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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第42話 水の精霊王と奪還ー水獣区アマルフィー編

大蛸の魔物クラーケンとの戦いの末に、敵を退けたのは私達を雇う、小さな商人の妙案だった。

逸早く戦いの終わりを報せに訪れたフランコさんだったが、勝利に沸き立つのではなく、一先ずは安心したと言う表情の周囲の変化に冷静さを取り戻すと、漂う臭だけではなく跨る相棒の変化を目にして血の気が引いていく。


「フランコさん、一報をありがとうございます。その子の為にも、今は沖へ退避してください!」


突然の相棒の変化に動揺じるフランコさんにも私の声が届き、我を取り戻したフランコさんは海を見渡し舌打ちをすると、相棒のシャチ型の魔物はその命令に忠実に従い、主を護ろうと必死に沖へと退避していく。


「こいつぁ、毒か!俺とした事が勝利に気を取られ過ぎちまった・・・すまねぇ、オルカっ・・!」


不用意に相棒を巻き込んでしまった事を悔いるフランコさん。

半ば失笑を浴びるその姿は次第に遠のいていく。


水の眷属(われわれ)の出番だな・・・」


バルトロ大祭司は穢れ毒に侵された海を悲し気な眼差しで眺めると、アマルフィーの民に向けて語り掛ける。

それに応えてアマルフィーの民は一同、背筋を正すと自然に場所を譲り、港の一部に儀式を行う為の広い空間をあけた。

バルトロ大祭司は祭殿付近と同様の陣を画き、海を取り戻すための祈りの儀式が始まる。

儀式は人数に比例し、海岸で見たあの光景の数倍、かしずく人々の祈りを集めて荘厳な雰囲気をつくり出していた。『アクア スピリートゥス レクス インガーディオー』何度も繰り返される祈りの言葉。

水の精霊王様からの救いを(こいねが)う眷族の祈りが集まり、水の精霊王様が自分達を救おうと言う心が一つになるのを感じた。

だが、闇の眷族達の置き土産である海を穢す猛毒は、其処に宿る水の精霊をも弱らせ、希望を抱く人々を嘲る。

祈りに寄り集まる水の精霊もその力も弱く、海を浄化する力は集まりにくく、成果は満足がいくものとは言い難い。それでも諦め切れない人々の様子に胸が熱くなる。

お世話になったアマルフィーの人々を救いたい、その思いを込めて握り締める首飾りが呼応するかのように淡い水色の光を放つと頭に声が響いた。

盟約を果たされよと・・・


「盟約を果たす・・・それは如何いう事なの?」


困惑する私の頭に繰り返し、念話で同じ言葉が聞こえて来る。

思えば盟約は一方に科してしまっていた、私自身も水の精霊王様の力に剣として戦わなくてはいけない。

そこから考えを巡らせる、何が出来る事は無いのかと。

ふと、私は海岸で聞いたバルトロ大祭司の言葉を思い出す。水の精霊王様の真名を祈りの言葉に加える事もあったのだと。

真名とは自身を証明する物であり、奪われれば全てを支配される恐れが有る物。

真名を加える事のつまりは強制召喚となり、きっと呼ばれる側に大きな負担をかけるだろう。

それでも一縷(いちる)の望みをかけて私が踏み出す。

無遠慮に魔法陣に踏み入る私に困惑し、止めに入ろうとする祭殿兵、其れを無言で制したのはバルトロ大祭司だった。せっかく貰えたこの機会、これは必ず期待に応えないとね。

ゆっくりと魔法陣の中央に歩み出る、緊張を息を吸っては吐き解すと、首飾りを握り締めながら私は祈る様に言葉を紡いだ。


「アクア・スピリートゥス・レクス・ウンディーネ・インガーディオー!」


一瞬の静寂が訪れ、手に伝わる冷やかな感触は鉱石などでは無い、鉱石だったそれは別の物へと変わっていた。

恐るおそる祈りを込めて握った掌を開くと、鉱石は青白い光を放つ水泡に、それは目の前に浮かびあがると霧となり視界を覆う。

何が起きたのか把握できずにいたのは束の間、瞼をゆっくりと開けば、水の精霊王様が宙に浮きながら私達を見降ろしていた。

幾つもの輝く水泡に囲まれ、その長い髪を水中の様に宙に漂わせる水の精霊王様は頷くと、私達に神秘的な微笑みを浮かべる。

澄んだ海の様な青い髪に魚の(ヒレ)の様な耳、水の精霊王様は清流の様に澄んだ金の瞳を私へと真っ直ぐ向けてこう告げた。


「アメリアよ・・・盟約を果たす時が来ました」


「・・・私自身、盟約を果たしたく存じます。如何か、貴女の恩恵に応える術を私にお教えください」


跪きながらそう訊ねると、水の精霊王様は口元を抑え、少し狼狽したかに見えた。

まさか、盟約について誰かが説明済みと思い込んでいたとか・・・?

