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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第48話 それでも民は腐らないーベアストマン帝国奪還編

共闘し、アマルフィーに平和を取り戻した者の裏切りは私の頭を酷く混乱させていた。

有り得ない事態である訳では無い、それでも民を護る立場の人物が世界を貶めようとする者達につき、その一員として加担していた事を知ったからだ。

あの戦いは何だったのか、私達と自国民を欺くために練られた謀略?

信用を利用する為の演技なのだろうか?

疑う程に胸が苦しくなる、あの祝賀会の夜の路地裏での不審人物との会話、どれもライモンド殿下の言葉を証明する物だった。

必ず妨害は有るとしても、私達はライモンド殿下の思惑が知っていく必要が有ると思う。


「ソフィアに聞いたぜ。アイツ・・・裏切ったんだってな」


裏切った途端にアイツ呼びとはダリルが相手を如何意識しているか解り易い。

然し、迂闊な発言は非常に危険だと思う。


「・・・色々と不可解な所があるけどね。でも、それを軽率に口にしちゃだめだからね」


「チッ・・・わーってるって」


釘を刺すのも嫌味かと思ったけど相手は皇族だし今後、下手な事を言って不敬罪だなんて洒落にならないもの。

魔物が召喚された影響か、振りまかれた穢れが町に蔓延している。

ともかく、私達が此の町に来た事が引き金なわけなのだから、何にしても出来得る限りをしてから旅立つべきと考えた。


「・・・ソフィア、皆への説明ありがとう!」


「いえ、そんな・・・あたしは皆みたいに戦えませんし」


代わりに重要な役割を担ってくれた事にお礼を言うと、ソフィアは照れて謙遜しながらぶんぶんと手を振った。

町への魔物の影響は建物もそうだが、奴らの置き土産である穢れが大きな影を落としていた。

土に沁み込み、水路などにまでその影響が出ている模様。

如何すべきか考えながら町を歩くと、自警団と教会が穢れに汚染された水汲み場を囲んで神妙な面持ちで話し合っているのが見える。

損壊した水汲み場は以前の見る影も無く、並々と湧いていた清らかな水は薄灰色の泡立つ粘液の様になっていた。余りの状況に口元を押さえると、水の精霊王様から頂いた首飾りが胸元で揺れる。

気が付くと私は唖然とする人々の前で水の精霊王様から頂いた首飾りを握り締めていた。


水の精霊王(ウンディーネ)招来(インガーディオー)


形振り構わず、衝動任せに神使である精霊王様を喚のは(はばから)れる事かも知れない。

責任感か使命感なのか、そんな私の願いに水の精霊王様は願いに応え招来された。

水のマナが舞う様に輝きながら収束し、徐々に人型が模らていく。

藍玉色の髪は穏やかな波のごとく、下半身を覆う鱗は碧玉色に輝き艶やか、翠玉色の耳と尾は穏やかに風に揺れていた。


「盟主であり我らの剣よ、汝の望みに応えましょう・・・」


水の精霊王様は金色の瞳を優しく細めると、私に対して手を差し伸べてくれた。

町の人々は口を開けたまま呆然と立ち尽くし、中には信じられないと言う様子でわなわなと震えている者までいる。

私は此の町で見て来た戦いの爪痕を思い出し、意を決して水の精霊王様の声に応える。


「この地の穢れを洗い流し 清浄なる地をこの町の人々に!」


「あいわかった、お任せあれ・・・」


水の精霊王様は優しく微笑むと、大地へと手をかざす。

地面から水が湧き立ち穢れが精霊王様の力で融解したかと思うと、その中心に水の精霊紋が浮かび上がった。

精霊紋から精霊王様の力が水脈を通じ樹状に広がり、それはまるで生き物の如く、瞬く間に町中を駆け巡り、街中に幾つもの水柱が天へと昇る。

天に伸びた水柱は雨雲となり降り注ぎ、水の精霊王様の加護を地上へともたらしたのだった。

しとしと水が大地を潤し、町中を蝕んでいた穢れは望み通り洗い流され、澄んだ空気が辺りを包み込んだ。水の精霊王様は望みを叶えた事に満足げに微笑むと、蜃気楼の様に瞬く間に姿を消していた。


