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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第45話 力尽きようとーベアストマン帝国奪還編

突如として起きた大地の乱れにより引き起こされた災害。

それは天変地異なのか、或いは何者かが引き起したのか、それを知る由は今の私達には無い。

ただ確実なのはこの大地が闇に侵されつつある事のみ。

だからこそ、此処で逃げる訳にはいかない。

然し、進む為の判断と行動は時には間違いを引き起こす、目の前の光景、まさに其れが皮肉な証明となる。

崩れ落ちた大岩を支えきれずに悲鳴を上げる渓谷、幾筋もの亀裂、更なる災厄が訪れようとするこの場所にファウストさんは立っていた。


「ファウストさん・・・!」


「早く戻ってこい!崩れるぞ!」


ファウストさんは私とダリルの呼びかけに答える事は無く、意を決した表情のまましゃがみ込む。

歩けないのか、それとも他の意図が有るのだろうか。

確かめる為にも私達は慎重に一歩を踏み出すと、ファウストさんから漸く答えが返ってきた。


「これは僕が引き起こした事でもある、その責任を取らせてくれ!」


ファウストさんは罪悪感か焦りか、余裕のない声で叫ぶように助けを拒んだ。

ダリルはその態度が許せなかったらしい、ファウストさんの意思を無視して歩き出す。


「お前、このまま死ぬ気かよ?!」


「・・・それを今から証明する。黙って見ていてくれないか?」


ダリルが引き下がらず食い下がると、ファウストさんの眉間に深々と皺が刻まれる。

ダリルもファウストさんも双方、共通するのはきっと仲間を護ると言う意志。

然し、この場を切り抜ける知恵と手段を持つのは恐らくはファウストさんだけだ。


「・・・精霊魔法ね?」


私は彼が精霊魔法について語っていたのを思い出し、そう訊ねた。

ファウストさんは少し悲しそうに笑う。


「ああ、出来る事をやるつもりだ。何かあったらエミリオに伝えてくれ」


「馬鹿を言うな!お前の足でこっちに戻ってこい!俺には死に急ぎ野郎の為に裂く時間はねぇんだよ」


ダリルはファウストさんの様子を見て苦々しい表情を浮かべたが、貫き通そうとする意志に反し、生きる事を諦めた様な発言に大声を上げ噛みついた。

最後まで自分のやった事から逃げるなと。

その時、上空から偵察をしていたソフィアの酷く焦った声が響く。


「至急退避をお願いします!此のままでは・・・!」


ファウストさんはダリルの言葉に苦笑すると、握った拳を振り上げる。


「ありがとう。もう馬鹿な事は言わない!その替わり、後を頼んだよ」


「解った・・・任せて!」


ファウストさんは安心したのか表情を和らげると、振り上げた腕を振り下ろし、地面に拳を突き立てる。

その拳は魔力を帯びて、ファウストさんが紡ぐ祝詞に応えていく。


『我は其の王に従ずる者 応えよ大地 抗い躍動せよ!』


ファウストさんの拳に土の精霊紋が浮かぶと、地面から光の粒が生じ、意志を持つ其れは湧き出す様に次々と溢れ出してくる。

黄土色の精霊達はファウストさんの拳を起点に地脈に潜り込み、それは幾筋もの樹状の光の筋となり、朽ち様とする大地を繋ぎ止め、次第に姿を取り戻していく。

裂けた大地は地鳴りを起こしながら生き物の如く蠢き接着し、深く刻まれた傷口を自ら修復させていく。

驚きと期待の最中、ファウストさんの顔から血の気が引いて行く、堪えるにつれてその蟀谷(こめかみ)には脂汗が滲む。

何処までこの危機を精霊魔法で抑えられるか、この場を如何にかできるのはファウストさんだけに頼るのはやはり危険だ。

今の私達にできる事は無いか、渓谷に伸し掛かりながらじわじわとその自重で双璧を削りながら食いこむ大岩が目に止まる。その刹那、私は形振り構わず駆け出していた。


「おい!何やってるんだよ!」


「ダリル、あの大岩を破壊するわよ!」


突然、飛び出した私を不思議に思ったらしい、案を手短に話すと、意外にも良い返事が反って来た。

然し、一番手は貰ったとダリルは不敵な笑みを浮かべる。


「なら、手伝ってやるよ!【跳梁足】!」


