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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第51話 奇妙ーベアストマン帝国奪還編

一歩、また一歩と幌の中に床板と車軸が軋む音が響く。

相手は一言も発してはいないと言うのに、滲みだす殺気は距離が縮まる度に心臓の鼓動が早くする。

魔族の配下と言う疑いは晴れず、更に武器を手にした姿を見られたとあっては、言い逃れしようが無い事は明確だ。

馬車の中に荷物は有るが、それを犠牲に足止めをした所で十分な隙を作れるかどうかね・・・?

無言の攻防戦の中、静寂を破る重く鈍い金属音が突如として外から響いてきた。

重い金属同士が衝突しあうような音に続きドスッと鈍い音。

私はそれにより、ブランカ団長の視線が逸れたのを見逃さなかった。


「・・・てやっ!」


私の傍には大きな荷物が入った革袋が数袋。

誰のか解らないが、心の中で「ごめんなさいっ」と謝罪しつつ馬車の狭さを利用し、ブランカ団長の前に蹴り飛ばす。

重い音を立てて革袋が転がっていくがやはり数が足りないか、私が慌てて次を蹴り飛ばそうとすると、それより早く、立て続けに革袋が馬車の中を飛ぶ。


「さっきの、俺の荷物だから後で覚悟しておけよな・・・」


ダリルは私を見て怒りを湛えた笑みを向けて来る、思わず気まずさで口角が引きつった。


「あ・・・はははっ。まあ、ここは長くは持たないわ、早く馬車を降りましょう!」


革袋は足止に加え、その中の一袋はブランカ団長の顔に直撃し、よろめきながら顔を抑えて憤怒の表情。


「ぬっ、何を小癪な・・・」


それでも思惑通り、背後から腹立たしそうなブランカ団長の声が響く、如何やら隙を作る事が出来たらしい。


「走れ・・・!一先ず外へ・・・外にに出るんだ!」


フェリクスさんの掛け声に弾かれるように次々と私達は馬車を飛び出していく。

ダリルはともかく、長物を振るう私達にとっては逃げ場のない不利な場所、されど馬車を出た所で闘争も安全も確保できたのでは無い。

その時、何かが打ち付けられる音と共に、怒りで馬車は左右に何度も揺れ、危機が迫っている事を報せる。

やけに静かだ、下車して最初に目にした光景は時間があるていど経過しているが、無残な殺戮の痕跡。

そして後続を護る騎士達も馬の姿も無く、そこには取り残されたのか、一人の気の弱そうな鬣犬(ハイエナ)の獣人の青年騎士。

私達が飛び出して来た事に恐怖したのか、腰を抜かして地面に尻餅をついており、鬣犬の騎士の傍には握っていたであろう大剣が地面へ斜めに突き刺さっている。此の人が音の主だろうか?

短くを間をおいて我に返ったのか、鬣犬の騎士は私達を震える手で指をさし、叫ぼうと口を開こうとした。

然し、助けを呼ぶよりも早く地面が盛り上がり、鳩尾を抉るような巨大な拳が鬣犬の騎士に襲い掛かった。


「お、お前・・・・うっ・・・ぐぅ」


急ごしらえのせいか、砂利交じりの体の土人形(ゴーレム)だったが、騎士の顎を抉る様に打ち付けると、骨が軋むような音を立てながら目はぐるりと在らぬ方向に回転し、(たちま)ち白目を剥いて昏倒してしまった。


