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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第59話 壊滅の傷跡ーベアストマン帝国奪還編

何時までも緩和する事の無い関係図、そして埋まらない溝。

ブランカ団長の生還で多少は緩和されようと、争いで傷ついた人々の心に根付いた猜疑心はくすぶる。

先ずの一手をとして、水の精霊王様の手を借りると言う私は大胆な手に打って出る。

向けられる視線は穢れの浄化も合間り晴れたかのように思えたが、別の物へと移り変わったのみ。

敵視はされなくなったが、友好的な歩み寄りはなかなか苦労されそうだ。

精霊王様を強引に召喚したしっぺ返しか否か、私のみ遠巻きに見られ、何者なのかと水の精霊王様との関係も疑われて距離を取られるしまつ。

取り敢えず前を向き、騎士団の後を追って水浸しの炭化した建物の跡を通り過ぎていくと、崖沿いの坂道を下っていく。

暫くして見上げれば、先程まで歩いていた崖が現在地を覆い隠す様に反り出しており、その影に隠れる様に河原を歩けば崖に大きな洞穴が口を開けていた。

ブランカ団長は歩く私の横をゆっくりと馬で進み、洞穴をから出て行く布のかけられた馬車を見ると、その後ろを見送り、騎士達と共に冥福を祈り瞼を閉じる。


「そうだ、改めて君達を仲間に引き入れられたことを感謝しているよ」


ブランカ団長から向けられるのは不思議な期待の眼差し。

まあ、水の精霊王様を読んだりしたわけだし、当然と言えばそうかもしれないが・・・


「いえ、そんな・・・」


「くくく・・・謙遜は必要ない。先刻の君の姿を見て思い出したのだよ以前、土の祭殿と我が国が危機に陥った際、土の精霊王様の力を借り仲間を引きつれ国を救った英雄がが居るとな」


またもや、英雄。

此の国の裏でそんな逸話が広げられているとは・・・

思えば、当時は必死に駆け回っていて意識をしていなかったな。

ただ女神様から与えられた使命を果たす事に誇りに思っていただけな気がする。


「・・・そんな、英雄だなんて大それた者ではありませんよ」


何と無く、ブランカ団長の態度が急激に軟化した理由が解ってしまった。

恐らく軟化したのは、精霊王様を顕現させたことによる、此の国で地味に広がった英雄像と被ったからだろう。


「お前は謙虚なのだな、精霊の王様と国の存亡の危機から救ったのだ、称されて至極当然と思うがね。目立ちたくないのか照れ隠しなのか解らないが。然し今後の為にも其れは活かすべきだ、広く認知された武功は時に利益となる」


確かにこのままギスギスも腫物扱いされるのも問題、関係緩和にとって有効だ。

然し、変に担ぎ上げられはしないかと言う懸念しかないけれど。


「はあ、確かに一理ありますね・・・」


「うむ、本当に仲間に引き入られた事は僥倖だ。ならば、団員にはよく言い含めておくとしよう。然し、これから協力するにあたり話がある。団員との諸々の話が(まと)まれば呼び出す、それまで代わりの者に此の陣地の案内をさせよう」


迷いながら答えたつもりが、如何やらこれじゃもう逃れられないらしい。

ブランカ団長は満足げに微笑むと馬から降り、馬番を任されている騎士に手綱を預け、白魔術師らしき二人の女性に声を掛ける。

暫し、三人で何やら話し込んだかと思うと白魔術師の一人は首を横に振りそそくさと洞穴内に戻って行tった。残った一人は頭を掻く仕草をすると、ブランカ団長に頭を下げて此方へと歩み寄って来る。

