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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第20話 魔族の住処ー光の国カーライル王国

さまざまな人種、多種多様な価値観や考えに文化、その全てを受け止め賑わい光り輝く都市は今、逃げ惑う人々の悲鳴と兵士達の慌ただしく駆け回る足音が響く。

空を見上げれば濃い闇の気配に低級だが魔物が引き寄せられ、黒い筋が生まれている。

そうこの都市の暗部と呼べる魔族達が押し込められた貧民街にむかって。

最も大きな疑問は、光の精霊王様の加護の中心と言える都市で、何故に闇の精霊王様の力が平和を脅かす程に強くなったのか。

闇の精霊王様から何かしらの方法で眷族である魔族達へ接触が有ったのは間違いないだろう。そんな中、私は兵士達の動きを見つつ、貧民街の様子を窺っている。


「やはりこの状況、邪神が関わっている・・・?」


「まあ、そうでしょうね・・・」


私の問いかけにケレブリエルさんは眉を寄せ、苦々しい表情を浮かべた。

そんな中、息を潜めていると、背後から此方へ歩み寄る足音が聞こえて来る。

偵察に向かっていた二人が周囲に注意を払いつつ私達の近くによると身を屈めた。

その顔は疲れの中に僅かだが晴れやかさがあり、収穫が有ったのだと物語っている。

ダリルはドカリと近くの木箱に座ると膝を組み、フェリクスさんは表の通りを警戒する様に建物に背をもたれる。ダリルは背中を丸めて屈みこむと、此方にのみ聞こえる様に声を潜める。


「今の所、国が中心で魔族達を貧民街から出すまいと躍起になっているぜ」


「国の兵士だけ?ぱっと見ても唯の暴動では無いのは確かなのに・・・教会や祭殿は?」


「ん?列をなして歩いて行くのを見たが、後は何て知らねぇよ。国だけで治まるとふんで帰ったんじゃね?」


女神様やこの地の精霊に最も身近なのが祭殿と教会だ。

この異常事態に兵団を所有していない祭殿は別として、聖騎士団を有する教会が動かない筈が無い。

それとも、何かしらの妨害を受けているのだろうか。

不明瞭であるが一先ず、お礼を言わなければ失礼に当たるわね。


「・・・調べてくれてありがとう」


御礼を言うとダリルは当然と言わんばかりの表情を浮かべ、フェリクスさんはそれを何故か生暖かい目でダリルを見る。


「ふん・・・」


「ダリルなんてダメダメ、調査不足にも程があるね。国の上の連中がこの期に及んで利権争いしてるんだよ、国としちゃ此処で自分達が解決して、教会や祭殿に大きい顔をさせない様に仕向けているのさ」