「み、水の精霊王様を従えている・・・そんな馬鹿な」


「え、あ、あの方は女神様の化身なのか?」


生神(いきがみ)様じゃああ!!!」


先程まで呆然としていた町人の視線が私に集中したかと思うと、一気に何かを崇める様に膝まづき手を合わせ祈り出す。


「う、私の馬鹿・・・」


結果、人の為になったし間違ってはいないとは思ってるけど、どうも複雑な気分だ。

頭を抑えていると、ダリルが心底哀れな者を見る目で私を見て来た。


「こう言うの苦手な癖に懲りないっつーか、本当に馬鹿だろお前・・・」


先程の事が原因で興奮気味の周囲の異様さにダリルの目が心底、残念な物を見る目に変わって行く。


「色々言いたいけど・・・今回だけは反論できないわ」


手段と場所を弁えずにいた自分自身を振り返り、此処ではぐうの音も出なかった。

そんな中、質問があるとフェリクスさんがにこやかな表情を浮かべて手を上げる。


「それじゃ、此のまま崇め立てられたいか、大事にならない内に宿に退散するの二択だったら何方を選ぶ?」


「勿論、後者で・・・!」


私達は人々の合間を潜り抜け、必死に宿屋の方面へと逃げる様にその場から立ち去った。



*************



宿屋へ続く夕暮れの細道、枯れ木の枝に揺れる何かが目に止まる。

それは風に吹かれるように常に揺れるが、なびくのではなくただ左右に不規則に揺れていた。

その不自然さに眉を顰めていると、其れはゆっくりと枯葉の様な翼を広げ、橙色の大きな単眼が此方を凝視する。


「・・・人が少なくなった途端にコレか」


ファウストさんは素早く詠唱し、指先に石礫を生成すると、恐怖に(おのの)く魔物の目を貫き地に落とす。

地面に転がる魔物を見下ろし、ケレブリエルさんは眉を顰めつつじっくりと観察をしだした。

体は蝙蝠その物、それと決定的に違うのは顔の大半を占める巨大な目玉と(カラス)の様な(くちばし)だろう。


「蝙蝠?その系統の魔物に似ているけど、何処か人工的な気がするわ。これは使い魔かしら?」


今まで合成獣などを見ていたのも有り、その見た事も無い組み合わせにケレブリエルさんは意図的に生み出されたものと判断したらしい。

差し向けたその主は考える必要も無いと思う。

皆もそれに関しては異論は無いらしく話は思いの外、考えが一致した状態で話は進む。


「殿下は未だ、何処かに潜んでおられると言う考えた方が良いのでしょうか?」


ソフィアは人通りのない路地などに目をやり、不安げに顔を曇らせていた。

ライモンド殿下から見張られている事を示すのは今の所、この小型の魔物のみ。

危害は加えられずとも、此方に自身の目が付いていると意識させるには十分だ。

私達は全員、脅され其れに屈する覚悟で旅をしているつもりなど無い。


「そうね、私達を脅す為に囮をわざわざ配置するなんて()めてくれるじゃない」


ケレブリエルさんは憎々し気に魔物の死骸を杖で叩くと、魔物の死骸は形が崩れて風化する。

塵へと変わる魔物の死骸を囲み、話し込む私達に痺れを切らしたのかダリルは舌打ちし、少し苛立った様に大きな声をだす。


「でも、退くつもりないんだろ?来るものか拒まず、ぶっ潰せばいいじゃないか」