片目を隠すように伸びた前髪、その白銀の髪の下には深い紅玉色の瞳、被っていた金の刺繍が入った白い頭巾を脱ぐと長い耳が跳ねて飛び出す。

吹き込む風で前髪が薙ぐと、その下の痛々しい傷跡を露わになる。

女白魔術師は鋭い眼光で吟味する様に此方を睨むと親指を立て、グイッと後ろ手に洞窟を指刺し、「んっ!」と短く声を出すと不機嫌そうに付いて来るようにと示す。


「・・・私はアメリア、貴女の名前を窺っても?」


愛想が悪いのは良いとして、ほぼ無言で指さすだけと言うのは良くないと思う。

取り敢えず、案内してもらう以上は名前ぐらいは知りたい。

然し、暫くすると彼女は眉間に皺を寄せ、面倒臭そうに舌打ちをする。


「リンダ・・・」


「え・・・?」


まさか素直に名乗るなんて思わず、驚きのあまりに上手く言葉が出ずに詰まってしまう。

此れで気が済んだろうとリンダは眉間に皺を深く刻む、奥歯を噛みしめ口角を下げると、怒りを露わに此方へ怒鳴りつけてきた。


「こっちは怪我人を大勢、抱えてんのに案内してやるんだ。精霊王のお気に入りだか何だか知らねーが、さっさと付いて来い!」


外見に反して紡がれた言葉は粗暴、あまりの其の差異に誰もが目を白黒させていると怒鳴り声が止み、その場に静寂が訪れる。

周囲は驚いて一瞬、ピタリと人々の動きを止まったが、慣れているのか呆れる者や意に関せずな者も居る。妙な既視感を感じて幼馴染の格闘家に目が行く。

その本人は私の視線を感じても無関心のまま、退屈そうに欠伸をしている。

然し、ケレブリエルさんだけは初対面の相手に対する礼を弁えて無い事に腹を据えかねたらしく、その眉間に深い皺を刻んでいた。


「何なのあの態度・・・」


不愉快そうにリンダを見つめるケレブリエルさん。

ソフィアはリンダとケレブリエルさんを見た後、周囲へ視線を向けると、洞穴から重そうに運び出される布が欠けられた幾つもの担架を見付け悲し気に俯くと、祈る様に胸元の首飾りを握り締めるとゆっくりと顔を上げて苦笑した。


「ケレブリエルさん・・・あれは今の状況を鑑みれば致し方がありませんよ。如何か此処はあたしに免じて、穏便に済ませませんか?」


多くの人々の生き死にが繰り返される過酷な現状、忙しなく働く同じ白魔術師の心境が理解できるのだろう。ケレブリエルさんも本気と言う訳でも無く仕方ないと口を噤む。


「それじゃあ待たせた私達も悪いし、案内をお願いしましょうか」


「ああ、きちんと付いて来いよ」


リンダは短気であるが根は真面目らしい、私達が付いて来るのを確認しつつゆっくりと歩き出した。



*************



入るや否や、鉄錆や薬品の臭いが鼻につく。

忙しなく洞穴内を走り回る白魔術師、洞穴の中は急場しのぎにしては立派な救護所となっていた。

壁に取り付けられた複数の松明の光が洞穴内を照らす中、数十人もの怪我人や魔法による火傷や凍傷、中には穢れや呪いを受け発狂する者までいる。

なるほど此れは肉体的だけでは無く、精神的にも逞しくないと堪えられそうにないわね。

そのあまりの光景に改めて、国同士の戦いの凄まじさの片鱗を目にした私は驚き、口元を押さえ、思わず言葉を失ってしまった。


「・・・如何した?こういう光景は初めてか?」


「・・・そうね」


リンダは自分で訊いておきながら興味なさげに「ふーん」と呟き私達から目を逸らすと、直ぐに目の前の負傷者に視線を戻し、淡々と治療を始めた。

負傷者をの四肢を抑え、傷口に付いた穢れに透明の小瓶を取り出すと、中身を振りかけると痛みからか急に暴れ出す。それでも逃すまいと抑え込み、小型の杖を傷口へと突き出した。