得意気な微笑みを浮かべるフェリクスさんは本当に大人げないが、有益な情報を得られたのは変わりない。

それをダリルも解っているのか、苦虫を噛み潰した様な悔しそうな顔のまま、不貞腐れて舌打ちをした。


「愚かな話ね・・・事態が呑み込めていないのかしら?」


ケレブリエルさんは眉を(しか)める。


「これは世界に関わるかもしれない大きな問題だよ。教会も国もそう易々と互いに退けないと思う」


恐らく、何方も沽券ばかりが中心では無いと思う。

互いの矜持(きょうじ)を守る為、本来の趣旨がないがしろになっている可能性だってある。


「なんだよ、また引き続き俺達に調査しろと言うのか?」


ダリルは一方的に使われる物と思ったのか、辟易といった顔で私を見る。


「そうじゃないわ、その隙に私達で貧民街に侵入するのよ」


すると、フェリクスさんが口笛を吹く。


「アメリアちゃん、大胆だね。下手すれば妨害とられかねないよ?どうせなら、変装して紛れ込むって言う手も有るんじゃないか?」


「いや、どっちみち俺達に動かずに留まっている訳には行かないんだ。手っ取り早くて悪くないと思うぜ」


穏便かつ慎重に事を進めようとするフェリクスさんに対し、ダリルは私の無茶な発言に乗り気な様だ。


「さてはデコ助、アメリアちゃん任せで何も考えていないな?」


「んだと、世界が危機的な状況に陥っているのに悠長にしてられっかよっ・・・!」


何時もの喧嘩も、二人とも気遣ってくれているのか、小声でじわじわと罵り合い、静かな小競り合いが目の前で繰り広げられだした。

二人は置いといて後は、ケレブリエルさんだけど・・・


「争いの中で何方か一方の肩を持つと今後が面倒よ。私も侵入に賛成するわ。それでも目立ては危険だし、神経を使う必要があるけどね」


ケレブリエルさんの賛成により、私の意見が可決した。

ダリルが勝ち誇った顔で見ると、珍しくフェリクスさんが悔しそうに頬を引きつらせる。


「そうと決まったら吉日!侵入場所を探そうぜ!」


「馬鹿ね、先ずは二つの団体の動向を見るのよ。把握しておいた方が、対応しやすいでしょ?」


そうケレブリエルさんに背後から(たしな)められ、意気揚々と通りへ飛び出そうとしたダリルは出鼻を挫かれた。


「それならそれ!早く行こうぜ!」


めげずに(はや)し立てるダリル。

逸る気持ちも分からなくも無いが、此処は無暗やたらに行動するのは危険だ。


「フェリクスさん、教会と国の兵士が揉めていた場所は何処かご存知ですか?」


「ああ、貧民街の東入口だ。ほら、人の話はきちんと聞く必要だってあるだろ?」


「うるせぇ!」


あの二人はこんな時に何を張り合っているのだろうか?

取り敢えず王都なら地理に多少は覚えが有る、私達は薄暗い路地を再び歩き出す。



*************



私達が辿り着く頃には小競り合いはとうに終えていた様だが、貧民街の東口には両勢力の兵士が睨む様に通りを隔てて立っていた。

見た所、上位の者の姿は無く、ピリピリとした緊張感のある空気から、如何やら決着は付いていない様だ。

此方に魔物や暴徒の姿が無い事から、一先ずは国が対処をし、場を上手く収めているのかも知れない。

あくまで揉め事が無い事が前提の想像に過ぎないけど・・・


「こうも数が居ると抜け道どころじゃないんじゃない?」


フェリクスさんは一足早く通りを覗き込み、視線を泳がし通りを眺める。

確かに絶望的だ、等間隔で兵士が立っている、しかも両端にだ。

近くに水路はあるが、其処を進入路に如何にかならないか考えても太い鉄格子で侵入は阻まれているうえに、犯罪を恐れてか貧民街が付近にあるせいか、厳重に魔法まで掛けられている。

これは何の魔法なのだろうか?

私が鉄格子、一本いっぽんに刻まれた呪文をマジマジと眺めていると、誰かに腕を引かれた。


「それは火の呪、触れば忽ち下に転がっているネズミと同じになってしまうよ」


仲間以外の誰か、しかし何処かで聞き覚えのある声に手を止めると、ダリル達が警戒した様子で私の背後を見ているのが見える。振り向けば、白い制服に銀の鎧を纏った狐の半獣人の女性が立っていた。