「はぁ・・・この前はたまたまにすぎない。拳は手段として、慎重に見極めかなければ解決に至らないよ」


ファウストさんはダリルの言葉に何でも猪突猛進で如何するんだと言わんばかりに大きく溜息をついた。


「んだよっ、どうせアッチから仕掛けて来るなら同じだろ?」


再び二人は互いに背を向けて目を逸らす。

二人はともかく、今まではライラさんの所の馬車を利用させてもらっていたが、現状は人を大勢乗せていける乗り物は無い。

ヒッポグリフ達の体力を考えると、複数人を乗せて飛ぶ旅路は酷な話だと思われる。ともあれ・・・


「何にしても、私とダリルは良いとして、長旅には商隊長が話していた辻馬車の御者に交渉する必要ね。取り敢えず、紹介してもらえるか話を切り出してみよう」


あの時、御者は空から見る限りだと土の精霊魔法を使用できるようだった。自衛手段を持つ辻馬車・・・区長さんは一体どんなつてで探して来たのだろう。

私達は少し傷んだ古びた扉が軋む音を耳にしつつ、食事やお酒を嗜む人々の声が飛び交う宿の入り口を潜った。

美味しそうな肉と野菜の香り、景気よく打ち付けられるジョッキの軽快な音、武勇や雑談で盛り上がる声も耳にするが、何処か不安げな声も混じる。

宿の主人に挨拶を済ますと、一角にある長机を囲む集団の中の一人に目が止まった、茶色の丸い耳に恰幅の良いが体、大きなお腹の狸の半獣人。確か、商隊の隊長さんのパウロさんだった気がする。

彼方も私達に気付いたらしくジョッキを掲げながら大きな声をあげた。


「おー!そこに居るのは確か・・・女神様の化身の嬢ちゃんか!」


「チガイマス」


まさか、此処まで話が広がっていたとは・・・

頬が引きつるのを堪えていると、パウロさんの声で一気に宿の一回が騒めく。

幸いな事に騒動にならなかったが、それでも何だなんだと此方を見ながら声を潜める人達が居る。

フェリクスさんは周りを見て苦笑すると、パウロさん達の近くの席を指さす。


「取り敢えず、其処に座って良いかな?」


「あ、ああ・・・構わないぜ」


突然の申し出にパウロさんは戸惑う様子を見せたが、周囲におされて私達を席に招く。

此処は長々と話せる場所ではないし、話は早めに切り出そう。


「先ず、テオさんの事は本当に・・・」


テオは最低な人だったけど家族は居るはず、誰にも気づかれずに死んでいくのはあんまりだと私は思っていた。

最初は不思議そうな顔をしていたパウロさんだったが、テオが魔物に襲われた時に助けられなかった事を悔やんでいると少し悩んだ様な表情を浮かべ耳を傾けてくれた。


「何があったか知らないが、直後の様子とお嬢ちゃんの顔を見て察したぜ。まあ、何だ・・・先ずは酔って暴れたアイツを止めてくれて、(いた)んでくれてありがとうな。相手は魔物だろ?お嬢ちゃん達が気にする所じゃねぇ・・・俺が何とかしてやるよ」


パウロさんは天井を目で仰ぎ、テオの事を思い浮かべたのか顔を顰めると、困った様に眉尻を下げながら任せろと言わんばかりに拳で自身の胸を叩いてみせる。


「有難うございます・・・」


私がチクリと痛む胸を撫で下ろすと、パウロさんは腕を組み背もたれにもたれ掛かり満足そうに白い歯を見せて笑うが、ふと目が合うと此方を見て不思議そうな顔をして顔を前に突き出す。