暫しの黙考の後、水の精霊王様はゆっくりと顔を上げて咳払いをすると、真剣な表情を浮かべて私の顔を見た。


「先ずは、精霊王とは他と同様に実体のない存在であり、世界の地脈を通して自身の力を世界を調律し、護る存在。故に女神様より賜った世界を護る事が役目であり、そこで戦う力を持たぬ我々の唯一の武器。それは精霊の剣、貴女なのです」


「つまり、精霊の剣とは文字通りの存在・・・」


此処で自分の役割の意味を知る事になるなんてね・・・

思わず考え込んでしまった私に、精霊王様は青白く細い指先を突き出す。


「の剣を私に向けなさい」


「え?・・・はい」


困惑するも言われるがままに柄を握りゆっくりと引き抜いた剣身は青い光を宿し、水の精霊王様の指先がそこに触れると、何もない空間に水の波紋の様な輪が幾重にも生じる。

水は幾筋も複雑につながりながら水の精霊王の紋を画きだす。

静寂の中に周囲から何が起きるのだと期待の眼差しを向ける人々、それでも不安が入り混じり息を飲む音が響く。できた精霊紋に水の精霊王様は切っ先に合わせて掌をかざした。


「盟約に応じ、貴女への忠誠を捧げましょう【忠誠の宣誓(サクラメントゥム)】」


水の精霊王様の宣誓の言葉に反応し、一人と一柱の間に浮かぶ水の精霊紋が半分だけ金色に変色する。

その金色の輝きは、まるで私からの宣誓を待っているのかのよう。

私は何が起きるのか解らない緊張から息を飲み込むと、水の精霊王様の言葉を復唱した。


「・・・盟約に応じ、貴女への忠誠を捧げましょう【忠誠の宣誓(サクラメントゥム)】!」


剣身が宣誓と共に金色に輝き、精霊紋を染め上げると、水の精霊王様の姿が一瞬で水へと変化する。

其れは渦を画くように剣の切っ先に渦巻きながら吸い込まれるように収束していく。

腕を持っていかれそうな勢いは両手でもかなりのもの、必死に奥歯を噛みしめて踏ん張るが、それはガクリと言う衝撃と同時に突如として軽くなる。

水の眷族の皆さんのどよめきを耳に、恐るおそる瞼を開けば、自分の手に握られている筈の簡素な作りの剣ではなく、何とも美しい一振りへと変わっていた。

柄は蒼玉(せいぎょく)色の鱗に被われ、銀色の(つば)は水龍を象り、金の光を宿す浅葱色の剣身はまるで陽の光に輝く海のよう。

自然と集まる多くの視線を受ける中、目にするのは穢れ濁り切った死の海。

何を如何すべきか考えを巡らすと、儀式の直後に炙り出される呪詛の魔物の姿が頭に過った・・・


「・・・そうだ、そうかも知れない」


でも、どうやって?

