ此の魔族・・・

ニルデを演じていた時の甲高い声と口調、もはや私と結託していると見せ掛けようと言うより、私が追い詰められているのを楽しんでいるとしか思えない。

私は差し伸べられた手を握り返す代わりに、立ち上がりざまにマリベルの喉元めがけて剣を突きつける。


「こんな茶番はもうお終いよ、あんたの目的はなに?」


態勢を取り戻して一突き、マリベルは喉元に剣の切っ先が付き付けられると流石に笑顔が消えた。

そうだからと言って怒りも逡巡すらしない、寧ろ余裕すら見受けられる。


「ふふっ、何だもう御終いかぁ。良いよ、それはね・・・」


マリベルは寸前まで伸びた切っ先を恐れるどころか剣身を掴み、自身の喉に押し付けるとそのまま押し込んでいく。


「なっ・・・?!」


誰もが想定できない狂気の行為に背筋がぞわりと凍り付く、言葉を失い硬直する中で私は思わず息を飲む。確かに私の剣はマリベルを貫いている、それにも拘らず血の一滴もしたたらないのだ。

当のマリベルは苦しむ事も息絶えもせず、呆然とする私を見て肩を震わせながら笑いを必死に堪えて口元を押さえだす。

確かに私の剣はマリベルを貫いている、然し剣から柄に伝わる感触はまるで砂の様だった。


「あはっ、驚いちゃった?此処にはね、女神なんかに仕えるアンタに教えに来たの。精霊王はわたし達に殺されるってね!そして女神も消滅し、わたし達の世界が始まるのよ!」


勝ち誇ったしたり顔、何処か自慢げにマリベルの口調は軽いが、世界の消滅と邪なる神の世界が誕生する事を示唆しだす。成程、土の精霊王様が仰っていた「思惑」と言うのはこの事ね・・・

放し終えるとマリベルは掴んだ私の剣を横にずらし引き抜く、すると其の傷は見る間に自然と塞がって行く。


「・・・そう言う与太話は結構よ」


そんな物は実現しないと私は突き返す。

マリベルは酷くつまらなそうに顔を顰めると何かを呟き、呪文を唱えだした。


「死して口惜しや 骸が記憶 器を失えど刻まれし私怨 個から灰に成れど・・・」


詠唱が進むほどに周囲の温度は下がり、僅かな光に照らされる戦いの痕跡から黒い影がゆらりと立ち上り始める。まさか此処で複製体を作り出すつもりだろうか。

先程の様子から此の一撃に効果があるか如何かなんて関係ない、戸惑う気持ちを振り切り詠唱を止めるべく、マリベルの胴体めがけて切り付けた。

先程と動揺の砂の様な感触、当然起こり得る事象は起きず、その体の半分は砂山の如くサラサラと崩れたが、詠唱は止まらない。


「悔恨はらすと・・・」


人形の如く転がるソレからは不穏な言葉が紡がれていた。

まさか、こんな状態であっても複製体を生み出す事が出来ると言うの?!


「・・・っ!?」


止めを刺すべく剣に伸ばした手が止まる、背後から迫る激しい金属音と殺気を乗せた風に、私は身を逸らすしかなかった。

歯を食いしばり避ける私の目前で棘が付いた鉄球が風を鳴らして通り過ぎていくと、それは転がるマリベルの上半身へ沈み込み、遺灰は飛び散り床は砕けてしまった。

詠唱の声は途絶え、私は安堵の息を漏らす。


「フンッ・・・今度はアンタの番だぜ。覚悟は決まったか?異界の主への祈りは済んだか?」


シスタージュリアは星球式鎚矛(モーニングスター)を握り締め、ズルズルと引きづりながらにじり寄ると肩を鷲掴みにしてくる。

私はその手を払い除け、マリベルだったものを指さした。


「これが、複製体です。魔女に逃げられたのやも・・・」


逃亡か遠隔操作か不明だが、詠唱は中断させられたし一先ずはと言う所だろうか。

考え込んでいると、無視された事に痺れを切らしたのかシスターが横から覗きこんで来た。


「あ?良く見れば人間じゃないか。影渡りの魔女の仲間に魔族以外が居るなんてな」


「違います!私は騎士団に協力している唯の冒険者です。如何か信じて下さい」


明かりも心許無いし、誤解されても可笑しくないけど、やはり誤解は解けず。

疑念は晴れず武器は未だに構えたまま、その目は気分がギラギラと輝き、もはや戦いたくて仕方がないだけとも取れなくも無い。本当に何で此の人、シスターをやっているのだろうか?