「天にまします我らが女神よ その慈悲深き御心を用いて 黒き茨より解き放ち給え【解呪(ディスペル)】」


杖から伸びる眩い白光、金の燐光を僅かに漂わせると負傷者の傷を覆うように巻きつくと、黒い茨が這い出すように伸び崩れ落ちる。

恐らくはそれが呪いの根源、徐々に負傷者の顔に安息が訪れ、力が抜けたかと思うと静かに寝息を立て始めた。それを確認して、リンダは短く息を吐き額の汗をぬぐう。


「・・・見れば解るだろう?コイツより重症な奴は幾らでもいる、此処で確り勉強して慣れる事だな」


如何やら多くの負傷者の姿に動揺する私達の事を気遣って慣れさせようとしたらしい。

荒療治だが、現場を見せた方が理解が早いと思った様だ。

実際、おかげで落ち着いて見れるようになったし、不信感から邪険にしていたのではと思っていたがリンダの口や態度は生来の物のよう。


「あたしも救護班の手伝わせてください・・・!」


ソフィアは多くの負傷者と救護所の様子を見て、白魔術師としての使命感に燃えてしまったらしい。

やる気で燃えるソフィアに意表を突かれ、驚き困惑の表情を浮かべるリンダ。


「・・・確かに此処が人手不足なのは事実だ。戦力は多ければいい、このまま大事な御仲間を借りてしまっても良いか?」


リンダは負傷者の助けを求めに応えて腰を下ろし、治癒魔法をかけつつ此方へ振り向くと、戸惑う様に苦笑した。

如何するも何も此方は協力を惜しむつもりは無い、此処は本人に任せる事にしようと考えていると、トコトコと岩の妖精がブランカ団長からの報せを持って現れる。


「ええ、本人も乗り気の様ですし構いませんけど」


私の承諾の返事を聞いてソフィアは歓喜、リンダはやれやれと頭を掻く。

思わず此れには苦笑する、これじゃあ、私がソフィアの保護者みたいじゃないと。


「んじゃ、また後でな」


「すみません、一時離脱いたします」


ソフィアはやはり誰かの役に立つことが生きがいの様だ。

私達に対して何度も会釈をすると、リンダに引っ張られる様に救護所を診て回りだしている。

この姿を見ていると、自分達も何かしなければ居た堪れないが、ブランカ団長の連絡は急ぎ洞穴の奥へと集まる様にと言う連絡だった。



***************



呼び出された薄闇に人工的な灯りが青い水晶のような地底湖を映し出す。

恐らくは魔法で造られたであろう簡易的な岩の椅子に座る様にとブランカ団長が手招きをする。

言われるがままに着席をすると、ブランカ団長は地底湖の方に視線を移した。


「この湖を見てどう思う?」


唐突に意味ありげに問われたが、地底湖にこれと言って可笑しな部分は無い。

ただ、透明な湖面にぼんやりと松明の火と私達の姿が映るのみ。


「・・・普通に綺麗な湖ですね」


「ふむ・・・」


何か必ず意図が有るとは思うが、取り敢えずは率直に感想を述べてみる。

するとブランカ団長は当てが外れたと言う失望を浮かべ、如何した物かと眉間を抑えた。


「わざわざアメリアにそれを問うと言う事は、精霊王様と何か関係が?」


私が応えるよりも早く、ファウストさんがそう訊ねるとブランカ団長の表情が少しだけ明るくなった。

やはり、此処は精霊王様つながりか・・・

思わず苦笑した所で、次の質問が飛んでくる。


「・・・その通りだ。此処で二つ目の質問としよう、湖はどうやってできた物だと思う?」


またもや質問、この場合は・・・


「土の精霊王様の生み出した地形に、水の精霊王様の造られた水脈が通り生み出されている・・・つまり二柱のマナが交じり合う事による自然の産物でしょうか」


今度は少し意外そうにしつつ満足そうに顎を撫でるブランカ団長。

少し安堵したような表情を浮かべると、矢継ぎ早に次の質問が繰り出される。


「ほう・・・それが失われつつあるとしたら?」


その言葉にアマルフィーを出立した直後に寄った村で出会ったテオと言う男の言葉が甦る。


「失われる?まさか、土の祭殿が闇の国に占拠・・・。それとも土の精霊王様、御自身に何か?」


私の言葉を耳にするなりブランカ団長の顔が険しくなる、けれども強ち間違ってはいないと言った所だろうか。


「・・・ああ、眷族ゆえの物だが、祈る度に感じられる土の精霊王様の御力が衰退していくのを感じる。実際、この地底湖の様な水源が水を留められずに枯渇し始めているのだ。帝都に戻る事が出来ない故に現状は如何なっているのやら確認はできないがな」