剣を確かめる様に素振りをすれば、水の精霊が舞い、剣身の動きをなぞる様に水が宙で半円の水の刃を画き、それは地面へと突き刺さり三日月の様な痕跡を残す。

腐海に潜む魔物を誘き出す、まさに骨が折れるがやるしかない。

私は足に力を籠め、腰を捻りながら反動に身を任せて水の精霊王様の剣を海に向けて振り払う。

水は剣の起動をなぞり、放たれる浄化の波紋は小魚の群れを追う大型魚の如く、海の毒と穢れを追い迫り、岩礁に追い詰められたところで海水を巻き上げながら魔物が姿を現す。

それは以前に見た単眼の魔物などの小型なものでは無い、黒い円柱状の体には大小さまざまな眼がギョロリと蠢き、複数の魔物が結合した巨大な海蛇の様な姿をとっていた。

此方の姿を魔物は見止めると、ソイツは先端の人の物によく似た口から不気味な笑い声を上げた。


「ったく・・・お前が強くなったからと言っても一人で狩ろうだなんて言わないよな?」


ダリルの声が聞こえた気がして振り返ると、フェリクスさんとケレブリエルさんの姿が。

ソフィアとファウストさんがバルトロ大祭司達を街中に避難させている様だった。


「ええ、勿論!頼んだわよ!」


脛当て(グリーブ)に付与された風の加護で空を飛び、敵めがけて直進する。

魔物の放つ穢れの塊を一閃で四散させ、逆に突きで繰り出される水球弾を打ち込み、怯んだ所を一振りでと剣を振り下ろすが予想以上に硬質な牙に致命傷は与えられずに態勢を立て直す必要に迫られた。

着地できる場所は在るか、眼下には船の残骸とクラーケン。後者は一切動く様子も無く、恐らくは・・・

マリカさんに申し訳ないけど、海には落ちる訳には行かない。

ケレブリエルさんの魔法による追撃、地上に体を伸ばしながら笑い声を上げる魔物の声にダリルの叫び声が重なる。

クラーケンの死骸に降りれば、予想外の弾力と滑りに悩まされた。

如何にか堪えようと剣を突き立てるが徐々に足は滑り落ちて行き、軟体の魔物の体は自重により身が裂けて行く。

鎧を着用したまま水中に落ちると言う事は死、そんなの冗談じゃない。


『何を恐れているのですか?』


水の精霊王様の涼やかな声が何処からともなく聞こえて来る。


「念話・・・?」


海の藻屑になる事を恐れ、必死に足掻いていた手足は落ちる所か、水に触れる事すらない。

恐々と下を見れば、自身の体が水の上に浮いている事に気付いた。


『盟約により、今の貴女はあらゆる水を恐れる必要はありませんわ』


「歩ける・・・」


水面に立つと言う奇妙な感覚、そこに恐れは無く、寧ろ胸が高鳴った。


『私は盟約の下、貴女への助力を惜しみません。思うがままなすべきを成すのです』


今、最も頼もしい声に力づけられ、剣を構えなおすと、私は慣れないながら必死に海面を駆けて行く。

まるで水の入った革の水筒を踏む様な不思議な感触、これならば魔物を倒す時に支障はない。

辿り着く先にはフェリクスさん達から攻撃を受け、体を切り裂き、燃やされて力を削がれた手負いの魔物。己に刃を向ける人間への魔物の怨嗟の咆哮が空に響くわたる。


「まさに千載一遇ね」


魔物は体を半分以上を削ぎ落され、容易に一振り後に切伏せる事もできるだろう。

残る全ての魔物の眼球が私を捉え、魔物の意識が完全に私へと向く。

目前に詰め寄り、水面を蹴り、飛び上がろうとすれば、海水が足元から私を押し上げる様に持ち上げる。


「皆のアマルフィーの海を返してもらうよっ!」


飛沫を滴らせ、剣で魔物の中央を捉えて剣を振り下ろすと、その体は八股に裂け、その中央には巨大な頭蓋骨が大きく口を開いていた。なんて悪趣味なのかしら・・・

私は名前を呼ぶ仲間の声を耳にしつつ、迫る魔物の牙を潜り抜け、その先に在るソレに深々と剣を突きたてた。

陶器が砕けるような音と共に魔物の体を凍てつく冷気が白く染めていく、氷塊と化したそれは瞬く間にひび割れると、四方に砕け散り霧散する。

凍てつく白い粉塵の中、私の手にはマリカさんを救出した際に手に入れた赤い鉱石、其れによく似た材質の目玉の形をした物を手にした。恐らく、それは(コア)なのだと思われる。