辟易として溜息をつくと、我関さずを貫き通していた熊の魔術師が(ようや)く口を開いた。


「魔力の増幅の気配を察知した。備えろ、奴はまだ此処に居る・・・!」


突然の吼える様な声で伝えられる忠告、それは紛う事なく影渡りの魔女と称されるマリベルがその本領を発揮し、未だに潜伏していると言う報せだった。

目視だけでは難しく、姿は見えずに声だけが通路に不気味に響いた・・・


不死なる影(インモルターリス)


呪文の最後の一説が唱えられた。

ガスパロさんが何故、シスタージュリアと相反してまで協力をしてくれるのだろうか。

それでもただ心強い、尽力してくれているようだが魔力が不規則に動き回るが故に位置の特定は難航しているもよう。

自身の影を斬り付けるも、影は避ける事も揺らぐ事すらなく、剣身が床を傷つける金属音が響くのみ。

他の二人も同様の結果、私達は闇雲に影を斬りつけた所で如何にもならないと周囲の警戒に切り替えた。

少ない光量の中、魔法によりソレは黒い人型の(もや)から実体化し、仄暗(ほのぐら)い虚ろな目をした死者の複製へと変化する。

明かりが届く範囲に目視しただけで敵は十体以上と言う所、少しでも戦力は欲しい所。


「もし、私が魔族に与する者と思わしき行動をとったら好きなようにして頂いて構いません。ですから、今は手を貸してください!」


未だに私に対する空気は張りつめているけど、この状況ならシスタージュリアにも伝わるはず。

二人は私の突然の宣言に目を白黒させたが、面倒臭そうに目を逸らすシスタージュリアにガスパロさんはニヤつきながら目配せをする。


「だとよ、如何するつもりだジュリア?」


「あ?ったく・・・クソったれが!」


私は二人の遣り取りを背に剣を握り直すと、朽ちかけた武器を握り、四方から襲い掛かる複製体達へと剣を躍らせる。先ずは四体、やはり砂に切り付ける様な妙な感触がした。

振り向けばシスタージュリアはガスパロさんの言葉に不快感を露わに舌打ちをすると胸元で何かを画き、鎖を生き物のように躍動させ星球式鎚矛(モーニングスター)を複製体達の脳天を砕き灰の山を築く。

如何やら警戒すべきはマリベルにより死を冒涜された人々の複製のみらしい。

押し寄せる敵を一陣、共に振り払った所で疑惑が払拭だなんていう事は無く、ただガスパロさんが杖を構えるのを見て慌てて駆け寄るシスタージュリアを追いかけた。


「地を這う焔 苛烈なる火の精霊よ 望みに応じ我が敵を灰燼と化せ 【爆炎舞(フランマコルス)】」


ガスパロさんと私達を囲むように八つの火球が浮かび上がったかと思うと其れは渦を巻き、螺旋を画きながら不規則に飛散し、その踊る様な炎は不死人達をパートナーに踊り狂う。