一瞬、昂った悪い顔を見せたかと思うと、ダリルは武術により一瞬で私の視界から消える。

ファウストさんと土の精霊の力で修復されているとは言え盤石ではない。

地面のずれや、沈下する不安定な道のりを必死にダリルに追いつこうと私も駆け出す。

先陣をきったダリルの拳が大岩の中心に打ち込まれると亀裂が入り、悲鳴のような軋む音の後に熱せられた大岩は炎と共に弾け飛び、深々と抉り取った。

私は物足りず、悔し気に眉根を寄せるダリルの横を擦り抜け、剣を握る手に力を込めると剣を引き自身の魔力を纏わせる。


「砕けろおぉっ!」


私の剣が光の精霊王様の加護を受けた剣、【光剣(クラウ・ソラス)】は白く輝き、剣身の流れを追うように光の軌道を画き、大岩を両断していく。

普通であれば砕けていたのは剣の方だったかもしれない、これはきっと加護だけでは無い、この剣を打ったゲルトさんの妙技には感謝しなくては。

目の前で岩が二つに分かれながら同時に渓谷に衝突し転がり落ちて行き、それに安心しすっかり気を緩めてしまい、着地点の地面が脆くなっている事を私は失念していた。


「え・・・」


足が地面を捉えると衝撃と加重にそこは砕け、体がぐらりと揺れると同時に巻き込まれ谷底へと滑り落ちる。それは幼い頃のトラウマを思い出させ、幼い頃の恐怖が蘇り頭を過る。

歯を食いしばり、揺らぐ心に抗いながら手を崖の縁に伸ばすが、それも空しく体は宙に頬り出されてしまった。然し、女神様は私を捨ててはいなかった。

剣を僅かながら崖に突き立てる事が出来たが其れも時間の問題だ。

如何にか這い上がろうと開いた手を伸ばすとダリルがその手を掴み、腰に何かがしがみつく感覚に驚き見下ろすと、ソフィアが飛びながら息を切らしながら支えていてくれた。

問題は解決させたが、これではとても格好がつかないし、寧ろ申し訳ない。


「ごめん・・・二人とも、ありがとう」


お礼を言う最中、ソフィアの苦しそうな息遣いの後、高度が徐々に下がってきた。


「ふぬぬぅ・・・ともかく上へ、腕が痺れてきました」


「ぶふっ・・・ぶぷ・・・と、ともかく引き上げるぞ。ほら、剣を引き抜け!」


剣を引き抜くと、ダリルはもう片方の腕も掴み引き上げる。

その勢いを利用して崖面を蹴り上げると、私は其のままダリルの手を擦り抜けて宙で一回転し、華麗に崖の上に着地した。

それによりダリルは不貞腐れる様に私を睨む。


「全く・・・可愛げのない奴だな」


「ふふっ、如何にか出来たけど助かったわ」


愉快そうにする私を見て、ダリルとソフィアは苦笑した。

其処にふらりとファウストさんは歩み寄り、立ち止まる。


「どうに・・・かなった・・・か?」


疲れ切っていながらも安堵の表情が浮かぶが、徐々に意識が薄れていきファウストさんは意識を手放した。



****************



倒れたファウストさんをソフィアに介抱して貰い、改めて現状を確認すると予想以上の光景が広がっていた。

此方はファウストさんのおかげでほぼ元の姿に戻っている。然し、問題は対岸だ。

彼方側は祭殿兵だったファウストさんの様には行かなかったらしく、大きくは無いが崩落の後が窺える。


「転倒した際の擦過傷や打ち身は有りますが、意識はやはり魔力切れが原因かと思います」


ソフィアは荷物を枕にして眠るファウストさんを看ながら溜息をつく。

渓谷の橋に関しては申し訳ないが、アマルフィーの人々にお任せするとして、問題は此処での進退だ。

私達は手掛かりを探しつつ、皇子を説得する為に先を急がなくてはならない。


「アマルフィーに戻るしかないか?」


ダリルは困ったような表情で肩を竦める。

ソフィアは何か言いたげに、此方を見ているが、言いたい事は何となく判る。


「アルの事なら構わないよ。ダリルも良いよね?」


「・・・ああ、ウダウダ言うつもりはねぇよ」


ダリルも興味なさげにしていたが勘付いたらしく、面倒くさそうに目を逸らし頭を掻く。

ソフィアはホッと胸を撫で下ろすと、張り切った様子で翼を広げ飛翔する。


「では、あたしがフェリクスさん達の所に知らせに向かいますね・・・あら」


遠くから土煙が上がって来る、そして其の上空には必死にしがみつくフェリクスさんとケレブリエルさん。二人を振り落としそうな勢いで飛ぶ、アルとスレイの二頭の姿が見えた。