其れは両掌の上で白化し、煙となり消滅。

漸く取り戻した青い海は、静かに夕日に照らされながら茜色に染め上げられていた。



***********



その夜、闇の国の軍勢を退けたアマルフィーは襲撃による深手を負いながらも、陽気な歌声と人々の喜びの声で賑わっていた。

水の眷族の誰もが肩を組み合い、杯を交わし合う、逞しささえ感じる街の賑わいに笑い合い談笑する人々、思わずその楽しさに疲れが吹き飛びそう。これが、なければ・・・


「剣の英雄様!精霊の英雄様!ささっ、縁了なく飲み食いしてくれや!」


上機嫌なゴッフレートさんは豪快に笑うと、杯を私の前にドンと音を立てながら置く。

そう、今回の件でアマルフィーの住民からの呼び名が唯の英雄様から勝手に変化していたのだ。

然し、自分が招いた部分があるので強く否定できない。

大勢の前で水の精霊王様を読んだ挙句に力を借り、アマルフィーを穢れから救ったのだから。

杯を前に頭を抱えて困り果てていると、ソフィアが其れを掴み、ゴッフレートさんにつき返した。


「お父さん、あたしもアメリアもお酒は未だ飲めないわ」


体の大きなゴッフレートさんもソフィアに怒らられると敵わない様子。

背中を丸めて屈み、ソフィアに誤解されないよう必死に取り繕うも逆にソフィアの顔は険しくなった。


「そ、そのこれはだな、俺は唯、剣の英雄であるアメリアに礼がしたくてな」


「お酒を飲んで子供に絡む大人って最低ですっ」


ソフィアはひたすらに言い訳をする義父を不誠実と感じたのかじっとりと上目遣いで睨む。


「ソ・・・・ソフィア」


そして、怒られた張本人は酷く落ち込んでいる様子であったが、久々の愛娘とのやり取りに何処か嬉しそうにしていた。

その隙にその場を離れるも、行く先々で剣の英雄万歳や、祭殿関係者から巫女にならないかなど酔った勢いで勧誘されたりと辟易させられる。

水の眷族では無いからと誘い断る中、如何にか逃げ込んだ静かな路地で大きな溜息をつく。

そこから仲間達の飲めや歌えやと祝勝会を楽しんでいる様子を眺めていたが、功労者が一人欠けている気がした。


「流石に皇族だもの、民衆に混じって酒盛りは無いかぁ」


何処かの高級な食事処で夕食を取られているに違いない。

勝手な想像を膨らまし、情景を頭に浮かべていると、宴の中心から剣の英雄様に感謝を込めて胴上げをしようと言う声が上がった。

魔道具の街灯で照らされているとはいえ薄暗い中、しかも酔った人々に胴上げ何てされたら堪った物じゃない。

私は周囲から身を隠す様に路地を進み、坂を上った先で壁に背中を預けてもたれ掛かると、自分が居る路地より更に狭い路地から、人気が無い事もあって静かな為か何やら不穏な話声が聞こえて来た。


「何たる失態か!お前は自分がどういう立場か解っているのだろうな?」


「あの状況で下手な事をすれば、身動きが取れなくなる。一度は協力し油断させる必要が有った、扇動が成功しただけでもお前達もやり易かっただろう」


「ふん、結果が全てだ。経緯など問題にならない。上に報告させてもらうから覚悟しておくんだな!」


「・・・・・・」


話していた人物の一人は一方的に相手を責め立てると、不機嫌な様子で此方に向かって歩いてきた。

良からぬ話なのは間違いないが、此処で鉢合わせるのも不味い気がする。

薄暗い事を利用して、近くの幌馬車の影に身を潜めると、馬車の下から見えていた一人の足が闇に溶けて消えた。

その後を追いかけてきた一人は無言のまま、悔しそうに壁を殴り、再び速足で歩き出す。

何気なく気になり、どんな人物なのかと幌に身を隠しながら覗き込むが、見えたのは豊かな金色の髪をなびかせながら風を切って行く後ろ姿しか見えなかった。


「何にしても此れは皆に話しておく必要がありそうね・・・」


「見つけたぞ!まったく、足が棒になっちまったじゃねぇか」


薄暗い中、カンテラに照らされた人相悪い男性の顔が闇に浮かぶ、開く口からはギザギザの鋭い三角の歯が覗き、それが余計に悪人面を醸し出している。


「フ・・・フランコさん!な、なんで此処に」


「あ?皆が宴の中心から主役が居なくなったってんで探してんだよ。さっさ、英雄の凱旋と行こうぜぇ」


如何やらフランコさんも相当、酔っているらしい。


「凱旋って・・・?宿に戻るから大丈夫って・・・わわっ!下ろしてくださいってば!」


如何にか逃げようと試みるが、建物を背にしていた為に逃げ切れず、有無を言わさず荷物の様に担ぎ上げられると強引に宴の場へと私は戻されていくのだった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

前回で敵陣営との戦いは取り敢えず解決となり、今回は残りをすべて解決する為のお話でした。

それでは、次回も頑張りますので、ゆっくりとお待ちください。

*****************

次週も無事に投稿できれば、6月12日18時に更新致します。

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