鼻につく煙の臭い、炎で黒く変色した壁や床、そしてこびり付く煤だけが残っていた。



**************



辺りは燃え滓の中で燻る残り火により、幾分かは視界がマシにはなっているが、それでも探し人はおらず。

そん中でもシスタージュリアとガスパロさんは女神様に仕える者としてかか、膝まづき弔いの祈りを捧げている。それに(なら)い、祈りを捧げると後頭部を何かで突かれた。


「おい、良いから立て」


その声は間違いなくシスタージュリア。

先程までの行動、言動を耳にしても未だに疑いが晴れないとは、恨みや猜疑心が募ろうとあまりにも酷くは無いだろうか。


「私は魔族の下僕でも傀儡でもありませんって・・・」


若干の理不尽さに腹に据えかねない物を抱きながらも立ち上がる私の目に飛び込んできたのは、星球式鎚矛でも魔法でも無くシスタージュリアの蹴りだった。

反射で身を逸らし、合間に前腕部を射しこむと防ぐと押し上げ、右足でシスタージュリアの左足を払う。

とっさの事で此処まで上手くはいったが、相手も負けじと倒れ際に後方回転をし距離を取ると、星球式鎚矛を握り締める。

本当に見た目を裏切る武闘派、何で僧兵に成らなかったのか。


「んな事はとうに解っている、理由がなきゃこんなお楽しみのチャンスは得られないだろうが」


「・・・え?」


何だ?此の人、何を言っているんだろうか。

唖然とする私を眺め、シスタージュリアは足を踏みしめると、ジャラリと鎖を鳴らしながら立ち上がる。

然し、彼女の思惑は火球に遮られ、ガスパロさんの巨体に視界を防がれる事によりいざこざは終止符を打つのだった。


「其処までだ!ジュリア、お前は彼女を疑っているのではなく戦いたいだけだろ?」


「チッ・・・そうだよ。女神様の使徒ってのがどんなもんか見ちゃ悪いか!」


つまり、彼女はいわゆる戦闘狂と言う部類の人間なのだろうか。

シスタージュリアの顔は窺えないが、子供の様に露骨に残念がっているのが聞いて取れる。

どうやら、魔族との結託云々は自身の楽しみを満喫する為の理由づけに過ぎなかったようだ。


「・・・は?」


思わず声を漏らすと、ガスパロさんがシスタージュリアに代わって苦笑いと共に謝罪をする。


「何も言わずすまないな。先に君の仲間から聞いていたが、こいつの捜索ついでに実力が如何ほどか試すと言う言葉に乗ってしまった。我々の許へ案内をするつもりが、本当に申し訳ない・・・」


共謀で力試しをした事など理解したが、二人の姿を改めて見て何だか希望が湧いて来た。


「いえいえ・・・。ここでお訊ねしたいのですが、教会の兵団は無事なのですか?」


「ああ、無事だ。当然、我々は騎士団とも連携している」


ガスパロさんは襟元から教会の印を取り出すと、何処か誇らしげにそれを私に見せて来る。

一方、御叱りを受けたシスタージュリアは不服そうに胡坐を組み、肘を突きながら此方を睨みつける。


「わたしのみが悪者のように言うな、これは今後の為に必要な試験みたいな物だろ?」


「いや、お前は謝罪の言葉が無い。それと、試験では無くお前の場合は唯の趣味だ」


反論し、食らい付いてくるシスタージュリアの反論に対し、慣れているのかガスパロさんは苦笑しながら受け流しつつ諭して見せた。


「ふんっ・・・」


「ちょっと待ってください、色々と置いておいて今後とは何ですか?」


マリベルを逃した事が不穏であるが、騎士団と連携していると言う事は合流も有り得るのでは?

期待を込めて訊ねた疑問に返って来た言葉は予想以上の物だった。


「騎士団の基地の壊滅による相手の気の緩みを利用し、明後日に二勢力共同で反旗を翻す。如何だ、痺れるだろ?」


大きな戦闘を前にシスタージュリアは気分が高揚しているもよう。

予想外の速さの展開、色々と滅茶苦茶だが傷ついても尚、土の精霊王様の眷族である人々の心は大地の下を流れる灼熱の流れのように熱く、逞しい反骨精神を持ち合わせているのだと私は勇気づけられた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠に有難うございました。

ブックマーク登録を新たに頂きました、有難うございます(>ω<)

見方側も変わり者が増えましたが、頼もしい限り。

どうなるかは次回までゆっくりとお待ちください。

**********

次回も無事に投稿できれば11月13日18時に更新致します。

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