「躾は・・・ちゃんとしなさい・・・よ」


「・・・お兄さん、死にそう」


二頭のヒッポグリフそれぞれの背にぐったりともたれ掛かり、訴えるようにケレブリエルさんとフェリクスさんはジットリとした目で此方を見上げてくる。

後方には騒ぎを聞きつけて駆けつけようとするアマルフィーの人々。

色々と事情を話すべき所だけど・・・

私はダリルと顔を合わせ頷き合う。


「悪いけど話は今度にしましょう。今はともかく、秘密裏に受けた依頼を優先して、先を急ぎましょう」


私はダリルと共にアルスヴィズにファウストさんとケレブリエルさんを乗せ、窮屈ながら自分もその背に跨る。私は困惑と絶望の表情を浮かべるケレブリエルさんとアルスヴィズに小さく謝ると鐙を蹴り、手綱を打つ。


「ぴぃいいい・・・」


抗議するような声を上げたアルスヴィズだったが、翼を広げて力強く羽ばたくと、気流に乗り空を駆ける。スレイプニルも無事に後に続き、私達は如何にか対岸へと辿り着く事が出来た。

周囲に馬車も人影も無い、無事に逃げ果せた事が解り安堵すると、避難の痕跡を求めて荒れた街道を歩きながら探る。それにより間も無くして、数台分の馬車の車輪の(わだち)を発見した。

かなり慌てた様子で走ったらしく、動きが左右にうねった様に乱れて判別が難しくなっていたが、ソフィアの案内もあり無事に村に到着する事が出来た。

町の入り口にはサーレルノと刻まれた古びた立て看板が立てかけてある。

入って直ぐの治療院には人の列ができており、どの人も荷物は碌に持たず、服装が煤や泥で汚れている事から避難民なのは明らか。

町をふらりと歩けば、数は少ないがアマルフィーと同様にテントが数張り、小さな広場に設営されている。改めて思う、どれだけの人が逃げ(おお)せる事が出来たのだろうかと。

ますます、帝都の現状が如何なっているのか不安が募る。

町を把握する為に暫し散策していたが、アルスヴィズの背に乗せられたファウストさんの意識は未だに戻る様子は無い。


「・・・ともかく宿を探しましょう」


「そうね、緊急時でもないし魔力キューブで強制的に回復させる必要は無いわ」


ケレブリエルさんは周囲を眺めると、小さく溜息をつく。

鍛冶屋に防具や簡単な造りの屋台街にと、空腹に効く様々な誘惑に惑わされつつ堪えつつ、如何にか宿をとる事に成功して一安心。

宿の主人に訊ね、厩舎に二頭のヒッポグリフを預けると、ファウストさんを部屋に運びベッドに寝かせる。

目覚めた時の説明役を決めようとした所、珍しくダリルが立候補したので遠慮なく留守を頼む事にした。

そう言えば、こちら側に居た集団は此の町に居るのだろうか?