「良いって事よ!然し、その様子は商談・・・んな訳ねぇよな?他に何か有るなら言ってくれ」


「実は以前、教えて頂いた辻馬車の御者の方を紹介をお願いしたいのですが」


アマルフィーの区長さんが依頼した辻馬車は到着日や時間を考えても、この町かその近隣に到着している可能性はある。

あの、土の精霊魔法を使用していた御者が本当に探し人だったらと願いながら訊ねると、一人のガタイの良い背の高い獅子の半獣人の男性を指さした。


「ソイツなら其処に・・・ん?紹介も何も、アイツはお前さん達の事を知っているようだが?」


私達を知っているようだと言われたが誰なのか、仲間の誰も覚えは無いらしい。

改めてその男性に目を向けると、私からファウストさんへと視線を移し目を輝かせ微笑んだ。

ファウストさんに小声で知り合いかと訊ねるが、熊みたいな体形の知り合いは居ないと首を横に振る。すると男性は私達に語り掛けて来る、何処かで聞いたような声で。


「お久しぶりですね、アメリアさん。兄さんも久しぶり、元気で何よりだ・・・!」


私達は驚きのあまりに目を見開き言葉を失う、誰なのか確信できずに相手の顔を隅々まで凝視すれば、確かにファウストさんと似ているきがする。いや、まさかね・・・


「もしかして、エミリオ・・・さん?」


何でそう思ったのかはわからない、思わず名前を出して訊ねると、相手はそれを頷き肯定する。

病気がちで長身でありながら細身だった姿が脳裏に浮かぶが、目の前の人物の明らかに真逆の姿に呆然としていると、ダリルが無遠慮に間に割り入って来る。


「良かったな、双子の弟と感動の再会じゃねぇか」


ダリルは揶揄いながら背中を押して再会を促すと、解らなくも無いがファウストさんは今まで見た事も無い顔をして動揺をみせる。


「エミリオなのか・・・嘘だろ?!」


双子とは他人から見ても判りづらいほど、二人の体形は殆ど真逆だ。


「そうだよ、こんな瓜二つの他人がいて堪ったもんじゃないか」


その後、落ち着きを取り戻したファウストさん。

少々ぎこちないが、行方が不明だった時と違って無事だった事実を知って、心から安堵したらしい。

そして話し込んでいく内に区長から依頼を受けた辻馬車の御者がエミリオさんと判明した。

その上で色々と危険が伴う事、追跡や妨害の為の襲撃があると伝えるが意外と逞しく、山賊だろうが魔物だろうが其の為に体を鍛え、魔法を会得したと何処か自慢げに語られた。



*************



昨晩は襲撃に備え、荷物の大半を何時でも出発可能な状態にした馬車に積み、宿では夜襲に備えたが音沙汰は無く、不気味なほど穏やかに目覚めた。

馬車は慎重に壊れかけの街道を進む、静寂に耐えられなかったか、エミリオさんは何かを思い出すように目を動かす。


「そう言えば、こんな風になりましたけど騎士団が国の奪還する為に何処かに身を潜めてるなんて噂があるんですよ」


「騎士団が?!本当に?」


「何処かは解りませんけどね・・・」


エミリオさんは確かな情報が出せずバツが悪そうにするが、それでも大きな情報だ。


「いえ、最前線を見て来た人が生き長らえていると知れたのは大きいと思います」


吉報に胸を高鳴らせると、エミリオさんもつられて「お役に立てて良かった」と笑みを浮かべる。

町が見えなくなる所まで来るも、街道は平和そのもの。


「見張りを付けておいて、何もないだなんて不気味ね・・・」


ケレブリエルさんは愛読書を片手に現状を怪しむ。


「そうですね、あたしも警戒してみますね」


ソフィアは馬車から身を乗り出そうと後方へ向かう。

然し、馬車が突如として停車せざるえを得ない最初の障害と対峙する事になる。

地を這い歩くもの、空を飛ぶものと様々、ケレブリエルさんは自分が呼んだかのような状態に苦笑。

気が付けば魔物の群れは私達を馬車ごと取り囲んでいた。そして・・・


「忠告した筈だ、お前達に闇の国は討てないと・・・」


ライモンド殿下は魔物の群れの中心に立つが、襲撃の時と同様にその冷酷な瞳は変わらない。


「殿下・・・それでも民は腐りません!あなた方、皇族を信じているからこそです」


私の呼びかけにピクリとも眉を動かさず、嘲笑いながら戦斧を包んで居た布を外し、その切っ先を私達へと向けられる。

然し、私達が剣や牙や爪と交えるよりも早く、魔物の断末魔と何かの複数の足音が地鳴りとなり押し寄せて来た。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

何時も、執筆の原動力になっています!

それでは次回も頑張りますので、ゆっくりとお待ち頂ければ幸いです。


*********

次週も無事に投稿できれば、7月24日18時に更新致します。

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