「よし!仲間を呼ぼうだなんて、余計な事していないで大人しくしていろよな」


ダリルは手早く騎士の鎧に斜め掛けにされていたベルトを外すと、騎士の腕を後ろ手に拘束して地面に転がす。

起きる様子が無いのを確認し安堵するも、ファウストさんは耳をピクリと動かし声を張り上げた。


「・・・来るっ!」


馬車が大きく跳ねると同時にブランカ団長は馬車を飛び出し、戦斧を槍の様に扱い、此方へと突き出してきた。

突進しながらの鋭い一突き、それは私達の誰かを傷つけるよりも早く、土人形(ゴーレム)が盾となりブランカ団長の一撃を受け止める。

ブランカ団長はそれを引き抜こうとするが、抜けない事に業を煮やしたのか、突きさしたまま力任せに戦斧を振り下ろし叩き割ってしまった。


「どの様な心積もりかは知った事ではないが・・・。武器を向けると言う事は、闇の国の僕として此処で死ぬと言う覚悟あっての事か?」


ブランカ団長は沸き立つ土煙の中、土塊と化した土人形(ゴーレム)を踏み潰すと、戦斧に付着した土を掃い、殺意を隠さずに私達の前へ立ちはだかった。

闇の国を滅ぼさせる訳にはいかないが、やはり彼らにとって憎むべき対象であり復讐相手だ。

それでも第一に思うのは恐らくは国の奪還、考えは違えど目指す先は同一になる。

そして、相手は大国の軍であり、国と言う大きすぎる相手と戦うには共闘をすべきなのではと私は思っていた。

思えば迷ったのはきっと、此処で別離すべき相手では無いと言う勘が働いたのかも知れない。

そして今、この事態をどう好転させるべきか・・・


「・・・私達は闇の国の配下などではなく、此処で貴方がたと命のやり取りをするつも一切、有りません」


あれだけ頑なに闇の国に属する者と疑念を抱かれてる以上、拒否されるのはほぼ確実。

然し、このまま黙して引けば完全に肯定と理解されて不思議では無い、無駄となるか、それとも変化を投じられるか、つまり此れは賭けなんだ。

私は膝を折り、しゃがみ込むと地面にそっと愛剣を地面に置く。

驚いた事に私に(なら)ってか、背後で一人、また一人と木々のざわめきしか聞こえない道端に武器を地面に置く音が響きわたる。


「ぬかせ、小娘。その手に掛かるほど耄碌(もうろく)してはおらぬわ・・・!」


憤怒の表情を浮かべ、ブランカ団長は戦斧を私に向けて薙ぐ様に振り下ろす。

風を切り裂く音が響き、髪を掠めるが、何故か一向にその刃先が私の首を触れる事は無い。

ゆっくりと瞼を開ければ、ダリルが戦斧の斧筋(ふすじ)を掴み、ブランカ団長に殴りかかろうとしていた。


「おい、人を疑うのもいい加減にしろよ!あの皇子とあんたがどれだけ憎み合おうが俺達には関係ない、ただ此の国を取り戻すために来たんだよ!」


ダリルの激しい剣幕にブランカ団長は眉を顰め、一言も発せずにちらりと戦斧を引っ張るが、手を負傷しても尚、それでもダリルは放そうとしない。


「ダリル、ありがとう。でも、今はその腕を下ろすべきだわ。私達が武器を置いた、その意味が解らない訳じゃ無いでしょ?」


ダリルの咄嗟の行動で命は救われ感謝しかないが、下手すれば指だけでは済まない。

ダリルは隙を突かれ押し切られそうになるが、それを如何にか戦斧の柄を蹴り上げ逸らすと、歯が向けられる寸前で身をひるがえし間合いを取り直す。良かった、上手く伝わったみたいだ。