「ベアトリクスさん!?」


琥珀色に近い金髪に三角の耳、同色のふわふわの尻尾が穏やかに揺れている。

茶色の瞳が弧を描いたかと思うと、ベアトリクスさんは悪い顔を浮かべた。


「もしや、其処に入りたいのですか?」


「いえ、久々に祖国に帰ったら、こんな事態になっていて宿が無くて途方に暮れていただけです」


う、我ながら白々しい・・・

冷や汗がとめどなく背中を伝う、ベアトリクスさんの瞳は完全に疑いの目に変わっている気がする。


「そう・・・この騒ぎの中、こんな貧民街の傍までくる必要が有るとは思えませんが」


その笑顔が怖いし、此れは正体が完全に見抜かれている。

そう悟った私に助け舟は無く、仕方なしにベアトリクスさんに経緯を話す事にした。


「妖精の報せを受けて、この問題の鎮圧に来ました・・・」


ある程度を正直に話すと、ベアトリクスさんは何度も小さく頷く。

顔を上げると、目の前に手が差し出された。


「ふふっ、やはり。では、交渉しましょうか?」


ベアトリクスさんは何もかも解っていたかのように此方に取引を持ち掛ける。

相手は妖精の盾である兄と繋がりが有る人物。唐突だが正直、驚きより興味がわいた。


「・・・内容は?」


「そうですね・・・此処を通して差し上げます。その代わり、少しだけ私達に協力してください。安心して、簡単な事ですから」 


ベアトリクスさんは、此方の返答を待たずに短く何やら詠唱すると、剣を鉄格子に振り下ろす。

すると、爆音と共に激しい炎があがり、灰色の煙の中で鉄格が水路に落ちる音がした。


「簡単な事って?え、ベ・・・ベアトリクスさん?」


「良いから・・・全員中に走って西側の通路へ向かってください!ともかく走って!」


周囲から人が集まってくる足音が聞こえて来る、少し戸惑いつつも、言われるがままに私達は煙の中を潜って行く。然し、協力とは何だったのだろう・・・

その時、背後からベアトリクスさんの勇ましい叫び声が聞こえて来た。


「貧民街より、邪神を崇める暴徒を発見した所、一般人を人質に退き返し逃走。直ちに、我等の主の忠実なる信徒の救出に向かいます!」


如何やら協力とは、教会側が貧民街に介入する口実を作る事だったようだ。

そして、背後から大勢の聖騎士団員達の足音が響く。

追いつかれて正体を見られても、ベアトリクスさんの演技とばれても不味い。

私達は煙を抜けて暗闇の中、壁に手を当てながら貧民街へと繋がると思われる通路を目指し、死に物狂いで下水路を走った。



***************



如何にか逃げ切った私達は貧民街にある廃屋で、再び身を潜める事になった。

暫し滞在した後、元住人の痕跡を漁り、薄汚い外套を羽織ると、私達は貧民街をひた歩く。

妖精の話だけでは不明だったが、其処に住む魔族達はあまり統率されている様子も無く、むやみやたらに武器を振るっては兵士達と交戦し、闇の精霊王様の名前と支離滅裂な言葉を叫んではいる。

現状は国と教会、流石に此処では両勢力が互いの行動や面子など口論をしない代わりに、何方が先に事態を収束させるか競い合いる、結果的に連携が取れているとは言い難い。

そのおかげで私達は問題なく、貧民街を調べられている訳だが・・・


「ははっ、助けて貰ってなんだけど・・・もっとマシな侵入方法が良かったな」


フェリクスさんは蜘蛛の巣を掃い、汚れた服の臭いを嗅ぐと、不愉快そうに顔を顰め鼻を摘まんだ。

其れを見てケレブリエルさんは何やら周囲を見渡すと、不機嫌そうに顔を顰める。


「・・・私は最良だと思うわ。それにしても、これは酷い影響ね・・・」


そう言うと、ケレブリエルさんは口元を手で覆う。

元から貧民街の様子は虐げられていると言う言葉が否定できない状態。

それ故に、変化を気に留めていなかったが、良く見れば地面の所々に粘性のある穢れが点々と水溜りの様に点在している。


「そうですね・・・取り敢えず魔族の人達は両勢力に任せて、私達は此の事態を招いた張本人を探しましょう」


「そうだな・・・神だろうと精霊王だろうと、意図を引いている奴が顕現した場所が必ずあるはず、こっちからカチこんでやろうぜ!」


「アンタね・・・相手は精霊王と神よ。まあ、それらしき建物みたいなものが在れば解り易いけど・・」


私とダリルは其れに食い気味に賛成すると、周囲が騒がしくなり、フェリクスさんが此方を見て口元に指を立てた。


「・・・二人とも、意気込みは良いが、お口に栓をしな」


フェリクスさんが酷く警戒した様子で呟く。口を堅く閉じ、息を飲むと、半壊した建物の隙間から瞳に紫の光を宿し、武器を片手に魔物と練り歩く魔族の人々の姿が見えた。

ぬかるんだ地面を踏みしめる音、瓦礫を踏みしめ、ふらふらと歩く人の手に武器は握られておらず、代わりに薄汚れた髪束が握られていた。

息を殺し、それらを観察していると、魔族の人々からは自我は失われておらず、大きな希望を得て悲願を達成する怒りと喜びが入り混じる狂気に満ちていた。主の目覚めによる、復讐の時が来たのだと。


「あの人達の握っている紙、気になりますね・・・。それに、他の魔族と違って武器を持っていない」


「気になるか?其れなら早くしようぜ」


ダリルは心底面白い事を見付けた顔でニヤリと笑う。

奴の性質上、血の気が多くて不安しかなく、私はじっとりとダリルを睨む。

然し、此処で怒ると思いきや、私の顔を見るダリルは呆れ果てたと言う顔をする。


「何だよ・・・俺が先走ってぶち壊すみたいな顔をしやがって。俺はお前に・・・やく・・・のお守り役なんだからな!」


そして最後に、したり顔で人を指さして来るダリルに、何だか腹が立って来た。


「はあ・・・あんたみたいなお守り役いて溜まるものですか」


溜息交じりに呆れながら言い返すと、ダリルの眉間に深い皺が刻まれる。

言い合いになる気配を察知してか、フェリクスさんが私達の間に入り方を掴み引き剥がした。


「はいはい、追いかけるなら早くしないと行っちゃうよ。ケレブリエルなんて、今直ぐでも出発したそうだしね」


「・・・そうよ、燥いでいないで思い立ったら直ぐに行くべきよ。それに、尾行とか追跡って、何だか本に登場する凄腕の間諜(スパイ)みたいじゃない!」


以上、捲し立てる様に喋ってはいるが、小声である。


「え・・・っ」


一番に燥いでいるのは貴女!

その言葉を誰もが呑み、無言のまま絶妙な表情を浮かべて立ち上がった。

明けましておめでとうございます!(2023

宜しければ、本年度も当作品を引き続きよろしくお願いします。

本日も当作品を最後まで読んで頂き有難うございました!


***********

次週も無事に投稿できれば1月9日18時に更新致します。

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