どの範囲を回っているのかは不明だが、帝都の情報や皇子殿下の目撃情報を訊いてみても良いかも知れない。


「おっ!デコ助も、ファウストも居ないって事は・・・こ、これは男の夢とロマンのハーレムなのでは?!」


宿を出た所で、ここに緊張感がない人が一人。

フェリクスさんの目が私達を見て一気にテカテカ輝き出す。


「あの、此処は皆で手分けして情報収集しませんか?」


「そうね、まとまって探すよりも行動範囲も広がるだろうし、私はソフィアの意見に賛成!」


「私もアメリアとソフィアに賛成よ」


私達は髪を風になびかせ颯爽と宿を後にする。

何か必死の謝罪とお詫びの声が聞こえた気がしたが、振り返らずに私達は街に繰り出す事にした。



**********



商店に通行人、冒険者に至るまで町中を訊いて回ったが、結果は芳しくなかった。


「ぶはっ!こんなド田舎の街に何処かの金持ちが滞在していないかって?馬鹿を言ってんじゃねーべ」


身形(みなり)が良くて斧を持ってるって・・・(きこり)じゃないよね?宿の主人には悪いけど、そんな御貴族様が泊まれる場所なんかじゃないわよ」


詳細に放せないとは言え、なかなか厳しい。

全く成果が無い訳では無いが、色々な面で散々な顛末だった。

そして、この訊き込みの成果と言えば、あの対岸に居た面々が此の町に退避してきていると言う事。

これは実に単純明快、馬車の停車場にて修繕を行っているんだそうだ。

ふと辻馬車の事を思い出す、時間の指定が有った事から、妖精を通じての連絡は上手く機能しているはず。

何か少しでも情報を得られればと停車場に向かえば、ボロボロの壊れかけの車輪のついた馬車が数台。

さまざまな品が積まれた商人の馬車の中に、一台だけ荷物を積んでいない物が有る。

不思議に思い、覗き込んでいると横から大きな声で怒鳴られてしまった。


「おい、人の馬車を盗もう何ざ良い度胸じゃねぇか・・・」


突然の大声に振り向けば背は低いが、がたいの良い猪の獣人の男性が鼻息を荒くしながら、怪訝そうな眼付きで此方を睨んでいた。これは完全に馬車泥棒と思われてしまっているな・・・


「誤解です!少し訊ねしたい事があって!勝手に覗き込んで怪しい事この上ありませんけど、違いますから!」


自警団か何処かへ連れて行かれて尋問何るなんてごめんだわ。

必死に説得し、冒険者ギルドの人探しクエストを受注したのだと嘘の説明する。

微妙な顔をされたが、相手は申し訳なさそうに頭を掻き出した。


「あぁ・・・つい八つ当たりしちまった!本当にすまない!」


いきなり、地面に両手両ひざを付けて頭が地面に食いこみそうな勢いで謝罪をされて私は言葉を失う。

色々と感情やら思考やらが、まさに猪突猛進と言う感じだ。


「へへっ、すまねぇな。俺はテオって言うんだ」


「私はアメリアと申します」


謎の堅い握手を交わし、お互いに名乗り終えると、テオは御者台にドカリと腰を据えた。

そうかと思うと、腕を組みのけ反り、気怠げに此方へ視線を向けた。


「そいじゃ、アメリア。それで訊ねたい事って何だい?俺で良ければ答えるぜ」


「金色の(たてがみ)の身形が良い獅子の男性を見ませんでしたか?・・・それとアマルフィーへ急いでいる様子だった辻馬車もご存知であれば教えて頂ければ幸いです」


まさか、失踪した皇子殿下を探していますなんて口が裂けても言えはしない。

それでも、少しでも情報が入ればと呼びかけるが、テオは首を縦に振らなかった。。


「いやー、見ないね。黒い外套を被った怪しい連中なら見掛けたが、アメリアが言ったような人物がいたかは判断できなかったな」


「それは確かに珍しいですね・・・」


黒い外套の集団。

祝杯を挙げた夜の裏路地が思い浮かぶ。

何だかきな臭くなってきた。


「あ、ちょっと待った!あんたが探している奴か解らないが、辻馬車の御者なら宿にいるぜ。街道を拓こうなんて無茶しやがって魔力切れで寝てると思うが」


あの空から視察した時に見た土の精霊魔法の使い手も魔力切れだ何て・・・

何とも奇妙な偶然の一致だ。

話から、あの土の精霊魔法をしようとした人物が御者と知り、私は目を白黒させる


「御本人の許しが得られるなら、是非に話を聞かせて頂ければと思います」


信じられない気分になるものの、(わら)にも縋るつもりで頼み込んで見る事にした。


「そうかい、起きたら伝えておくよ。所で本当の所、アメリアみたいな国外の人が何でこんな・・・いや、此の国の何処に向かう気なんだ?俺は帰る事を薦めるな」


「・・・帝都に向っている所です」


暫しの間の後、信じられないと言う様子だったテオの顔の形相が険しくなる。

心の内で辛い何か思い出され、テオはやや錯乱気味に私に向かって訴えかけた。


「馬鹿いっちゃいけねぇ!あそこにはもう帝都なんて無い、土の祭殿も駄目だ。あそこは闇の国の連中に・・・魔族に奪われちまった」


「え・・・」


昂る感情の吐露、絶望から諦めを覗かせつつも、心の底に埋もれかけた抑えきれない思いが滲む。

勿論、噂を鵜呑みにするつもりはない、然し此の耳を疑いたくなる衝撃に私は動揺を隠せなかった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

これを励みに精進いたしますので、次週までゆっくりとお待ちください。


****************

次週も無事に投稿できれば、7月3日18時に更新致します。

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