然し、ダリルのその手は赤く染まっていた。


「ダリルさん・・・血が!」


ソフィアは手を負傷したダリルに駆け寄り小言を言いながら強引に腕を掴むと、有無を言わさずに治癒魔法を施す。そして、私は改めてブランカ団長と改めて向き合う。

これだけの騒ぎになっているのにも拘らず、騎士達が集まって来る様子は無く、この場に居るのは団長以外は、拘束された騎士が一人・・・

周囲を警戒し、相手の出方を探る中、その静寂を破ったのは私では無くブランカ団長だった。


「・・・言っておく、私はお前達を信用する事はできない。だからこそ問おう、お前は今のこの状況をどう考える?」


信用できないが、此方に意見と判断を仰いでくる。

まるで、何かを試されているかのようだ。


「先程まで、私達の馬車を挟む様に騎士の皆さんが隊列を組んでいました。それが騒ぎに駆け寄る騎士も、馬の蹄の音すら聞こえません。あまりにも、静かすぎます・・・」


馬車を下車してからたった一人を残し、他の騎士達の姿が無い事に私も違和感を感じていた。

そうだ、明らかに可笑しい。

戸惑う私達を見てブランカ団長は眉根を寄せ、静かに瞼を伏せると深く溜息をつくと、苦々し気な表情を浮かべる。


「ふん、先刻の騒ぎに安全を確認にでも行かせたと思ったか?私が部下達を最後に目にしたのは、お前達の怪しい動きに気付き馬車へ踏み込む前だ」


馬車の中、確かに幌とブランカ団長の体で外への視界は遮られていた。

あの無言の攻防は緊張で長く感じていたが、実際は半刻どころか僅かな時間しかなかっただろう。


「それなら尚更、短時間であの人数が何処に・・・でも・・・」


私達は顔を合わせ、各々武器を拾い構えなおす。

ブランカ団長は無言のまま私達を訝しんでいたが、小さく舌打ちをすると視線を逸らし、戦斧を構えなおすと一報を向いて静かに歩き出す。


「あぁ・・・」


ブランカ団長は私の言葉に呟くように応えるが、それは確信を得たようにも見えなくも無い。

恐らくは異常な事態の正体が何か私達より早く気付いていたのだろう。

此の事態はきっと信用ならない者に持ちかける程、のっぴきならない状況なのだろうから。



************



風に騒めく木々の音すらしない、自身の心臓の音が聞こえる程の緊張と静寂の中。

私達はブランカ団長の意向で馬車の影に身を隠し、その行く末を見届けていた。


「おい、何時まで寝ている?」


ブランカ団長は戦斧を拘束されたままの意識の無い騎士の首元に当て、わき腹を爪先で転がすように蹴り飛ばした。

鬣犬(ハイエナ)の獣人の騎士は眠たそうに瞼を開けると、ブランカ団長の顔を見て嬉しそうに早口で自分のみに起きた事を報告しだす。


「魔族と思われる者の姿を発見しその追跡の為、皆に留守を任されたところ、そこの闇の国の連中に隙を突かれてしまいまして・・・面目次第もございません!」


鬣犬の獣人の騎士は拘束されたままブランカ団長に身を捩りながら縋り、自分の不甲斐なさを謝罪し項垂れる。

ブランカ団長は暫し黙したまま顔を顰める、そのまま戸惑う様に私達と目の前の騎士との間で目を泳がせるが、抱いていた疑念は残酷なほど明白だった。


「・・・お前は何を言っている?」


「ですから、魔族が・・・」


ブランカ団長の次第に顔が険しくなるも厭わず、騎士は不思議そうな顔で説明を繰り返そうとする。

冷静を装う限界が近いのか、ブランカ団長が握る拳は震えていた。

此処まで何も口を挟まずにいるつもりだったが、私は見るに堪えられず物陰から一歩、前へ出てしまった。


「・・・あんな僅かな時間にですか?」


「は?何で俺が拘束されたままで、闇の国の者が自由に・・・これは如何いう事ですか団長!」


私達と目が合うと同時に騎士の顔に動揺が見られる、声や目元には怒りや焦りが見えると言うのに、鬣犬(ハイエナ)の騎士は口角だけが弧を画いていた。


「この先、馬も人の足跡も、何処にも無いぞ・・・」


周囲を調べていたファウストさんから報せが入ると、明らかにブランカ団長の表情が変わる、猜疑心に満ちた暗い瞳に鋭いものが宿る。


「ニーノ!私の部下を何処にやった!」


止める間も無く戦斧が閃く、その躊躇いの無い凶刃は恐怖に(おのの)く目の前の騎士の命を無慈悲に刈取る・・・筈だった。

ブランカ団長は目の前の光景を目にし、私達と同様に信じられないと言う表情を顔に張り付け呆然と立ち尽くす。

横たわる騎士は狂気じみた薄ら笑いを浮かべ、その影から伸びた複数の手が凶刃を押し退けると、それは次々と人の形へと変じながら這い出して来る。

顔も名前も覚えは無いが、それは私達の馬車を挟む様に隊列を組んでいた騎士達、輪郭だけでは無く、髪や肌に目から鎧まで。

まるで複製したかの様であり、それはブランカ団長にとって残酷な証明だった。

ブランカ団長は牙を剥き出し我に返ると、その怒りで肩を震わせ、拘束を解かれて立ち上がろうとするニーノと呼ばれた鬣犬(ハイエナ)の騎士を睨みつける。

鬣犬の騎士は地面に転がる腐りかけの死体へ手を伸ばすと、それは黒い灰となり何も残さず、跡形も無くその手に吸い込まれていった。


「やはり、古いヤツは美味くないな。少し筋っぽかったが、先程の騎士達の方が何倍かましだった」


鬣犬の騎士、ニーノは気持ちが悪そうに口元を押さえると、吐くような仕草を見せつけニヤリと嫌らしい笑みを浮かべると顔が崩れ魔族へと変わる。

灯台下暗しとはまさにこの事、何時から何が目的でこの魔族は隊に加わていたのだろうか?

そして、多くの部下を失ったブランカ団長の心中を思い計ると居た堪れない。


「・・・今までの非礼、大変申し訳なかった。許して欲しいなどとは望まない、今は・・・この今だけは此の老輩に部下を弔う機会を与えてくれぬだろうか」


ブランカ団長は感情を押し殺す様に言葉を紡ぐと、謝罪と共に私達に頭を下げた。

恥をかなぐり捨てても、私達に(そし)られる事も厭わずに戦う事をブランカ団長は決意したのだ。

ブランカ団長のその瞳の端に光る物が見えた気がした。


「ええ、喜んで力を貸させて頂くつもりです!」


私達にこの申し出を断る理由など無い、今は同じ敵を狙い、同じ目的を心に手を取り合う同志なのだから。直前まで敵だった者達が手を取り合う。

此処に、私達の奇妙な共闘が始まった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございました。

何よりの活力になっております!

そして、新たにブックマーク登録をして頂いた方に大感謝!

続けて尽力していきたいと思いますので、此れからも読んで頂けたら幸いです。


**************

次回も無事に投稿できれば8月14日18時に更新致します。

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