眷属ゆえに同調してしまうのだとブランカ団長は言う。

祈りは眷属する柱と繋がる重要な儀式、伝わっては来るが知る術がないのが歯痒くも苦痛なのかも知れない。

それに先刻の水の精霊王様の事が合わさって、私の中で土の精霊王様が危険な状態にあるのではと言う危機感が真実味を帯びて来る


「・・・やはり水の精霊王様のお言葉通り、土の精霊王様を優先しお救いしなくては」


此れは悲観するところでは無い、打てる手は失われてはいないのだから。

マリベルの存在、闇の国がどの様に彼らの陣を特定し、襲撃を加えたのか謎と不安は尽きない。


「うむ・・・奪還への準備はこの通り崩された、それ故に今は単純に潜入を試みるのは愚策だ。先ずは被害に遭った他の陣営と合流し策を練りなおす。其の為に先ず、我々の指示通りに動いて貰いたい」


その問いに選択肢は無いのではと思いつつ、ブランカ団長の言葉は高圧的では無いにも拘らず協力を拒ませない妙な熱が籠っている気がするが、これは愚問としか言いようがない。


「はいっ・・・承知致しました」


指示の内容も尋ねずに承諾したのは苦情が出そうな所だけど・・・

私は見渡し皆の反応を確認する。


「ええ、当然ね・・・」


「俺も文句はねぇな」


「異議なしだ」


「同じく・・・」


一切、異論のない答えにブランカ団長は満足げに髭を撫でると「早速だが」と言う前置きに始まり説明が始まる。

専らの目標は敵の目を逃れ、合流地点への移動。

先程の指示とは主にヒッポグリフを所有する私とダリルに空から囮となり、場所の特定されぬように、周辺を警戒しつつ地上部隊を誘導しているように見せかけて欲しいとの事。

ただ、何も知らずにただ指示に従って戦うのは承服しかねる、私は訊けずにいたある疑問を口にする事にした。


「此処で失礼を承知で一つ、お訊ねしても宜しいでしょうか?」


「何だね?内容によるが・・・」


ブランカ団長の顔はやはり険しいが聞いて貰えそう、緊張は解けぬまま、私は本題を口にする。

できれば思い出したくも無い悲劇の瞬間について。


「闇の国が侵略に来たその日・・・その経緯をお聞かせ願えませんでしょうか?」


そう訊ねると、周囲の空気が凍り付いたと錯覚しそうな冷たい空気と静寂が生まれる。

それでも堪えて待てば、半刻もしない内に低く深いため息がブランカ団長の口から洩れた。

瞼を閉じ、眉間を寄せる苦悶の表情、覚悟を決めたのか、瞼と同時にゆっくりと口が開いた。


「・・・良かろう。始まりは一隻の船が港に着いた所だ。降り立った敵はたったの数十名、すぐさまに我ら騎士団、そして魔術師団が対処した。だが、本当の敵は船に乗っていなかった」


始まりの一隻と聞いて誰もが驚愕し、自身の耳を疑う。


「それは如何いう事だよ?!」


ダリルは本当の敵とだけ言葉を濁らせられ、短気がゆえに焦燥感にかられ声を荒らげる。

地上にいるのであれば、真っ先に魔物が思い浮かぶが大国がおちるに至り、帝都を奪われるとまで至るとは思えない。

そうなると、闇の国に力を貸す者と考えれば、思い当たる勢力は唯一つ。


「ダリル、それは違うと思うわ。恐らくは以前から存在した者達よ」


そう、それは・・・


「ああ・・・帝都を陥落させたのは奴らに触発された貧民街に住まう魔族達だ」


想像すらしていなかった伏兵に私達は驚愕し、思わず言葉を失った。

虐げられ続けた者も堪えかねれば、何れ強者に噛みつく事も有るだろう。

支配と言う拘束を解かれ、機会を与えられた弱者は強者を殺し、破壊し続け、尊厳を奪い返す様に暴れ狂ったとブランカ団長は語る。

これは聞いた誰もが恐怖するであろう、世界の何処でも起こり得る事なのだと。

今回も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

厳しさや生産差の片鱗に触れ、帝都の壊滅の件に驚き恐怖する。

それでも、決意や信念にそって戦う面々。

続きは次回へ・・・

それではゆっくりとお待ちください。


****************

次回も無事に投稿できれば10月9日18時に更新致します。

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